上 下
118 / 206
11.スイート・キング5

5-1

しおりを挟む
 ゴールデンウィークの間は、学童保育はお休みだった。
 礼慈さんが、五月二日の平日をお休みにしてくれて、伊豆まで旅行に行った。たっぷり遊んで帰ってきた。
 まるで、新婚旅行みたいだった。結婚もしてないのに。

 六日から、学童保育が始まった。
 学校が終わった小学生たちが、保育室に集まってくる。
「ゆうなちゃーん」
「はあい」
「げんきだったー?」
「うん。元気だったよ。美紀ちゃんは?」
「げんきー」
 わたしに甘えて、じゃれついてくる。かわいかった。
「お休みの間に、どこかに行った?」
「いった。どうぶつえんー」
「そうなんだ。楽しかった?」
「たのしかったー。パンダ、いたー」

 いつも、学校の宿題を先にしてもらっている。
「宿題、出してねー」
 声をかけると、いろんなところから、「はーい」と声が上がる。
 教えあいながら、みんなで宿題をした。


 午後五時になった。
 利用時間はまだあるけど、わたしのシフトは、ここまで。
 指導員の伊藤さんと、子供たちにあいさつをしてから、事務室に向かった。

「おつかれさまです」
「おつかれー」
 室長の碓田うすださんが、暗くなっていた。
 三十代の女の人。いつも明るくて、はつらつとしている。
 今日は、ぜんぜん明るくなかった。どんよりしている。
「碓田さん。どうしたんですか?」
「それがさあ……。横川さん、辞めちゃうんだって」
「えっ。どうしてですか?」
「ご結婚されるんだって。おめでたいことだけど、週五で入ってた人が抜けると、きついよー。六月いっぱいまで、だって」
「そうなんですね……。わあ、でも、おめでたいことですね」
「それは、わかってるけどさー。
 白井さんは、シフトを増やしたりできる?」
「……ごめんなさい。週三で、じゅうぶんです」
「だよね。彼とは、もうすぐ結婚する感じかな?」
「いえいえ。そんな予定は、まったく」
「あ、そうなんだ。うーん……。やっぱり、募集かけないと、だめだよね」
「ずっとじゃなければ、出ますよ。なるべく……」
「いいの?」
「はい」
「でも、それじゃ、白井さんの負担が大きくなっちゃうから。今月末から、募集しようと思う。
 知り合いにいい人がいたら、声をかけてもらってもいい?」
「はい」
「ありがと。ハローワークにも、出さなきゃだなー」


 部屋に帰ってから、急いで、夕ごはんの準備をはじめた。

 礼慈さんは、定時で帰ってきた。
「ごめんね。まだ、夕ごはんできてないの」
「いいよ。ゆっくりで。手伝おうか?」
「ううん。もうちょっとで、できるから……」

 夕ごはんを食べた。チャーハンと、作りおきの餃子。
 中華スープもつけた。
 お皿を洗ってくれた礼時さんが、「趣味の部屋」とだけ言って、いなくなった。
 わたしは、お風呂の掃除をした。
 終わってから、パズルの箱をひとつ持って、趣味の部屋に行った。

 恐竜のタワーができてる。
 趣味の部屋に入って、まず目に入ったのが、それだった。
 大きい子が下で、小さい子が上。組み体操の、ピラミッドみたいになっていた。
「これ、なーに?」
「積んでみた」
 こたつの奥側に座ってる礼慈さんは、にこにこしていた。うまく積めて、うれしいのかもしれない。
「ひまなんですね」
「かもな。祐奈は、何をするの」
「パズルです」
「だと思った」
 こたつの上に、わたしが大好きな、犬のキャラクターのパズルを置いた。

 黙々と組んだ。礼慈さんが、わたしを見てるのがわかった。
 タワーは、まだ崩れていなかった。
「祐奈」
「はい」
 手を止めて、礼慈さんを見た。
「初恋の話とか、聞いても大丈夫?」
「はっ、はつこい?」
「うん」
「……え-。施設にいた、子。かっこよかった」
「名前は?」
「えっ? 名前……。隼人はやとくん。
 名字は、なんだっけ……。石田、だったかな」
「ずっと一緒にいたの?」
「ううん。二年……三年? わかんない。
 小学二年生で、入所してきたのは、覚えてる。いなくなっちゃったの。
 隼人くんには、面談で、いいご縁があったんです。
 だから、養子として、もらわれていって……」
「それで、お別れ?」
「はい。さびしかったです。
 少し、うらやましかったかも。わたしは、どこの家にも、もらってもらえなかったから。
 旅行の時にも、話しましたよね。この話」
「うん。俺だったら、引き取るけどな。こんな、かわいい子がいたら」
「……そういうの、だめですよ。なんか、ちがう意味に感じました」
「ばれたか」
 あれっと思った。わたしには聞いておいて、自分のことは話してくれないの?
 そういうのって、礼慈さんらしくない……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...