バージン・クイーン -強面のイケメンのところに、性欲解消目的で呼ばれるデリヘル嬢の話-

福守りん

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10.アズ・ポーン1

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「大学は、どう?」
「楽しいですよ。でも、忙しい……」
「そうなんだ?」
「はい。毎日、その場その場で、やることが多すぎて、パンクしそうですよ。
 大学生って、こんなに忙しいんですか? だまされた気分ですよ。
 あたしの要領が、悪いだけかもしれないけど」
「どうかな。僕に手伝えることがあれば、言ってね」
「ありがとうございます」
 ふっと、ここで、沢野さんとチェスの話をした日のことを思いだした。
 あの日。沢野さんは、あたしのことを、ルークだと言ってくれた。
「前に、チェスの話をしたじゃないですか。
 沢野さんは、あたしのことをルークだって、言ってくれましたけど……。
 あたし、わかりました。あたしは、ポーンですよ。将棋の歩です。
 一歩ずつしか、前に進めないんです」
 沢野さんの手が動いて、お茶が入ったコップをテーブルに置いた。
「歩は歩なりに、か」
「なんですか。それ」
「いや。僕が、将棋の方で頑張ってた時に、僕の師匠が言ってた言葉。
 飛車角はかっこいいし、強いけど。歩には歩の強さがあるって。たぶん、そういう意味」
「ふうん……」
「ねえ、歌穂ちゃん。歩は……ポーンは、成るからね」
「なる?」
「プロモーションって、いってね。
 相手の陣地の最奥まで行ったポーンは、キング以外の、どの駒にもなれる」
「そうなんですか」
「そうだよ。しかも、成らずに、ポーンのままでいることはできない。どれかを、必ず選ばなきゃいけない」
 そうなんだ、と思った。まるで、今のあたしみたいだな……。
「あたしは……。あたしは、その、全部に、なりたいです。それこそ、キングにだって。
 きっと、どれかひとつじゃ、満足できない……」
「うん。それも、いいんじゃないかな。人生は、チェスじゃないからね」


 自分の部屋に帰ってから、一人でした。ひさしぶりだった。
 あたしは、したかったのかなって、自分に聞いてみた。わからなかった。
 ただ、体が熱くて……。
 あのまま、外に出かけたりしないで、沢野さんの部屋にいたら、どうなっていたんだろうか。
 あたし、どんどん、沢野さんにはまっていってる。もう、戻れない……。
 専業主婦にはなれない、みたいなことを言っておきながら、あたしがやってることといったら、土日のどちらかは、必ず沢野さんの部屋に行って、せっせと料理を作ってるだけ……。
 だって、おいしいものを食べてもらいたいし。あたしの料理が、おいしいかどうかは別として。カップラーメンよりは、ましだろうと思ってるから……。
 沢野さんは、どう思ってるんだろうか。
 好かれようとして、必死なんだなーとか思われてたら、立ち直れない。そんなこと、思ってないだろうけど……。わからない。
 人の気持ちなんて、わからない。あたしには。
 なにもかも欠けてるような気持ちを抱えながら、それでも生きてる。そういう人間だから。
 母親から愛されていたら、違ったんだろうか?
 でも、祐奈からは愛されてた。今も、愛してくれてる。
 祐奈に会いたくなった。祐奈が西東さんのところに行く前だったら、きっと、すぐに電話かLINEをしてたと思う。今は、できなかった。
 ああ、でも……。
 祐奈の声が聞きたい。

 スマホを探した。フローリングの床に転がっていた。
 画面にふれて、電話をかけようとして、やめた。
 これは、あたしと沢野さんの問題だ。祐奈は関係ない。
 祝日だから、西東さんもいるだろうし……。

「まいったなー……」
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