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5.トリッキー・ナイト2
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あたしの手の中にあるナイトを、沢野さんがやさしい手つきで取りあげた。
「ずっと、持ってたんだね」
「あ、はい」
「ほかほかだ」
「これ、石ですか? 象牙ですか?」
「そこで、象牙っていう選択肢が出てくるところが、ぐっときちゃうね。
象牙だったらすごいけど、これは大理石」
「大理石も、じゅうぶん、すごそうですけど」
「値段が、全然違うよ」
「そうなんですね」
やっぱり、あたしはものを知らないな。そう思った。
お風呂に入っておいで、と言われて、ありがたく入らせてもらうことにした。
熱いお湯が、バスタブになみなみと張ってあった。ちょっと、熱すぎるくらいだった。
脱衣所にあったドライヤーを借りてきて、リビングで使わせてもらった。
あたしがソファーの上でくつろいでる間に、沢野さんもお風呂に入って、戻ってきた。
ルームウェアみたいなパジャマを着ていた。ふわふわとしていた髪が、まっすぐになっていた。
「まっすぐに、なるんですね」
「濡れた時だけね」
「かっこいいです」
「は? どこが?」
ほっぺたが、赤くなっていくのが見えた。色がうすいから、すぐにわかるんだと思った。
「乾かしますよ。こっちに、いらしてください」
「あー……」
ふらふらっと寄ってきて、あたしの足元に座った。
「熱くないですか?」
「ない」
ドライヤーで、きれいに乾かしてあげた。乾かしながら、短めの髪に指でふれて、整えてあげた。
「できました」
「ありがとう」
ドライヤーを脱衣所に返して、リビングまで歩いていった。
ソファーに行く前に、沢野さんが、あたしの方に向かってきた。
「もう、寝ますか?」
「どうしようかな。歌穂ちゃんは?」
「あたしのことは、気にしないでください。書斎で、本とかを、読ませてもらいます。
明日も、仕事なんですよね。早めに、寝てください」
「うん。ありがとう」
「あの……」
キスがしたかった。ハグも。
でも、そう言うのは、なんだかこわいと思った。
「わかるよ。僕もしたい。
でも、やめておこう」
「どうして、ですか」
「止まれなくなると思う。僕が」
「はあ……」
「妹たちより、年下なんだよ。まずいって」
「それは、ずっと変わらないことですよ。あたしが、何才か、年を取っても」
「わかってる。でも、だめだ。
歌穂ちゃんが、ちゃんと僕を好きになってくれるまでは、待ちたい」
もう、好きになりかけてる。そう思ったけど、言えなかった。
あたしの気持ちが、親に対して感じたかった気持ちと違うとは、言いきれないと思ったから。しかも、あたしは父親を知らない。同じ気持ちだとしたら、母親を沢野さんに重ねてることになって、それは、沢野さんに対して、あまりにも失礼なことなんじゃないかという気がした。
「ずっと、持ってたんだね」
「あ、はい」
「ほかほかだ」
「これ、石ですか? 象牙ですか?」
「そこで、象牙っていう選択肢が出てくるところが、ぐっときちゃうね。
象牙だったらすごいけど、これは大理石」
「大理石も、じゅうぶん、すごそうですけど」
「値段が、全然違うよ」
「そうなんですね」
やっぱり、あたしはものを知らないな。そう思った。
お風呂に入っておいで、と言われて、ありがたく入らせてもらうことにした。
熱いお湯が、バスタブになみなみと張ってあった。ちょっと、熱すぎるくらいだった。
脱衣所にあったドライヤーを借りてきて、リビングで使わせてもらった。
あたしがソファーの上でくつろいでる間に、沢野さんもお風呂に入って、戻ってきた。
ルームウェアみたいなパジャマを着ていた。ふわふわとしていた髪が、まっすぐになっていた。
「まっすぐに、なるんですね」
「濡れた時だけね」
「かっこいいです」
「は? どこが?」
ほっぺたが、赤くなっていくのが見えた。色がうすいから、すぐにわかるんだと思った。
「乾かしますよ。こっちに、いらしてください」
「あー……」
ふらふらっと寄ってきて、あたしの足元に座った。
「熱くないですか?」
「ない」
ドライヤーで、きれいに乾かしてあげた。乾かしながら、短めの髪に指でふれて、整えてあげた。
「できました」
「ありがとう」
ドライヤーを脱衣所に返して、リビングまで歩いていった。
ソファーに行く前に、沢野さんが、あたしの方に向かってきた。
「もう、寝ますか?」
「どうしようかな。歌穂ちゃんは?」
「あたしのことは、気にしないでください。書斎で、本とかを、読ませてもらいます。
明日も、仕事なんですよね。早めに、寝てください」
「うん。ありがとう」
「あの……」
キスがしたかった。ハグも。
でも、そう言うのは、なんだかこわいと思った。
「わかるよ。僕もしたい。
でも、やめておこう」
「どうして、ですか」
「止まれなくなると思う。僕が」
「はあ……」
「妹たちより、年下なんだよ。まずいって」
「それは、ずっと変わらないことですよ。あたしが、何才か、年を取っても」
「わかってる。でも、だめだ。
歌穂ちゃんが、ちゃんと僕を好きになってくれるまでは、待ちたい」
もう、好きになりかけてる。そう思ったけど、言えなかった。
あたしの気持ちが、親に対して感じたかった気持ちと違うとは、言いきれないと思ったから。しかも、あたしは父親を知らない。同じ気持ちだとしたら、母親を沢野さんに重ねてることになって、それは、沢野さんに対して、あまりにも失礼なことなんじゃないかという気がした。
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