上 下
53 / 206
5.トリッキー・ナイト2

1-8

しおりを挟む
 あたしの手の中にあるナイトを、沢野さんがやさしい手つきで取りあげた。
「ずっと、持ってたんだね」
「あ、はい」
「ほかほかだ」
「これ、石ですか? 象牙ですか?」
「そこで、象牙っていう選択肢が出てくるところが、ぐっときちゃうね。
 象牙だったらすごいけど、これは大理石」
「大理石も、じゅうぶん、すごそうですけど」
「値段が、全然違うよ」
「そうなんですね」
 やっぱり、あたしはものを知らないな。そう思った。


 お風呂に入っておいで、と言われて、ありがたく入らせてもらうことにした。
 熱いお湯が、バスタブになみなみと張ってあった。ちょっと、熱すぎるくらいだった。
 脱衣所にあったドライヤーを借りてきて、リビングで使わせてもらった。
 あたしがソファーの上でくつろいでる間に、沢野さんもお風呂に入って、戻ってきた。
 ルームウェアみたいなパジャマを着ていた。ふわふわとしていた髪が、まっすぐになっていた。
「まっすぐに、なるんですね」
「濡れた時だけね」
「かっこいいです」
「は? どこが?」
 ほっぺたが、赤くなっていくのが見えた。色がうすいから、すぐにわかるんだと思った。
「乾かしますよ。こっちに、いらしてください」
「あー……」
 ふらふらっと寄ってきて、あたしの足元に座った。
「熱くないですか?」
「ない」
 ドライヤーで、きれいに乾かしてあげた。乾かしながら、短めの髪に指でふれて、整えてあげた。
「できました」
「ありがとう」

 ドライヤーを脱衣所に返して、リビングまで歩いていった。
 ソファーに行く前に、沢野さんが、あたしの方に向かってきた。
「もう、寝ますか?」
「どうしようかな。歌穂ちゃんは?」
「あたしのことは、気にしないでください。書斎で、本とかを、読ませてもらいます。
 明日も、仕事なんですよね。早めに、寝てください」
「うん。ありがとう」
「あの……」
 キスがしたかった。ハグも。
 でも、そう言うのは、なんだかこわいと思った。
「わかるよ。僕もしたい。
 でも、やめておこう」
「どうして、ですか」
「止まれなくなると思う。僕が」
「はあ……」
「妹たちより、年下なんだよ。まずいって」
「それは、ずっと変わらないことですよ。あたしが、何才か、年を取っても」
「わかってる。でも、だめだ。
 歌穂ちゃんが、ちゃんと僕を好きになってくれるまでは、待ちたい」
 もう、好きになりかけてる。そう思ったけど、言えなかった。
 あたしの気持ちが、親に対して感じたかった気持ちと違うとは、言いきれないと思ったから。しかも、あたしは父親を知らない。同じ気持ちだとしたら、母親を沢野さんに重ねてることになって、それは、沢野さんに対して、あまりにも失礼なことなんじゃないかという気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...