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13.スイート・キング6
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七月も、もうすぐ終わってしまう。
七月二十八日。木曜日。
学校が夏休みの間も、保育室は開いている。
時間は、少し早くなる。平日の午後一時から四時の間だけ。
「すいません」
声をかけられた。保育室があるところから、区民センターのロビーに出て、すぐに。
「はい」
男の人だった。
髪が短いから、だろうか。沢野さんに似てる……と感じた。
沢野さんよりも、背が高そうだった。
かっこいい顔をしていた。でも、あどけない感じ。
少年っぽい、っていうのかな。
「ここの、職員の方ですか?」
「違います。学童保育のアルバイトです」
「あ、そうなんだ。ここの学童保育って、どう?
弟が、ここのバイトに興味があるって。
そこに、チラシが貼ってあるでしょ。通りがかる度に見ては、気にしてるらしいんだけど。
今から応募しても、まだ間に合う?」
「募集、してますよ! でも、高校生は不可です。
大学生か、社会人だったら、大丈夫です」
「大学生」
「わあー。いいと思います。子供って、若い人が大好きなんですよ」
「どう? 職場の空気とか」
「いいです。みなさん、やさしい方ばかりで。
子供たちも、みんな、元気で……。元気すぎるくらいで」
「へえ」
笑った。目がなくなる笑い方だった。
「面接、受かるかな。あいつ」
「わからないですけど……。弟さんが、子供が好きだったら、とっても楽しいと思います。
お名前、うかがっても? 室長に、バイト希望の方がいらしたって、お伝えすることくらいは、できますけど……」
「いい? 『ほくと』っていう名前。これが名字」
「ほくと……。北に、とは、読み方がわからないんですけど、十に点々、みたいな……?」
「それで合ってる。北斗七星の北斗」
「わかりました。北斗さん、ですね」
「よろしく」
* * *
八月になった。
今日は、八月一日。月曜日。
礼慈さんは、あくびをしながらリビングにやってきた。
「おはようー」
「おはよう」
眠たそうだった。
朝ごはんを出して、二人で食べた。
礼慈さんがリビングから出ていった。少ししてから灰色のスーツに着がえて、戻ってきた。
かっこいい……。あいかわらず、よく似合ってる。
「八月になりましたね」
「そうだな」
「どうでもよさそう……」
「そんなことないよ。今日は、水曜の会議の資料を作らないといけないなと思って」
「大変ですか?」
「わりと。君がぎゅっとしてくれたら、元気が出るかも」
「……えっ」
スーツ姿の礼慈さんから、そんなことを言われてしまうと、正気ではいられない感じだった。
「顔が赤い」
「えっ、えー?」
「おいで」
手を広げて、待ってる。
飛びこんでいって、ぎゅっとされてから、思った。
「これ、されてますよね。してるんじゃなくて」
「ばれたか」
おでこにキスをしてくれた。
「続きは、帰ってからにしよう。いってきます」
「いってらっしゃい……」
礼慈さんは、さっさと出勤してしまった。
さびしくなってしまった。
午前中は家事をした。
早めにお昼を食べて、部屋を出た。
事務室に行ったら、見慣れない男の子がいた。
「こんにちはー」
「こんにちは。白井さん。
新人さんがいるから」
「あっ、はい。
こんにちは。白井祐奈です」
わたしから、声をかけた。
「はじめまして。
北斗友也です。
今日から、こちらでお世話になります。
無資格のアルバイトです。
よろしくお願いします」
北斗さんの弟だ、と思った。面接に受かったんだ……って。
すごく若い。大学に入ったばかりなのかもしれない。
礼儀正しそうな子に見えた。まっすぐな目で見られて、ちょっと、どきっとした。
かわいい顔をしていた。
保育用の水色のエプロンに、名札がつけてあった。
手書きで、「ゆうや」と大きく書いてあった。ひらがなの名前の右下に、小さな字で、「友也」と書いてあった。
「わたしも、まだ一年経ってないアルバイトです。
よろしくね」
「はい」
「白井さんは、教員免許を持ってるからね。頼りになるよ」
碓田さんが、北斗くんに声をかけた。
「いえ、そんな」
「そうなんですね。ぜひ、頼らせてください」
「もう時間だから、行きましょう。一緒に来てね」
「はい」
子供たちは、最初の時だけは、北斗くんに遠慮してるみたいだった。
一時間くらいしたら、みんな、すっかりなついてる様子だった。とくに、女の子たちが。「ゆうやくん」「ゆうやくん」って。
かわいい顔をしてるからかなって、思った。
女の子たちが、北斗くんにまとわりついてるので、男の子たちが、わたしの方に来た。ふだんは、あんまり甘えてこない子たちも。
体を使う遊びをいっぱいしてから、みんなで、夏休みの宿題をした。
七月二十八日。木曜日。
学校が夏休みの間も、保育室は開いている。
時間は、少し早くなる。平日の午後一時から四時の間だけ。
「すいません」
声をかけられた。保育室があるところから、区民センターのロビーに出て、すぐに。
「はい」
男の人だった。
髪が短いから、だろうか。沢野さんに似てる……と感じた。
沢野さんよりも、背が高そうだった。
かっこいい顔をしていた。でも、あどけない感じ。
少年っぽい、っていうのかな。
「ここの、職員の方ですか?」
「違います。学童保育のアルバイトです」
「あ、そうなんだ。ここの学童保育って、どう?
弟が、ここのバイトに興味があるって。
そこに、チラシが貼ってあるでしょ。通りがかる度に見ては、気にしてるらしいんだけど。
今から応募しても、まだ間に合う?」
「募集、してますよ! でも、高校生は不可です。
大学生か、社会人だったら、大丈夫です」
「大学生」
「わあー。いいと思います。子供って、若い人が大好きなんですよ」
「どう? 職場の空気とか」
「いいです。みなさん、やさしい方ばかりで。
子供たちも、みんな、元気で……。元気すぎるくらいで」
「へえ」
笑った。目がなくなる笑い方だった。
「面接、受かるかな。あいつ」
「わからないですけど……。弟さんが、子供が好きだったら、とっても楽しいと思います。
お名前、うかがっても? 室長に、バイト希望の方がいらしたって、お伝えすることくらいは、できますけど……」
「いい? 『ほくと』っていう名前。これが名字」
「ほくと……。北に、とは、読み方がわからないんですけど、十に点々、みたいな……?」
「それで合ってる。北斗七星の北斗」
「わかりました。北斗さん、ですね」
「よろしく」
* * *
八月になった。
今日は、八月一日。月曜日。
礼慈さんは、あくびをしながらリビングにやってきた。
「おはようー」
「おはよう」
眠たそうだった。
朝ごはんを出して、二人で食べた。
礼慈さんがリビングから出ていった。少ししてから灰色のスーツに着がえて、戻ってきた。
かっこいい……。あいかわらず、よく似合ってる。
「八月になりましたね」
「そうだな」
「どうでもよさそう……」
「そんなことないよ。今日は、水曜の会議の資料を作らないといけないなと思って」
「大変ですか?」
「わりと。君がぎゅっとしてくれたら、元気が出るかも」
「……えっ」
スーツ姿の礼慈さんから、そんなことを言われてしまうと、正気ではいられない感じだった。
「顔が赤い」
「えっ、えー?」
「おいで」
手を広げて、待ってる。
飛びこんでいって、ぎゅっとされてから、思った。
「これ、されてますよね。してるんじゃなくて」
「ばれたか」
おでこにキスをしてくれた。
「続きは、帰ってからにしよう。いってきます」
「いってらっしゃい……」
礼慈さんは、さっさと出勤してしまった。
さびしくなってしまった。
午前中は家事をした。
早めにお昼を食べて、部屋を出た。
事務室に行ったら、見慣れない男の子がいた。
「こんにちはー」
「こんにちは。白井さん。
新人さんがいるから」
「あっ、はい。
こんにちは。白井祐奈です」
わたしから、声をかけた。
「はじめまして。
北斗友也です。
今日から、こちらでお世話になります。
無資格のアルバイトです。
よろしくお願いします」
北斗さんの弟だ、と思った。面接に受かったんだ……って。
すごく若い。大学に入ったばかりなのかもしれない。
礼儀正しそうな子に見えた。まっすぐな目で見られて、ちょっと、どきっとした。
かわいい顔をしていた。
保育用の水色のエプロンに、名札がつけてあった。
手書きで、「ゆうや」と大きく書いてあった。ひらがなの名前の右下に、小さな字で、「友也」と書いてあった。
「わたしも、まだ一年経ってないアルバイトです。
よろしくね」
「はい」
「白井さんは、教員免許を持ってるからね。頼りになるよ」
碓田さんが、北斗くんに声をかけた。
「いえ、そんな」
「そうなんですね。ぜひ、頼らせてください」
「もう時間だから、行きましょう。一緒に来てね」
「はい」
子供たちは、最初の時だけは、北斗くんに遠慮してるみたいだった。
一時間くらいしたら、みんな、すっかりなついてる様子だった。とくに、女の子たちが。「ゆうやくん」「ゆうやくん」って。
かわいい顔をしてるからかなって、思った。
女の子たちが、北斗くんにまとわりついてるので、男の子たちが、わたしの方に来た。ふだんは、あんまり甘えてこない子たちも。
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