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16.アズ・ポーン4
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* * *
月曜日の夕方。
歌穂ちゃんの体調は、かなりよくなったみたいだった。
「顔色がよくなったね」
「ほんとですか。熱は下がったみたい」
「よかった」
「あたし、お風呂に入りたい。
お湯、入れてもらってもいいですか」
「うん。いいよ」
「すいません」
浴槽をきれいに洗ってから、お湯を入れた。
半分くらい入ったところで、寝室まで呼びにいった。
「もう、いいと思う」
「ありがとうー」
「着がえとかは、大丈夫?」
「うん。自分で、できる」
頭からバスタオルを被った歌穂ちゃんが、僕がいるリビングに戻ってきた。
「あー。さっぱりしました。
沢野さんも、入りますか?」
「うん。入ろうかな。
その前に、歌穂ちゃんの髪を乾かそうか」
「……うん」
ドライヤーで、髪を乾かしてあげた。
気持ちよさそうな顔をしていた。
僕のルームウェアと下着は、歌穂ちゃんが別のものを用意してくれた。
体と髪を洗って、湯舟につかった。
髪は自分で乾かしてから、リビングに戻った。
「お腹、すいてない?」
「すいてる」
「なにか食べる?」
「作ってくれるの?」
「うん」
「うれしい」
「寝てていいよ」
「ううん。ここにいる」
野菜のリゾットを作って、二人で食べた。
歌穂ちゃんは、おかわりしてくれた。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「よかった」
「あの……。もう、いいです。
明日は出勤してください」
「いいの?」
「はい。あたしも、大学に行きます。
明日の朝の、様子しだいだけど……」
「無理しちゃだめだよ」
「はい」
「じゃあ……。明日の朝まで、ここにいるよ」
「ううん。ほんとに申しわけないから、帰ってください」
「そう? 一人で、大丈夫?」
「はい」
会話がとぎれた。僕は迷っていた。
昨日の夜のことを、歌穂ちゃんに話すべきなんだろうか。
テーブルの上に置いた、自分の手を見た。
右手の指先が、かすかに震えていた。
こわいんだな。強い人と指す前の気分に、よく似ていた。
「うなされてたよ」
「……え。ほんとに?」
「うん。寝言が聞こえた。『ゆうちゃん』って」
歌穂ちゃんの顔が、さっと青ざめるのを見てしまった。
心が切り裂かれた。
ああ……と思った。
やっぱり、祐奈ちゃんのことじゃないんだ。
激しい反応だった。それに、なにかに怯えてるようでもあった。
僕には、知られたくなかったってこと?
だめだ。耐えられない……。
ぐっとこらえて、声をかけた。
「歌穂ちゃん。大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ。それ、ほんとですか?」
「うん……」
歌穂ちゃんが立ち上がった。よろけながら、寝室に向かって歩いていった。
置いていかれた気分だった。僕から、離れたかった?
動揺していた。
「ゆうちゃん」と、浮気してるってこと?
それとも、まさか……。
僕の方が遊びで、向こうが本命なんだろうか?
考えだすと、止まらなくなった。悪い予感しか、ない。
「歌穂ちゃん?」
ベッドのふちに座っていた。
「ごめんなさい。もう、帰ってもらっていいですか」
「え……」
やっぱり、言うべきじゃなかったんだ。
歌穂ちゃんの視線は、床に向けられていた。僕を見ようとしない。
落ちこんでるように見えた。
「一人になりたい?」
「うん……」
「そっか。わかった」
ルームウェアは、このまま借りることにした。
脱衣所で脱いだ服を畳んで、リュックの中に入れた。
追いだされてしまった。
月曜日の夕方。
歌穂ちゃんの体調は、かなりよくなったみたいだった。
「顔色がよくなったね」
「ほんとですか。熱は下がったみたい」
「よかった」
「あたし、お風呂に入りたい。
お湯、入れてもらってもいいですか」
「うん。いいよ」
「すいません」
浴槽をきれいに洗ってから、お湯を入れた。
半分くらい入ったところで、寝室まで呼びにいった。
「もう、いいと思う」
「ありがとうー」
「着がえとかは、大丈夫?」
「うん。自分で、できる」
頭からバスタオルを被った歌穂ちゃんが、僕がいるリビングに戻ってきた。
「あー。さっぱりしました。
沢野さんも、入りますか?」
「うん。入ろうかな。
その前に、歌穂ちゃんの髪を乾かそうか」
「……うん」
ドライヤーで、髪を乾かしてあげた。
気持ちよさそうな顔をしていた。
僕のルームウェアと下着は、歌穂ちゃんが別のものを用意してくれた。
体と髪を洗って、湯舟につかった。
髪は自分で乾かしてから、リビングに戻った。
「お腹、すいてない?」
「すいてる」
「なにか食べる?」
「作ってくれるの?」
「うん」
「うれしい」
「寝てていいよ」
「ううん。ここにいる」
野菜のリゾットを作って、二人で食べた。
歌穂ちゃんは、おかわりしてくれた。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「よかった」
「あの……。もう、いいです。
明日は出勤してください」
「いいの?」
「はい。あたしも、大学に行きます。
明日の朝の、様子しだいだけど……」
「無理しちゃだめだよ」
「はい」
「じゃあ……。明日の朝まで、ここにいるよ」
「ううん。ほんとに申しわけないから、帰ってください」
「そう? 一人で、大丈夫?」
「はい」
会話がとぎれた。僕は迷っていた。
昨日の夜のことを、歌穂ちゃんに話すべきなんだろうか。
テーブルの上に置いた、自分の手を見た。
右手の指先が、かすかに震えていた。
こわいんだな。強い人と指す前の気分に、よく似ていた。
「うなされてたよ」
「……え。ほんとに?」
「うん。寝言が聞こえた。『ゆうちゃん』って」
歌穂ちゃんの顔が、さっと青ざめるのを見てしまった。
心が切り裂かれた。
ああ……と思った。
やっぱり、祐奈ちゃんのことじゃないんだ。
激しい反応だった。それに、なにかに怯えてるようでもあった。
僕には、知られたくなかったってこと?
だめだ。耐えられない……。
ぐっとこらえて、声をかけた。
「歌穂ちゃん。大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ。それ、ほんとですか?」
「うん……」
歌穂ちゃんが立ち上がった。よろけながら、寝室に向かって歩いていった。
置いていかれた気分だった。僕から、離れたかった?
動揺していた。
「ゆうちゃん」と、浮気してるってこと?
それとも、まさか……。
僕の方が遊びで、向こうが本命なんだろうか?
考えだすと、止まらなくなった。悪い予感しか、ない。
「歌穂ちゃん?」
ベッドのふちに座っていた。
「ごめんなさい。もう、帰ってもらっていいですか」
「え……」
やっぱり、言うべきじゃなかったんだ。
歌穂ちゃんの視線は、床に向けられていた。僕を見ようとしない。
落ちこんでるように見えた。
「一人になりたい?」
「うん……」
「そっか。わかった」
ルームウェアは、このまま借りることにした。
脱衣所で脱いだ服を畳んで、リュックの中に入れた。
追いだされてしまった。
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