上 下
141 / 206
12.アズ・ポーン2

4-4

しおりを挟む
「今月は、五万くらいか」
 デリヘルの仕事に比べたら、ほんの少しの収入だ。それでも、お金が増えるのは、うれしい。
 沢野さんには、あたしがこういうことをしてるっていう話は、してない。
 やりはじめた頃に、話してもよかったのかもしれないけど……。
 あたしには、ちょっとした考えがあった。
 あたしは、もしかしたら、沢野さんと結婚するかもしれない。
 その時に備えて、あたしの夢のために貯めたお金とは別に、貯金があったらいいなって……。
 結婚資金って、いうんだろうか?
 もし結婚したら、二人で暮らす家を買ったりするかもしれない。今はまだ、あたしの、勝手な想像でしかないけど。
 驚く顔が見たい。あの人をびっくりさせたい。
 大学を卒業するまでに、就職がうまくできなくても、なにか、収入を得る方法を見つけておきたいという気持ちもあった。
「不動産とか、よさそうだけどな……。
 マンションを、何部屋か買って、人に貸すとか……。
 あんまり、現実的じゃないか」
 ぶつぶつとひとりごとを言いながら、パソコンから離れた。

 リビングに戻って、昼ごはんの準備をすることにした。
 明日は、沢野さんの部屋には行けないかもしれない。作りおきのおかずを作って、帰る時に持っていってもらおう……。

 いくつか、おかずを用意できた。
 あたしはこれまで、自分のことを、人につくすタイプだとは思ってなかったけど……。
 沢野さんには、じゅうぶんすぎるくらいに、つくしてるような気がしていた。


「おはよー」
 沢野さんが起きてきた。十一時半を過ぎたところだった。
「もう、お昼ですよ」
「ごめんね……。寝すぎた」
「べつに、いいですけど。お昼を食べたら、帰りますか?」
「ううん。少し、歩かない? 外を」
「いいですよ」
「顔を洗ってくる……」
「はい」

 戻ってきたときには、寝おきの顔よりは、しゃっきりしていた。
 頭の後ろに、寝ぐせがついてる。かわいかった。

 かんたんな昼ごはんを出して、二人で食べた。
 沢野さんに待ってもらって、メイクをした。目もとと、リップだけ。

「もう、行けます」
「うん」
「あ、そうだ。おかずを作ったから、持っていってください」
「えーっ。ありがとう……。
 僕が寝てる間に、作ってくれたの?」
「はい。昨日の夜景の、お礼です」
「いや、だって……。あれは、デートだよ。何かを贈ったわけじゃないのに」
「きれいでしたよ。ずっと、忘れないと思います」
「……」
「沢野さん?」
「入学祝いは、多めにしたつもりだけど。
 食材にかかったお金で、とっくに相殺された気がする」
「そこまでじゃないですよ。それに、負担だったら、ちゃんと言います」
「言ってね。まじで」
「はい」

 外は、暑かった。蝉の声は、あんまりしない。
「暑いね」
「ですね。どこか、行きたいところがあるの?」
「ううん。ただ、歌穂ちゃんと、ぶらっとしたいだけ」
「ふうん……。あたし、買いものがしたい」
「いいよ」

 駅前まで行って、駅ビルの中をうろうろした。
 沢野さんは、ずっと、あたしのそばにいてくれた。
 食料品売り場で、塩とパスタを買った。お金は、沢野さんが出してくれた。
「ありがとうございます」
「ううん。あとは?」
「もう、いいかな……。あの、明日の予定って」
「明日はね、自分の部屋でのんびりしてると思う」
「そうですか……」
 あたしは、行かない方がいいのかな。
 沢野さんには、どこか猫みたいなところがある。ほどほどに、ほうっておいてあげないといけない。そんなふうに思っていた。
「あたしも、自分のことをします。大学のこととか」
「うん。わかった」


 あたしの部屋に戻ってから、キスとハグをした。
 熱っぽいキスに、すっかり夢中になってしまった。
「もっと」
「……うん」
 また、顔が近づいてくる。
 深いキスだった。息がみだれて、頭がぼうっとするくらいに。
「歌穂ちゃん」
 ぎゅうぎゅうと、沢野さんが抱きついてくる。かわいい、と思った。
「さわのさん」
 好き。やっぱり、言葉にならなかった。
「なに?」
「ううん……。もう、帰りますよね」
「そうだね。楽しかったよ」
「あたしも」
 笑っている口もとを、じっと見ていた。
 あたしは、こんなふうに笑えているんだろうか。
「おかず、忘れないで。今、持ってきます」
「うん。ありがとう」

 タッパーと保存用の袋に入れたおかずを渡して、玄関まで見送った。
 駐車場まで、ついていこうとしたけど、「ここでいいよ」と言われてしまった。
「じゃあね」
「はい」

 ドアの前に立って、しばらく見ていた。エレベーターのところでふり返って、あたしを見て、手をふってくれた。
 あたしも、沢野さんに向かって手をふった。

 エレベーターが来て、沢野さんが乗りこむ。下りていった。
 ドアを閉めて、鍵をかけた。
 一気に、さびしくなってしまった。
 沢野さんと、一緒に暮らせたら……。そう思いかけて、できっこないなと思い直した。
 同棲しながら、セックスを我慢してもらうのは、かなりきついことなんじゃないだろうか。あたしの想像でしかないけど……。
 そもそも、我慢する必要があるのかどうかも、あたしには、よくわからなくなっていた。

「株でも、買うか……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...