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13.スイート・キング6

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「父が亡くなるまでは、わかってなかったですけど。母は、父を愛してないです」
「そんなこと、言いきっちゃ、だめだと思う……」
「ごめんなさい」
「そう思ったのは、どうして?」
「あんまり、言いたくないですけど。父が亡くなってから、おおっぴらに、外で遊ぶようになりました。他の男性と会ってるみたいです」
「え、えーっ……」
「どんびきですよね」
「えっ、でも、それは、北斗くんのかんちがいかも……。お母さんが、そう言ったの?」
「言われなくても、わかりますよ。使ったお金の明細を見れば」
「お母さんの明細を、北斗くんが見るの?」
「はい。ちょっと、事情があって」
「そ、そうなんだ……」
 どんな事情があるんだろう……。興味はあったけれど、聞くのはやめておいた。
「白井さんは、今はご実家ですか?」
「ううん。
 大学の時から、ひとりで、アパートに住んでたの。就職した後も……」
「今も?」
「今は、ちがうの。居候してる。あの……おつき合いしてる人の、おうちに」
「ああ……。そうなんですね。
 ご結婚されるんですか?」
「えっ?! し、しない……わかんない。
 したいとは、思ってるけど。わたしだけ思ってても、その……」
「幸せなんですね」
「う、うん……」
 北斗くんは、泣きそうな顔をしていた。どうして?
「わたしのことより、北斗くんの話を聞かせてください」
「じゃあ……。はい」

 そこからは、北斗くんの話を聞かせてもらった。
 北斗くんの家は、かなり裕福みたいだった。
 父方のお祖父さんとお祖母さんとは、北斗くんが赤ちゃんの頃から同居していたらしい。父方のお祖父さんは亡くなられていて、お祖母さんとの関わりが深いんだって。
 お母さんとは、心の距離があるみたいだった。
 話の途中で、店員さんが飲みものを持ってきてくれた。
 ココアを飲みながら、北斗くんの話を聞くことにした。
 裕福なおうちのことはよくわからないけれど、話を聞いただけで、大変そうなのはわかった。
 北斗くんは、お父さんが残した遺産が欲しいわけじゃなさそうだった。それよりも、親族の人たちとの間に、トラブルがあるような口ぶりだった。
 あまり、詳しくは話さないようにしてるみたいだった。わたしも、それでよかった。
 たぶん、誰かに、話を聞いてほしいだけなんだろうと思ったから。わたしが、どうにかできるような問題じゃないし……。
 沢野さんだったら、北斗くんが望んでいるようなアドバイスが、できるのかもしれない。

「それで? 弁護士の人とかと、相談したりするの?」
「いえ。まだ、そこまでいってません。いずれは、しないといけないとは、思うんですけど」
「大変ですね……」
「ありがとうございます」
 いきなりお礼を言われて、びっくりした。
「ううん?」
「大学の友達には、とても話せないような話だから。
 白井さんに聞いてもらって、少し、気が楽になりました」
「そう……? それなら、よかった」
 北斗くんが、にこっと笑った。かわいい笑顔だった。
「白井さん。今、おいくつですか?」
「二十四です。今月に、二十五になるけど」
「僕は十九です」
「そうなんだ。若いね……」
「僕のことは、友也ゆうやと呼んでください。五つも年下なんですから」
「え、えー?」
「白井さんのことは、祐奈さんって、呼んでもいいですか?」
「い、いいけど……」
 あれーっていう、感じだった。意外と、押しが強いというか……。
 ろくに抵抗もできずに、押しきられてしまった。
「じゃあ、今日は、これで……。ここは、僕が払います」
「だめ、わたしが」
「払わせてください」
「は、はい……」

 カフェを出てから、あらためてお礼を言った。
「ありがとう。ごめんね。おごってもらっちゃって」
「気にしないでください。
 LINEの連絡先、もらってもいいですか?」
「え、えっ……? わたしとLINEしても、楽しくないと思う……」
「そんなことないです! お願いします」
 押しが強い……。
「じゃあ、はい」
 QRコードを見せたら、自分のスマートフォンで読みとりはじめた。うれしそうだった。
「また、連絡します」
「いいけど……。ゆっ、友也くんとわたしのシフトは、同じだから。
 なにかあったら、バイトの後とかに、言ってくれれば……」
「はい。わかりました」

 帰る方向は、マンションが見えるところまで、同じだった。
「友也くんのおうちって、わたしのうちの、すぐ近くかも」
「そうかもしれないですね」
「このマンションです。じゃあ、またね」
「はい。今日は、ありがとうございました」

 わたしがエントランスに入るまで、外から見ていた。
 まるで、見守られてるみたい。へんな感じだった。
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