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15.スイート・キング7
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八月二十日に、礼慈さんが三十一才になった。
お祝いは、わたしの分とまとめてしようと思っていたら、「俺の分はともかく、祐奈の誕生日は、ちゃんとお祝いしたい」と礼慈さんが言ってくれた。
それで、歌穂とも相談して、二十日は歌穂と沢野さんと四人でお祝いして、わたしの分のお祝いは、二十七日に二人だけですることになった。
今日は、朝から部屋の掃除をしていた。
礼慈さんは、お昼ごはんの買い出しに行っていた。お昼は、買ってきたものを出すだけにするんだって。
服は、一枚で着られるワンピースにした。赤い、綿のワンピース。ちょっと派手かなと思ったけれど、礼慈さんは「かわいい」とほめてくれた。うれしかった。
十時すぎに、歌穂と沢野さんが来てくれた。
「こんにちはー。いらっしゃい」
「お邪魔します」
歌穂と沢野さんの声がそろっていて、おかしかった。
「どうぞ。入ってください」
二人が靴を脱いでから、玄関の鍵をしめた。
歌穂は、上は半袖のTシャツ。下はスカートだった。
藍色のTシャツは、沢野さんとおそろいになっていた。
「リビングでいい?」
「いいよ」
リビングのラグマットの上に、座ってもらった。
「歌穂ー。ずいぶん、髪がのびた感じ」
「へん?」
「ううん。のばしたくなったの?」
「わかんない。ずっとボブだったから。
のばしたら、どんなふうになるのか、興味はあった」
「かわいいよ!」
「……ありがと」
てれてるみたいだった。
「沢野さんも、少し髪がのびたみたい」
「そうなんだよね。そろそろ、切らないと」
「のばすと、だめなんですか?」
「仕事のこと? まあ、そうだね。常識の範囲内で。
海外だと、長髪の弁護士もいるけど。日本では、あまりいないね」
「そうなんですね……。お茶、入れてくるね」
キッチンでお茶の用意をして、座卓まで持っていった。
「ありがとー」
「ありがとう。西東さんは?」
「お買い物してる。お昼はね、買ってきちゃうの」
「そうなんだ」
「うん」
十時半くらいに、礼慈さんが帰ってきた。パン屋さんで、サンドイッチとかを買ったみたい。
「ここ?」
「はい」
礼慈さんが、ラグマットの空いてるところに座った。
「お邪魔してます」
「うん。いらっしゃい」
「礼慈。祐奈ちゃん。お誕生日、おめでとうー。
これ。僕から」
沢野さんから、プレゼントをいただいた。わたしと礼慈さんに、それぞれ用意してくれていた。
「ありがとうございます」
「商品券?」
「ちがうよ。図書カード」
「わあ、うれしい」
「ありがとう」
「あたしからも、あります」
歌穂が、礼慈さんとわたしに、プレゼントをくれた。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「おめでとう。ちょっと、早いけど」
「うん。ありがとうー」
わたしの誕生日は、明後日の二十二日。
だから、今はまだ二十四才。
歌穂からのプレゼントは、大きめだった。
「開けていい?」
「うん」
きれいな花柄の包装紙だった。そっと開けていくと、中に、白い箱が入っていた。
箱のふたを開けた。
籐でできたバッグだった。ころんとしてる。上から見ると、楕円形だった。
バッグにはふたがあって、ぱちんと留められる金具がついてる。
赤いリボンが、取っ手についてる。リボンは、つけたり、外したりできるみたい。取っ手に回されてる部分には、スナップがついていた。
籐の色は白っぽくて、真新しい感じがした。手ざわりもいい。
「かわいい……」
「もう、持ってるかもしれないけど」
「ううん。ない。大事に使うね」
「……うん」
「礼慈さんは? なにをもらったの?」
わたしの横にいる礼慈さんが、「モササウルス」と言った。
「えっ?」
「後期白亜紀の海の王者。それが、モササウルス」
「それ、めんどくさい話?」
沢野さんが、まぜっかえした。
「そうでもない。陸の王者がティラノサウルス。海の王者がモササウルス」
「モササ……」
言おうとしたけれど、うまく言えなかった。
「海の猛者なんだね」
「ああ……。そうですね」
「え、わかんない。どういうこと?」
「猛々しいっていう字は、『もう』って読むでしょ。それに者で、『もさ』って読むの。
強い人ってこと」
「ただのオヤジギャグを、そういうふうに解説されると、はずかしいね」
礼慈さんは、両手で持ったモササウルスのフィギュアを、愛おしそうに眺めていた。けっこう、大きい。
「これ、歌穂さんが選んでくれたの?」
「そうです」
「すごく嬉しい。ありがとう」
指先で、モササウルスの頭を撫でている。
「僕には、さっぱりわからないんだよね。恐竜のよさが」
「俺には、チェスの楽しみ方は分からないよ。お互いさまだな」
「だよねー」
「飾ってくる」
モササウルスのフィギュアを片腕で抱くように持って、礼慈さんが立ち上がった。
「いってらっしゃい」
沢野さんが、礼慈さんの背中に向かって言った。
お祝いは、わたしの分とまとめてしようと思っていたら、「俺の分はともかく、祐奈の誕生日は、ちゃんとお祝いしたい」と礼慈さんが言ってくれた。
それで、歌穂とも相談して、二十日は歌穂と沢野さんと四人でお祝いして、わたしの分のお祝いは、二十七日に二人だけですることになった。
今日は、朝から部屋の掃除をしていた。
礼慈さんは、お昼ごはんの買い出しに行っていた。お昼は、買ってきたものを出すだけにするんだって。
服は、一枚で着られるワンピースにした。赤い、綿のワンピース。ちょっと派手かなと思ったけれど、礼慈さんは「かわいい」とほめてくれた。うれしかった。
十時すぎに、歌穂と沢野さんが来てくれた。
「こんにちはー。いらっしゃい」
「お邪魔します」
歌穂と沢野さんの声がそろっていて、おかしかった。
「どうぞ。入ってください」
二人が靴を脱いでから、玄関の鍵をしめた。
歌穂は、上は半袖のTシャツ。下はスカートだった。
藍色のTシャツは、沢野さんとおそろいになっていた。
「リビングでいい?」
「いいよ」
リビングのラグマットの上に、座ってもらった。
「歌穂ー。ずいぶん、髪がのびた感じ」
「へん?」
「ううん。のばしたくなったの?」
「わかんない。ずっとボブだったから。
のばしたら、どんなふうになるのか、興味はあった」
「かわいいよ!」
「……ありがと」
てれてるみたいだった。
「沢野さんも、少し髪がのびたみたい」
「そうなんだよね。そろそろ、切らないと」
「のばすと、だめなんですか?」
「仕事のこと? まあ、そうだね。常識の範囲内で。
海外だと、長髪の弁護士もいるけど。日本では、あまりいないね」
「そうなんですね……。お茶、入れてくるね」
キッチンでお茶の用意をして、座卓まで持っていった。
「ありがとー」
「ありがとう。西東さんは?」
「お買い物してる。お昼はね、買ってきちゃうの」
「そうなんだ」
「うん」
十時半くらいに、礼慈さんが帰ってきた。パン屋さんで、サンドイッチとかを買ったみたい。
「ここ?」
「はい」
礼慈さんが、ラグマットの空いてるところに座った。
「お邪魔してます」
「うん。いらっしゃい」
「礼慈。祐奈ちゃん。お誕生日、おめでとうー。
これ。僕から」
沢野さんから、プレゼントをいただいた。わたしと礼慈さんに、それぞれ用意してくれていた。
「ありがとうございます」
「商品券?」
「ちがうよ。図書カード」
「わあ、うれしい」
「ありがとう」
「あたしからも、あります」
歌穂が、礼慈さんとわたしに、プレゼントをくれた。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「おめでとう。ちょっと、早いけど」
「うん。ありがとうー」
わたしの誕生日は、明後日の二十二日。
だから、今はまだ二十四才。
歌穂からのプレゼントは、大きめだった。
「開けていい?」
「うん」
きれいな花柄の包装紙だった。そっと開けていくと、中に、白い箱が入っていた。
箱のふたを開けた。
籐でできたバッグだった。ころんとしてる。上から見ると、楕円形だった。
バッグにはふたがあって、ぱちんと留められる金具がついてる。
赤いリボンが、取っ手についてる。リボンは、つけたり、外したりできるみたい。取っ手に回されてる部分には、スナップがついていた。
籐の色は白っぽくて、真新しい感じがした。手ざわりもいい。
「かわいい……」
「もう、持ってるかもしれないけど」
「ううん。ない。大事に使うね」
「……うん」
「礼慈さんは? なにをもらったの?」
わたしの横にいる礼慈さんが、「モササウルス」と言った。
「えっ?」
「後期白亜紀の海の王者。それが、モササウルス」
「それ、めんどくさい話?」
沢野さんが、まぜっかえした。
「そうでもない。陸の王者がティラノサウルス。海の王者がモササウルス」
「モササ……」
言おうとしたけれど、うまく言えなかった。
「海の猛者なんだね」
「ああ……。そうですね」
「え、わかんない。どういうこと?」
「猛々しいっていう字は、『もう』って読むでしょ。それに者で、『もさ』って読むの。
強い人ってこと」
「ただのオヤジギャグを、そういうふうに解説されると、はずかしいね」
礼慈さんは、両手で持ったモササウルスのフィギュアを、愛おしそうに眺めていた。けっこう、大きい。
「これ、歌穂さんが選んでくれたの?」
「そうです」
「すごく嬉しい。ありがとう」
指先で、モササウルスの頭を撫でている。
「僕には、さっぱりわからないんだよね。恐竜のよさが」
「俺には、チェスの楽しみ方は分からないよ。お互いさまだな」
「だよねー」
「飾ってくる」
モササウルスのフィギュアを片腕で抱くように持って、礼慈さんが立ち上がった。
「いってらっしゃい」
沢野さんが、礼慈さんの背中に向かって言った。
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