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12.アズ・ポーン2

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「ちゃんと連絡するから。とにかく、友也はうちに帰って。
 ゆっくり休まないと、だめだよ」
「うん。わかった」
「あと、お父さんのこと。ご愁傷さまでした」
「ありがとう……」
 ポケットティッシュを返そうとしてくる。あたしは首をふって、「持ってて」と言った。
「うん」
 あたしにうなずく友也は、小学生みたいに幼く見えた。
「もう、帰るよ。またね」
 そう言って、立ちあがる。
「わかった。気をつけてね」
 公園の出口まで、ふらーっと歩いていった。バランスが取れなくなってるような、へんな歩き方だった。
 だいじょうぶかな……。あやうい感じだった。
 あたし自身も、動揺していた。自分が、ドラマに出てくる人になったような気分というか……。
 さらっと流してしまったけど、カフェで話していた時の友也は、お父さんが亡くなったことはつらくないと取れるような言い方をした。ものすごく、つき放したような態度だった。
 どうして? あんなに、お父さんが亡くなることがこわいって、言ってたのに。
 なにがあったの……?


 その日の午後六時半に、沢野さんに電話をした。
「沢野さん」
「こんばんは。歌穂ちゃん」
「あの、あたし、お願いがあって」
「……うん。どんなこと?」
「あたしの友達の、大学生の子が、トラブルに巻きこまれてて。相談できる人を探してるの。
 心当たり、ないですか?」
「あるけど……。相談の内容によるかな」
「なんか、その子のお父さんの……亡くなったばかりみたいなんですけど、お父さんが残した日記に、犯罪みたいなことが書いてあったらしいんです。
 それで、それが妄想なのか、本当のことなのかを調べたいって。
 日記に書かれてる人とか、施設に、裏をとりたいって」
「ああ……。そういうことなら、僕から紹介できると思う。
 凄腕の探偵の人がいる。
 歌穂ちゃんに、その人の名刺を渡すよ。そのまま、歌穂ちゃんのお友達に渡してくれればいい。僕からの紹介だって、その人に伝えてくれれば、きっと助けてもらえると思う」
「ありがとう……。よかった。喜ぶと思います」
「今日、会える? 今から」
「会いたい。あたしが、行きましょうか?」
「ううん。僕が、そっちに行くよ。
 泊まってもいい?」
「いいですよ。夕ごはん、なにが食べたいですか?」
「……うーん。とっさに言われると、出てこないね。
 なんでも……っていうのは、だめなんだっけ」
「そんなこと、ないけど。言ってくれれば、作る努力はします」
「えー? 待って。コロッケ!」
「それ、あたしの好物ですよ」
「だから、それ」
「やっさしー。じゃあ、そうします。
 気をつけて、来てください。待ってますから」
「うん。ありがとう」

 沢野さんが来てくれた。三十分もかからなかったと思う。
 お土産にって、ケーキを買ってきてくれた。

「これ。蒔田まきたさんの名刺」
「ありがとうございます」
 名刺をもらった。
 「いさお探偵事務所」という文字の下に、「蒔田」と書いてあった。下の名前は、なかった。住所は、新宿区。電話番号とメールアドレスも書いてあった。
 台所と続いてるリビングから、隣りの部屋に行った。ここには、パソコンと机と、ベッドが置いてある。
 名刺を机の上に置いた。

 いただいたケーキを冷蔵庫に入れた。
 沢野さんに待っててもらって、コロッケを作る作業に戻った。
「大変?」
「そうでもないです。時間は、かかっちゃうけど」

 揚げてる間に、今週の、大学の講義の話とかを聞いてもらった。沢野さんは、あたしのそばにいて、ずっと立っていた。

 コロッケをお皿に並べる。みそ汁は、沢野さんがお椀に入れてくれた。
「揚げたてです」
「ありがとう。おいしそー」
「あったかいうちに、どうぞ」
「いただきます」
「おいしい?」
「うん。おいしい。
 僕も、コロッケが好きになってきた気がする」
「ほんとに?」
「うん」
 うれしくなって、沢野さんをじーっと見ていたら、ほっぺたが赤くなっていった。てれてるんだ、と思った。かわいかった。
「よかったら、おかわりしてください」
「……うん。もらおうかな」

 夕ごはんの後で、そのままケーキも食べることになった。
 シンプルなショートケーキだった。沢野さんの分をお皿に出してから、どうしようかなと思った。
 一日に、ケーキを二個って。ちょっと、いやかなり、まずいかも。
「食べないの?」
「あっ、うん。今日、友達と食べたの。だから……」
「そうだったんだ。明日の朝に食べれば?」
「そうする。沢野さんは、食べて」
「うん。もらうね」
 おいしそうに食べてる。二口目までは見とどけて、流しの片づけをはじめた。
「僕が洗うから」
「大丈夫です。すぐ、終わるんで」

 まだお皿を洗ってる時に、ケーキに使った分も持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「いーえ。おいしかったよ。ごちそうさまでした」

 お風呂に入ってからは、ドライヤーで髪を乾かしたり、パソコンをいじったりしていた。
 あたしの後に入った沢野さんが、「乾かしてー」と甘えてきた。
「いいですよ」
 座ってもらって、ぬれてる髪を乾かしてあげた。
 ドライヤーを脱衣所に持っていって、洗面台の下の引き出しに入れた。

 沢野さんの分の布団は、扉のついたクローゼットに入れてある。中から、敷き布団を引っぱりだして、あたしのベッドの横に敷こうとしていた。
「手伝うよ」
 そう言って、一緒にやってくれた。
 枕とタオルケットも出した。
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