上 下
61 / 206
5.トリッキー・ナイト2

2-7

しおりを挟む
「はずかしいだろうけど、お互いさまだから」
「そうですね」
「まあでも、はずかしいよな。分かるよ。
 とにかく、あれだ。ごめんなさい」
「あたしの方こそ、すみませんでした。祐奈のために、あなたを利用してしまって」
「俺は、利用されたつもりはないけど」
「でも……。デリヘル嬢として、じゃなくて、別のやり方で、祐奈を売りこむことも、できました。たぶん……」
「どうかな。デリヘル嬢としての歌穂さんから、祐奈を友人として紹介されたんだとしたら、俺は、あの日みたいな反応はしなかったかもしれない」
「聞いても、いいですか?」
「いいよ。なに?」
「恋愛は、するつもりがなかったんですか?」
「なかった。こわがってた、に近いかな。
 でも、祐奈が来て……。欲しいと思った。どうしても、この子のそばにいたいって、思ってしまった」
「かわいいですもんね。わかります。
 ……もし、あたしが男だったら。ぜったい、祐奈と結婚しました」
「恐ろしいな」
「ですかね」
「歌穂さんも、そうとう、祐奈にやられてるよな」
「ですね。あたしにとっては、母親みたいな存在なんで」
「そうか。それじゃあ、そうなるよな」
 西東さんが、納得したような顔をするのが見えた。
「あの、傷のこと。聞いてもいいですか」
「うん」
「あれが原因で、その……」
「恋愛ができなくなったのか、ってこと?」
「そうです」
 ちょっとだけ、沈黙があった。
 探るような目で、あたしを見ている。
「ごめんなさい。聞かない方が、よかったですか」
「いや……。ショックを受けないかなと思って」
「いいです。言ってください」
「刺されたんだよ」
 「ひっ」と、声が出そうになった。ものすごく、生々しい感じがした。
「やだ。ほんとですか……」
「予想は、してたんじゃないの」
「してましたけど。ご本人の口から聞くと、すごく……こわいです」
「こわい?」
「こわい。……痛かったですよね」
「それは、まあ。刺されてるわけだから。
 だけど……。体よりも、心の方が痛かった。
 俺は、つき合ってるつもりじゃなかった。キスも、セックスも、してなかったし。デートした記憶もない。
 でも、相手の女性からしたら、そうじゃなかったんだ。俺とつき合ってるはずなのに、俺が、他の女性に惹かれて、つき合おうとしてるのが、許せないって」
「ストーカーじゃないですか! 警察、行ったんですか?」
「行ったよ。
 相手の女性は、今も、精神病棟で入院してる。ご家族の希望で……。それも、心にずっしりとは、きてる」
「それ、西東さんのせいじゃないですよ。たぶん……」
「分かってるけど。いや……でも、俺のせいでもあるんだろうな。
 何より恐ろしかったのは、刺される瞬間まで、俺には、人に親切で、優しい女性に見えてたことなんだよ。人が豹変するところを、目の当たりにしてしまった……。
 こわくなった。要は、女性不信になったってことなんだろうな」
「それは、しかたがないですよ。あたしだって、男性から刺されたら、二度と、近づきたくないって、思いますよ……」
 言ってから、ふと、祐奈のことを思った。
「祐奈は、どうなんでしょうか」
「男がこわいと思う時も、あるのかもしれないけど。俺からは、分からない。
 あんなにひどい目にあったのに。俺のことを、ぜんぜん、こわがらないんだよ。それが、すごく嬉しい。
 一生、大事にしないといけないと思うし、大事にしたいと、思う……」
「西東さん。それ、あたしに言っちゃ、だめなやつですよ。祐奈に、言わないと」
「ごめん。つい、うっかり」
「結婚するんですか?」
「できれば……。でも、どうかな。祐奈は、まだ若いし。
 初めての男と結婚するって、どうなんだろうか。女性にとっては」
「どうって。幸せなことだと、思いますけど……。その人と別れたり、ふられたりしてないって、ことですから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

処理中です...