183 / 206
16.アズ・ポーン4
2-2
しおりを挟む
「大丈夫よ。沢野さんは、若く見えるし」
「見た目の話はいいよ。僕が気にしてるのは、実年齢が離れすぎてるってことだからね」
「はっきり言われたの?」
「ううん。察した」
「それ、本当にそうなのかなあ。沢野くん、思いこんでない?」
「沢野さん」が、「沢野くん」になった。いやな気分じゃなかった。
吉田さんが、僕の先輩でしかなかった頃のことを、なつかしく思いだしていた。
「……あ、ごめんなさい」
「いいよ。職場でもないし。
僕は今でも、先輩だと思ってるから」
「そう?」
「うん。吉田さんって、恋愛はどうなの?」
「いきなり、聞いてくるんだ。私は、今は自由でいたいの。
びっくりするような出会いを待ってる……。痛い?」
「痛いとは、思わないけど。
僕と歌穂ちゃんとの出会いは、予想外のタイミングで、予想外の人からのつながりから、生じたものだったから。運命みたいに感じてた。
吉田さんも、そういうものを求めてるってこと?」
「どうかな。なんだろう……。
男性とつき合ってきたけど。いつも、これじゃないー、みたいな……。
私、女の人が好きなのかな。どう思う?」
「ごめんね。それは、僕には答えようがない」
「そうよね。南さんを見た時に、いいなあって、思っちゃって」
「えぇ? やめてよ……」
「思うくらいは、自由でしょう。すごく、きれいだし。かわいいし。
純粋さも、野心も、どちらも持っていそうで」
「歌穂ちゃんも、そういう意味では、じゃっかんあやしいんだよね……」
「えっ? どういうこと?」
「色めきたたないでくれる?
歌穂ちゃんにとって、お母さんみたいな存在の友達がいて。その子は、僕の親友の彼女なんだけど。女優さんみたいに、きれいな子で。
歌穂ちゃんは、その子に夢中なんだよね」
「えー、お会いしたい……。紹介してもらえない?」
「いやだよ。礼慈に殺されちゃうよ」
「あ、礼慈くん。聞いたことある。
大学の時に、寮で親しくなったんだっけ」
「うん。そいつ」
「礼慈くんの彼女なのね」
「そういうこと」
「どうするの? これから……」
「どうしようかな。ちょっと、頭を冷やしたい。
僕らしくないことになってるのは、よくわかってる」
「そうかしら。沢野くんって、もともと、心で動くタイプの人かと」
「えぇー? そうかな……」
「私の印象だけど。喜怒哀楽も、わかりやすいし……」
「やだなあー。それ」
「すぐにでも、話し合った方がいいと思う」
「わかってる。わかってます」
わかってるのに、できない。
少なくとも、今すぐには、できそうになかった。
歌穂ちゃんに聞きたいことや、言いたいことは、山ほどあった。
だけど、それをぶつけられない。ぶつけたくない。
僕がしなきゃいけなかったことは、あんな、さぐるような言い方で、寝言のことを伝えることなんかじゃなかった。
「ゆうちゃんって、誰?」って、聞くべきだったんだ。
たとえ、その答えによって、歌穂ちゃんとのつながりが一切断たれてしまうことになったとしても。僕は、そうするべきだった。
その日から、しばらく連絡しなかった。
LINEは既読スルー。大人として、本当にどうかと思ったけど、なんて返したらいいのか、わからなかった。
電話に、何度か着信があった。折り返さなかった。
そのうちに、LINEも電話も来なくなった。
*作者からのお知らせ*
ストック切れですー。
間に合わなかったら、明日の更新はお休みすると思います。
場合によっては、少しお休みをいただくかも。
よろしくお願いします。
「見た目の話はいいよ。僕が気にしてるのは、実年齢が離れすぎてるってことだからね」
「はっきり言われたの?」
「ううん。察した」
「それ、本当にそうなのかなあ。沢野くん、思いこんでない?」
「沢野さん」が、「沢野くん」になった。いやな気分じゃなかった。
吉田さんが、僕の先輩でしかなかった頃のことを、なつかしく思いだしていた。
「……あ、ごめんなさい」
「いいよ。職場でもないし。
僕は今でも、先輩だと思ってるから」
「そう?」
「うん。吉田さんって、恋愛はどうなの?」
「いきなり、聞いてくるんだ。私は、今は自由でいたいの。
びっくりするような出会いを待ってる……。痛い?」
「痛いとは、思わないけど。
僕と歌穂ちゃんとの出会いは、予想外のタイミングで、予想外の人からのつながりから、生じたものだったから。運命みたいに感じてた。
吉田さんも、そういうものを求めてるってこと?」
「どうかな。なんだろう……。
男性とつき合ってきたけど。いつも、これじゃないー、みたいな……。
私、女の人が好きなのかな。どう思う?」
「ごめんね。それは、僕には答えようがない」
「そうよね。南さんを見た時に、いいなあって、思っちゃって」
「えぇ? やめてよ……」
「思うくらいは、自由でしょう。すごく、きれいだし。かわいいし。
純粋さも、野心も、どちらも持っていそうで」
「歌穂ちゃんも、そういう意味では、じゃっかんあやしいんだよね……」
「えっ? どういうこと?」
「色めきたたないでくれる?
歌穂ちゃんにとって、お母さんみたいな存在の友達がいて。その子は、僕の親友の彼女なんだけど。女優さんみたいに、きれいな子で。
歌穂ちゃんは、その子に夢中なんだよね」
「えー、お会いしたい……。紹介してもらえない?」
「いやだよ。礼慈に殺されちゃうよ」
「あ、礼慈くん。聞いたことある。
大学の時に、寮で親しくなったんだっけ」
「うん。そいつ」
「礼慈くんの彼女なのね」
「そういうこと」
「どうするの? これから……」
「どうしようかな。ちょっと、頭を冷やしたい。
僕らしくないことになってるのは、よくわかってる」
「そうかしら。沢野くんって、もともと、心で動くタイプの人かと」
「えぇー? そうかな……」
「私の印象だけど。喜怒哀楽も、わかりやすいし……」
「やだなあー。それ」
「すぐにでも、話し合った方がいいと思う」
「わかってる。わかってます」
わかってるのに、できない。
少なくとも、今すぐには、できそうになかった。
歌穂ちゃんに聞きたいことや、言いたいことは、山ほどあった。
だけど、それをぶつけられない。ぶつけたくない。
僕がしなきゃいけなかったことは、あんな、さぐるような言い方で、寝言のことを伝えることなんかじゃなかった。
「ゆうちゃんって、誰?」って、聞くべきだったんだ。
たとえ、その答えによって、歌穂ちゃんとのつながりが一切断たれてしまうことになったとしても。僕は、そうするべきだった。
その日から、しばらく連絡しなかった。
LINEは既読スルー。大人として、本当にどうかと思ったけど、なんて返したらいいのか、わからなかった。
電話に、何度か着信があった。折り返さなかった。
そのうちに、LINEも電話も来なくなった。
*作者からのお知らせ*
ストック切れですー。
間に合わなかったら、明日の更新はお休みすると思います。
場合によっては、少しお休みをいただくかも。
よろしくお願いします。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる