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6.バージン・クイーン2
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紘一が起き上がった。俺に体を向けて、座った。正座だった。
俺は、棋士を目指していた頃の紘一が、将棋をしている姿を見たことはない。その頃も、今みたいに、真剣な様子だったんだろうなと思った。
「『いませんよ』も聞こえた。あれって、何のこと?」
「それは、いいよ」
「なんで? 知りたいよ」
「……俺が、そこそこ見られる顔だっていう、そういう話だった」
「あー」
「何だよ。『あー』って」
「歌穂ちゃん。礼慈のこと、気に入ってるよね」
「友達の彼氏として、だろ」
「そうかなあ……」
「俺をいいと思ってくれてたとしたら、祐奈を紹介してくれたりはしないだろ」
「ああ……。そうだね。
礼慈と祐奈ちゃんにとっては、歌穂ちゃんは、仲人さんみたいな存在だよね。いい人同士を、お見合いさせた、みたいな……」
「デリヘル嬢と客として、だったけどな」
「そうなんだよね。そこから、どうして、こんなふうに関係を変えられたのかなって、びびってるよ。僕は」
「向こうが、できた人だから」
「そういう言い方も、なんか、すっかり大人だよね。礼慈は、僕を置いて、先に行っちゃったんだなあー」
「お前も、歌穂さんと新しい関係を作ればいいだろ。作れると思うよ。
純粋な子だよ。こわいぐらいに……」
「うん。わかってる。
セックスしたいとも、もちろん思ってる。それで、そういう自分に、引いてる」
「引いてるのか」
「だって、九才下だよ。犯罪じゃないって、わかってはいても。妹たちより、下っていうのが……」
「それは、歌穂さんのせいじゃないだろ」
「わかってます。でも、まだ、距離を取っていたいっていうか……。歌穂ちゃんが、僕を信頼してくれてる気がするから。なおさら」
「まあ、そうだな。通帳を預けるって、歌穂さんが言った時は、びっくりした」
「したよね。僕はね、歌穂ちゃんといると、しょっちゅう、胸を打たれてるよ。
あの子を、助けてあげたかった。今じゃなくて、もっと、ずっと前に……」
紘一の目から、静かに涙が溢れた。白い頬に流れていく。
「泣くなよ」
「ごめんね。僕は、恵まれてたんだなあって、思う。
歌穂ちゃんが話してくれた夢を、僕自身の夢にしてもいいって、思ったりもしてる」
「それは、また別の話だろ」
「そうかな……。
歌穂ちゃんは、何もかも、僕の想像を超えてくるんだよ。
僕の将棋の話を聞いて、泣いてくれる子がいるなんて、思ってなかった」
どう答えていいか、分からなかった。
「あ。礼慈以外で、っていう意味ね」
よかった。本人が言ってくれた。
「俺も泣いただろ」と言うのは、どう考えてもおかしいし、恥ずかしいなと思っていた。
「自分のためには、泣けない子なのかもしれない。だとしたら、本当にかわいそうだし、いとおしいと思う」
「お前それ、歌穂さんに言えよ。隣りの部屋に、いるのに」
「いいよ。おいおいで……。プロポーズみたいに、なっちゃいそうだし」
「すればいいのに」
「そっちこそ」
「……そうだな」
ふーっと、長い息をついた。
俺の横で、紘一も、涙まじりのため息をついていた。
俺は、棋士を目指していた頃の紘一が、将棋をしている姿を見たことはない。その頃も、今みたいに、真剣な様子だったんだろうなと思った。
「『いませんよ』も聞こえた。あれって、何のこと?」
「それは、いいよ」
「なんで? 知りたいよ」
「……俺が、そこそこ見られる顔だっていう、そういう話だった」
「あー」
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「歌穂ちゃん。礼慈のこと、気に入ってるよね」
「友達の彼氏として、だろ」
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「お前も、歌穂さんと新しい関係を作ればいいだろ。作れると思うよ。
純粋な子だよ。こわいぐらいに……」
「うん。わかってる。
セックスしたいとも、もちろん思ってる。それで、そういう自分に、引いてる」
「引いてるのか」
「だって、九才下だよ。犯罪じゃないって、わかってはいても。妹たちより、下っていうのが……」
「それは、歌穂さんのせいじゃないだろ」
「わかってます。でも、まだ、距離を取っていたいっていうか……。歌穂ちゃんが、僕を信頼してくれてる気がするから。なおさら」
「まあ、そうだな。通帳を預けるって、歌穂さんが言った時は、びっくりした」
「したよね。僕はね、歌穂ちゃんといると、しょっちゅう、胸を打たれてるよ。
あの子を、助けてあげたかった。今じゃなくて、もっと、ずっと前に……」
紘一の目から、静かに涙が溢れた。白い頬に流れていく。
「泣くなよ」
「ごめんね。僕は、恵まれてたんだなあって、思う。
歌穂ちゃんが話してくれた夢を、僕自身の夢にしてもいいって、思ったりもしてる」
「それは、また別の話だろ」
「そうかな……。
歌穂ちゃんは、何もかも、僕の想像を超えてくるんだよ。
僕の将棋の話を聞いて、泣いてくれる子がいるなんて、思ってなかった」
どう答えていいか、分からなかった。
「あ。礼慈以外で、っていう意味ね」
よかった。本人が言ってくれた。
「俺も泣いただろ」と言うのは、どう考えてもおかしいし、恥ずかしいなと思っていた。
「自分のためには、泣けない子なのかもしれない。だとしたら、本当にかわいそうだし、いとおしいと思う」
「お前それ、歌穂さんに言えよ。隣りの部屋に、いるのに」
「いいよ。おいおいで……。プロポーズみたいに、なっちゃいそうだし」
「すればいいのに」
「そっちこそ」
「……そうだな」
ふーっと、長い息をついた。
俺の横で、紘一も、涙まじりのため息をついていた。
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