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11.スイート・キング5
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伊豆にいる。
礼慈さんと、旅行をしてるから。
旅館で、温泉に入ってる。露天で、夕暮れの空が見えた。
赤く染まった空がきれいだった。
午後二時十分発のフェリーに乗って、神津島から、伊豆の下田港に戻ってきた。四時半に着いた。
駐車場に行って、車で旅館に向かった。
今は、あったかいお湯の中にいる。
お湯の色はなかった。透きとおってる。
手のひらで、すくってみた。さらっとしていた。
大きな脱衣所を出たところにある、休憩所のベンチに、礼慈さんが座っているのが見えた。
「ごめんね。待っててくれたの?」
「うん。どうだった?」
「きもちよかったー」
「顔が赤いな」
「のぼせました」
「大丈夫?」
「うん」
礼慈さんは、前髪がぜんぶ下りていた。かわいかった。わたしと同じ、紺色の浴衣を着ていた。浴衣の上に、灰色のはんてんをはおっている。
わたしも、礼慈さんの横に座った。
「外、歩いたりする?」
「ううん……。ちょっと、つかれちゃった」
「分かった」
「ごはん、何時でしたっけ」
「六時から」
「あと少しですね」
「塀とか、あった?」
「お風呂のこと? ありました」
「そうか。他の旅館で、海が見える温泉も、あったんだけど。開放的すぎるなと思って、やめた」
「あー。それは、そうかも……。
でも、海の方から見てくる人なんて、いないですよね」
「たぶん。分からない。
部屋に内湯がある方が、よかった?」
「えっ。いいです。それは、いらないです」
「そう?」
「なんか、はずかしい感じがするから、いいです……」
顔が熱くなった。手で、こそこそ隠していると、礼慈さんの顔が赤くなっていった。
「……なーに?」
「何でもない」
旅館の中にある食堂で、夕ごはんを食べた。和食のバイキングだった。
自分では作らないような、手間のかかりそうな料理ばかりだった。
この旅館に決めたのも、予約をしたのも、礼慈さんなので、宿泊代がどれくらいなのか、わたしは知らなかった。きっと高いんだろうな、と思った。
泊まる部屋に戻った。
スーツケースの荷物を整理した。
歯みがきをした後は、もう寝るつもりで、浴衣の上に着ていたはんてんを脱いだ。
布団に潜りこむ。毛布の下で、もぞもぞしていた。足の先がつめたい。
毛布が、左の方だけ上に上がって、礼慈さんが入ってきた。
「えっ」
「入っていい?」
「もう、入られちゃってます」
「ごめん」
昨日はしなかった。車の運転と山登りで、疲れちゃったのかなと思っていた。
今日は、元気なのかな……。
「するの?」
「うん。したい」
「だめ……。こえが、きこえちゃう」
「そこまで薄くないよ。たぶん」
「そう……?」
「こわい?」
「ううん。灯り、けして」
「ありがとう」
やさしくしてくれた。時間も短かった。
足の先を動かしてみた。もう、つめたくなかった。
部屋の中にある脱衣所の方に行った礼慈さんが、戻ってきた。
「おつかれさま」
「ううん。つかれてない、です」
「神津島で、かなり歩いただろ。疲れてもおかしくないよ」
「楽しかったです。島に泊まるのは、ちょっと、こわい感じがしましたけど」
「日本だって、島だよ」
「でも、大きさがぜんぜんちがいます」
「そうだな」
わたしと話しながら、乱れた浴衣を直してくれた。自分の分も直すと、隣りの布団の上に、ごろんと横になった。
「礼慈さん」
「うん?」
「したって、ばれちゃいませんか。旅館の人に」
「かもな。いいよ。ばれても」
「明日も、泊まるんですよ……」
「大丈夫だから」
そう言ってから、ふあーとあくびをした。
「ねむたくなっちゃった?」
「うん。ねむいな」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
礼慈さんは、先に寝てしまった。
わたしは、すっかり目がさめてしまっていた。
部屋の外に行ってみようかなって、思った。でも、やめておいた。
宴会場の近くを通りがかった時に、すごくにぎやかに騒いでる、若い男の人たちの声が聞こえた。わたしがうろうろしていても、なにもないとは思うけど。もし、なにかあったら、礼慈さんは自分を責めてしまうような気がした。
布団から出て、テレビに、うちから持ってきたイヤホンをつけた。
いつも見ている番組がやっていたので、それを見ることにした。
スマートフォンの画面を見た。
歌穂からLINEのメッセージが来ていた。
『GWは、遊ばないの?』って。
『ごめんね。今、静岡の伊豆にいるの』
『えー? そうなんだ』
『明日も泊まって、明後日には帰るよ』
『三日かあ。じゃあ、いいや。
あたしが祐奈と会ったら、西東さんがさびしくなっちゃうよね』
『そんなこと、ないけど……』
『また、土日のどっかで会いたい』
『うん。いいよ』
『じゃあね』
礼慈さんと、旅行をしてるから。
旅館で、温泉に入ってる。露天で、夕暮れの空が見えた。
赤く染まった空がきれいだった。
午後二時十分発のフェリーに乗って、神津島から、伊豆の下田港に戻ってきた。四時半に着いた。
駐車場に行って、車で旅館に向かった。
今は、あったかいお湯の中にいる。
お湯の色はなかった。透きとおってる。
手のひらで、すくってみた。さらっとしていた。
大きな脱衣所を出たところにある、休憩所のベンチに、礼慈さんが座っているのが見えた。
「ごめんね。待っててくれたの?」
「うん。どうだった?」
「きもちよかったー」
「顔が赤いな」
「のぼせました」
「大丈夫?」
「うん」
礼慈さんは、前髪がぜんぶ下りていた。かわいかった。わたしと同じ、紺色の浴衣を着ていた。浴衣の上に、灰色のはんてんをはおっている。
わたしも、礼慈さんの横に座った。
「外、歩いたりする?」
「ううん……。ちょっと、つかれちゃった」
「分かった」
「ごはん、何時でしたっけ」
「六時から」
「あと少しですね」
「塀とか、あった?」
「お風呂のこと? ありました」
「そうか。他の旅館で、海が見える温泉も、あったんだけど。開放的すぎるなと思って、やめた」
「あー。それは、そうかも……。
でも、海の方から見てくる人なんて、いないですよね」
「たぶん。分からない。
部屋に内湯がある方が、よかった?」
「えっ。いいです。それは、いらないです」
「そう?」
「なんか、はずかしい感じがするから、いいです……」
顔が熱くなった。手で、こそこそ隠していると、礼慈さんの顔が赤くなっていった。
「……なーに?」
「何でもない」
旅館の中にある食堂で、夕ごはんを食べた。和食のバイキングだった。
自分では作らないような、手間のかかりそうな料理ばかりだった。
この旅館に決めたのも、予約をしたのも、礼慈さんなので、宿泊代がどれくらいなのか、わたしは知らなかった。きっと高いんだろうな、と思った。
泊まる部屋に戻った。
スーツケースの荷物を整理した。
歯みがきをした後は、もう寝るつもりで、浴衣の上に着ていたはんてんを脱いだ。
布団に潜りこむ。毛布の下で、もぞもぞしていた。足の先がつめたい。
毛布が、左の方だけ上に上がって、礼慈さんが入ってきた。
「えっ」
「入っていい?」
「もう、入られちゃってます」
「ごめん」
昨日はしなかった。車の運転と山登りで、疲れちゃったのかなと思っていた。
今日は、元気なのかな……。
「するの?」
「うん。したい」
「だめ……。こえが、きこえちゃう」
「そこまで薄くないよ。たぶん」
「そう……?」
「こわい?」
「ううん。灯り、けして」
「ありがとう」
やさしくしてくれた。時間も短かった。
足の先を動かしてみた。もう、つめたくなかった。
部屋の中にある脱衣所の方に行った礼慈さんが、戻ってきた。
「おつかれさま」
「ううん。つかれてない、です」
「神津島で、かなり歩いただろ。疲れてもおかしくないよ」
「楽しかったです。島に泊まるのは、ちょっと、こわい感じがしましたけど」
「日本だって、島だよ」
「でも、大きさがぜんぜんちがいます」
「そうだな」
わたしと話しながら、乱れた浴衣を直してくれた。自分の分も直すと、隣りの布団の上に、ごろんと横になった。
「礼慈さん」
「うん?」
「したって、ばれちゃいませんか。旅館の人に」
「かもな。いいよ。ばれても」
「明日も、泊まるんですよ……」
「大丈夫だから」
そう言ってから、ふあーとあくびをした。
「ねむたくなっちゃった?」
「うん。ねむいな」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
礼慈さんは、先に寝てしまった。
わたしは、すっかり目がさめてしまっていた。
部屋の外に行ってみようかなって、思った。でも、やめておいた。
宴会場の近くを通りがかった時に、すごくにぎやかに騒いでる、若い男の人たちの声が聞こえた。わたしがうろうろしていても、なにもないとは思うけど。もし、なにかあったら、礼慈さんは自分を責めてしまうような気がした。
布団から出て、テレビに、うちから持ってきたイヤホンをつけた。
いつも見ている番組がやっていたので、それを見ることにした。
スマートフォンの画面を見た。
歌穂からLINEのメッセージが来ていた。
『GWは、遊ばないの?』って。
『ごめんね。今、静岡の伊豆にいるの』
『えー? そうなんだ』
『明日も泊まって、明後日には帰るよ』
『三日かあ。じゃあ、いいや。
あたしが祐奈と会ったら、西東さんがさびしくなっちゃうよね』
『そんなこと、ないけど……』
『また、土日のどっかで会いたい』
『うん。いいよ』
『じゃあね』
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