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17.バッド・サプライズ1
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「礼慈? おーい」
「ごめん。ぼうっとしてた」
「いいけどさ。思いだしちゃった?」
「少し……」
「私が、あの頃の話をしたからだよね。ごめん。
今は、祐奈さんの話をしようよ。
ご両親が亡くなってて、親戚の人は?
ご挨拶に行くとしたら、誰に会うの?」
「いない……」
「えぇ? 一人もいないの?
そんなこと、ある?」
「あるよ。今のところは、誰もいない」
「孤独なんだね。たったひとりなんだ」
「そうだな」
「で? プロポーズの話は?」
「ああ……。うん。
ホテルの中にある、夜景が見えるレストランで食事をして、スイートルームに泊まるって、どう思う?」
「バブルも知らないくせに、バブリーな感じ」
「そんな感じか」
「いいんじゃない? 喜ぶ人も、いるはず。
祐奈さんがどうかは、わからないけど」
「嫌がったりはしない……と思う」
「じゃあ、そうしたら。もう、決めてるんだよね?」
「うん」
モニターから、赤ちゃんの声が聞こえた。
昭博くんが起きてきたらしい。
「あ、起きた。つれてくる」
「泣かないんだ」
「いつも泣くわけじゃないよ」
美里ちゃんが、モニターの電源を切った。
「おっぱいをあげてきた。しばらくは、ごきげんなはず」
昭博くんを抱きかかえて、美里ちゃんが戻ってきた。
リビングのマットの上に、昭博くんが下ろされた。椅子から立ち上がって、そっと近づいていった。
昭博くんは、美里ちゃんによく似ていた。
生まれたばかりの頃にも会わせてもらっているが、顔つきがずいぶん変わったような印象を受けた。小さいとしか思えなかった体は、驚くほど大きくなっていた。
「だっこしてもいい?」
「いいよ」
おっかなびっくりという感じで、両腕に抱かせてもらった。
「ぐにゃぐにゃしてる……」
「びびっちゃ、だめだよ。しっかり体を支えて」
「はい」
「首は座ってるから」
「これで?」
「ぐらんぐらんに見える?」
「わりと……」
「寝起きだからね」
「ちっちゃい。かわいい」
「ありがと」
「本当に、かわいいな」
「ごきげんみたい」
「よかった」
美里ちゃんに許可をもらって、昭博くんのおむつがえをさせてもらったりした。
俺が思っていたよりも、足の力が強かった。
洗面所で手を洗ってから戻ると、美里ちゃんは、昭博くんをバウンサーに寝かせていた。ばたばたと手足を動かす様子は、元気いっぱいという感じだった。
「子育ては、大変?」
「そりゃあね。でも、睡眠不足なのは、今だけだと思うし。
やっと来てくれた子だから。大事にしてるよ」
「治療したんだよな」
「したよ。二年も、かかっちゃった」
「焦った?」
「そりゃあ……。まわりは、どんどん生んじゃうし。私たちよりも、後に結婚した人たちばっかり。
完全に、妊娠をなめてたよね。すぐに、できるだろうと思ってた。
結婚してから、ずっと避妊してなかったんだよ。それでも、できなかった。
病院で調べたら、正昭くんの方に、問題があって。これ、父さんたちには言わないでね」
「言わないよ」
「わかってるけど。いちおうね。
まさか、高度医療の力を借りるとは……って、感じ。
借りてるのに、二年だからね。お金も、かなりかかった。
私が二十代のうちなら、もっと早かったかもしれないって。
礼慈たちも、急いでるなら、検査だけはしておいた方がいいよ」
「うん。分かった」
「うまくいくといいね」
「うん……」
美里ちゃんの家を出て、有料駐車場まで歩いた。
精算をする前に、赤坂にあるホテルに電話をかけた。
レストランと宿泊の予約を取った。
レストランは個室にした。
九月の予約は、もう取れなかった。十月七日になった。
「ごめん。ぼうっとしてた」
「いいけどさ。思いだしちゃった?」
「少し……」
「私が、あの頃の話をしたからだよね。ごめん。
今は、祐奈さんの話をしようよ。
ご両親が亡くなってて、親戚の人は?
ご挨拶に行くとしたら、誰に会うの?」
「いない……」
「えぇ? 一人もいないの?
そんなこと、ある?」
「あるよ。今のところは、誰もいない」
「孤独なんだね。たったひとりなんだ」
「そうだな」
「で? プロポーズの話は?」
「ああ……。うん。
ホテルの中にある、夜景が見えるレストランで食事をして、スイートルームに泊まるって、どう思う?」
「バブルも知らないくせに、バブリーな感じ」
「そんな感じか」
「いいんじゃない? 喜ぶ人も、いるはず。
祐奈さんがどうかは、わからないけど」
「嫌がったりはしない……と思う」
「じゃあ、そうしたら。もう、決めてるんだよね?」
「うん」
モニターから、赤ちゃんの声が聞こえた。
昭博くんが起きてきたらしい。
「あ、起きた。つれてくる」
「泣かないんだ」
「いつも泣くわけじゃないよ」
美里ちゃんが、モニターの電源を切った。
「おっぱいをあげてきた。しばらくは、ごきげんなはず」
昭博くんを抱きかかえて、美里ちゃんが戻ってきた。
リビングのマットの上に、昭博くんが下ろされた。椅子から立ち上がって、そっと近づいていった。
昭博くんは、美里ちゃんによく似ていた。
生まれたばかりの頃にも会わせてもらっているが、顔つきがずいぶん変わったような印象を受けた。小さいとしか思えなかった体は、驚くほど大きくなっていた。
「だっこしてもいい?」
「いいよ」
おっかなびっくりという感じで、両腕に抱かせてもらった。
「ぐにゃぐにゃしてる……」
「びびっちゃ、だめだよ。しっかり体を支えて」
「はい」
「首は座ってるから」
「これで?」
「ぐらんぐらんに見える?」
「わりと……」
「寝起きだからね」
「ちっちゃい。かわいい」
「ありがと」
「本当に、かわいいな」
「ごきげんみたい」
「よかった」
美里ちゃんに許可をもらって、昭博くんのおむつがえをさせてもらったりした。
俺が思っていたよりも、足の力が強かった。
洗面所で手を洗ってから戻ると、美里ちゃんは、昭博くんをバウンサーに寝かせていた。ばたばたと手足を動かす様子は、元気いっぱいという感じだった。
「子育ては、大変?」
「そりゃあね。でも、睡眠不足なのは、今だけだと思うし。
やっと来てくれた子だから。大事にしてるよ」
「治療したんだよな」
「したよ。二年も、かかっちゃった」
「焦った?」
「そりゃあ……。まわりは、どんどん生んじゃうし。私たちよりも、後に結婚した人たちばっかり。
完全に、妊娠をなめてたよね。すぐに、できるだろうと思ってた。
結婚してから、ずっと避妊してなかったんだよ。それでも、できなかった。
病院で調べたら、正昭くんの方に、問題があって。これ、父さんたちには言わないでね」
「言わないよ」
「わかってるけど。いちおうね。
まさか、高度医療の力を借りるとは……って、感じ。
借りてるのに、二年だからね。お金も、かなりかかった。
私が二十代のうちなら、もっと早かったかもしれないって。
礼慈たちも、急いでるなら、検査だけはしておいた方がいいよ」
「うん。分かった」
「うまくいくといいね」
「うん……」
美里ちゃんの家を出て、有料駐車場まで歩いた。
精算をする前に、赤坂にあるホテルに電話をかけた。
レストランと宿泊の予約を取った。
レストランは個室にした。
九月の予約は、もう取れなかった。十月七日になった。
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