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17.バッド・サプライズ1

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「運が良かったんだよ。社内だったから、すぐに救急車を呼んでもらえた。
 遅れてたら、死んでたかもしれないって。救急外来の先生から言われた。
 社外で、二人とも刺されてたりしたら、どうなっていたか分からない。
 恐くはなかった。みどりが、ずっとつきそってくれていたし……。
 あのまま死んでも、後悔はしなかったと思う」
「いやいや。死んじゃ、だめでしょ。
 私が許さないよ。そんなの」
「だよな。
 美里ちゃんが、その日のうちに旦那さんと来てくれて、安心した。
 ありがとう」
「どういたしまして。あの時には、まだ結婚してなかったけどね。
 急いで、籍を入れたんだよ。私たちも、何があるか、わからないからって」
「そうだったんだ。それは、よかった」
「父さんたちは静岡にいたんだよね。夜には、来たんだっけ?」
「来てないよ。俺の傷の処置が終わって、病室に戻ったら、みどりと、美里ちゃんと、旦那さんがいた」
「そのへんのこと、あんまり覚えてないな。パニックになってたから」
「そうなの? 俺には、落ちついてるように見えてた。
 俺は意識があったから、みんなで話し合った。
 美里ちゃんがつきそってくれることになって、旦那さんが、みどりを家まで送っていってくれた」
「私も、病院に泊まってた?」
「うん。俺の病室にいたよ。個室だったから」
「なんだっけ……。ソファーがあって、そこで寝たんだっけ」
「そう。父さんと母さんが来たのは、次の日の昼すぎだよ。
 あの後、仕事とか大変じゃなかった?」
「たぶん、大変だったけど。礼慈が死ぬかもしれないっていう時に、そんなこと言ってられないし。
 そのまま出社して、部長に『帰りなさい』って言われた記憶がある」
「出社したんだ。ごめん……」
「いいよ。こうして、無事に生きてるわけだし。
 礼慈は被害者なんだから、誰にも、謝ったりしなくていいんだよ」
「そうかな……」
 俺がいなければ、みどりは、京本さんに刺されそうになったりはしなかっただろう。
 みどりと京本さんは、仲が悪いようには見えなかった。
 入社してきたみどりに惹かれはじめてから、みどりの姿を目で追うようになった。その頃の二人は、一緒に行動していることが多かった。
 京本さんとなごやかに話しているみどりを、何度も見かけた。食堂で、二人で食事をしていることもあった。
 俺の視線が、あからさますぎたのかもしれない。
 社内恋愛を避けてきたこともあって、自分からみどりに話しかけることができずに、じっと見ていることしかできなかった。
 俺のそういう態度が、京本さんの誤解を生んでしまったのだろう。
 後から知ったことだが、俺が好意を持っているのは京本さんだと、彼女自身は信じこんでいた。京本さんだけではなく、まわりにいた人たちも誤解していたらしい。
 勇気を振りしぼって、みどりに話しかけた日のことは、今でも覚えている。
 しどろもどろになっている俺の話を、最後まで聞いてくれた。俺に向かって、笑いかけてくれた。かわいい笑顔だった。
 とまどいながらも、俺を受け入れてくれたような気がしていた。
 友達としての、淡い交際から始まった。
 急ごうとは思わなかった。急ぐ理由もないと思っていた。
 みどりとの時間は、いくらでもあると思っていた。
 なにげない会話。くり返されるデート。俺の部屋に来てくれたみどりが、料理を作ってくれたりもした。
 幸せだった。
 その陰で、京本さんの内面が、どう変化していったのか。俺には、知るよしもなかった。
 俺のせいで、仲違いどころか、取り返しのつかない事態に発展してしまった。
 刺された後は、自分に問いかけ続けた。
 回避できなかったのか。そのためには、どう振るまうべきだったのか。
 分からなかった。
 ありのままの自分として生きていると、こうなるのかということは学んだ。
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