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11.スイート・キング5
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そこから、ゆっくり下山していった。
「あのね。ひざが大変なことになってます」
「歩ける?」
「うん……」
「俺も、足がやばい」
「礼慈さんも?」
「うん。標高600メートルない山だけど。それなりにしんどかった」
「ですよね。もう、宿に戻るの?」
「そのつもり。つき合ってくれて、ありがとう」
「ううん……」
「祐奈?」
「山のことだと、思ったんですけど。あの、……」
「ああ。どっちの意味に取ってもらっても、いいよ」
恋愛のことだと思っても、いいみたいだった。
「手、つないでいいですか」
「どうぞ」
山の中では、つながなかった手を、礼慈さんがにぎってくれた。
午後五時になる前に、宿に戻ってこられた。
泊まる部屋にあるシャワー室で、順番にシャワーをして、服を着がえた。
海風で髪がごわごわになっていたので、洗えてよかった。
宿の手前のお弁当屋さんで買った幕の内弁当を、部屋で食べた。容器は洗って、宿のラウンジにあった、分別してあるごみ箱に入れさせてもらった。
「少し寝よう」
「えっ?」
「もっと暗くなってから、君に見せたいものがあるから」
「あ、はい」
ダブルベッドに、二人で横になった。
どきどきしたけど、なにもなかった。
礼慈さんの方が、わたしよりも先に眠ってしまった。
「起きて。祐奈」
「ふあい」
「かわいい。でも、起きて」
「つながりが、おかしい……です」
髪を梳かして、服のしわをのばした。
「なんじですか?」
「十時は過ぎてる」
「そんなに……。待っててくれたの?」
「うん。時間は、気にしなくていいよ」
玄関のところで、宿のスタッフさんと顔を合わせた。
「今からですか。暗いから、お気をつけて」
「ありがとうございます」
礼慈さんが、軽く会釈をした。わたしも、よくわからないまま、頭を下げた。
二十分くらい歩いて、坂の上に出た。
よたね広場という名前らしい。
誰かいるのかなと思って、見まわしてみた。誰もいなかった。
時間が遅いからかもしれない。
「分かった?」
「うん……」
歩いている途中から、もう、わかっていた。
だって……。島の上にある空を見ながら、ここまで歩いてきたから。
でも、この広場からは、空しか見えなかった。
首をのばして、上を見上げた。
空いっぱいに、星だけがあった。
「星空ですね」
「そうだな」
「これを、見せようと思ってくれたの?」
「うん。晴れて、よかった」
感動して、泣きそうになった。
「うれしい……」
こんなに美しいものを、わたしに見せようとして、ここまで、つれてきてくれたの……。
「きれいです。今までに、もらったプレゼントの中で、いちばんうれしい……」
立ちどまって、ずっと空を見ていた。
暗い空に、無数の光がある。
きらきらと光っている。白く輝いている。
命が、瞬いているみたいだった。
全身に、星の光を浴びた。
「星が、ふってくるみたい」
礼慈さんが、わたしをつかまえた。
「だめ」
キスされちゃう、と思った。
外で、キスしてる人なんて、いない……。
そう思ったけど、まわりに人影がなかったことを思いだした。ふっと、体の力が抜けた。
抱きよせられた。強い力だった。
わたしの腕が、勝手に動いて、礼慈さんの首に絡んだ。
つま先で立たないと、届かない。礼慈さんが腰を屈めて、下りてきてくれた。
キスをしていた。
「どきどきする……」
「俺も」
「あのね。ひざが大変なことになってます」
「歩ける?」
「うん……」
「俺も、足がやばい」
「礼慈さんも?」
「うん。標高600メートルない山だけど。それなりにしんどかった」
「ですよね。もう、宿に戻るの?」
「そのつもり。つき合ってくれて、ありがとう」
「ううん……」
「祐奈?」
「山のことだと、思ったんですけど。あの、……」
「ああ。どっちの意味に取ってもらっても、いいよ」
恋愛のことだと思っても、いいみたいだった。
「手、つないでいいですか」
「どうぞ」
山の中では、つながなかった手を、礼慈さんがにぎってくれた。
午後五時になる前に、宿に戻ってこられた。
泊まる部屋にあるシャワー室で、順番にシャワーをして、服を着がえた。
海風で髪がごわごわになっていたので、洗えてよかった。
宿の手前のお弁当屋さんで買った幕の内弁当を、部屋で食べた。容器は洗って、宿のラウンジにあった、分別してあるごみ箱に入れさせてもらった。
「少し寝よう」
「えっ?」
「もっと暗くなってから、君に見せたいものがあるから」
「あ、はい」
ダブルベッドに、二人で横になった。
どきどきしたけど、なにもなかった。
礼慈さんの方が、わたしよりも先に眠ってしまった。
「起きて。祐奈」
「ふあい」
「かわいい。でも、起きて」
「つながりが、おかしい……です」
髪を梳かして、服のしわをのばした。
「なんじですか?」
「十時は過ぎてる」
「そんなに……。待っててくれたの?」
「うん。時間は、気にしなくていいよ」
玄関のところで、宿のスタッフさんと顔を合わせた。
「今からですか。暗いから、お気をつけて」
「ありがとうございます」
礼慈さんが、軽く会釈をした。わたしも、よくわからないまま、頭を下げた。
二十分くらい歩いて、坂の上に出た。
よたね広場という名前らしい。
誰かいるのかなと思って、見まわしてみた。誰もいなかった。
時間が遅いからかもしれない。
「分かった?」
「うん……」
歩いている途中から、もう、わかっていた。
だって……。島の上にある空を見ながら、ここまで歩いてきたから。
でも、この広場からは、空しか見えなかった。
首をのばして、上を見上げた。
空いっぱいに、星だけがあった。
「星空ですね」
「そうだな」
「これを、見せようと思ってくれたの?」
「うん。晴れて、よかった」
感動して、泣きそうになった。
「うれしい……」
こんなに美しいものを、わたしに見せようとして、ここまで、つれてきてくれたの……。
「きれいです。今までに、もらったプレゼントの中で、いちばんうれしい……」
立ちどまって、ずっと空を見ていた。
暗い空に、無数の光がある。
きらきらと光っている。白く輝いている。
命が、瞬いているみたいだった。
全身に、星の光を浴びた。
「星が、ふってくるみたい」
礼慈さんが、わたしをつかまえた。
「だめ」
キスされちゃう、と思った。
外で、キスしてる人なんて、いない……。
そう思ったけど、まわりに人影がなかったことを思いだした。ふっと、体の力が抜けた。
抱きよせられた。強い力だった。
わたしの腕が、勝手に動いて、礼慈さんの首に絡んだ。
つま先で立たないと、届かない。礼慈さんが腰を屈めて、下りてきてくれた。
キスをしていた。
「どきどきする……」
「俺も」
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