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8.トリッキー・ナイト3
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先週は、金曜日から三連休だった。
金曜日の夕方に、沢野さんの部屋に行った。そのまま泊まって、土曜日の夕方には、こっちに帰ってきていた。
日曜日は、会わなかった。
今週の金曜日……つまり、今日。
二月十八日に、大学受験の結果が出そろった。
三つ受けて、二つ受かった。
落ちたところは、記念受験みたいなものだったから、まあ、しょうがないかという感じもしていた。
祐奈にLINEを送った。ものすごいテンションのお祝いの言葉と、喜んでる猫とか、踊ってる猫とかのスタンプを、たくさんもらった。
沢野さんには、仕事が終わって、もう帰っていそうな時間に電話をした。
ゆっくり、話がしたかったから。
「歌穂ちゃん。こんばんは」
「こんばんは。あの、受かっちゃいました。三つのうち、二つ」
「……まじで?! おめでとー!
入学金の支払い、いつまで?」
「そのことなんですけど。やっぱり、自分で……」
「いやいやいや。それは、だめだ」
「え、なんでですか」
「僕が勧めたことだから。僕に払わせてよ」
「はあ……」
「歌穂ちゃんの部屋に、行ってもいい?」
「いいですよ。いつ?」
「今日。今から」
「……えっ」
「まずい?」
「え、だって。部屋、片づけなきゃ……」
「いいよ。なんなら、僕が手伝ってあげたい」
「やですよ! やばい、どうしよう」
「行ってもいい?」
「いいですけど……。汚いですよ」
「大丈夫」
「あの、沢野さん」
「うん?」
「泊まっていいですよ。着がえとか、持ってきてください」
「……いいの?」
「うん。いいです」
「わかった。待ってて。車で行くから」
一時間もしないうちに、うちに来てくれた。
「こんばんは」
「お邪魔します」
「どこに停めたんですか?」
「近くの駐車場」
いつもの、きつねみたいな色のコートを着ていた。下は、こげ茶色のスラックスだった。
茶色の革靴を脱いで、向きを逆にしてから、上がってくる。
柔らかそうな革のリュックを、あたしの部屋の畳の上に下ろした。
「おしゃれなリュックですね」
「そう? 欲しい?」
「え。いらないです」
「そっか。お揃いとか、興味ない?」
「ないわけじゃないですけど。こんな高そうなリュックは、いらないです」
「うん。わかった」
言いながら、コートを脱いでいる。暖色系の、こまかいボーダーになってるセーターを着ていた。祐奈が言っていたとおり、いちいち、おしゃれだなと思った。それに、高そうだった。
お茶を出そうと思ってたけど、沢野さんの手がのびてきて、つかまってしまった。抱きよせられても、抵抗しなかった。
目が合った。キスを、ほっぺたにされた。
顔を近づけて、あたしから、唇にキスをした。コーヒーの匂いがした。
ふれるだけのキスで、全身が熱くなるのがわかった。やばいな……と思った。
深くなる前に、顔を離した。
「渡したいものがあります」
「うん」
金曜日の夕方に、沢野さんの部屋に行った。そのまま泊まって、土曜日の夕方には、こっちに帰ってきていた。
日曜日は、会わなかった。
今週の金曜日……つまり、今日。
二月十八日に、大学受験の結果が出そろった。
三つ受けて、二つ受かった。
落ちたところは、記念受験みたいなものだったから、まあ、しょうがないかという感じもしていた。
祐奈にLINEを送った。ものすごいテンションのお祝いの言葉と、喜んでる猫とか、踊ってる猫とかのスタンプを、たくさんもらった。
沢野さんには、仕事が終わって、もう帰っていそうな時間に電話をした。
ゆっくり、話がしたかったから。
「歌穂ちゃん。こんばんは」
「こんばんは。あの、受かっちゃいました。三つのうち、二つ」
「……まじで?! おめでとー!
入学金の支払い、いつまで?」
「そのことなんですけど。やっぱり、自分で……」
「いやいやいや。それは、だめだ」
「え、なんでですか」
「僕が勧めたことだから。僕に払わせてよ」
「はあ……」
「歌穂ちゃんの部屋に、行ってもいい?」
「いいですよ。いつ?」
「今日。今から」
「……えっ」
「まずい?」
「え、だって。部屋、片づけなきゃ……」
「いいよ。なんなら、僕が手伝ってあげたい」
「やですよ! やばい、どうしよう」
「行ってもいい?」
「いいですけど……。汚いですよ」
「大丈夫」
「あの、沢野さん」
「うん?」
「泊まっていいですよ。着がえとか、持ってきてください」
「……いいの?」
「うん。いいです」
「わかった。待ってて。車で行くから」
一時間もしないうちに、うちに来てくれた。
「こんばんは」
「お邪魔します」
「どこに停めたんですか?」
「近くの駐車場」
いつもの、きつねみたいな色のコートを着ていた。下は、こげ茶色のスラックスだった。
茶色の革靴を脱いで、向きを逆にしてから、上がってくる。
柔らかそうな革のリュックを、あたしの部屋の畳の上に下ろした。
「おしゃれなリュックですね」
「そう? 欲しい?」
「え。いらないです」
「そっか。お揃いとか、興味ない?」
「ないわけじゃないですけど。こんな高そうなリュックは、いらないです」
「うん。わかった」
言いながら、コートを脱いでいる。暖色系の、こまかいボーダーになってるセーターを着ていた。祐奈が言っていたとおり、いちいち、おしゃれだなと思った。それに、高そうだった。
お茶を出そうと思ってたけど、沢野さんの手がのびてきて、つかまってしまった。抱きよせられても、抵抗しなかった。
目が合った。キスを、ほっぺたにされた。
顔を近づけて、あたしから、唇にキスをした。コーヒーの匂いがした。
ふれるだけのキスで、全身が熱くなるのがわかった。やばいな……と思った。
深くなる前に、顔を離した。
「渡したいものがあります」
「うん」
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