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11.スイート・キング5
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六月の最初の週の、金曜日。
よく晴れた日に、こたつから、こたつ布団を外した。
お風呂場の浴槽の中で洗って、乾燥機をつけておいた。半分くらい乾いたところで、ベランダに干した。
今日は、バイトがない日だった。
日記を書いたり、家事をしたりして、のんびり過ごした。
わたしの部屋は、今は、礼慈さんとわたしの書斎になっている。
リビングに置いてあった本棚は、礼慈さんが書斎に移動してくれた。本棚と棚を買い足してくれたので、わたしのパズルを箱ごと置けるようになった。
わたしの日記は、本と一緒に、本棚に置いてある。
いつも使っている机には、鍵がかかる引き出しがついているけれど、そこに入れておいたりはしない。
礼慈さんが読むかもしれない。そのことは、わかっていた。
読まれても、べつに、いいかな……。だって、もう、読まれてしまったことがあるから。今も、読んでいるのかもしれない。礼慈さんは、いちいち、日記の内容について話してきたりはしないので、もし読まれているとしても、あまり気にならなかった。
ゴールデンウィークが終わってから、たまに、歌穂が夕ごはんを食べにくるようになった。
たいてい、沢野さんも後から来て、帰る時に、歌穂を車で送っていってくれる。
先週の金曜日は、夕ごはんの後で、歌穂とお風呂に入った。楽しかったから、長湯してしまった。
大学は、すごく楽しいみたい。やっと、同じ学年の女の子たちと、ふつうの会話ができるようになってきたんだって。
他の大学に通ってる子たちとも、遊んでるみたいだった。サークルで知り合ったと言っていた。
その話をしている歌穂が、本当にうれしそうで、わたしまでうれしくなった。
どこにでもいる、二十一才の女の子に見えた。
下着だけかえて、服はもとの服を着て、歌穂とリビングに戻ると、礼慈さんと沢野さんは、なんだかそわそわしていた。「ごめんなさい」と沢野さんが言ってきたけど、なんて言ったらいいのかわからなくて、歌穂と二人で無言になっていた。
礼慈さんは、なにも言わなかった。
歌穂と沢野さんが帰ってから、セックスをした。礼慈さんは、すごく興奮してて、少しだけこわくなった。
もちろん、無理矢理とかじゃ、なかったけど。いつもより急いでて、キスが深かったり、わたしの体を撫でてくれる手の動きが、焦ってるような感じだった。
「ちょっと、こわいです」と言ったら、「ごめん」と謝られた。
その時に、ふと、歌穂と沢野さんのことを考えた。
沢野さんだって、こんなふうになっているのかもしれない。でも、たぶん、なにもしないで、歌穂をマンションまで送っていく……。ちがう。明日は土曜日だから、沢野さんの部屋に、二人で行くのかもしれない。
ああ、と思った。沢野さん、大変だなあーって。
「がまんするのって、大変ですよね」と礼慈さんに言ったら、「そうだな。俺は我慢できない。ごめん」と返ってきた。
午後七時半。
礼慈さんは、まだ帰ってこない。ジムに行ってから、帰るんだって聞いていたから、趣味の部屋でパズルをして待っていた。
礼慈さんが帰ってきたのは、午後八時を少しすぎた頃だった。
「ごめん。遅くなった」
「おかえりなさい。ジム、どうでした?」
「気持ちよかった。たまには、体を動かさないと。本当は、君と行きたいけど……。
何が起こるか分からないから。ごめん」
「なにも起きないって、反論したいけど。できないです」
「だよな」
「……わたし、隙だらけですか?」
「ううん。そういうことじゃないよ。
夕ごはん、もらっていい?」
「うん。今日はね、和風のごはんです」
「そうか」
礼慈さんは、ジムでシャワーを浴びてきたみたいだった。髪から漂う香りが、いつもとちがう。ちょっと、どきどきした。
「なに?」
「なっ、なんでもない」
「教えて」
かんたんに、抱きよせられてしまった。礼慈さんの腕の中に、閉じこめられた。
「あのね。ジムに行ってるって、わかってるから、大丈夫ですけど……。
なにも知らなかったら、シャワーをしたこととか、シャンプーの香りに、びっくりしたかもって、思ったの」
「ああ……。ジムのだよ。向こうで買って、ロッカーに入れてある」
「ですよね。ごめんなさい」
「いいよ。謝らなくて」
礼慈さんが夕ごはんを食べてる間は、リビングのラグマットの上で、ごろごろしていた。
食べおわった礼慈さんが、わたしのお皿と自分のお皿を洗いはじめるのを見て、あぁーと思った。わたしの分だけでも、洗っておけばよかった……。
「ごめんなさい。洗ってもらっちゃって」
「だから、いいって。当たり前のことをしてるだけだって」
「れいじさん……」
寝そべったまま、感動していた。礼慈さんが、腰を屈めて、わたしの前に膝をついた。
「そろそろ、生理?」
「……うん。把握してるんですね」
「分かるよ。さすがに。しんどい?」
「ちょっとだけ。会社員だった頃は、もっと、つらかったの。
だるくても、休めなかったから……」
「君がいた会社は、ブラック企業じゃないよな」
「たぶん。べつに、有休で休んでも、よかったとは思うんですけど。
入社して三年目までは、有休は派手にとらないようにって、先輩から」
「充分ブラックだよ」
あきれたような顔になった。
よく晴れた日に、こたつから、こたつ布団を外した。
お風呂場の浴槽の中で洗って、乾燥機をつけておいた。半分くらい乾いたところで、ベランダに干した。
今日は、バイトがない日だった。
日記を書いたり、家事をしたりして、のんびり過ごした。
わたしの部屋は、今は、礼慈さんとわたしの書斎になっている。
リビングに置いてあった本棚は、礼慈さんが書斎に移動してくれた。本棚と棚を買い足してくれたので、わたしのパズルを箱ごと置けるようになった。
わたしの日記は、本と一緒に、本棚に置いてある。
いつも使っている机には、鍵がかかる引き出しがついているけれど、そこに入れておいたりはしない。
礼慈さんが読むかもしれない。そのことは、わかっていた。
読まれても、べつに、いいかな……。だって、もう、読まれてしまったことがあるから。今も、読んでいるのかもしれない。礼慈さんは、いちいち、日記の内容について話してきたりはしないので、もし読まれているとしても、あまり気にならなかった。
ゴールデンウィークが終わってから、たまに、歌穂が夕ごはんを食べにくるようになった。
たいてい、沢野さんも後から来て、帰る時に、歌穂を車で送っていってくれる。
先週の金曜日は、夕ごはんの後で、歌穂とお風呂に入った。楽しかったから、長湯してしまった。
大学は、すごく楽しいみたい。やっと、同じ学年の女の子たちと、ふつうの会話ができるようになってきたんだって。
他の大学に通ってる子たちとも、遊んでるみたいだった。サークルで知り合ったと言っていた。
その話をしている歌穂が、本当にうれしそうで、わたしまでうれしくなった。
どこにでもいる、二十一才の女の子に見えた。
下着だけかえて、服はもとの服を着て、歌穂とリビングに戻ると、礼慈さんと沢野さんは、なんだかそわそわしていた。「ごめんなさい」と沢野さんが言ってきたけど、なんて言ったらいいのかわからなくて、歌穂と二人で無言になっていた。
礼慈さんは、なにも言わなかった。
歌穂と沢野さんが帰ってから、セックスをした。礼慈さんは、すごく興奮してて、少しだけこわくなった。
もちろん、無理矢理とかじゃ、なかったけど。いつもより急いでて、キスが深かったり、わたしの体を撫でてくれる手の動きが、焦ってるような感じだった。
「ちょっと、こわいです」と言ったら、「ごめん」と謝られた。
その時に、ふと、歌穂と沢野さんのことを考えた。
沢野さんだって、こんなふうになっているのかもしれない。でも、たぶん、なにもしないで、歌穂をマンションまで送っていく……。ちがう。明日は土曜日だから、沢野さんの部屋に、二人で行くのかもしれない。
ああ、と思った。沢野さん、大変だなあーって。
「がまんするのって、大変ですよね」と礼慈さんに言ったら、「そうだな。俺は我慢できない。ごめん」と返ってきた。
午後七時半。
礼慈さんは、まだ帰ってこない。ジムに行ってから、帰るんだって聞いていたから、趣味の部屋でパズルをして待っていた。
礼慈さんが帰ってきたのは、午後八時を少しすぎた頃だった。
「ごめん。遅くなった」
「おかえりなさい。ジム、どうでした?」
「気持ちよかった。たまには、体を動かさないと。本当は、君と行きたいけど……。
何が起こるか分からないから。ごめん」
「なにも起きないって、反論したいけど。できないです」
「だよな」
「……わたし、隙だらけですか?」
「ううん。そういうことじゃないよ。
夕ごはん、もらっていい?」
「うん。今日はね、和風のごはんです」
「そうか」
礼慈さんは、ジムでシャワーを浴びてきたみたいだった。髪から漂う香りが、いつもとちがう。ちょっと、どきどきした。
「なに?」
「なっ、なんでもない」
「教えて」
かんたんに、抱きよせられてしまった。礼慈さんの腕の中に、閉じこめられた。
「あのね。ジムに行ってるって、わかってるから、大丈夫ですけど……。
なにも知らなかったら、シャワーをしたこととか、シャンプーの香りに、びっくりしたかもって、思ったの」
「ああ……。ジムのだよ。向こうで買って、ロッカーに入れてある」
「ですよね。ごめんなさい」
「いいよ。謝らなくて」
礼慈さんが夕ごはんを食べてる間は、リビングのラグマットの上で、ごろごろしていた。
食べおわった礼慈さんが、わたしのお皿と自分のお皿を洗いはじめるのを見て、あぁーと思った。わたしの分だけでも、洗っておけばよかった……。
「ごめんなさい。洗ってもらっちゃって」
「だから、いいって。当たり前のことをしてるだけだって」
「れいじさん……」
寝そべったまま、感動していた。礼慈さんが、腰を屈めて、わたしの前に膝をついた。
「そろそろ、生理?」
「……うん。把握してるんですね」
「分かるよ。さすがに。しんどい?」
「ちょっとだけ。会社員だった頃は、もっと、つらかったの。
だるくても、休めなかったから……」
「君がいた会社は、ブラック企業じゃないよな」
「たぶん。べつに、有休で休んでも、よかったとは思うんですけど。
入社して三年目までは、有休は派手にとらないようにって、先輩から」
「充分ブラックだよ」
あきれたような顔になった。
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