上 下
103 / 206
10.アズ・ポーン1

1-1

しおりを挟む
 大学に入学してから、二週間ちょっとが経った。
 高校の時とは、まるで勝手が違って、とまどうことばかりだった。
 講義には、いちおう、ついていけてると思う。
 学生たちは、まじめな子が多い印象だった。あんまり、ちゃらついてる子はいない。
 あたしが、かなり年上に見えてるみたいで、同じ学年の女の子たちが敬語を使ってくる。ちょっと、へこんだ。
 まだ、友達はいない。でも、作りたいと思っていた。
 あたしは、祐奈以外の人と、もっと、ふれあわないといけない。
 祐奈が遊佐さんや三ツ矢さんと、沢野さんが西東さんと出会ったように、あたしも、大学で友達になってくれる人と出会いたい。そんなふうに考えていた。

 大学内の掲示板を見ていた。
 サークルや部活の案内が、いくつか貼ってあった。
「これ、今日だな」
 文化系の交流サークルのイベントの日付が、今日だった。
 スマホで、手書きのものをコピーしたようなチラシを撮った。
「行ってみるか」
 つぶやいて、スマホをジャンパーのポケットにしまった。

 電車で、会場になってる大学に向かった。
 あたし、大学生になったんだなって、ふっと思った。
 沢野さんのおかげだ。
 あたしが入った大学の偏差値は、いいとは言えないけど。ざっくり言うと、まん中より少し上、くらい。

 階段教室のひとつが、サークルのために開放されてるみたいだった。
 教壇の前のスペースに、椅子だけが並べられてる。
 人数は、十五人くらい? ざわついていた。

「はじめまして、かな?」
「あっ、はい」
 女の子が話しかけてきた。あたしと同い年くらいに見えた。
「じゃあ、見学ってことにしとくね。ここに、大学名と名前を書いて。
 わたしは、代表の坂田です」
「よろしくお願いします。南です」
「南さんね。書けたら、あとは、自由にしゃべってていいからね。
 お菓子とジュースもどうぞ」
「ありがとうございます」

 男の子と女の子の数は、半々くらい。
 好きな本を見せあったり、話をしたり……。なごやかな空気だった。
 あたしは、まわりの様子を見ていた。誰かに話しかける勇気は、まだなかった。

「こんにちは」
「こんにちは……」
「はじめまして、かな」
 あたしよりも年下に見える男の子だった。
 女の子っぽい。ひと目見て、そう思った。
 まっすぐな黒い髪が、耳の下まで伸びている。はっとするような、整った顔をしていた。
 体の線が細くて、きゃしゃな感じだった。身長は、あたしよりも高い。
「これ、どうぞ」
 名刺を渡された。自分で作ったみたいな……。
 「北斗友也」と書いてあった。
「ありがとうございます」
北斗ほくと友也ともなりです。よろしく」
「南歌穂です。よろしくお願いします」
「あまり、話してないみたいだから。こういう場所は、苦手なのかな」
「……あー、そうですね。
 あたし、ひとみしりするんですよ。それだけです」
「サークル、入る? 僕の先輩が代表だから。もしよければ、話しておくけど」
「居心地は、悪くないです。また、来ると思います」
「じゃあ、仮入会にしておこう。違うなと思ったら、いつでも言っていいから」
 にこっと笑った。ふと、祐奈に似てるなと思った。
「南さんは、どういうものが好き?」
「タロットカード。占いです」
「そっか。僕は、純文学。最近のよりも、昭和の頃のものが好きで」
「へえ……」
「僕のこと、占ってもらえる?」
「いいですよ。あんまり、うまくないけど……」
しおりを挟む

処理中です...