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9.スイート・キング4
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すごく、やさしく抱いてくれた。だから、安心して、礼慈さんを受けいれることができた。
何度も、いってしまった……。
「よかった?」
「うん。きもちよかった、です」
幸せな気分だった。
「さっきの、ごめん。もう、二度としないから」
「ううん……。ちょっと、びっくりした……だけなの。
うしろからしたこと、なかったから」
「そうだったな。ごめん。それも、こわかった?」
「う、ん」
「ごめんなさい」
「もう、いいの。もっと、慣れてきたら、きっと……」
笑いかけた。その、つもりだった。
礼慈さんの顔が、泣きだしそうに見えて、驚いてしまった。
「どうしたの……?」
ぎゅっと、抱きしめられた。
裸の肌がふれあう。ほっと息をついた。
「あったかい……」
「俺から、離れないで」
「……えっ?」
「時々、ニュースで、ひどいやつが流れるだろ。女性が、何人もの男に暴行された、とか……。ああいうのを目にする度に、気が狂いそうになる」
「どういうこと……?」
「被害者の人が、君だったら……と考える。もしそうだったとしたら、俺は、正気ではいられないかもしれない。加害者たちを、殺してしまうかもしれない」
「そっ、そんなこと、いわないで……」
「君が『社長』と呼んでいた男のことが、頭から離れない。
勤め先を調べようとしたことがある。君が、寝室で寝てる時に……。
去年の、クリスマスイブの日。君はバイトで疲れてた。夕食の後で、シャワーだけしたら、すぐに寝てしまっただろう」
「あ、……はい」
「いい機会だと思って、明け方まで、君の部屋で日記を読んでた。
会社名が、どこかに書いていないかと思って」
「ああ……。だから、クリスマスの日に、二度寝したんですね。
知りたいなら、聞いてくれればよかったのに。ちゃんと、答えました。
たぶん、書いてないと思います。あるとしたら、入社した時……くらい」
「書いてあったよ。採用通知をもらった日の、日記に。嬉しそうだった。
ネットで検索しようとして、やめた。相手の顔を見てしまったら、俺は、なにか、とんでもないことをしそうな気がした」
「やめて、正解ですね……。それは。
もう、調べちゃ、だめですよ」
「してない。今後も、するつもりはない」
「礼慈さん。あなたが、もし、逮捕されたら。わたしは、また、ひとりになってしまう」
「……うん」
「だから、やめてください。そんな、ばかなことを考えたり、するのは」
「分かってる。反省してる」
「あと……あと、わたしのことを、よく、『君』って、呼ぶじゃないですか」
「うん」
「もちろん、いやじゃないし、どきどきするけど……。できれば、もっと、名前で、呼んでください」
「……」
「いやですか?」
「嫌じゃない。なるべく、冷静でいたいだけだよ」
「……はい?」
「名前で呼ぶと、客観的な自分がいなくなる気がする。君を……祐奈を、テーブルに押しつけてた時の俺は、たぶん、冷静じゃなかった」
「わたしを名前で呼ぶと、冷静じゃなくなる……の?」
「うん」
「なんですか。なんなんですか。そんな、へんなスイッチが、あるんですか」
「ある……みたいだな。ごめん」
思い返してみて、あっと思った。
わたし自身が、頼んだことだった。「名前で、よんで……」って。
「ごめんなさい!」
「謝らないで」
「わたしが、入れちゃったんですね」
「違う。そうじゃない」
「そうですよ」
「君は、何も悪くない。この話は、これで終わり」
「勝手です……」
「後悔してた」
「えっ?」
「午前中に、君を一人で行かせたこと。
仕事は、夜にだって、できるし……。
出かけてる間に、君に何かあったら、どうしたらいいんだろうって、思ってた」
「なにも、ないです。無事に、帰ってきました」
「うん。分かってる」
「礼慈さんって……」
ため息が出た。
「すごく、愛情が深いんですね。こわいくらい……」
「ごめんなさい」
「あやまっちゃ、だめです」
わたしから、キスをした。
不安そうな顔に、笑顔が戻るまで、何回もしてあげた。
かわいい……。かわいい人。
わたしの、礼慈さん。
何度も、いってしまった……。
「よかった?」
「うん。きもちよかった、です」
幸せな気分だった。
「さっきの、ごめん。もう、二度としないから」
「ううん……。ちょっと、びっくりした……だけなの。
うしろからしたこと、なかったから」
「そうだったな。ごめん。それも、こわかった?」
「う、ん」
「ごめんなさい」
「もう、いいの。もっと、慣れてきたら、きっと……」
笑いかけた。その、つもりだった。
礼慈さんの顔が、泣きだしそうに見えて、驚いてしまった。
「どうしたの……?」
ぎゅっと、抱きしめられた。
裸の肌がふれあう。ほっと息をついた。
「あったかい……」
「俺から、離れないで」
「……えっ?」
「時々、ニュースで、ひどいやつが流れるだろ。女性が、何人もの男に暴行された、とか……。ああいうのを目にする度に、気が狂いそうになる」
「どういうこと……?」
「被害者の人が、君だったら……と考える。もしそうだったとしたら、俺は、正気ではいられないかもしれない。加害者たちを、殺してしまうかもしれない」
「そっ、そんなこと、いわないで……」
「君が『社長』と呼んでいた男のことが、頭から離れない。
勤め先を調べようとしたことがある。君が、寝室で寝てる時に……。
去年の、クリスマスイブの日。君はバイトで疲れてた。夕食の後で、シャワーだけしたら、すぐに寝てしまっただろう」
「あ、……はい」
「いい機会だと思って、明け方まで、君の部屋で日記を読んでた。
会社名が、どこかに書いていないかと思って」
「ああ……。だから、クリスマスの日に、二度寝したんですね。
知りたいなら、聞いてくれればよかったのに。ちゃんと、答えました。
たぶん、書いてないと思います。あるとしたら、入社した時……くらい」
「書いてあったよ。採用通知をもらった日の、日記に。嬉しそうだった。
ネットで検索しようとして、やめた。相手の顔を見てしまったら、俺は、なにか、とんでもないことをしそうな気がした」
「やめて、正解ですね……。それは。
もう、調べちゃ、だめですよ」
「してない。今後も、するつもりはない」
「礼慈さん。あなたが、もし、逮捕されたら。わたしは、また、ひとりになってしまう」
「……うん」
「だから、やめてください。そんな、ばかなことを考えたり、するのは」
「分かってる。反省してる」
「あと……あと、わたしのことを、よく、『君』って、呼ぶじゃないですか」
「うん」
「もちろん、いやじゃないし、どきどきするけど……。できれば、もっと、名前で、呼んでください」
「……」
「いやですか?」
「嫌じゃない。なるべく、冷静でいたいだけだよ」
「……はい?」
「名前で呼ぶと、客観的な自分がいなくなる気がする。君を……祐奈を、テーブルに押しつけてた時の俺は、たぶん、冷静じゃなかった」
「わたしを名前で呼ぶと、冷静じゃなくなる……の?」
「うん」
「なんですか。なんなんですか。そんな、へんなスイッチが、あるんですか」
「ある……みたいだな。ごめん」
思い返してみて、あっと思った。
わたし自身が、頼んだことだった。「名前で、よんで……」って。
「ごめんなさい!」
「謝らないで」
「わたしが、入れちゃったんですね」
「違う。そうじゃない」
「そうですよ」
「君は、何も悪くない。この話は、これで終わり」
「勝手です……」
「後悔してた」
「えっ?」
「午前中に、君を一人で行かせたこと。
仕事は、夜にだって、できるし……。
出かけてる間に、君に何かあったら、どうしたらいいんだろうって、思ってた」
「なにも、ないです。無事に、帰ってきました」
「うん。分かってる」
「礼慈さんって……」
ため息が出た。
「すごく、愛情が深いんですね。こわいくらい……」
「ごめんなさい」
「あやまっちゃ、だめです」
わたしから、キスをした。
不安そうな顔に、笑顔が戻るまで、何回もしてあげた。
かわいい……。かわいい人。
わたしの、礼慈さん。
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