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10.アズ・ポーン1
2-1
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四月の最後の金曜日は、祝日だった。ゴールデンウィークが始まる日。
沢野さんの部屋の台所で、いつものように、作りおきの料理を作っていた。
台所があるリビングには、あたし一人しかいない。沢野さんは、書斎にいる。
ピーマンの肉詰めの、肉のたねを詰めているところだった。
それと、今日の昼ごはんにと思って、カレーの具を煮こんでる。
換気扇はつけてるけど、台所の中は、熱気でむわっとしていた。
いきなりスマホから音が聞こえて、びくっとした。
電話だ。誰だろう。
あわてて、流しで手を洗う。タオルで拭いてから、スマホの画面にふれた。
「友也」
「歌穂さん。今、電話して大丈夫?」
「うん。大丈夫」
あたしは、友也くんのことを、友也と呼ぶようになっていた。
なんでかっていうと、出会った日から、しょっちゅうLINEをしたり、会って話をしたりしてるうちに、すっかり、あたしの弟みたいに思うようになってしまったから。
「前に会った、真琴さん。覚えてる?」
「えっと。猫の雑貨を作ってる人……だよね」
「そう。ちょうど一緒に遊んでて。歌穂さんも、どうかと思って」
「えっ。今……?」
「忙しいかな」
「ごめんね。今は、行けない。
行きたかったけど……」
「そっか。真琴さんが、歌穂さんにって、猫の指輪をくれたよ。
作ってきてくれたんだって」
「ええぇ? ほんとに? どうしよう……。お礼、言っておいて」
「うん。これは、僕が預かっておくから」
「うれしい。すごく」
「みたいだね。じゃあ、また」
「ごめんね。ありがとう」
「気にしないで。切るよ」
向こうから切られた。気を使ってくれたのかもしれない。
ふと後ろを見て、はっとした。
沢野さんが、リビングにいた。ソファーに座って、あたしを見ていた。
いつから? 気づかなかった……。
「お友達?」
「はい。大学の……」
空気が冷たい。そんなふうに感じた。
スマホを作業台に置いて、ガスの火を止めた。
沢野さんに近づいていった。
傷ついたような顔をしていたら、どうしようと思っていたけど、そんなことはなかった。
「おいで」
手をのばしてくれた。
沢野さんの横に座った。腕が、背中から回されてきて……。
唇に、キスをされた。どきどきした。
「あの、……どうして?」
「したかったから」
真剣な顔をしていた。
それから、またキスをされた。
「ん、んっ……」
顔が離れた。あたしを、じっと見つめている。
沢野さんの手が、あたしの膝にふれてきた。えっ?と思った。
なでられた。いやらしい感じじゃなかった。大事なものに、そっとふれるみたいな、そんなさわり方だった。
その手が、太ももの間に入ってきて、ぞくっとした。ジーンズの上からだったのに、感じてしまって、「あっ」と声が出てしまった。はずかしかった。
「……さ、さわのさん」
「なに?」
「こわい、です」
「ごめんね。やりすぎた」
「もう、するの?」
「しない」
「し、したいんだったら。あたし……」
「大丈夫。そういうことじゃないよ」
「ほんとに?」
「うん」
「でも……」
「ごめんね。料理の途中だったよね」
「あ、はい」
「戻っていいよ」
台所に戻って、予定どおりに、四つのおかずを完成させた。
沢野さんが、ずっとあたしを見ているのは、わかっていた。落ちつかない気分だった。
沢野さんがしたいんだったら、してもいい。我慢してくれてるのは、感じていた。
「できました。三十分くらいしたら、冷蔵庫に入れます」
「うん。ありがとう」
「いえ……」
ハグしたいな。とうとつに思った。でも、あたしの体は動かなかった。
あたしから誘って、断られたくなかった。
「お昼は、カレーです」
「うん」
「食べたら、出かけませんか」
「いいよ。行きたいところ、ある?」
「とくには……。帰りは、うちまで送ってくれたら、うれしいです」
「わかった。いいよ」
ナスのカレーを食べた。沢野さんは、辛いのはあんまり好きじゃないから、甘口にしておいた。
沢野さんの部屋の台所で、いつものように、作りおきの料理を作っていた。
台所があるリビングには、あたし一人しかいない。沢野さんは、書斎にいる。
ピーマンの肉詰めの、肉のたねを詰めているところだった。
それと、今日の昼ごはんにと思って、カレーの具を煮こんでる。
換気扇はつけてるけど、台所の中は、熱気でむわっとしていた。
いきなりスマホから音が聞こえて、びくっとした。
電話だ。誰だろう。
あわてて、流しで手を洗う。タオルで拭いてから、スマホの画面にふれた。
「友也」
「歌穂さん。今、電話して大丈夫?」
「うん。大丈夫」
あたしは、友也くんのことを、友也と呼ぶようになっていた。
なんでかっていうと、出会った日から、しょっちゅうLINEをしたり、会って話をしたりしてるうちに、すっかり、あたしの弟みたいに思うようになってしまったから。
「前に会った、真琴さん。覚えてる?」
「えっと。猫の雑貨を作ってる人……だよね」
「そう。ちょうど一緒に遊んでて。歌穂さんも、どうかと思って」
「えっ。今……?」
「忙しいかな」
「ごめんね。今は、行けない。
行きたかったけど……」
「そっか。真琴さんが、歌穂さんにって、猫の指輪をくれたよ。
作ってきてくれたんだって」
「ええぇ? ほんとに? どうしよう……。お礼、言っておいて」
「うん。これは、僕が預かっておくから」
「うれしい。すごく」
「みたいだね。じゃあ、また」
「ごめんね。ありがとう」
「気にしないで。切るよ」
向こうから切られた。気を使ってくれたのかもしれない。
ふと後ろを見て、はっとした。
沢野さんが、リビングにいた。ソファーに座って、あたしを見ていた。
いつから? 気づかなかった……。
「お友達?」
「はい。大学の……」
空気が冷たい。そんなふうに感じた。
スマホを作業台に置いて、ガスの火を止めた。
沢野さんに近づいていった。
傷ついたような顔をしていたら、どうしようと思っていたけど、そんなことはなかった。
「おいで」
手をのばしてくれた。
沢野さんの横に座った。腕が、背中から回されてきて……。
唇に、キスをされた。どきどきした。
「あの、……どうして?」
「したかったから」
真剣な顔をしていた。
それから、またキスをされた。
「ん、んっ……」
顔が離れた。あたしを、じっと見つめている。
沢野さんの手が、あたしの膝にふれてきた。えっ?と思った。
なでられた。いやらしい感じじゃなかった。大事なものに、そっとふれるみたいな、そんなさわり方だった。
その手が、太ももの間に入ってきて、ぞくっとした。ジーンズの上からだったのに、感じてしまって、「あっ」と声が出てしまった。はずかしかった。
「……さ、さわのさん」
「なに?」
「こわい、です」
「ごめんね。やりすぎた」
「もう、するの?」
「しない」
「し、したいんだったら。あたし……」
「大丈夫。そういうことじゃないよ」
「ほんとに?」
「うん」
「でも……」
「ごめんね。料理の途中だったよね」
「あ、はい」
「戻っていいよ」
台所に戻って、予定どおりに、四つのおかずを完成させた。
沢野さんが、ずっとあたしを見ているのは、わかっていた。落ちつかない気分だった。
沢野さんがしたいんだったら、してもいい。我慢してくれてるのは、感じていた。
「できました。三十分くらいしたら、冷蔵庫に入れます」
「うん。ありがとう」
「いえ……」
ハグしたいな。とうとつに思った。でも、あたしの体は動かなかった。
あたしから誘って、断られたくなかった。
「お昼は、カレーです」
「うん」
「食べたら、出かけませんか」
「いいよ。行きたいところ、ある?」
「とくには……。帰りは、うちまで送ってくれたら、うれしいです」
「わかった。いいよ」
ナスのカレーを食べた。沢野さんは、辛いのはあんまり好きじゃないから、甘口にしておいた。
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