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9.スイート・キング4
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四月になってすぐの、金曜日。
「旅行に行かない?」
夕ごはんが終わった後で、急に言われた。
「いいけど……。いつですか?
バイトのシフトを、確認しないと」
「ゴールデンウィークの前半に、行こうと思って。
今なら、まだ予約が取れそうだから」
「それなら大丈夫です。
ゴールデンウィークの間は、学童保育はお休みです。
五月六日は、シフトに入ってるけど」
「そうか。じゃあ、予約していい?」
「いいです」
「伊豆に行こうと思ってる」
「伊豆……」
「行ったことある?」
「ないです」
「よかった」
礼慈さんは、流しのお皿を洗ってくれてから、趣味の部屋に行った。今日は金曜日だから、ゆっくり遊ぶつもりなのかもしれない。
リビングに、ひとりで残されてしまった。
旅行……。
えーっていう、感じだった。うれしい……。
いつから、考えてくれてたんだろう。
まだ一ヶ月もあるのに。そわそわしていた。
歌穂に、LINEで……と思いかけて、やめた。
大学が始まる頃に、わたしのゴールデンウィークの過ごし方なんて、報告しても、しょうがないというか……。忙しくしているのは、歌穂からの連絡が少ないから、わかっていた。
わたしの部屋……じゃない、わたしの部屋だった部屋に行った。
机の前にある椅子に座った。
ゆさぼんとみっちゃんとのグループLINEに、『通話したい』って、送ってみた。誰か、いないかなと思って。
既読1になった。
『あたし、いるよー』
ゆさぼんだ。
『話したいの。だいじょうぶ?』
『いいよー』
LINEの中の通話で、話しはじめた。
「ごぶさた。しらいちゃん」
「元気だった? ゆさぼん」
「げんき、げんき。イラストの仕事もね、いそがしいの。おかげさまで」
「すごい。がんばってね……」
「なんか、あった?」
「うん……。あのね、礼慈さんと、ゴールデンウィークに、旅行に行くことになったの」
「いいなー。あたしも、行きたいなー。
まず、彼を見つけなきゃ、だけど」
「今、いるの? 好きな人とか」
「いないね。二次元に、彼氏候補が多すぎるんだよねー」
「そっかあ……」
「それで? どこに行くの?」
「伊豆だって」
「ますます、いいなー……。もう、しらいちゃんと旅行は、無理かなー?」
「そんなこと、ないよ。土日は、うちにいるし……。
ゆさぼんとみっちゃんと、一緒に行けたらいいなって、思ってる」
「来たよ」
みっちゃんの声が聞こえた。
「来たなー。みつよー」
ゆさぼんが、笑いながら言った。
「いや、だって。めずらしいじゃん。しらいちゃんから、『話したいの』とかさ。
オンラインゲームを速攻で終わらせて、こっちに来たよ」
「みっちゃん。元気だった?」
「元気。タロットカードのお礼、わざわざ会社にも送ってくれて、ありがとう。
社長が感激してたよ」
「ううん。こちらこそ、ありがとうー。ゆさぼんも」
「歌穂ちゃんだっけ。いい子だよね。もらってすぐに、あたしたちにもLINEしてくれるなんて」
「うん。いい子だよ。わたしの、妹みたいな感じなの」
「聞いてよー。みつよー。
しらいちゃん、例のイケメンの彼と、ゴールデンウィークに、伊豆に旅行だって」
「まじか……。うらやましい」
「また、三人で行こうよー。しらいちゃんが、独身のうちにさー」
「そうだね。行きたいね」
「二人の近況も、聞きたいな」
「あっ、じゃあ、あたし言うねー。
漫画の連載が決まりました! じゃーん」
「まじで? おめでとう」
「すごい……。なんて雑誌?」
「ごめーん。雑誌じゃない。続きはウェブで、どころか、最初からウェブだけなんだわー。
女性向けの、恋愛の体験談を漫画にするの。一回八ページで、それを、とりあえず月二回。カラーだよー」
「おめでとうー。お祝いしないとだね」
「そうだね。あたしは、とくに変わりばえのしない毎日を過ごしてるよ。
会社行って、働いて、帰ったらゲーム」
「ほんとに変わらないね。みっちゃん……」
「うん。やばいね。
さすがに、最近は、この生活を長く続けたら、ガチで、孤独死するんじゃね?っていう危機感は感じるようになった」
「そう……」
「婚活とか、興味はあるけど。こわくない?」
「わかるー」
ゆさぼんが同意した。
「祐奈は、今の彼とは、どこで出会ったんだっけ」
どきっとした。みっちゃんは、たまに、わたしを「祐奈」と呼ぶことがある。
礼慈さんと出会ったのは……。ここの、玄関先だった。
デリヘル嬢と、お客さんだった。ふつうの出会い方じゃ、なかった。
「えっと……。歌穂から、紹介してもらったの」
「歌穂ちゃん、有能すぎる……」
「やばいねー」
それから、三人で、一時間くらい話していた。たのしかった。
みんなで通話を切ってから、趣味の部屋まで歩いていった。
礼慈さんは、畳の上でごろごろしていた。
「何してたの?」
「電話してました。大学の頃の、友達と」
「女の子?」
「うん」
下から、わたしを見上げてくる。
「もう予約したよ」
「あ、ほんとですか」
「神津島で一泊。伊豆で二泊。伊豆の方は、温泉がある旅館にした。
楽しみ?」
「う、ん。うれしいです……」
なんとなく、くっつきたくなって、礼慈さんの横に寝ころがった。
手がのびてきて、だっこされた。
「なに、なんですか?」
「かわいい」
「……」
「どうしたの?」
「ううん……」
わたしからも、手をのばした。好きだなあって、思いながら。
キスをしてるうちに、体が熱くなってきた。
礼慈さんが、わたしの上に覆いかぶさってくる。
「あっ、だめ……」
「だめ?」
「したく、なっちゃう」
「いいよ。移動する?」
「うん……」
寝室で、いっぱい愛しあった。
やさしくしてもらった。
とにかく幸せで、うれしくって、言葉にするのが難しいくらいだった。
「れいじさん。すき」
「……うん」
「れいじさんは?」
「好きだよ。もちろん」
「旅行に行かない?」
夕ごはんが終わった後で、急に言われた。
「いいけど……。いつですか?
バイトのシフトを、確認しないと」
「ゴールデンウィークの前半に、行こうと思って。
今なら、まだ予約が取れそうだから」
「それなら大丈夫です。
ゴールデンウィークの間は、学童保育はお休みです。
五月六日は、シフトに入ってるけど」
「そうか。じゃあ、予約していい?」
「いいです」
「伊豆に行こうと思ってる」
「伊豆……」
「行ったことある?」
「ないです」
「よかった」
礼慈さんは、流しのお皿を洗ってくれてから、趣味の部屋に行った。今日は金曜日だから、ゆっくり遊ぶつもりなのかもしれない。
リビングに、ひとりで残されてしまった。
旅行……。
えーっていう、感じだった。うれしい……。
いつから、考えてくれてたんだろう。
まだ一ヶ月もあるのに。そわそわしていた。
歌穂に、LINEで……と思いかけて、やめた。
大学が始まる頃に、わたしのゴールデンウィークの過ごし方なんて、報告しても、しょうがないというか……。忙しくしているのは、歌穂からの連絡が少ないから、わかっていた。
わたしの部屋……じゃない、わたしの部屋だった部屋に行った。
机の前にある椅子に座った。
ゆさぼんとみっちゃんとのグループLINEに、『通話したい』って、送ってみた。誰か、いないかなと思って。
既読1になった。
『あたし、いるよー』
ゆさぼんだ。
『話したいの。だいじょうぶ?』
『いいよー』
LINEの中の通話で、話しはじめた。
「ごぶさた。しらいちゃん」
「元気だった? ゆさぼん」
「げんき、げんき。イラストの仕事もね、いそがしいの。おかげさまで」
「すごい。がんばってね……」
「なんか、あった?」
「うん……。あのね、礼慈さんと、ゴールデンウィークに、旅行に行くことになったの」
「いいなー。あたしも、行きたいなー。
まず、彼を見つけなきゃ、だけど」
「今、いるの? 好きな人とか」
「いないね。二次元に、彼氏候補が多すぎるんだよねー」
「そっかあ……」
「それで? どこに行くの?」
「伊豆だって」
「ますます、いいなー……。もう、しらいちゃんと旅行は、無理かなー?」
「そんなこと、ないよ。土日は、うちにいるし……。
ゆさぼんとみっちゃんと、一緒に行けたらいいなって、思ってる」
「来たよ」
みっちゃんの声が聞こえた。
「来たなー。みつよー」
ゆさぼんが、笑いながら言った。
「いや、だって。めずらしいじゃん。しらいちゃんから、『話したいの』とかさ。
オンラインゲームを速攻で終わらせて、こっちに来たよ」
「みっちゃん。元気だった?」
「元気。タロットカードのお礼、わざわざ会社にも送ってくれて、ありがとう。
社長が感激してたよ」
「ううん。こちらこそ、ありがとうー。ゆさぼんも」
「歌穂ちゃんだっけ。いい子だよね。もらってすぐに、あたしたちにもLINEしてくれるなんて」
「うん。いい子だよ。わたしの、妹みたいな感じなの」
「聞いてよー。みつよー。
しらいちゃん、例のイケメンの彼と、ゴールデンウィークに、伊豆に旅行だって」
「まじか……。うらやましい」
「また、三人で行こうよー。しらいちゃんが、独身のうちにさー」
「そうだね。行きたいね」
「二人の近況も、聞きたいな」
「あっ、じゃあ、あたし言うねー。
漫画の連載が決まりました! じゃーん」
「まじで? おめでとう」
「すごい……。なんて雑誌?」
「ごめーん。雑誌じゃない。続きはウェブで、どころか、最初からウェブだけなんだわー。
女性向けの、恋愛の体験談を漫画にするの。一回八ページで、それを、とりあえず月二回。カラーだよー」
「おめでとうー。お祝いしないとだね」
「そうだね。あたしは、とくに変わりばえのしない毎日を過ごしてるよ。
会社行って、働いて、帰ったらゲーム」
「ほんとに変わらないね。みっちゃん……」
「うん。やばいね。
さすがに、最近は、この生活を長く続けたら、ガチで、孤独死するんじゃね?っていう危機感は感じるようになった」
「そう……」
「婚活とか、興味はあるけど。こわくない?」
「わかるー」
ゆさぼんが同意した。
「祐奈は、今の彼とは、どこで出会ったんだっけ」
どきっとした。みっちゃんは、たまに、わたしを「祐奈」と呼ぶことがある。
礼慈さんと出会ったのは……。ここの、玄関先だった。
デリヘル嬢と、お客さんだった。ふつうの出会い方じゃ、なかった。
「えっと……。歌穂から、紹介してもらったの」
「歌穂ちゃん、有能すぎる……」
「やばいねー」
それから、三人で、一時間くらい話していた。たのしかった。
みんなで通話を切ってから、趣味の部屋まで歩いていった。
礼慈さんは、畳の上でごろごろしていた。
「何してたの?」
「電話してました。大学の頃の、友達と」
「女の子?」
「うん」
下から、わたしを見上げてくる。
「もう予約したよ」
「あ、ほんとですか」
「神津島で一泊。伊豆で二泊。伊豆の方は、温泉がある旅館にした。
楽しみ?」
「う、ん。うれしいです……」
なんとなく、くっつきたくなって、礼慈さんの横に寝ころがった。
手がのびてきて、だっこされた。
「なに、なんですか?」
「かわいい」
「……」
「どうしたの?」
「ううん……」
わたしからも、手をのばした。好きだなあって、思いながら。
キスをしてるうちに、体が熱くなってきた。
礼慈さんが、わたしの上に覆いかぶさってくる。
「あっ、だめ……」
「だめ?」
「したく、なっちゃう」
「いいよ。移動する?」
「うん……」
寝室で、いっぱい愛しあった。
やさしくしてもらった。
とにかく幸せで、うれしくって、言葉にするのが難しいくらいだった。
「れいじさん。すき」
「……うん」
「れいじさんは?」
「好きだよ。もちろん」
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