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5.トリッキー・ナイト2
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自分が使ったお皿を、流しで洗った。リビングから、沢野さんが自分のお皿を持ってきてくれた。
「ごちそうさまでした」
「いえ」
片づけが終わってから、沢野さんのところに戻った。
ソファーに座ってる沢野さんが、あたしを見あげた。
「お風呂、入る?」
「はい。お借りしても、いいんだったら」
「いいよ。いいけど……。
着がえとか、ある?」
「はい。持ってきました」
「今日、本当に泊まるの?」
どきっとした。沢野さんは、うれしそうじゃなかった。こわがってるみたいだった。
あたしが、こわい? なんで?
沢野さんが、こわがってる……びびってる理由なんて、ひとつしか、思い浮かばなかった。
あたしとセックスするのが、こわいんだ。
まだしないって、言ってたのに、気が変わることがこわい……のかな。本当のことをいうと、よくわからなかった。あたしは、沢野さんじゃないから。
あたし……。沢野さんと、セックスするんだろうか。今日? これから?
こわいとは、思わなかった。ううん。わからない。
したことがなくて、なにも知らないから、こわいと思わずにいられるだけかもしれない。
「そのつもりで、来ました」
「そっか。わかった。
こっちに、来てくれる?」
「はい」
リビングから見えてる三つのドアのうちの、ひとつ。その前に立って、あたしをふり返った。
「ここに、妹たちが泊まる部屋があるんだよ」
ドアを開けて、中を見せてくれた。シングルベッドが、二つ並べて置いてある。
ベッドの向こうに、外国のお姫さまが使うような、大きな鏡がついた鏡台があった。
「ホテルの部屋みたいですね」
「そんなことないよ。客間ではあるけど」
「妹さんたちに、怒られたりしませんか。あたしが使ったら」
「しない、しない。あ、礼慈は寝たことあるよ。これの、どっちかで」
「えっ」
「やっぱり、意識はしてるんだね」
「え、だって。女の子が寝たベッドと、男の人が寝たベッドは、ちがいますよ。西東さんが、どうとか、じゃなくて」
「うん。わかってる。僕の心が狭いだけだってことは。
この部屋は、好きなように使ってくれていいから」
「ありがとうございます」
「他の部屋も案内しようか」
「あ、はい……」
沢野さんの手が、さっきの部屋のドアの、左隣りにあるドアを指さした。
「ここが、僕の寝室。ここには、入っちゃだめだよ」
「はい」
少し離れたところに、もうひとつドアがある。
それを開けて、中に入っていった。
「ここは、書斎だね。仕事をしたりする部屋。
読みたい本があったら、読んでいいからね」
立派なデスクがあった。重たそうな……たぶん、本物の木の。
椅子のフレームは、デスクと同じ色で、これも木でできていそうだった。背もたれには、明るい色の革が貼ってあって、手を置くところがある。書斎椅子って、こういうのをいうんだろう。座ってみたいな、と思った。
デスクを囲むように、白いスチール製の棚と、大きな本棚が並んでいた。それから、飾り棚っていうんだろうか? ガラスの扉がついた、木の棚があった。
棚の中には、盾が置いてあった。カップも。金色と、銀色の。賞品として、贈られるような……。たくさんありすぎて、数を数える気にはならなかった。
「『チェス』……。『全国大会』、『準優勝』?」
ガラスごしに、盾に書かれた文字を読んで、えっ?となった。
他の盾や、カップについてるプレートを見た。「優勝」と書いてあるものも、あった。
「沢野さん。これ……」
「それはね。僕の趣味」
「チェス?」
「うん。大会に出たりしてる。アマチュアだよ。プロじゃない」
「すごいじゃないですか。優勝、って」
「そうでもないよ」
ほっぺたが、赤くなってた。てれてるみたいだった。
「向こうに行こう」
ドアまで、先に歩いていってしまった。
あたしは、まだここにいたかったけど。沢野さんが行ってしまったから、しかたなくついていった。
「ごちそうさまでした」
「いえ」
片づけが終わってから、沢野さんのところに戻った。
ソファーに座ってる沢野さんが、あたしを見あげた。
「お風呂、入る?」
「はい。お借りしても、いいんだったら」
「いいよ。いいけど……。
着がえとか、ある?」
「はい。持ってきました」
「今日、本当に泊まるの?」
どきっとした。沢野さんは、うれしそうじゃなかった。こわがってるみたいだった。
あたしが、こわい? なんで?
沢野さんが、こわがってる……びびってる理由なんて、ひとつしか、思い浮かばなかった。
あたしとセックスするのが、こわいんだ。
まだしないって、言ってたのに、気が変わることがこわい……のかな。本当のことをいうと、よくわからなかった。あたしは、沢野さんじゃないから。
あたし……。沢野さんと、セックスするんだろうか。今日? これから?
こわいとは、思わなかった。ううん。わからない。
したことがなくて、なにも知らないから、こわいと思わずにいられるだけかもしれない。
「そのつもりで、来ました」
「そっか。わかった。
こっちに、来てくれる?」
「はい」
リビングから見えてる三つのドアのうちの、ひとつ。その前に立って、あたしをふり返った。
「ここに、妹たちが泊まる部屋があるんだよ」
ドアを開けて、中を見せてくれた。シングルベッドが、二つ並べて置いてある。
ベッドの向こうに、外国のお姫さまが使うような、大きな鏡がついた鏡台があった。
「ホテルの部屋みたいですね」
「そんなことないよ。客間ではあるけど」
「妹さんたちに、怒られたりしませんか。あたしが使ったら」
「しない、しない。あ、礼慈は寝たことあるよ。これの、どっちかで」
「えっ」
「やっぱり、意識はしてるんだね」
「え、だって。女の子が寝たベッドと、男の人が寝たベッドは、ちがいますよ。西東さんが、どうとか、じゃなくて」
「うん。わかってる。僕の心が狭いだけだってことは。
この部屋は、好きなように使ってくれていいから」
「ありがとうございます」
「他の部屋も案内しようか」
「あ、はい……」
沢野さんの手が、さっきの部屋のドアの、左隣りにあるドアを指さした。
「ここが、僕の寝室。ここには、入っちゃだめだよ」
「はい」
少し離れたところに、もうひとつドアがある。
それを開けて、中に入っていった。
「ここは、書斎だね。仕事をしたりする部屋。
読みたい本があったら、読んでいいからね」
立派なデスクがあった。重たそうな……たぶん、本物の木の。
椅子のフレームは、デスクと同じ色で、これも木でできていそうだった。背もたれには、明るい色の革が貼ってあって、手を置くところがある。書斎椅子って、こういうのをいうんだろう。座ってみたいな、と思った。
デスクを囲むように、白いスチール製の棚と、大きな本棚が並んでいた。それから、飾り棚っていうんだろうか? ガラスの扉がついた、木の棚があった。
棚の中には、盾が置いてあった。カップも。金色と、銀色の。賞品として、贈られるような……。たくさんありすぎて、数を数える気にはならなかった。
「『チェス』……。『全国大会』、『準優勝』?」
ガラスごしに、盾に書かれた文字を読んで、えっ?となった。
他の盾や、カップについてるプレートを見た。「優勝」と書いてあるものも、あった。
「沢野さん。これ……」
「それはね。僕の趣味」
「チェス?」
「うん。大会に出たりしてる。アマチュアだよ。プロじゃない」
「すごいじゃないですか。優勝、って」
「そうでもないよ」
ほっぺたが、赤くなってた。てれてるみたいだった。
「向こうに行こう」
ドアまで、先に歩いていってしまった。
あたしは、まだここにいたかったけど。沢野さんが行ってしまったから、しかたなくついていった。
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