上 下
78 / 206
7.スイート・キング3

1-5

しおりを挟む
 遊園地を囲むように、ぐるっと、知らない街を車で一周した。
 運転席にいる礼慈さんを、じっと見ていた。好きだなあって、思いながら。
 運転の仕方も、やさしい。急に止まったりしないし、急発進したりもしない。
 ずっと、一緒にいたい……。うっかりすると、泣いてしまいそうだった。
 この時間が、幸せすぎて。

 だんだん暗くなってきた頃に、遊園地に戻ってきた。
 入り口のところから、もう、きらきらと光っていた。
 二人で、歩いていった。

 夏はプールになっている水槽の上が、イルミネーションになっていた。
 まぶしいくらいに、光っている。
 光の色は、青と白が多くて、あとは、少しだけ、黄色と緑。赤やピンクは、なかった。
 ところどころが、動物の形になっていた。りす、うさぎ、鳥。たぶん、鹿? 馬もいた。
 水の上に立って、じっとしているみたいに見えた。
 幻想的な眺めだった。
 童話の中にえがかれた、ファンタジーの世界に、迷いこんでしまったみたい……。
「きれい……」
 見とれてしまった。
「すごい、すてき」
 礼慈さんが、笑う気配がした。
「なあに……?」
「楽しい?」
「うん。たのしいー」
 よく見ると、水面に、ネットのようなものが浮かんでいた。ネットとネットの間に、細い柱がいくつも立っていて、そこに、イルミネーションの機械が取りつけられてるみたいだった。
「恐竜は、こういうところには現れないんだな」
「……うん」
「でも、鳥がいる。知ってる? 鳥は、恐竜の子孫かもしれないって」
「聞いたことは、あります」
「あの鳥は、プテロダクティルスだってことにしよう」
「うん。いいと思います」
「去年、ネットの記事で見たんだけど。鳥は、恐竜そのものだと主張してる人もいる」
「えっ?」
「つまり、恐竜は滅んでないってこと」
「そうなの……?」


 観覧車に乗ることにした。
 昼間にも乗ったけど、また、ちがう雰囲気だった。
 係の人に誘導してもらって、赤い色のゴンドラに乗った。
 少しずつ、ゆっくり上がっていく。
 いろんな色の光が、遊園地のいたるところで光ってるのが、よくわかった。

「あの……。あのね」
「うん?」
「てっぺんで、キスしたいの」
「それは、どこの情報?」
「漫画とか、ドラマ、かなあ……」
「分かった。てっぺん待ちしよう」
「……あきれてますか?」
「いや。かわいいなあ、と」

 一番、高いところに着いた。
 礼慈さんの顔が、ゆっくり近づいてくる。
 軽いキスだった。おでこと、唇に。一回ずつ。
「ふ、ふっ」
「嬉しい?」
「うん。ドラマの中の女優さんに、なった気分」
「なれそうだけどな。ふつうに」
「なに、言ってるの……。なれるわけ、ない」
「そうかな」
「わたしが歌穂だったら、『ばかじゃないの?』って、言っちゃいそうな発言ですよ。それ」
「なりたいものとか、ある?」
「わたし……? ううん。今は、ない。なにも」
「本当に?」
 礼慈さんの目が、すごく近くにある。目が、ちかちかした。
 本当は、ある。
 わたし、お嫁さんになりたい。あなたの……。
 自分で思っておいて、泣きそうになってしまった。こんなこと、言えるわけないって、わかっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...