バージン・クイーン －強面のイケメンのところに、性欲解消目的で呼ばれるデリヘル嬢の話－

１７．バッド・サプライズ１

６－１

　祐奈の元気がない。
　一週間ほど前から、気づいてはいた。
　ただ、理由がさっぱり分からない。
　夕方に、ホテルから電話がかかってきた。
　俺のすぐ近くに、祐奈がいた。
　慌ててしまった。趣味の部屋まで行って、そこで電話を取った。
　その時から、祐奈の様子が、もっとおかしくなったような気がする。

　さっきまで、セックスをしていた。
　祐奈の反応の仕方が、いつもと違っていた。
　俺を求める仕草や声に、切実さがあった。
　まだセックスをする前の祐奈に、戻ってしまったような感じだった。
　ひやりとした。
　俺は、重要なことを見落としてはいないだろうか。
　祐奈からの信頼を失ってしまったのだろうか。
　そうだとしたら、なぜ、そうなったのだろうか。
　分からなかった。
　俺なりに、精一杯、気持ちを伝えているつもりだった。
　先週の日曜日に、奨学金のことで話し合った。あのあたりから、祐奈の表情が暗くなることが多くなった。
　祐奈が自分の力でやり遂げようとしていることを、俺の満足のために奪おうとしていたりはしないだろうか。
　踏みこみすぎてしまったのかもしれない。
　あの時の祐奈は、喜んでいるようには見えなかった。

「祐奈。もう寝た？」
「ううん……」
「変な感じだった。つらかった？」
「だいじょうぶ」
「もし、負担だったら……。無理しないでほしい」
「むりは、してないです。
　れいじさんは？　きもちよかった？」
「いつもと同じだよ。君としてて、気持ちよくなかったことはない」
「そう……？」
「うん」
　祐奈が動く気配がした。俺に体を向けようとしているらしい。
「ぎゅって、して」
　手で探って、抱きこんだ。
　肩が震えていることに、気づいてしまった。
「寒い？」
「ううん……」
「手で、していい？」
「えっ……？」
「いけなかったり……」
「いきました。ちゃんと」
　小さな声で訴えてくる。
「さわっていい？」
「あ、いや……。あ、あん」
　濡れていた。感じていなかったということではないらしい。
　下着の中に入れた手で、祐奈に触れていった。
「どこがいい？　教えて」
「あっ、あなたは、しってる、でしょ……。いいたく、ない」
「ここ？」
「いや、あん」
「脱がしていい？」
「えっ……。いや……」
「手で、さわるだけ」
「もう、さわってます……」
「そうだな。ごめん」
　下着ごと、パジャマを下ろした。脱がせてしまった。
「れいじさん、いや、……あぁん」
「胸も、さわっていい？」
「う……うん。いい」
　上のパジャマを捲る。タンクトップの下から、胸に触れた。
　すぐに、手では足りなくなった。
　タンクトップを引き上げて、祐奈の様子を窺う。嫌がっているようには見えなかった。
　右胸の先端を、口に含んだ。
「れいじさんっ、あん……」
　祐奈の息が荒くなっていく。俺も興奮していた。
「やあん……。はずかしい、だめ」
　胸にキスをしながら、手を動かし続けた。
「あん、あぁんっ……」
　びくびくっと、祐奈の体が跳ねるのが分かった。

「いけた？」
「……いっちゃった」
「よかった」
「よくないです……。はずかしかった」
「かわいかったよ」
「もうー……」
　怒っているような声に聞こえた。
「ごめん」
「わたしの、パンツがない……」
「あるよ。ここに」
「……」
　履かせてあげた。
　複雑な感情がありそうだった。怒りながら、照れているような……。
「パジャマは……？」
「ここにある。足を上げて」
　返事のかわりに、ため息が聞こえた。

「ごめん。勝手に、さわって」
「いいですけど……。
　わたし、だっこしてほしかったの。
　ああいうことがしたかったわけじゃ、ないです」
「分かってる。俺が、君に触れたかっただけだよ」
「……下着が、ぬれちゃったの。
　かえたいです」
「履きたいんじゃなくて、替えたかったのか。
　ごめん……」
「ううん。持ってきます」

　寝室の灯りをつけた。
　祐奈が身支度を整えるまで、ベッドの上で待つことにした。
　別の下着を履いている祐奈が、パジャマ姿の俺を、上から下まで見た。
「……なに？」
「さっきのは、ちょっと、おかしかったと思う……」
「うん。ごめん」
「あのね。わたし……」
「うん？」
「ううん……。いいの。
　礼慈さん。もう、寝ますか？」
「いや。祐奈が、まだ眠くないんだったら、少し話がしたい。
　リビングに行かない？」
「いいです、よ」