上 下
112 / 206
11.スイート・キング5

1-3

しおりを挟む
 そこから、ゆっくり下山していった。
「あのね。ひざが大変なことになってます」
「歩ける?」
「うん……」
「俺も、足がやばい」
「礼慈さんも?」
「うん。標高600メートルない山だけど。それなりにしんどかった」
「ですよね。もう、宿に戻るの?」
「そのつもり。つき合ってくれて、ありがとう」
「ううん……」
「祐奈?」
「山のことだと、思ったんですけど。あの、……」
「ああ。どっちの意味に取ってもらっても、いいよ」
 恋愛のことだと思っても、いいみたいだった。
「手、つないでいいですか」
「どうぞ」
 山の中では、つながなかった手を、礼慈さんがにぎってくれた。

 午後五時になる前に、宿に戻ってこられた。
 泊まる部屋にあるシャワー室で、順番にシャワーをして、服を着がえた。
 海風で髪がごわごわになっていたので、洗えてよかった。
 宿の手前のお弁当屋さんで買った幕の内弁当を、部屋で食べた。容器は洗って、宿のラウンジにあった、分別してあるごみ箱に入れさせてもらった。

「少し寝よう」
「えっ?」
「もっと暗くなってから、君に見せたいものがあるから」
「あ、はい」

 ダブルベッドに、二人で横になった。
 どきどきしたけど、なにもなかった。
 礼慈さんの方が、わたしよりも先に眠ってしまった。


「起きて。祐奈」
「ふあい」
「かわいい。でも、起きて」
「つながりが、おかしい……です」

 髪を梳かして、服のしわをのばした。
「なんじですか?」
「十時は過ぎてる」
「そんなに……。待っててくれたの?」
「うん。時間は、気にしなくていいよ」

 玄関のところで、宿のスタッフさんと顔を合わせた。
「今からですか。暗いから、お気をつけて」
「ありがとうございます」
 礼慈さんが、軽く会釈をした。わたしも、よくわからないまま、頭を下げた。

 二十分くらい歩いて、坂の上に出た。
 よたね広場という名前らしい。
 誰かいるのかなと思って、見まわしてみた。誰もいなかった。
 時間が遅いからかもしれない。
「分かった?」
「うん……」
 歩いている途中から、もう、わかっていた。
 だって……。島の上にある空を見ながら、ここまで歩いてきたから。
 でも、この広場からは、空しか見えなかった。

 首をのばして、上を見上げた。
 空いっぱいに、星だけがあった。

「星空ですね」
「そうだな」
「これを、見せようと思ってくれたの?」
「うん。晴れて、よかった」
 感動して、泣きそうになった。
「うれしい……」
 こんなに美しいものを、わたしに見せようとして、ここまで、つれてきてくれたの……。
「きれいです。今までに、もらったプレゼントの中で、いちばんうれしい……」
 立ちどまって、ずっと空を見ていた。
 暗い空に、無数の光がある。
 きらきらと光っている。白く輝いている。
 命が、瞬いているみたいだった。
 全身に、星の光を浴びた。

「星が、ふってくるみたい」

 礼慈さんが、わたしをつかまえた。
「だめ」
 キスされちゃう、と思った。
 外で、キスしてる人なんて、いない……。
 そう思ったけど、まわりに人影がなかったことを思いだした。ふっと、体の力が抜けた。
 抱きよせられた。強い力だった。
 わたしの腕が、勝手に動いて、礼慈さんの首に絡んだ。
 つま先で立たないと、届かない。礼慈さんが腰を屈めて、下りてきてくれた。
 キスをしていた。

「どきどきする……」
「俺も」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...