30 / 206
2.スイート・キング1
2-8
しおりを挟む
「西東さん。沢野さん。占いって、興味ありませんか?」
「ある……かな。できるの?」
「はい」
「自信がありそうだね。こわいなー」
沢野さんが、冗談めかして言った。
「当たるんですよ。こわいくらい……」
後ろから言うと、沢野さんの体が、びくーっとした。
「そこにいたんだ」
「ごめんなさい」
「いいよ。歌穂ちゃんに気を取られてた」
もう「歌穂ちゃん」なんだ……と思って、ちょっとびっくりした。歌穂の顔を見る。とくに、いやそうには見えなかった。
座卓を四人で囲んで、座った。
「この中から、三枚選んでください。引き終わったら、裏返してください」
わたしがしてもらったのと同じ。大アルカナから、三枚引いて、占うやり方だとわかった。
「俺から?」
礼慈さんが、礼慈さんのななめ左にいる沢野さんに聞いた。
沢野さんが、「どーぞ、どーぞ」と言った。
礼慈さんがカードを引く。みんなで、大きな手をじっと見ていた。
「視線が痛い」
「ごめんなさい」
礼慈さんは、三枚のカードをゆっくり選んだ。
皇帝、恋人、審判だった。
「責任感の強さを表すカードが出てます。あと、……結婚、とか」
礼慈さんの目が、わたしを見た。えっ?と思って、見つめ返していると、ぱっと視線がそらされた。
「考えてるの? 結婚っ」
沢野さんが、すごい勢いで食いついた。
「いいから。そういうのは」
「なんで? 公開プロポーズする? 今、ここで」
「ここでは、しない。ふざけてるみたいに、思われたくない」
礼慈さんの頬が、うっすらと赤くなっていた。てれてる理由は、よくわからなかったけれど、結婚願望がないわけじゃないっていうことだけは、なんとなくわかった。うれしかった。
「審判は、そのまま捉えれば、復活ですね。再生した、とか。
あたしのイメージだと、天使が吹くラッパで、目がさめる、みたいな……」
「合ってるじゃん!」
「お前が言うな。……合ってるけど」
沢野さんと礼慈さんのやりとりは、なんだか、若手の芸人さんみたいだった。
「ぼやっとした占いしかできなくて、すいません。
今は、いい状況だと思います」
「ありがとう」
「じゃあ、沢野さんも」
「はーい」
ひょいひょいっという感じで、裏返したカードの中から、さっと選んでしまった。一枚を取るのに、一秒もかかってない、みたいな……。
沢野さんが選んだカードは、隠者、戦車、運命の輪。
歌穂が、うーんとうなった。
「どういう感じ?」
沢野さんが、興味しんしんという様子で聞いた。
「運命の輪は、いい出会いとか、運命、チャンス到来とか、ですね。いいカードですよ。
隠者と戦車が、ちょっとわからないです。
このカードの絵だと、ゆるい猫みたいで、わからないと思うんですけど、一般的な版の隠者は、思慮深さとか、もの静かな感じで……。賢さを感じるカード。
戦車は、男性的な行動力、勝利、勇敢さを表すカード。
あたしの印象だと、ベクトルが正反対なので、読みとりづらいです。どっちかが、逆なのかな……。
沢野さんって、二面性あります?」
「ある」
礼慈さんが即答した。
「あ、そうなんですか。じゃあ、そのまんまなんですね」
「うん。そうだと思う」
「タロットって、ぼやっとした占いなんですよ。あたしがやると、とくに。
運命の輪が出ましたけど、『いい出会い』って? とか、それはいつなのか、これからなのか、もう過ぎたことなのかとか、そういうことは、わからないんです。
ただ、ご自分で選ばれたカードが、それぞれのカードの意味を暗示してる、としか言えないんです」
「うん。いや、面白いよ。自分のことも、占ったりするの?」
礼慈さんが聞いた。
「しますね。悩んだ時は、カードに聞くんですよ。
自分で選ぶんじゃなくて、カードに押しつけるんです。責任とか、選択を」
「面白いね。それ」
沢野さんが笑った。歌穂の顔が、一瞬だけ、すごく幼く……というか、かわいい感じになるのを見てしまった。
歌穂が、はっきりとものを言って、さばさばしてるだけの子じゃないってことを、沢野さんが知ってしまう……。そわそわした。
歌穂は強いけど、その強さは、本当は傷つきやすい歌穂が、自分で作り上げた武器みたいなものだと、わたしは思っている。
だって、施設では、しょっちゅう泣いてた……。来たばっかりの頃は、とくに。
あの頃は、わたしが歌穂をなぐさめたりしていた。今では、お互いに、信じられないねって言って、笑い話になるようなこと。でも、そうだった……。
「おなかすいちゃった。お菓子、出していいですか」
とうとつに、ぜんぜん、べつのことを言った。歌穂が、ほっとしたようにわたしを見た。
「どうぞ」
礼慈さんが笑って、わたしも、ほっとした。
「ある……かな。できるの?」
「はい」
「自信がありそうだね。こわいなー」
沢野さんが、冗談めかして言った。
「当たるんですよ。こわいくらい……」
後ろから言うと、沢野さんの体が、びくーっとした。
「そこにいたんだ」
「ごめんなさい」
「いいよ。歌穂ちゃんに気を取られてた」
もう「歌穂ちゃん」なんだ……と思って、ちょっとびっくりした。歌穂の顔を見る。とくに、いやそうには見えなかった。
座卓を四人で囲んで、座った。
「この中から、三枚選んでください。引き終わったら、裏返してください」
わたしがしてもらったのと同じ。大アルカナから、三枚引いて、占うやり方だとわかった。
「俺から?」
礼慈さんが、礼慈さんのななめ左にいる沢野さんに聞いた。
沢野さんが、「どーぞ、どーぞ」と言った。
礼慈さんがカードを引く。みんなで、大きな手をじっと見ていた。
「視線が痛い」
「ごめんなさい」
礼慈さんは、三枚のカードをゆっくり選んだ。
皇帝、恋人、審判だった。
「責任感の強さを表すカードが出てます。あと、……結婚、とか」
礼慈さんの目が、わたしを見た。えっ?と思って、見つめ返していると、ぱっと視線がそらされた。
「考えてるの? 結婚っ」
沢野さんが、すごい勢いで食いついた。
「いいから。そういうのは」
「なんで? 公開プロポーズする? 今、ここで」
「ここでは、しない。ふざけてるみたいに、思われたくない」
礼慈さんの頬が、うっすらと赤くなっていた。てれてる理由は、よくわからなかったけれど、結婚願望がないわけじゃないっていうことだけは、なんとなくわかった。うれしかった。
「審判は、そのまま捉えれば、復活ですね。再生した、とか。
あたしのイメージだと、天使が吹くラッパで、目がさめる、みたいな……」
「合ってるじゃん!」
「お前が言うな。……合ってるけど」
沢野さんと礼慈さんのやりとりは、なんだか、若手の芸人さんみたいだった。
「ぼやっとした占いしかできなくて、すいません。
今は、いい状況だと思います」
「ありがとう」
「じゃあ、沢野さんも」
「はーい」
ひょいひょいっという感じで、裏返したカードの中から、さっと選んでしまった。一枚を取るのに、一秒もかかってない、みたいな……。
沢野さんが選んだカードは、隠者、戦車、運命の輪。
歌穂が、うーんとうなった。
「どういう感じ?」
沢野さんが、興味しんしんという様子で聞いた。
「運命の輪は、いい出会いとか、運命、チャンス到来とか、ですね。いいカードですよ。
隠者と戦車が、ちょっとわからないです。
このカードの絵だと、ゆるい猫みたいで、わからないと思うんですけど、一般的な版の隠者は、思慮深さとか、もの静かな感じで……。賢さを感じるカード。
戦車は、男性的な行動力、勝利、勇敢さを表すカード。
あたしの印象だと、ベクトルが正反対なので、読みとりづらいです。どっちかが、逆なのかな……。
沢野さんって、二面性あります?」
「ある」
礼慈さんが即答した。
「あ、そうなんですか。じゃあ、そのまんまなんですね」
「うん。そうだと思う」
「タロットって、ぼやっとした占いなんですよ。あたしがやると、とくに。
運命の輪が出ましたけど、『いい出会い』って? とか、それはいつなのか、これからなのか、もう過ぎたことなのかとか、そういうことは、わからないんです。
ただ、ご自分で選ばれたカードが、それぞれのカードの意味を暗示してる、としか言えないんです」
「うん。いや、面白いよ。自分のことも、占ったりするの?」
礼慈さんが聞いた。
「しますね。悩んだ時は、カードに聞くんですよ。
自分で選ぶんじゃなくて、カードに押しつけるんです。責任とか、選択を」
「面白いね。それ」
沢野さんが笑った。歌穂の顔が、一瞬だけ、すごく幼く……というか、かわいい感じになるのを見てしまった。
歌穂が、はっきりとものを言って、さばさばしてるだけの子じゃないってことを、沢野さんが知ってしまう……。そわそわした。
歌穂は強いけど、その強さは、本当は傷つきやすい歌穂が、自分で作り上げた武器みたいなものだと、わたしは思っている。
だって、施設では、しょっちゅう泣いてた……。来たばっかりの頃は、とくに。
あの頃は、わたしが歌穂をなぐさめたりしていた。今では、お互いに、信じられないねって言って、笑い話になるようなこと。でも、そうだった……。
「おなかすいちゃった。お菓子、出していいですか」
とうとつに、ぜんぜん、べつのことを言った。歌穂が、ほっとしたようにわたしを見た。
「どうぞ」
礼慈さんが笑って、わたしも、ほっとした。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる