204 / 206
18.アズ・ポーン5
1-5
しおりを挟む
「ごめんなさい。その話は、したくないです」
「……ごめんね」
「あなたが、悪いんじゃないです。あたしの問題です。
そっとしておいてほしい部分が、あたしにも、ある。
いくら沢野さんでも、そこには、さわってほしくない……」
「うん。わかった。ごめんね」
「ううん。あたしの方こそ、誤解させてしまって、ごめんなさい」
「わかってたの? 僕が、誤解してたこと」
「わかって……たかな。わかんない。
あなたを追いだしたから、怒ってるんだと思ってました」
「いやいや。LINEの返事は、したよね?
『よかった』って」
「それっきり、なしのつぶてでしたよ。
だから、……あとから、怒ったのかなって」
「怒ってたんじゃないよ。
歌穂ちゃんのことは、ずっと考えてた」
「あたしも、そう思いたかったけど……。
連絡がとれなかったから。どんどん、不安になった」
「僕のこと、どこかであきらめた?」
「それは、ないです。
でも、切りかえました。
あなたのことばっかり考えてるのも、なんだか、いやだったし。
いい年して、祐奈に泣きついてるのも、どうなんだろうなって。
だから、いったん忘れることにした。……忘れられなかったけど。
忘れたつもりになって、大学の子たちと遊んだりしてた。
終わってないなら、いつか、連絡してくれるだろうって、思ってた」
「そうなんだ……」
歌穂ちゃんは、僕のことを、ちゃんと好きでいてくれてたんだ。
だから、LINEや電話をくれた……。
僕に謝りたいと思ってくれていたのかもしれない。
LINEや電話をくれなくなってからも、僕を待っていてくれた。
たまらなかった。
なんて、いい子なんだろう。
「あたし、わかってなかった。
まさか、祐奈が、そんなことになってるなんて……」
「うん。大変みたいだよ」
「ぜんぜん、わからなかったです。
祐奈は、やっぱり強いですよ」
「そうだね……」
「かなしい。なきそう」
「泣かないでー。お願いだから」
夕方になった。
泊まる用意はしてなかったけれど、泊まらせてもらえるとわかったから、遠慮なく泊まることにした。
明日は土曜日だから、仕事のことを考える必要もない。
順番に、お風呂に入った。
僕の後で入った歌穂ちゃんは、猫耳のフードがついたトレーナーを着ていた。
これはトレーナーであって、パジャマではないらしい。歌穂ちゃんが教えてくれた。
僕は、歌穂ちゃんから借りたルームウェアを着ていた。
「これ、かぶせていい?」
「いいですよ」
フードを、歌穂ちゃんの頭にかぶせた。
猫耳の女の子になった。
「かわいい」
否定されなかった。満足そうな顔をしていた。
猫耳に対する評価だと思ったのかもしれない。
「歌穂ちゃんは、猫になりたいの?」
「かも。好きなの」
「僕も、猫は好きだよ。でも、飼いたくはないなー」
「どうして?」
「亡くなったら、泣くから。いやなんだ。
悲しむことになるのがわかってるのに、飼いたくない」
「あー。あたしも、そうかも……。
飼ったこと、あるの?」
「あるよ。実家で。
大往生でね。十才は、こえてたから。
火葬とかも、行ったけど。号泣しちゃって、だめだったね」
「そうなんだ……」
「飼いたい?」
「ううん……。わかんない。
大学に通ってるのに、飼えるわけないし」
「まあ、そうだね」
夕ごはんを食べてから、歯を磨いた。
二人で寝室に行った。
僕の分の布団を出して、床に敷いていった。
敷きおわると、歌穂ちゃんが、掛け布団の下半分に上半分を重ねた。
敷き布団の上に、ちょこんと座って、僕を見上げてくる。
ぐらっとした。
なんだ。これ。誘われてるのかな……。
「どういうこと?」
「べつに。……すこし、いちゃいちゃ、したくて」
「うん。いや、いいんだけどね」
ぼうっとしたような感じで、立ちつくしていた。
どうしよう。
猫耳の歌穂ちゃんは、すごくかわいかった。
わからない。こんなにかわいい子を、どうして、歌穂ちゃんの母親は、置きざりにできたんだろうか。
「きて。はやく」
じれたように言ってくる。
「ああ……。うん」
敷き布団に足を乗せて、歌穂ちゃんの前に座った。
「キスしていい?」
「……うん」
歌穂ちゃんの体に、両手でふれていった。
キスをした。唇だけじゃなくて、頬や首にも。
胸にふれないぎりぎりのところを、手のひらで撫でた。細い体が、びくっとした。
歌穂ちゃんの息が、甘くなっていく。
「さ、さわの……さん」
「ごめんね。ちょっと、気持ちが盛り上がっちゃって」
「いい、けど。どうせ、しないんでしょ……?」
「うーん。うん。そうだね」
「あたし、あたしだって、なにも感じないわけじゃ、ないです」
「うん。そうだよね」
「もてあそばれてるみたいな気分に、なることもある……」
「ごめんね。そういうつもりじゃないよ。
そう思われても、しょうがないなとは思うけど」
「……いつまで、こんなふうなの?」
「いつまでだろうね。歌穂ちゃんが決めていいよ」
「なんか、卑怯な感じがする……」
「かもね。ごめんね。
僕には、僕の事情があるんだよ。
歌穂ちゃんに無理強いしたりは、絶対にしない」
「あたしを……尊重、してくれてるんだ。そう思っても、いい?」
「うん。誰よりも、大事な人だから」
歌穂ちゃんの顔が、真っ赤になった。
「どうしたの?」
「うれしい……」
「かわいいなー」
「かわいくないです」
ぎゅうーっとしてくれた。
だから僕も、それ以上の強さで、歌穂ちゃんを抱きしめた。
猫耳が、僕の耳をかすめた。くすぐったかった。
あたたかかった。それに、やわらかい。
たぶん、もう離れられない。
僕の中には、歌穂ちゃんが生きている。
きっと、歌穂ちゃんの中には、僕が。
それでいいんだ、と心から思えた。
「……ごめんね」
「あなたが、悪いんじゃないです。あたしの問題です。
そっとしておいてほしい部分が、あたしにも、ある。
いくら沢野さんでも、そこには、さわってほしくない……」
「うん。わかった。ごめんね」
「ううん。あたしの方こそ、誤解させてしまって、ごめんなさい」
「わかってたの? 僕が、誤解してたこと」
「わかって……たかな。わかんない。
あなたを追いだしたから、怒ってるんだと思ってました」
「いやいや。LINEの返事は、したよね?
『よかった』って」
「それっきり、なしのつぶてでしたよ。
だから、……あとから、怒ったのかなって」
「怒ってたんじゃないよ。
歌穂ちゃんのことは、ずっと考えてた」
「あたしも、そう思いたかったけど……。
連絡がとれなかったから。どんどん、不安になった」
「僕のこと、どこかであきらめた?」
「それは、ないです。
でも、切りかえました。
あなたのことばっかり考えてるのも、なんだか、いやだったし。
いい年して、祐奈に泣きついてるのも、どうなんだろうなって。
だから、いったん忘れることにした。……忘れられなかったけど。
忘れたつもりになって、大学の子たちと遊んだりしてた。
終わってないなら、いつか、連絡してくれるだろうって、思ってた」
「そうなんだ……」
歌穂ちゃんは、僕のことを、ちゃんと好きでいてくれてたんだ。
だから、LINEや電話をくれた……。
僕に謝りたいと思ってくれていたのかもしれない。
LINEや電話をくれなくなってからも、僕を待っていてくれた。
たまらなかった。
なんて、いい子なんだろう。
「あたし、わかってなかった。
まさか、祐奈が、そんなことになってるなんて……」
「うん。大変みたいだよ」
「ぜんぜん、わからなかったです。
祐奈は、やっぱり強いですよ」
「そうだね……」
「かなしい。なきそう」
「泣かないでー。お願いだから」
夕方になった。
泊まる用意はしてなかったけれど、泊まらせてもらえるとわかったから、遠慮なく泊まることにした。
明日は土曜日だから、仕事のことを考える必要もない。
順番に、お風呂に入った。
僕の後で入った歌穂ちゃんは、猫耳のフードがついたトレーナーを着ていた。
これはトレーナーであって、パジャマではないらしい。歌穂ちゃんが教えてくれた。
僕は、歌穂ちゃんから借りたルームウェアを着ていた。
「これ、かぶせていい?」
「いいですよ」
フードを、歌穂ちゃんの頭にかぶせた。
猫耳の女の子になった。
「かわいい」
否定されなかった。満足そうな顔をしていた。
猫耳に対する評価だと思ったのかもしれない。
「歌穂ちゃんは、猫になりたいの?」
「かも。好きなの」
「僕も、猫は好きだよ。でも、飼いたくはないなー」
「どうして?」
「亡くなったら、泣くから。いやなんだ。
悲しむことになるのがわかってるのに、飼いたくない」
「あー。あたしも、そうかも……。
飼ったこと、あるの?」
「あるよ。実家で。
大往生でね。十才は、こえてたから。
火葬とかも、行ったけど。号泣しちゃって、だめだったね」
「そうなんだ……」
「飼いたい?」
「ううん……。わかんない。
大学に通ってるのに、飼えるわけないし」
「まあ、そうだね」
夕ごはんを食べてから、歯を磨いた。
二人で寝室に行った。
僕の分の布団を出して、床に敷いていった。
敷きおわると、歌穂ちゃんが、掛け布団の下半分に上半分を重ねた。
敷き布団の上に、ちょこんと座って、僕を見上げてくる。
ぐらっとした。
なんだ。これ。誘われてるのかな……。
「どういうこと?」
「べつに。……すこし、いちゃいちゃ、したくて」
「うん。いや、いいんだけどね」
ぼうっとしたような感じで、立ちつくしていた。
どうしよう。
猫耳の歌穂ちゃんは、すごくかわいかった。
わからない。こんなにかわいい子を、どうして、歌穂ちゃんの母親は、置きざりにできたんだろうか。
「きて。はやく」
じれたように言ってくる。
「ああ……。うん」
敷き布団に足を乗せて、歌穂ちゃんの前に座った。
「キスしていい?」
「……うん」
歌穂ちゃんの体に、両手でふれていった。
キスをした。唇だけじゃなくて、頬や首にも。
胸にふれないぎりぎりのところを、手のひらで撫でた。細い体が、びくっとした。
歌穂ちゃんの息が、甘くなっていく。
「さ、さわの……さん」
「ごめんね。ちょっと、気持ちが盛り上がっちゃって」
「いい、けど。どうせ、しないんでしょ……?」
「うーん。うん。そうだね」
「あたし、あたしだって、なにも感じないわけじゃ、ないです」
「うん。そうだよね」
「もてあそばれてるみたいな気分に、なることもある……」
「ごめんね。そういうつもりじゃないよ。
そう思われても、しょうがないなとは思うけど」
「……いつまで、こんなふうなの?」
「いつまでだろうね。歌穂ちゃんが決めていいよ」
「なんか、卑怯な感じがする……」
「かもね。ごめんね。
僕には、僕の事情があるんだよ。
歌穂ちゃんに無理強いしたりは、絶対にしない」
「あたしを……尊重、してくれてるんだ。そう思っても、いい?」
「うん。誰よりも、大事な人だから」
歌穂ちゃんの顔が、真っ赤になった。
「どうしたの?」
「うれしい……」
「かわいいなー」
「かわいくないです」
ぎゅうーっとしてくれた。
だから僕も、それ以上の強さで、歌穂ちゃんを抱きしめた。
猫耳が、僕の耳をかすめた。くすぐったかった。
あたたかかった。それに、やわらかい。
たぶん、もう離れられない。
僕の中には、歌穂ちゃんが生きている。
きっと、歌穂ちゃんの中には、僕が。
それでいいんだ、と心から思えた。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる