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2.スイート・キング1
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「西東さん。沢野さん。占いって、興味ありませんか?」
「ある……かな。できるの?」
「はい」
「自信がありそうだね。こわいなー」
沢野さんが、冗談めかして言った。
「当たるんですよ。こわいくらい……」
後ろから言うと、沢野さんの体が、びくーっとした。
「そこにいたんだ」
「ごめんなさい」
「いいよ。歌穂ちゃんに気を取られてた」
もう「歌穂ちゃん」なんだ……と思って、ちょっとびっくりした。歌穂の顔を見る。とくに、いやそうには見えなかった。
座卓を四人で囲んで、座った。
「この中から、三枚選んでください。引き終わったら、裏返してください」
わたしがしてもらったのと同じ。大アルカナから、三枚引いて、占うやり方だとわかった。
「俺から?」
礼慈さんが、礼慈さんのななめ左にいる沢野さんに聞いた。
沢野さんが、「どーぞ、どーぞ」と言った。
礼慈さんがカードを引く。みんなで、大きな手をじっと見ていた。
「視線が痛い」
「ごめんなさい」
礼慈さんは、三枚のカードをゆっくり選んだ。
皇帝、恋人、審判だった。
「責任感の強さを表すカードが出てます。あと、……結婚、とか」
礼慈さんの目が、わたしを見た。えっ?と思って、見つめ返していると、ぱっと視線がそらされた。
「考えてるの? 結婚っ」
沢野さんが、すごい勢いで食いついた。
「いいから。そういうのは」
「なんで? 公開プロポーズする? 今、ここで」
「ここでは、しない。ふざけてるみたいに、思われたくない」
礼慈さんの頬が、うっすらと赤くなっていた。てれてる理由は、よくわからなかったけれど、結婚願望がないわけじゃないっていうことだけは、なんとなくわかった。うれしかった。
「審判は、そのまま捉えれば、復活ですね。再生した、とか。
あたしのイメージだと、天使が吹くラッパで、目がさめる、みたいな……」
「合ってるじゃん!」
「お前が言うな。……合ってるけど」
沢野さんと礼慈さんのやりとりは、なんだか、若手の芸人さんみたいだった。
「ぼやっとした占いしかできなくて、すいません。
今は、いい状況だと思います」
「ありがとう」
「じゃあ、沢野さんも」
「はーい」
ひょいひょいっという感じで、裏返したカードの中から、さっと選んでしまった。一枚を取るのに、一秒もかかってない、みたいな……。
沢野さんが選んだカードは、隠者、戦車、運命の輪。
歌穂が、うーんとうなった。
「どういう感じ?」
沢野さんが、興味しんしんという様子で聞いた。
「運命の輪は、いい出会いとか、運命、チャンス到来とか、ですね。いいカードですよ。
隠者と戦車が、ちょっとわからないです。
このカードの絵だと、ゆるい猫みたいで、わからないと思うんですけど、一般的な版の隠者は、思慮深さとか、もの静かな感じで……。賢さを感じるカード。
戦車は、男性的な行動力、勝利、勇敢さを表すカード。
あたしの印象だと、ベクトルが正反対なので、読みとりづらいです。どっちかが、逆なのかな……。
沢野さんって、二面性あります?」
「ある」
礼慈さんが即答した。
「あ、そうなんですか。じゃあ、そのまんまなんですね」
「うん。そうだと思う」
「タロットって、ぼやっとした占いなんですよ。あたしがやると、とくに。
運命の輪が出ましたけど、『いい出会い』って? とか、それはいつなのか、これからなのか、もう過ぎたことなのかとか、そういうことは、わからないんです。
ただ、ご自分で選ばれたカードが、それぞれのカードの意味を暗示してる、としか言えないんです」
「うん。いや、面白いよ。自分のことも、占ったりするの?」
礼慈さんが聞いた。
「しますね。悩んだ時は、カードに聞くんですよ。
自分で選ぶんじゃなくて、カードに押しつけるんです。責任とか、選択を」
「面白いね。それ」
沢野さんが笑った。歌穂の顔が、一瞬だけ、すごく幼く……というか、かわいい感じになるのを見てしまった。
歌穂が、はっきりとものを言って、さばさばしてるだけの子じゃないってことを、沢野さんが知ってしまう……。そわそわした。
歌穂は強いけど、その強さは、本当は傷つきやすい歌穂が、自分で作り上げた武器みたいなものだと、わたしは思っている。
だって、施設では、しょっちゅう泣いてた……。来たばっかりの頃は、とくに。
あの頃は、わたしが歌穂をなぐさめたりしていた。今では、お互いに、信じられないねって言って、笑い話になるようなこと。でも、そうだった……。
「おなかすいちゃった。お菓子、出していいですか」
とうとつに、ぜんぜん、べつのことを言った。歌穂が、ほっとしたようにわたしを見た。
「どうぞ」
礼慈さんが笑って、わたしも、ほっとした。
「ある……かな。できるの?」
「はい」
「自信がありそうだね。こわいなー」
沢野さんが、冗談めかして言った。
「当たるんですよ。こわいくらい……」
後ろから言うと、沢野さんの体が、びくーっとした。
「そこにいたんだ」
「ごめんなさい」
「いいよ。歌穂ちゃんに気を取られてた」
もう「歌穂ちゃん」なんだ……と思って、ちょっとびっくりした。歌穂の顔を見る。とくに、いやそうには見えなかった。
座卓を四人で囲んで、座った。
「この中から、三枚選んでください。引き終わったら、裏返してください」
わたしがしてもらったのと同じ。大アルカナから、三枚引いて、占うやり方だとわかった。
「俺から?」
礼慈さんが、礼慈さんのななめ左にいる沢野さんに聞いた。
沢野さんが、「どーぞ、どーぞ」と言った。
礼慈さんがカードを引く。みんなで、大きな手をじっと見ていた。
「視線が痛い」
「ごめんなさい」
礼慈さんは、三枚のカードをゆっくり選んだ。
皇帝、恋人、審判だった。
「責任感の強さを表すカードが出てます。あと、……結婚、とか」
礼慈さんの目が、わたしを見た。えっ?と思って、見つめ返していると、ぱっと視線がそらされた。
「考えてるの? 結婚っ」
沢野さんが、すごい勢いで食いついた。
「いいから。そういうのは」
「なんで? 公開プロポーズする? 今、ここで」
「ここでは、しない。ふざけてるみたいに、思われたくない」
礼慈さんの頬が、うっすらと赤くなっていた。てれてる理由は、よくわからなかったけれど、結婚願望がないわけじゃないっていうことだけは、なんとなくわかった。うれしかった。
「審判は、そのまま捉えれば、復活ですね。再生した、とか。
あたしのイメージだと、天使が吹くラッパで、目がさめる、みたいな……」
「合ってるじゃん!」
「お前が言うな。……合ってるけど」
沢野さんと礼慈さんのやりとりは、なんだか、若手の芸人さんみたいだった。
「ぼやっとした占いしかできなくて、すいません。
今は、いい状況だと思います」
「ありがとう」
「じゃあ、沢野さんも」
「はーい」
ひょいひょいっという感じで、裏返したカードの中から、さっと選んでしまった。一枚を取るのに、一秒もかかってない、みたいな……。
沢野さんが選んだカードは、隠者、戦車、運命の輪。
歌穂が、うーんとうなった。
「どういう感じ?」
沢野さんが、興味しんしんという様子で聞いた。
「運命の輪は、いい出会いとか、運命、チャンス到来とか、ですね。いいカードですよ。
隠者と戦車が、ちょっとわからないです。
このカードの絵だと、ゆるい猫みたいで、わからないと思うんですけど、一般的な版の隠者は、思慮深さとか、もの静かな感じで……。賢さを感じるカード。
戦車は、男性的な行動力、勝利、勇敢さを表すカード。
あたしの印象だと、ベクトルが正反対なので、読みとりづらいです。どっちかが、逆なのかな……。
沢野さんって、二面性あります?」
「ある」
礼慈さんが即答した。
「あ、そうなんですか。じゃあ、そのまんまなんですね」
「うん。そうだと思う」
「タロットって、ぼやっとした占いなんですよ。あたしがやると、とくに。
運命の輪が出ましたけど、『いい出会い』って? とか、それはいつなのか、これからなのか、もう過ぎたことなのかとか、そういうことは、わからないんです。
ただ、ご自分で選ばれたカードが、それぞれのカードの意味を暗示してる、としか言えないんです」
「うん。いや、面白いよ。自分のことも、占ったりするの?」
礼慈さんが聞いた。
「しますね。悩んだ時は、カードに聞くんですよ。
自分で選ぶんじゃなくて、カードに押しつけるんです。責任とか、選択を」
「面白いね。それ」
沢野さんが笑った。歌穂の顔が、一瞬だけ、すごく幼く……というか、かわいい感じになるのを見てしまった。
歌穂が、はっきりとものを言って、さばさばしてるだけの子じゃないってことを、沢野さんが知ってしまう……。そわそわした。
歌穂は強いけど、その強さは、本当は傷つきやすい歌穂が、自分で作り上げた武器みたいなものだと、わたしは思っている。
だって、施設では、しょっちゅう泣いてた……。来たばっかりの頃は、とくに。
あの頃は、わたしが歌穂をなぐさめたりしていた。今では、お互いに、信じられないねって言って、笑い話になるようなこと。でも、そうだった……。
「おなかすいちゃった。お菓子、出していいですか」
とうとつに、ぜんぜん、べつのことを言った。歌穂が、ほっとしたようにわたしを見た。
「どうぞ」
礼慈さんが笑って、わたしも、ほっとした。
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