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12.アズ・ポーン2

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 マンションの部屋に帰ってからは、友也からの電話を待っていた。
 もう午後八時になってる。遅いなと思った。

 九時になる前に、電話がかかってきた。
「友也」
「ごめん。遅くなって」
「いいよ。どうだった?」
「あっ、うん。蒔田さんって、すごくかっこいい人だった」
「……はあ?」
「ええと、変な意味じゃないよ。男気がある人だった。
 一緒に調べてくれるって」
「その人に、お金を払うんだよね? 高かった?」
「そうでも……。全部おまかせするんだったら、通常料金だって言われたけど。
 自分でも調べたいって言ったら、半額にしてくれた」
「よかったね。……ねえ。調べるのは、いいけど。
 大学と両立できるの?」
「休むことにした。半年だけ」
「え……」
「年末まで、やれるだけのことはやるつもり。
 僕の人生とも、関係があることだし……。後悔はしたくないから」
「そっか。がんばって。
 友達には、休むって伝えた方がいいよ。ひとみちゃんとか……」
「うん。そうする」
「あたしに手伝えることとか、ある?」
「うん。……ううん。蒔田さんにも相談できるようになったし、自分でやってみるよ。
 たまに、電話してもいい?」
「うん」
「それだけで、充分だよ。
 蒔田さんを紹介してくれて、ありがとう。歌穂さん」
「ううん……。がんばってね」
「うん」

* * *

 七月二十三日。土曜日。
 午前中に、友也から電話がかかってきた。

「ごぶさた。歌穂さん」
「うん。どう?」
「調べてるよ。それしか、してない。
 今週の火曜日まで、蒔田さんと長野に行ってたんだ」
「……長野?」
「そう。調べないといけないことがあって。
 ずっと日記を読んでたんだけど。先週の木曜日からは、聞き取り調査をしてる。
 まだ、調べ始めたばかりなんだけど。父の日記に書かれてることは、かなり真実に近いんじゃないかって、蒔田さんは言ってた」
「えー……。それって、友也のお父さんが……」
「犯罪者だった」
「まだ、確定したわけじゃないでしょ?」
「うーん。僕の予想では、ほぼ確定だよ」
 友也の声は、いつもと変わらなかった。そのことを、こわいと感じた。
 まるで、他人のことを話してるみたいで……。
 「父」という言い方が、つめたく聞こえた。「父さん」と呼んでいた時とは、ぜんぜん違っていた。
「お父さんの犯罪って、どういう……? 聞いたら、まずい?」
「お金の話だよ」
「ああ……。なんだっけ。『天国に』……」
「『金は持っていけない』。そのとおりの意味だった」
「お父さんは、お金に執着してる人だったの?」
「ううん。そんなふうには、見えなかった。僕からは、見えてなかっただけだと思うけど。
 小さな女の子を、私利私欲のために陥れるような人だったんだ」
「……あたし、『私利私欲』って、ふつうの会話で初めて聞いた」
「えっ? 言わない?」
「言わない……。少なくとも、あたしは。
 友也とは、大学の偏差値もかなり差があるし、頭がいいんだろうなとは思ってたけど」
「よくないよ。
 とにかく、僕の父は、小さな女の子にひどいことをしてたってこと」
「どういうこと? 小さな女の子って、誰?
 友也の他にも、子供がいたってこと? 友也のお母さんとは別の、女の人との間に……」
「そんな感じ。僕が継ぐ遺産は、本来、その子のものだった」
「それは、おかしいんじゃないの。よくて、半々……とか」
「僕が、本当に北斗家の血を引いてるなら、そうだったんだろうけど。
 違ったんだよ」
「えぇー? ちょっと、よくわかんない。養子だったとか、そういうこと?」
「もっと悪い。戸籍上は、間違いなく親子だよ。
 いろんな人を騙してたんだ。僕の両親が」
「ほんとに? 小説とか、ドラマの話みたい。お父さんの妄想じゃないの?」
「荒唐無稽だよね」
「あんまり、難しい言葉を使わないで」
「ごめんなさい」
「じゃあ、友也は、誰と誰の子供だったの?」
「母と、父以外の男性の子供。血液型が合わないんだよ。
 Aだって聞いてたけど、母子手帳にはBっていう紙が貼ってあった。
 母と戸籍上の父は、どちらもA。僕がBになるのは、おかしい」
「そうかな……。ひとつ上の世代の組み合わせによっては、ありえるとか、そういうことはないの?」
「ないと思う。AとAなら、子供はAかOになるはずだよ。
 父方の祖母と僕とで、DNA鑑定をすることにしたんだ。来週には、結果が出てると思うよ」
「そう……」
「ごめんね。あんまり、詳しくは話せないんだ。
 まだ、本当のことなのかどうか、はっきりしてないし……」
「ううん。あたしのことは、気にしないで」
「ありがとう」
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