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10.アズ・ポーン1

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 大アルカナを机に並べた。
 椅子に座ってもらって、あたしも横に座った。
「これは、占いっていうよりは、あたしにとって、カードを引いた人が、どんな人かっていうのを知るためのものだったりします」
「第一印象ってこと?」
「ですね。あたしは『ファースト・インプレッション』って、呼んでます。
 一枚だけ、引いてもらっていいですか」
「これ」
 引いたカードを、あたしに渡してくる。
愚者フールですね」
「フール?」
「日本語だと、愚者。道化とも呼ばれてます。
 あたしは、好きなカードですよ。
 自由だし、気ままな感じ……。トリックスターって、わかりますか?」
「うん。わかる。狂言回し、かな」
「そんな感じです。
 大アルカナの0番のカードです。特別なカードだって、言う人もいます」
「そうなんだ」

 男の子が近づいてきた。北斗さんの友達っぽかった。
「ユウヤー。この後、どうする?」
「帰るよ」
「飲みに行かねーの?」
「うん。ちょっと、父さんの病状が悪くて。しばらく、お酒は控えるつもり」
「まじかー。お大事に」
「うん。ごめんね」
 ユウヤ? 友也ともなりじゃないの?

「お父さん、大変ですね。お大事に……」
「ありがとう。去年の冬から、急に悪くなって……。
 これ、言わないでね。末期の胃癌なんだ。だから、もう、長くはないと思う」
「そうなんですか……」
「うん。覚悟は、してるつもり。
 在宅でケアしてるんだ。大したことはできないけど、なるべく、そばにいるようにはしてる。
 今日は、たまには、サークルにも顔を出したいなと思って。思いきって、来てみたんだ」
「そうだったんですね。
 あたし、……あの、あたしになんて、誰も興味ないと思うけど。
 あたし、彼がいます。このサークルに来たのは、出会い目的とかじゃ、ないです」
「心配しないで。ここは、そういうところじゃないから。
 もちろん、恋愛するのは自由だけど。サークル内では、飲み会は禁止なんだ」
「そうなんですね。北斗さんの連絡先、もらってもいいですか?」
「いいよ」

 LINEを交換した。
 スマホに表示されたユーザー名は、「ユウヤ」だった。えぇっ?と思った。
「南さんは一年?」
「そうです」
「僕は二年。失礼だけど、年は上だよね」
「フリーターしてたんで。二十一」
「僕より、二つも上なんだ。だったら、敬語はいらないよ。
 名前も、下の名前で。ぜんぜん」
「いいの?」
「うん」
「あの。ユウヤって、呼ばれてたけど。友也ともなりだよね?」
「あー。あだ名なんだよね。
 友也ともなりって、読みづらいみたいで。友也ゆうやって、何度も読み間違われてるうちに、ユウヤが、正式なあだ名に」
「そうなんだ。面白いね」
「ややこしいけどね。僕はユウヤなんだなって、思いかける時もある」
「ふうん……」
 面白い子だなと思った。それに、話がしやすい。
 品があるし、礼儀正しい。
 かわいい感じだった。祐奈が、もし男だったら、こんな感じだったんじゃないかなって、思うくらいに……。
 友達になれそうだなと思った。
 見学だけのつもりだったけど、このサークルに入ろうと決めた。
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