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11.スイート・キング5

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 しとしと、雨がふっている。
 バイトがない日。傘をさして、散歩に出かけた。

 学童保育の求人への応募は、まだ来ていないみたい。
 午後だけで時間が短いのと、子供が学校から家に帰ってくる時間に始まるから、子育てをしている人には厳しいんだろうね、と碓田さんは言っていた。
 碓田さんが困っているのを見て、今週からは、週に四日シフトに入ることにした。
 そんなに、大変じゃない。五日にしなかったのは、一日自由に動ける平日がほしかったのと、もし長く続くことになっても、無理せずに働きたいと思ったから。
 礼慈さんは、わたしの負担が増えるんじゃないかって、心配してくれていた。

 今日は、せっかくのお休みだからと思って、雨だけど、出かけることにした。
 先週も、金曜日がお休みだった。碓田さんに、そうしてほしいとお願いしたりはしてないけれど、礼慈さんがカレンダーどおりの出勤だということは伝えてあるから、わざと、そうしてくれているのかもしれない。
 金土日と三連休みたいになって、いいなと思っていた。
 おかずの作りおきをしたり、金曜日までにできなかった家事をしたり……。気持ちが、ゆったりしてるのがいい。

 歌穂は、週末に沢野さんとデートしてるみたいだった。
 たまに、平日の夜にも会ってるみたい。
 大学生になってからは、本当に忙しそうだけど、幸せそうに見えた。

 パズルが見たくなって、新宿にある大きな画材屋さんに行った。
 いろいろ見て、ひとつだけ買った。歌穂が好きな、猫のキャラクターの。歌穂が、うちに来てくれた時に、二人で遊ぼうと思って。
 色鉛筆のコーナーも見た。パステルを買ったよって、歌穂から、画像つきのLINEが来たことがあった。あの時は、びっくりした。絵を描いたりするんだと思って。
 どんな絵を描くのかな。見たいけど、はずかしがって、見せてくれないかも……。

 かわいい手帳があったから、買った。
 絵はがきを見て、文房具を見て、満足して帰った。


「今日、新宿に行ったの」
 帰ってきた礼慈さんと、夕ごはんを食べている。
「雨だったのに?」
「うん。傘をさして歩くのも、楽しかったです。
 画材屋さんに行ってきました。パズルを買ったの」
「どんなの?」
「歌穂が好きなキャラクターの。一緒に、遊ぼうと思って」
「なるほど」
 春巻きと、かぼちゃのポタージュと、白いごはん。それに、サラダ。
 ゆっくり味わってくれている。

 礼慈さんの方が、先に食べおわった。
 わたしは、まだのんびり食べている。
「君のお母さんの方の、祖父母の人たちの話なんだけど」
「……え?」
「ごめん。いきなり、話が変わって。
 姉と、家のことで電話したんだよ。昼の休憩時間に。
 それで、ふと思いだしたことがあって……」
「どんなこと?」
「俺の父親には、母方のいとこの人たちがいるんだけど。
 父親のいとこだから、その人たちの子供たちは、俺にとっては、はとこになるんだよな。
 その、父親のいとこの二人のうち、弟さんの方が、失踪してるんだよ」
「ちょっと、わからないです」
「……だよな。図に書いていい?」

 冷蔵庫に貼ってあるメモ帳を持ってきて、家系図を書いてくれた。
 礼慈さんから見て、父方の祖母にあたる人の弟さんの子供さんたちが、礼慈さんのお父さんのいとこで、その人たちが姉と弟のきょうだいだってことが、わかった。
「分かる?」
「はい。この弟さんが、失踪されたんですか?」
「そう。このお姉さんのことは、俺は舞子さんって呼んでる。舞子さんは父親のいとこで、兄弟姉妹きょうだいじゃないんだけど、舞子さんと、うちの両親の仲が良くて。
 舞子さんの子供たち……つまり、はとこたちとは、今でも、たまに会ったりして、交流がある」
「ごめんなさい。これ、食べちゃうから、ちょっと待ってね」
「うん」
 ぜんぶ食べて、お皿を流しに持っていった。礼慈さんの分は、礼慈さんが先に持ってきてくれていた。

「続きを、どうぞ」
「これ、何の話かっていうと、舞子さんの弟が失踪してることは、親戚中の人たちが知ってることなんだよ。俺と姉が知ってるくらいなんだから。
 この弟の人がどこにいるかは、誰も知らない。知らないけど、みんな、普通に生活してる。
 何年か探しても見つからなかったし、向こうから連絡もない。何か、よほどの事情があるんだろうから、そっとしておこうという結論に達したらしいんだよな」
「はあ……」
「君のお母さんも、この人と同じように、お母さんの家族からは、失踪したと思われているんじゃないかと思って」
「え、……えっ?」
「亡くなったことも知らない、とか。そんなことはないかな」
「えー? わかんない……。
 お葬式とか、するじゃないですか。ふつう、身内の人を探しますよね?」
「探したんだろうけど。施設の職員の人が分からないと君に言ってるんだから、本当に分からなかったんだと思う」
「じゃあ、お母さんのお父さん、お母さんたちは……わたしの祖父母の人たちは、お母さんが生きてるって、思ってるんでしょうか」
「そうでも、おかしくはないと思う」
「そんなのって……」
 おかしい、と思った。
 でも、確かに、礼慈さんの言うとおりだった。
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