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15.スイート・キング7

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「ちなみに、どんな感じでした? 背格好とか……」
「背は高かったよ。俺より」
「じゃあ、ぜったい、ちがいますよ……。
 友也くんは、あなたよりも背が低いです。ほっそりしてて、女の子みたいなんだから」
「そうか。それなら、別人だな」
「あなたよりも背が高いって、けっこう……高いですよね。
 180以上は、ないと」
「そうだな。正確には、182以上」
「高いですよね……」
 礼慈さんの姿を、まじまじと見た。
 やっぱり、かっこいい……。うっとりしてしまった。
「そんな目で、見ないで」
 ため息をつかれてしまった。
「どうして?」
「昨日は、めちゃくちゃなことをした。今日も、させてもらったのに。
 また、したくなる……」
「いいですよ。しても」
「かんたんに言うなよ」
「明日は、土曜日だから。礼慈さんは、ゆっくり寝てられるし……。
 わたしは、かまいません」
「だっこだけ、させて。もう、何もしないから」
「……いいの?」
「うん。おいで」
 わたしが近づくと、腕を回してくれた。
 わたしからも、くっついていった。
 だっこしてもらうのが好き。幸せな気分だった。

「礼慈さん。さっきの男の人の話なんですけど……」
「うん?」
「階数をまちがえた、とかじゃないでしょうか」
「ああ……」
「部屋のドアのところに、表札を出してる人が少ないでしょう。
 たとえば、お友達とか、恋人に会いに来た人が、エレベーターのボタンをまちがえて、下りてから、うちの部屋の前で気づいた、とか」
「ありそうだな」
「そこに、あなたが来て……。気まずいから、あいさつとかもしないで、そそくさとエレベーターに戻ろうとして……。どうですか?」
「分かった。そういうことにしよう」
「どんな顔をされてました?」
「ほとんど見えなかったよ。帽子のせいで。
 なんだろうな……。ちょっと、独特の雰囲気があった。
 年齢不詳だった」
「礼慈さんよりも、年上に見えましたか?」
「いや。分からなかった。二十代か、三十代かなと思った」
「ふうん……。とにかく、友也くんじゃないと思います。
 大学二年生で、まだ十九才なんですよ。礼慈さんが言ってる人とは、似ても似つかない気がします」
「友也くんの写真、ある?」
「ううん……。そんなの持ってたら、へんです」
「そうかな」
「見たいの?」
「うん」
「へんなの……。ちょっと、ストーカーみたいですよ」
 わたしの言葉に、ショックを受けたみたいだった。
「祐奈のストーカーであることは認めるけど。その子のストーカーじゃない」
「納得いかないですか?」
「いかない」
「もう、いいです。そんなに心配なら、部屋に来てもらいましょうか?
 会ってもらったら、わたしとは、そういう関係じゃないって、すぐにわかると思うの。
 いい子ですよ。やさしいし……」
「それは、君の日記を読めば分かったけど」
「だったら、心配しないでください」
 突きはなすような言い方になってしまった。
 礼慈さんの顔を見て、あっと思った。
 こわい顔をしてる。いらっとしたんだって、わかった。
「ごめんなさい……。ごめんね」
 礼慈さんの手をとって、謝った。
 礼慈さんの手に、力がこもる。握りかえしてくれた。
 きつい表情が、やわらかくなっていった。
「ごめん。君の友達に対して、失礼なことを言ったよな。
 勝手に日記を読んで、勝手に怒って……。あきれてるだろ」
「ううん。わたしのことを、心配してくれてるのは、わかってます……」
「心配だよ。本当に……。
 その子のことだけじゃない。この世の男は、全員、君にとって加害者になるんじゃないかと思ってる」
「そんなふうに思っちゃ、だめ……。範囲が広すぎます」
「勤め先の社長と、御殿場のアウトレットにいた男。
 君と数年間関わっていたやつと、初対面のやつが、君に対して同じような行動を取った。
 社長からは守れなかったし。アウトレットの男にだって、つれ去られてもおかしくなかった」
「わたしと社長の間にいざこざがあった時には、礼慈さんは、わたしの存在を知らなかったんです。守れなくて、あたりまえです」
「分かってるけど。
 君の過去を知ってから、ずっと、君はどれほど苦しんだんだろうと考えてた。
 考えすぎたせいか、当時の君が感じた痛みを、自分の痛みのように感じる時がある」
「えーっ……。そんなの、だめです」
「だめかな」
「不毛だと思う……。わたしがつらかった時の気分を、あなたに味わってほしいなんて、思ってません。
 楽しいことだけ、考えていてほしいの」
「それは、無理だろ。
 俺自身も、刺されたことがあるし。人生は、楽しいことばかりじゃない。
 俺は、君の痛みを引き受けたいけど。君に、俺の痛みを感じてもらいたいとは思わない」
「それって、なんかー……」
「うん。だいたい分かるよ。祐奈が、何を言いたいのか」
 すごく勝手なことを言われてる。でも、いやじゃなかった。
 うれしい……のかな。
 男の人って、みんな、こうなの? 礼慈さんだけ……?
 わたしが考えこんでいたら、礼慈さんが笑った。
「……なーに?」
「祐奈は、不満を口にするかわりに、ほっぺたが膨れるんだよな」
「えー?」
「本当だよ。かわいい」
「……」
 ふくれてるんだって。
 両手で、頬をぐいぐい押して、へこませようとした。
 礼慈さんが爆笑した。
「ひどい……」
「ごめん。いや、だって」
 がまんしようとしてるみたいだったけれど、しばらく笑っていた。
「ふくれてるとか、言うから。へこませないとって、思って」
「ごめんなさい。そこまで押すほど、膨れてないって。
 もう、寝ようか」
「はあい」

 二人でパジャマを着た。礼慈さんが、灯りを消してくれた。
 べつべつのベッドで、寝た。
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