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12.アズ・ポーン2
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「今月は、五万くらいか」
デリヘルの仕事に比べたら、ほんの少しの収入だ。それでも、お金が増えるのは、うれしい。
沢野さんには、あたしがこういうことをしてるっていう話は、してない。
やりはじめた頃に、話してもよかったのかもしれないけど……。
あたしには、ちょっとした考えがあった。
あたしは、もしかしたら、沢野さんと結婚するかもしれない。
その時に備えて、あたしの夢のために貯めたお金とは別に、貯金があったらいいなって……。
結婚資金って、いうんだろうか?
もし結婚したら、二人で暮らす家を買ったりするかもしれない。今はまだ、あたしの、勝手な想像でしかないけど。
驚く顔が見たい。あの人をびっくりさせたい。
大学を卒業するまでに、就職がうまくできなくても、なにか、収入を得る方法を見つけておきたいという気持ちもあった。
「不動産とか、よさそうだけどな……。
マンションを、何部屋か買って、人に貸すとか……。
あんまり、現実的じゃないか」
ぶつぶつとひとりごとを言いながら、パソコンから離れた。
リビングに戻って、昼ごはんの準備をすることにした。
明日は、沢野さんの部屋には行けないかもしれない。作りおきのおかずを作って、帰る時に持っていってもらおう……。
いくつか、おかずを用意できた。
あたしはこれまで、自分のことを、人につくすタイプだとは思ってなかったけど……。
沢野さんには、じゅうぶんすぎるくらいに、つくしてるような気がしていた。
「おはよー」
沢野さんが起きてきた。十一時半を過ぎたところだった。
「もう、お昼ですよ」
「ごめんね……。寝すぎた」
「べつに、いいですけど。お昼を食べたら、帰りますか?」
「ううん。少し、歩かない? 外を」
「いいですよ」
「顔を洗ってくる……」
「はい」
戻ってきたときには、寝おきの顔よりは、しゃっきりしていた。
頭の後ろに、寝ぐせがついてる。かわいかった。
かんたんな昼ごはんを出して、二人で食べた。
沢野さんに待ってもらって、メイクをした。目もとと、リップだけ。
「もう、行けます」
「うん」
「あ、そうだ。おかずを作ったから、持っていってください」
「えーっ。ありがとう……。
僕が寝てる間に、作ってくれたの?」
「はい。昨日の夜景の、お礼です」
「いや、だって……。あれは、デートだよ。何かを贈ったわけじゃないのに」
「きれいでしたよ。ずっと、忘れないと思います」
「……」
「沢野さん?」
「入学祝いは、多めにしたつもりだけど。
食材にかかったお金で、とっくに相殺された気がする」
「そこまでじゃないですよ。それに、負担だったら、ちゃんと言います」
「言ってね。まじで」
「はい」
外は、暑かった。蝉の声は、あんまりしない。
「暑いね」
「ですね。どこか、行きたいところがあるの?」
「ううん。ただ、歌穂ちゃんと、ぶらっとしたいだけ」
「ふうん……。あたし、買いものがしたい」
「いいよ」
駅前まで行って、駅ビルの中をうろうろした。
沢野さんは、ずっと、あたしのそばにいてくれた。
食料品売り場で、塩とパスタを買った。お金は、沢野さんが出してくれた。
「ありがとうございます」
「ううん。あとは?」
「もう、いいかな……。あの、明日の予定って」
「明日はね、自分の部屋でのんびりしてると思う」
「そうですか……」
あたしは、行かない方がいいのかな。
沢野さんには、どこか猫みたいなところがある。ほどほどに、ほうっておいてあげないといけない。そんなふうに思っていた。
「あたしも、自分のことをします。大学のこととか」
「うん。わかった」
あたしの部屋に戻ってから、キスとハグをした。
熱っぽいキスに、すっかり夢中になってしまった。
「もっと」
「……うん」
また、顔が近づいてくる。
深いキスだった。息がみだれて、頭がぼうっとするくらいに。
「歌穂ちゃん」
ぎゅうぎゅうと、沢野さんが抱きついてくる。かわいい、と思った。
「さわのさん」
好き。やっぱり、言葉にならなかった。
「なに?」
「ううん……。もう、帰りますよね」
「そうだね。楽しかったよ」
「あたしも」
笑っている口もとを、じっと見ていた。
あたしは、こんなふうに笑えているんだろうか。
「おかず、忘れないで。今、持ってきます」
「うん。ありがとう」
タッパーと保存用の袋に入れたおかずを渡して、玄関まで見送った。
駐車場まで、ついていこうとしたけど、「ここでいいよ」と言われてしまった。
「じゃあね」
「はい」
ドアの前に立って、しばらく見ていた。エレベーターのところでふり返って、あたしを見て、手をふってくれた。
あたしも、沢野さんに向かって手をふった。
エレベーターが来て、沢野さんが乗りこむ。下りていった。
ドアを閉めて、鍵をかけた。
一気に、さびしくなってしまった。
沢野さんと、一緒に暮らせたら……。そう思いかけて、できっこないなと思い直した。
同棲しながら、セックスを我慢してもらうのは、かなりきついことなんじゃないだろうか。あたしの想像でしかないけど……。
そもそも、我慢する必要があるのかどうかも、あたしには、よくわからなくなっていた。
「株でも、買うか……」
デリヘルの仕事に比べたら、ほんの少しの収入だ。それでも、お金が増えるのは、うれしい。
沢野さんには、あたしがこういうことをしてるっていう話は、してない。
やりはじめた頃に、話してもよかったのかもしれないけど……。
あたしには、ちょっとした考えがあった。
あたしは、もしかしたら、沢野さんと結婚するかもしれない。
その時に備えて、あたしの夢のために貯めたお金とは別に、貯金があったらいいなって……。
結婚資金って、いうんだろうか?
もし結婚したら、二人で暮らす家を買ったりするかもしれない。今はまだ、あたしの、勝手な想像でしかないけど。
驚く顔が見たい。あの人をびっくりさせたい。
大学を卒業するまでに、就職がうまくできなくても、なにか、収入を得る方法を見つけておきたいという気持ちもあった。
「不動産とか、よさそうだけどな……。
マンションを、何部屋か買って、人に貸すとか……。
あんまり、現実的じゃないか」
ぶつぶつとひとりごとを言いながら、パソコンから離れた。
リビングに戻って、昼ごはんの準備をすることにした。
明日は、沢野さんの部屋には行けないかもしれない。作りおきのおかずを作って、帰る時に持っていってもらおう……。
いくつか、おかずを用意できた。
あたしはこれまで、自分のことを、人につくすタイプだとは思ってなかったけど……。
沢野さんには、じゅうぶんすぎるくらいに、つくしてるような気がしていた。
「おはよー」
沢野さんが起きてきた。十一時半を過ぎたところだった。
「もう、お昼ですよ」
「ごめんね……。寝すぎた」
「べつに、いいですけど。お昼を食べたら、帰りますか?」
「ううん。少し、歩かない? 外を」
「いいですよ」
「顔を洗ってくる……」
「はい」
戻ってきたときには、寝おきの顔よりは、しゃっきりしていた。
頭の後ろに、寝ぐせがついてる。かわいかった。
かんたんな昼ごはんを出して、二人で食べた。
沢野さんに待ってもらって、メイクをした。目もとと、リップだけ。
「もう、行けます」
「うん」
「あ、そうだ。おかずを作ったから、持っていってください」
「えーっ。ありがとう……。
僕が寝てる間に、作ってくれたの?」
「はい。昨日の夜景の、お礼です」
「いや、だって……。あれは、デートだよ。何かを贈ったわけじゃないのに」
「きれいでしたよ。ずっと、忘れないと思います」
「……」
「沢野さん?」
「入学祝いは、多めにしたつもりだけど。
食材にかかったお金で、とっくに相殺された気がする」
「そこまでじゃないですよ。それに、負担だったら、ちゃんと言います」
「言ってね。まじで」
「はい」
外は、暑かった。蝉の声は、あんまりしない。
「暑いね」
「ですね。どこか、行きたいところがあるの?」
「ううん。ただ、歌穂ちゃんと、ぶらっとしたいだけ」
「ふうん……。あたし、買いものがしたい」
「いいよ」
駅前まで行って、駅ビルの中をうろうろした。
沢野さんは、ずっと、あたしのそばにいてくれた。
食料品売り場で、塩とパスタを買った。お金は、沢野さんが出してくれた。
「ありがとうございます」
「ううん。あとは?」
「もう、いいかな……。あの、明日の予定って」
「明日はね、自分の部屋でのんびりしてると思う」
「そうですか……」
あたしは、行かない方がいいのかな。
沢野さんには、どこか猫みたいなところがある。ほどほどに、ほうっておいてあげないといけない。そんなふうに思っていた。
「あたしも、自分のことをします。大学のこととか」
「うん。わかった」
あたしの部屋に戻ってから、キスとハグをした。
熱っぽいキスに、すっかり夢中になってしまった。
「もっと」
「……うん」
また、顔が近づいてくる。
深いキスだった。息がみだれて、頭がぼうっとするくらいに。
「歌穂ちゃん」
ぎゅうぎゅうと、沢野さんが抱きついてくる。かわいい、と思った。
「さわのさん」
好き。やっぱり、言葉にならなかった。
「なに?」
「ううん……。もう、帰りますよね」
「そうだね。楽しかったよ」
「あたしも」
笑っている口もとを、じっと見ていた。
あたしは、こんなふうに笑えているんだろうか。
「おかず、忘れないで。今、持ってきます」
「うん。ありがとう」
タッパーと保存用の袋に入れたおかずを渡して、玄関まで見送った。
駐車場まで、ついていこうとしたけど、「ここでいいよ」と言われてしまった。
「じゃあね」
「はい」
ドアの前に立って、しばらく見ていた。エレベーターのところでふり返って、あたしを見て、手をふってくれた。
あたしも、沢野さんに向かって手をふった。
エレベーターが来て、沢野さんが乗りこむ。下りていった。
ドアを閉めて、鍵をかけた。
一気に、さびしくなってしまった。
沢野さんと、一緒に暮らせたら……。そう思いかけて、できっこないなと思い直した。
同棲しながら、セックスを我慢してもらうのは、かなりきついことなんじゃないだろうか。あたしの想像でしかないけど……。
そもそも、我慢する必要があるのかどうかも、あたしには、よくわからなくなっていた。
「株でも、買うか……」
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