69 / 206
6.バージン・クイーン2
2-2
しおりを挟む
「あなたと話してる時には、こわいとは、思ってなかったです。
きらきら光ってて、きれいって。それだけ。
道路を車が走ってるのを、おもちゃのミニカーみたいに、小さく見える、なんて思いながら、見たりしてました。
二度目の時は、すごく、静かで……。車も通らないし、歩いてる人もいないし。
みんな寝てて、わたしひとりなんだと思った時に、ぞくっとして……。
わたし、そうとう、おかしくなってたんですね。あんな高さから飛び下りるなんて、本当には、できるはずがなかったのに」
「どうかな。俺は、君は、飛び下りたかもしれないって、思ってるよ」
「そう……?」
「君の日記を読んでから、十一月二十日までの君を、何度も思い返した。
俺は、君の誘惑に……誘惑っていうと、言葉があれだけど。君からの誘いに、一度も応えなかった。
銀座でデートした日の帰りに、俺を、部屋に誘おうとしてくれたよな」
「は、い」
「もし、あの時に、俺が応じて、君の部屋でセックスをしていたら、どうなってた?」
「……」
祐奈は答えなかった。
「やっぱり、そうだよな。君は、俺と寝てから、死ぬつもりだっただろう」
「わからないです。そこまで、思いきれたか、どうかは……」
「十月に、この部屋に来てくれた時に、俺は君を抱かなかった。君は、俺を責めた。
十一月二十日。君は、セックスをした後で、自分の部屋で日記を書いて、ベッドに入った。あの時は、どんな気分だったの?」
「わ、わかんない……。もう、わすれたの」
「つらかったら、思いださなくてもいいけど。寝て起きたら、出ていこうとは、思ってなかった?」
祐奈が首を振った。苦しそうな顔をしていた。
「もう、できないです。自分から、……したり、しないです。
だって、あなたのことを……」
唇を噛んで、言葉を殺した。
「とにかく、寝て。起きて、元気になったら、俺が作ったごはんを食べて」
「いいんですか? ねちゃって」
「いいよ。大丈夫」
手をつないで、そばにいた。
安心したような顔をして、眠っていった。
しばらくの間、寝顔を見ていた。
駐車場に行って、自分と祐奈の荷物を取ってきた。
昨日着ていた服を、脱衣所にある洗濯機に放りこむ。乾燥まで予約して、その場を離れた。
クローゼットで服を脱いで、ルームウェアを着た。今日は、うちでのんびり過ごそうと思っていた。
リビングに行って、紘一に電話をかけた。
「れいじー」
「うん。俺」
「なに? 今の今まで、寝てた」
「お前も、寝不足だったのか」
「じゃっかんね。明け方に、トイレに行こうと思って、寝室から出たんだよ」
「……うん」
「祐奈ちゃんがいて、泣いてた。窓の前で。座りこんでた。
『待っててね』って声をかけて、トイレには行った。
戻ってきたら、立ってた。がんばって、泣きやもうとしてた。
礼慈を呼ぼうかって、聞いたんだけど。『起こしたらかわいそうだから、いい』って」
「それで?」
「ソファーに座ってもらって、話をしたよ。
僕は、さあ……。祐奈ちゃんを、神々しいなと思った」
「なぜ?」
「だってさ。自分を襲ったやつを、社会的に抹殺することもできるのに。自分の方を、消してしまおうと思うなんて。
本当に、訴える気はないの?」
「ない。俺は……俺の方こそ、やばいんだよ」
「なに? どういうこと?」
「相手の男を、殺したいくらいに憎んでる。
殺してやりたいって、思ってる。祐奈に、そうしろと頼まれたわけでもないのに」
「それ、やめてよ……。まじで」
「分かってるよ。それで?」
「ああ、うん。話してるうちに、落ちついてきて……。
歌穂ちゃんも、独特の空気があるけど。祐奈ちゃんのは、なんだろうな……。
僕の家は、父が外交官だっていうのもあって、それなりの地位がある人たちに会う機会は、たぶん、多かった。
でも、祐奈ちゃんは……。今までに会った人たちの中に、ああいう女性は、ほとんどいなかった。五才から施設にいたっていうのが、信じられないくらいだよ。
気品がある。うちの家なんか、目じゃないくらいの、上流の人だっていう気がする」
「でも……。そんな話は、聞いたことがない。祐奈から」
きらきら光ってて、きれいって。それだけ。
道路を車が走ってるのを、おもちゃのミニカーみたいに、小さく見える、なんて思いながら、見たりしてました。
二度目の時は、すごく、静かで……。車も通らないし、歩いてる人もいないし。
みんな寝てて、わたしひとりなんだと思った時に、ぞくっとして……。
わたし、そうとう、おかしくなってたんですね。あんな高さから飛び下りるなんて、本当には、できるはずがなかったのに」
「どうかな。俺は、君は、飛び下りたかもしれないって、思ってるよ」
「そう……?」
「君の日記を読んでから、十一月二十日までの君を、何度も思い返した。
俺は、君の誘惑に……誘惑っていうと、言葉があれだけど。君からの誘いに、一度も応えなかった。
銀座でデートした日の帰りに、俺を、部屋に誘おうとしてくれたよな」
「は、い」
「もし、あの時に、俺が応じて、君の部屋でセックスをしていたら、どうなってた?」
「……」
祐奈は答えなかった。
「やっぱり、そうだよな。君は、俺と寝てから、死ぬつもりだっただろう」
「わからないです。そこまで、思いきれたか、どうかは……」
「十月に、この部屋に来てくれた時に、俺は君を抱かなかった。君は、俺を責めた。
十一月二十日。君は、セックスをした後で、自分の部屋で日記を書いて、ベッドに入った。あの時は、どんな気分だったの?」
「わ、わかんない……。もう、わすれたの」
「つらかったら、思いださなくてもいいけど。寝て起きたら、出ていこうとは、思ってなかった?」
祐奈が首を振った。苦しそうな顔をしていた。
「もう、できないです。自分から、……したり、しないです。
だって、あなたのことを……」
唇を噛んで、言葉を殺した。
「とにかく、寝て。起きて、元気になったら、俺が作ったごはんを食べて」
「いいんですか? ねちゃって」
「いいよ。大丈夫」
手をつないで、そばにいた。
安心したような顔をして、眠っていった。
しばらくの間、寝顔を見ていた。
駐車場に行って、自分と祐奈の荷物を取ってきた。
昨日着ていた服を、脱衣所にある洗濯機に放りこむ。乾燥まで予約して、その場を離れた。
クローゼットで服を脱いで、ルームウェアを着た。今日は、うちでのんびり過ごそうと思っていた。
リビングに行って、紘一に電話をかけた。
「れいじー」
「うん。俺」
「なに? 今の今まで、寝てた」
「お前も、寝不足だったのか」
「じゃっかんね。明け方に、トイレに行こうと思って、寝室から出たんだよ」
「……うん」
「祐奈ちゃんがいて、泣いてた。窓の前で。座りこんでた。
『待っててね』って声をかけて、トイレには行った。
戻ってきたら、立ってた。がんばって、泣きやもうとしてた。
礼慈を呼ぼうかって、聞いたんだけど。『起こしたらかわいそうだから、いい』って」
「それで?」
「ソファーに座ってもらって、話をしたよ。
僕は、さあ……。祐奈ちゃんを、神々しいなと思った」
「なぜ?」
「だってさ。自分を襲ったやつを、社会的に抹殺することもできるのに。自分の方を、消してしまおうと思うなんて。
本当に、訴える気はないの?」
「ない。俺は……俺の方こそ、やばいんだよ」
「なに? どういうこと?」
「相手の男を、殺したいくらいに憎んでる。
殺してやりたいって、思ってる。祐奈に、そうしろと頼まれたわけでもないのに」
「それ、やめてよ……。まじで」
「分かってるよ。それで?」
「ああ、うん。話してるうちに、落ちついてきて……。
歌穂ちゃんも、独特の空気があるけど。祐奈ちゃんのは、なんだろうな……。
僕の家は、父が外交官だっていうのもあって、それなりの地位がある人たちに会う機会は、たぶん、多かった。
でも、祐奈ちゃんは……。今までに会った人たちの中に、ああいう女性は、ほとんどいなかった。五才から施設にいたっていうのが、信じられないくらいだよ。
気品がある。うちの家なんか、目じゃないくらいの、上流の人だっていう気がする」
「でも……。そんな話は、聞いたことがない。祐奈から」
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる