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15.スイート・キング7
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「それで? 俺が日記を読まずにいたら、その子とデートするのは、やめてくれるの?」
「デートじゃ、ないですー。どうしたら、わかってもらえるの……。
じゃあ、今度、見にきてください。有休がもらえる日に。
友達です。歌穂や、大学の時の友達以外に、やっとできた、友達なの」
「男女間で、友情は成立するのかな」
「すると思います。だって、そうじゃなかったら、わたし、うっ、浮気してることになります」
「違うの?」
「わかってるくせに……。ちがいますよ。
わたしが本気で浮気するなら、まず、日記に書かないですよ! ぜったい。
あなたが読むって、わかってるのに」
「ああ……。そうか。そうだな」
「わたし、そこまでばかじゃないです。たぶん」
「君は、賢いよ」
「疑いは、晴れましたか?」
「どうかな……。とにかく、今夜のことは、俺が、全部悪かったです。
ごめんなさい」
どうして、こんなことになっちゃったんだろう。
礼慈さんが先に眠ってしまったから、ひとりでシャワーを浴びていた。
あそこが、しびれてるような感じ……。熱っぽい感じだった。
好きだって、言ってくれた。
「れいじさん……」
わたしも、好きって、言えばよかった。
友也くんとのことを疑われてたんだと思ったら、素直になれなかった。それでも、言うべきだったんだと思う。
眠る前の礼慈さんは、不安そうだった。
* * *
「おはよう」
「おはようー」
次の日の朝は、礼慈さんが朝ごはんを作ってくれていた。
わたしが起きた時には、もうスーツ姿だった。
「これ、食べて。体は大丈夫?」
「うん……」
「俺は、もう出るから」
「はい」
「いってきます」
ぎゅってする前に、歩きだしてしまった。少し、さびしかった。
「いってらっしゃい」
今日は、バイトがない日だった。
なくて、よかった。
昨日のことが、昨日の礼慈さんが、まだ、わたしの中に残ってる……。
昼ごはんを食べた後の、昼下がり。
起き上がる元気がなくて、寝室のベッドで、ぐてっとしていた。
去年の十二月二十六日のことを、思いかえしていた。
歌穂が、猫のタロットカードで占ってくれた。
礼慈さんが引いたカードの中に、皇帝のカードがあった。
カードに描かれた男性は、皇帝というよりは、王様のように見えた。
王様……。
礼慈さんは、子供の頃に読んでいた児童書の中にいた、王様みたい。
甘えんぼうで、愛らしい王様。
あんなにかっこよくて、すてきな人なのに。
子供みたいに、かわいいところがある。
でも、昨日のセックスは、ぜんぜん、かわいくなかった。
あんなふうにされたら、おかしくなってしまう……。気持ちよかった。
こわかったけど、いやじゃなかった。
わたしが知らないことを教えてくれるのは、いつも、礼慈さんなんだってことが、うれしくって……。
仕事から帰ってきた礼慈さんに、昨日のセックスの話をしたら、まっ赤になっていた。わたしは、まだ余韻にひたってるのに。自分だけ、冷静になってしまったみたいだった。
つまんないな……と思った。
夜中に、礼慈さんが、わたしにふれてきた。
いきなりだったから、びっくりした。
「起きてる? 祐奈」
「おこされました。あなたに」
「ごめん」
「ううん。どうしたの……?」
「させて」
「えっ。……えっ?」
「がまんできない」
熱っぽい声だった。それに、甘い。
うれしくなってしまった。わたしだけじゃなかったんだって、わかって。
「よろこんで」
「居酒屋じゃないんだから……」
悶絶していた。かわいかった。
ゆっくり、した。
やさしくしてもらえて、うれしかった。
タオルケットを体にかけて、礼慈さんの横で、寝そべっていた。
少しだけ、頭がぼうっとしてる感じだった。
「よかった?」
「うん……。れいじさんは?」
「よかった。昨日は、ごめんなさい」
「もう、いいです。やきもち、やいてくれたんですよね」
「……うん」
「たぶん、やめちゃいます」
「えっ?」
「大学生なの。夏休みだけです。
だってね。大学が始まったら、いくら午後でも、バイトは難しいですよ」
「ああ……。そういうことか。
びっくりした。祐奈が辞めるのかと思った」
「やめてほしいですか?」
「うーん……。ううん。続けて」
「あのね。友也くんは、五つも年下なんです」
礼慈さんが、わたしを見つめてくる。
「俺と君の年の差は、いくつ?」
「六つです……」
「どっこいどっこいだな」
「そうですね。
あっ、そうだ。友也くんには、好きな子がいますよ」
「そうなの?」
「うん」
「君には、興味がない?」
「ないと思います。ぜんぜん」
「そうか。よかった」
ほっとしたみたいだった。
「祐奈」
「……うん?」
「昨日、言いそびれたことがあって」
「うん」
「今月の上旬。うちの部屋の前に、キャップ帽をかぶった、若い男がいた。
宅配業者かなとも思ったけど、俺が部屋に入ろうとしても、何も言ってこなかった。
心当たり、ある?」
「ううん……。だって、ここのエントランスのセキュリティは、すごく厳しいでしょう。
宅配の人が来たことなんて、ないです」
「だよな。呼び鈴が鳴った覚えは?」
「八月の上旬には、ないです。
歌穂も、上旬には来てないし……。
宅配の荷物は、エントランスのロッカーに入るじゃないですか。
部屋まで来るのは、ガスとか、電気の点検の人くらいです」
「うん。だから、気になってた。
あの男が、君の友達の友也くんってことはないかな」
「ないですよ! そんなこと、する理由がないです」
「そうかな」
「デートじゃ、ないですー。どうしたら、わかってもらえるの……。
じゃあ、今度、見にきてください。有休がもらえる日に。
友達です。歌穂や、大学の時の友達以外に、やっとできた、友達なの」
「男女間で、友情は成立するのかな」
「すると思います。だって、そうじゃなかったら、わたし、うっ、浮気してることになります」
「違うの?」
「わかってるくせに……。ちがいますよ。
わたしが本気で浮気するなら、まず、日記に書かないですよ! ぜったい。
あなたが読むって、わかってるのに」
「ああ……。そうか。そうだな」
「わたし、そこまでばかじゃないです。たぶん」
「君は、賢いよ」
「疑いは、晴れましたか?」
「どうかな……。とにかく、今夜のことは、俺が、全部悪かったです。
ごめんなさい」
どうして、こんなことになっちゃったんだろう。
礼慈さんが先に眠ってしまったから、ひとりでシャワーを浴びていた。
あそこが、しびれてるような感じ……。熱っぽい感じだった。
好きだって、言ってくれた。
「れいじさん……」
わたしも、好きって、言えばよかった。
友也くんとのことを疑われてたんだと思ったら、素直になれなかった。それでも、言うべきだったんだと思う。
眠る前の礼慈さんは、不安そうだった。
* * *
「おはよう」
「おはようー」
次の日の朝は、礼慈さんが朝ごはんを作ってくれていた。
わたしが起きた時には、もうスーツ姿だった。
「これ、食べて。体は大丈夫?」
「うん……」
「俺は、もう出るから」
「はい」
「いってきます」
ぎゅってする前に、歩きだしてしまった。少し、さびしかった。
「いってらっしゃい」
今日は、バイトがない日だった。
なくて、よかった。
昨日のことが、昨日の礼慈さんが、まだ、わたしの中に残ってる……。
昼ごはんを食べた後の、昼下がり。
起き上がる元気がなくて、寝室のベッドで、ぐてっとしていた。
去年の十二月二十六日のことを、思いかえしていた。
歌穂が、猫のタロットカードで占ってくれた。
礼慈さんが引いたカードの中に、皇帝のカードがあった。
カードに描かれた男性は、皇帝というよりは、王様のように見えた。
王様……。
礼慈さんは、子供の頃に読んでいた児童書の中にいた、王様みたい。
甘えんぼうで、愛らしい王様。
あんなにかっこよくて、すてきな人なのに。
子供みたいに、かわいいところがある。
でも、昨日のセックスは、ぜんぜん、かわいくなかった。
あんなふうにされたら、おかしくなってしまう……。気持ちよかった。
こわかったけど、いやじゃなかった。
わたしが知らないことを教えてくれるのは、いつも、礼慈さんなんだってことが、うれしくって……。
仕事から帰ってきた礼慈さんに、昨日のセックスの話をしたら、まっ赤になっていた。わたしは、まだ余韻にひたってるのに。自分だけ、冷静になってしまったみたいだった。
つまんないな……と思った。
夜中に、礼慈さんが、わたしにふれてきた。
いきなりだったから、びっくりした。
「起きてる? 祐奈」
「おこされました。あなたに」
「ごめん」
「ううん。どうしたの……?」
「させて」
「えっ。……えっ?」
「がまんできない」
熱っぽい声だった。それに、甘い。
うれしくなってしまった。わたしだけじゃなかったんだって、わかって。
「よろこんで」
「居酒屋じゃないんだから……」
悶絶していた。かわいかった。
ゆっくり、した。
やさしくしてもらえて、うれしかった。
タオルケットを体にかけて、礼慈さんの横で、寝そべっていた。
少しだけ、頭がぼうっとしてる感じだった。
「よかった?」
「うん……。れいじさんは?」
「よかった。昨日は、ごめんなさい」
「もう、いいです。やきもち、やいてくれたんですよね」
「……うん」
「たぶん、やめちゃいます」
「えっ?」
「大学生なの。夏休みだけです。
だってね。大学が始まったら、いくら午後でも、バイトは難しいですよ」
「ああ……。そういうことか。
びっくりした。祐奈が辞めるのかと思った」
「やめてほしいですか?」
「うーん……。ううん。続けて」
「あのね。友也くんは、五つも年下なんです」
礼慈さんが、わたしを見つめてくる。
「俺と君の年の差は、いくつ?」
「六つです……」
「どっこいどっこいだな」
「そうですね。
あっ、そうだ。友也くんには、好きな子がいますよ」
「そうなの?」
「うん」
「君には、興味がない?」
「ないと思います。ぜんぜん」
「そうか。よかった」
ほっとしたみたいだった。
「祐奈」
「……うん?」
「昨日、言いそびれたことがあって」
「うん」
「今月の上旬。うちの部屋の前に、キャップ帽をかぶった、若い男がいた。
宅配業者かなとも思ったけど、俺が部屋に入ろうとしても、何も言ってこなかった。
心当たり、ある?」
「ううん……。だって、ここのエントランスのセキュリティは、すごく厳しいでしょう。
宅配の人が来たことなんて、ないです」
「だよな。呼び鈴が鳴った覚えは?」
「八月の上旬には、ないです。
歌穂も、上旬には来てないし……。
宅配の荷物は、エントランスのロッカーに入るじゃないですか。
部屋まで来るのは、ガスとか、電気の点検の人くらいです」
「うん。だから、気になってた。
あの男が、君の友達の友也くんってことはないかな」
「ないですよ! そんなこと、する理由がないです」
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