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5.トリッキー・ナイト2
2-7
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「はずかしいだろうけど、お互いさまだから」
「そうですね」
「まあでも、はずかしいよな。分かるよ。
とにかく、あれだ。ごめんなさい」
「あたしの方こそ、すみませんでした。祐奈のために、あなたを利用してしまって」
「俺は、利用されたつもりはないけど」
「でも……。デリヘル嬢として、じゃなくて、別のやり方で、祐奈を売りこむことも、できました。たぶん……」
「どうかな。デリヘル嬢としての歌穂さんから、祐奈を友人として紹介されたんだとしたら、俺は、あの日みたいな反応はしなかったかもしれない」
「聞いても、いいですか?」
「いいよ。なに?」
「恋愛は、するつもりがなかったんですか?」
「なかった。こわがってた、に近いかな。
でも、祐奈が来て……。欲しいと思った。どうしても、この子のそばにいたいって、思ってしまった」
「かわいいですもんね。わかります。
……もし、あたしが男だったら。ぜったい、祐奈と結婚しました」
「恐ろしいな」
「ですかね」
「歌穂さんも、そうとう、祐奈にやられてるよな」
「ですね。あたしにとっては、母親みたいな存在なんで」
「そうか。それじゃあ、そうなるよな」
西東さんが、納得したような顔をするのが見えた。
「あの、傷のこと。聞いてもいいですか」
「うん」
「あれが原因で、その……」
「恋愛ができなくなったのか、ってこと?」
「そうです」
ちょっとだけ、沈黙があった。
探るような目で、あたしを見ている。
「ごめんなさい。聞かない方が、よかったですか」
「いや……。ショックを受けないかなと思って」
「いいです。言ってください」
「刺されたんだよ」
「ひっ」と、声が出そうになった。ものすごく、生々しい感じがした。
「やだ。ほんとですか……」
「予想は、してたんじゃないの」
「してましたけど。ご本人の口から聞くと、すごく……こわいです」
「こわい?」
「こわい。……痛かったですよね」
「それは、まあ。刺されてるわけだから。
だけど……。体よりも、心の方が痛かった。
俺は、つき合ってるつもりじゃなかった。キスも、セックスも、してなかったし。デートした記憶もない。
でも、相手の女性からしたら、そうじゃなかったんだ。俺とつき合ってるはずなのに、俺が、他の女性に惹かれて、つき合おうとしてるのが、許せないって」
「ストーカーじゃないですか! 警察、行ったんですか?」
「行ったよ。
相手の女性は、今も、精神病棟で入院してる。ご家族の希望で……。それも、心にずっしりとは、きてる」
「それ、西東さんのせいじゃないですよ。たぶん……」
「分かってるけど。いや……でも、俺のせいでもあるんだろうな。
何より恐ろしかったのは、刺される瞬間まで、俺には、人に親切で、優しい女性に見えてたことなんだよ。人が豹変するところを、目の当たりにしてしまった……。
こわくなった。要は、女性不信になったってことなんだろうな」
「それは、しかたがないですよ。あたしだって、男性から刺されたら、二度と、近づきたくないって、思いますよ……」
言ってから、ふと、祐奈のことを思った。
「祐奈は、どうなんでしょうか」
「男がこわいと思う時も、あるのかもしれないけど。俺からは、分からない。
あんなにひどい目にあったのに。俺のことを、ぜんぜん、こわがらないんだよ。それが、すごく嬉しい。
一生、大事にしないといけないと思うし、大事にしたいと、思う……」
「西東さん。それ、あたしに言っちゃ、だめなやつですよ。祐奈に、言わないと」
「ごめん。つい、うっかり」
「結婚するんですか?」
「できれば……。でも、どうかな。祐奈は、まだ若いし。
初めての男と結婚するって、どうなんだろうか。女性にとっては」
「どうって。幸せなことだと、思いますけど……。その人と別れたり、ふられたりしてないって、ことですから」
「そうですね」
「まあでも、はずかしいよな。分かるよ。
とにかく、あれだ。ごめんなさい」
「あたしの方こそ、すみませんでした。祐奈のために、あなたを利用してしまって」
「俺は、利用されたつもりはないけど」
「でも……。デリヘル嬢として、じゃなくて、別のやり方で、祐奈を売りこむことも、できました。たぶん……」
「どうかな。デリヘル嬢としての歌穂さんから、祐奈を友人として紹介されたんだとしたら、俺は、あの日みたいな反応はしなかったかもしれない」
「聞いても、いいですか?」
「いいよ。なに?」
「恋愛は、するつもりがなかったんですか?」
「なかった。こわがってた、に近いかな。
でも、祐奈が来て……。欲しいと思った。どうしても、この子のそばにいたいって、思ってしまった」
「かわいいですもんね。わかります。
……もし、あたしが男だったら。ぜったい、祐奈と結婚しました」
「恐ろしいな」
「ですかね」
「歌穂さんも、そうとう、祐奈にやられてるよな」
「ですね。あたしにとっては、母親みたいな存在なんで」
「そうか。それじゃあ、そうなるよな」
西東さんが、納得したような顔をするのが見えた。
「あの、傷のこと。聞いてもいいですか」
「うん」
「あれが原因で、その……」
「恋愛ができなくなったのか、ってこと?」
「そうです」
ちょっとだけ、沈黙があった。
探るような目で、あたしを見ている。
「ごめんなさい。聞かない方が、よかったですか」
「いや……。ショックを受けないかなと思って」
「いいです。言ってください」
「刺されたんだよ」
「ひっ」と、声が出そうになった。ものすごく、生々しい感じがした。
「やだ。ほんとですか……」
「予想は、してたんじゃないの」
「してましたけど。ご本人の口から聞くと、すごく……こわいです」
「こわい?」
「こわい。……痛かったですよね」
「それは、まあ。刺されてるわけだから。
だけど……。体よりも、心の方が痛かった。
俺は、つき合ってるつもりじゃなかった。キスも、セックスも、してなかったし。デートした記憶もない。
でも、相手の女性からしたら、そうじゃなかったんだ。俺とつき合ってるはずなのに、俺が、他の女性に惹かれて、つき合おうとしてるのが、許せないって」
「ストーカーじゃないですか! 警察、行ったんですか?」
「行ったよ。
相手の女性は、今も、精神病棟で入院してる。ご家族の希望で……。それも、心にずっしりとは、きてる」
「それ、西東さんのせいじゃないですよ。たぶん……」
「分かってるけど。いや……でも、俺のせいでもあるんだろうな。
何より恐ろしかったのは、刺される瞬間まで、俺には、人に親切で、優しい女性に見えてたことなんだよ。人が豹変するところを、目の当たりにしてしまった……。
こわくなった。要は、女性不信になったってことなんだろうな」
「それは、しかたがないですよ。あたしだって、男性から刺されたら、二度と、近づきたくないって、思いますよ……」
言ってから、ふと、祐奈のことを思った。
「祐奈は、どうなんでしょうか」
「男がこわいと思う時も、あるのかもしれないけど。俺からは、分からない。
あんなにひどい目にあったのに。俺のことを、ぜんぜん、こわがらないんだよ。それが、すごく嬉しい。
一生、大事にしないといけないと思うし、大事にしたいと、思う……」
「西東さん。それ、あたしに言っちゃ、だめなやつですよ。祐奈に、言わないと」
「ごめん。つい、うっかり」
「結婚するんですか?」
「できれば……。でも、どうかな。祐奈は、まだ若いし。
初めての男と結婚するって、どうなんだろうか。女性にとっては」
「どうって。幸せなことだと、思いますけど……。その人と別れたり、ふられたりしてないって、ことですから」
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