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2.スイート・キング1
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クリスマスの次の日は、歌穂と会う約束をしていた。
わざわざ、新宿から、わたしに会いにきてくれることになった。
礼慈さんには、歌穂と会うことは伝えてあった。この部屋に誘えそうだったら、誘ってほしいとも言われていた。
待ち合わせの場所は、昨日、沢野さんと会ったカフェにした。
わたしのおごりで、歌穂に、なにかおいしいものを食べさせてあげたい。
昨日は、ぜんぜん思いつかなかったけれど。よく考えたら、カフェでも、テイクアウトができるケーキを売っていたので、クリスマスのケーキは、あそこで買ってもよかったなと思って、反省していた。
わたしのわがままで、ケーキのために、礼慈さんをつれ回してしまったような気がしていた。
カフェの前に立って、歌穂がくるのを待っていた。
たまに、視線を感じたような気がした。でも、わたしがスマートフォンを見たり、意味もないのに、何度も腕時計を見たりしているうちに、それもなくなっていった。
礼慈さんから、昨日言われたことが、今日になっても、胸にひっかかっていた。
本屋さんで、誰かが、わたしを見ていたってこと。わからなかったと言い張ったけれど、本当は、わかっていたのかもしれない。でも、いちいち、気にしていられない……とも、思う。
学校に通っていた頃は、いろんなトラブルに巻きこまれることがあった。わたしが、なんとも思っていない男の子の彼女や、その男の子のことが好きな女の子から、ひどいことを言われたり、されたり……。
わけがわからなかった。そういうことが続くうちに、男の子や、男の人とは、あまり関わらないようにするようになった。
そうしたら、すごく楽になった。だから、ずっと、そのまま、生きてきてしまった。
社会人になった時に、これまでのことをふり返って、男の人との関わり方を考えるべきだったんだと思う。
礼慈さんみたいな人が、そばにいてくれていたら……。ちゃんと自分を見つめ直すことが、できたのかもしれない。
「祐奈」
すぐ近くから、声をかけられた。顔を上げる。
「歌穂ー」
目の前に、歌穂がいた。
ほっとした。歌穂は、とてもきれいな顔をしている。きりっとした美人の歌穂が、わたしのそばにいてくれると、他の人からの視線を気にせずに、いつもどおりに振るまえるような気がしていた。
まだ施設にいた時から、ずっと、歌穂は、わたしの心の支えだった。
「このカフェ?」
「うん。ここで、いい?」
「いいよ」
中に入ると、歌穂は、店員さんの案内を待たずに、昨日と同じ、一番奥の席まで、先に歩いていってくれた。
「席、ここでいい?」
「うん」
わたしが座った椅子は、昨日と同じだった。歌穂は、沢野さんが座っていた椅子に座った。
「元気そうで、よかった。あれから、どうなったの?」
「うん……」
どう説明したらいいのか、よくわからなかった。
歌穂は、わたしを急かしたりしないで、待ってくれている。
「あのね、あの……」
「なに?」
「わたし、西東さんと、つき合うことになったの」
「え。ほんとに?」
「うん……」
「おめでとう。よかったね」
「歌穂は? この前、言ってたこと。あの……」
「うん。あの仕事は、もうしてないよ」
「ほんと。よかった……。よかったって、言ったら、よくなかった?」
「ううん。今はただ、通帳の残高を見ては、にやにやしてる」
「にやにやしてるんだ」
「うん」
「よかったね。おめでとうー!」
「そっちこそ。今日は祝杯だね」
「そう、だね。
あのね……。歌穂がいやじゃなかったら、今日、うちに……ちがう、西東さんの部屋に、行かない?」
「えぇっ?」
「西東さんね、歌穂に会いたいんだって」
「ほんとに?! わっかんないなー。あの人、変わってるよね」
「うん……」
「祐奈もだけどね。いいよ。行っても」
「ほんと。ちょっと、待ってね……」
LINEの画面を開いた。『歌穂が行きます』と書いて、礼慈さんに送った。
ケーキセットを、二人で、時間をかけて食べた。
歌穂は、元気そうだった。前に会った時よりも、明るくなったように見えた。
わざわざ、新宿から、わたしに会いにきてくれることになった。
礼慈さんには、歌穂と会うことは伝えてあった。この部屋に誘えそうだったら、誘ってほしいとも言われていた。
待ち合わせの場所は、昨日、沢野さんと会ったカフェにした。
わたしのおごりで、歌穂に、なにかおいしいものを食べさせてあげたい。
昨日は、ぜんぜん思いつかなかったけれど。よく考えたら、カフェでも、テイクアウトができるケーキを売っていたので、クリスマスのケーキは、あそこで買ってもよかったなと思って、反省していた。
わたしのわがままで、ケーキのために、礼慈さんをつれ回してしまったような気がしていた。
カフェの前に立って、歌穂がくるのを待っていた。
たまに、視線を感じたような気がした。でも、わたしがスマートフォンを見たり、意味もないのに、何度も腕時計を見たりしているうちに、それもなくなっていった。
礼慈さんから、昨日言われたことが、今日になっても、胸にひっかかっていた。
本屋さんで、誰かが、わたしを見ていたってこと。わからなかったと言い張ったけれど、本当は、わかっていたのかもしれない。でも、いちいち、気にしていられない……とも、思う。
学校に通っていた頃は、いろんなトラブルに巻きこまれることがあった。わたしが、なんとも思っていない男の子の彼女や、その男の子のことが好きな女の子から、ひどいことを言われたり、されたり……。
わけがわからなかった。そういうことが続くうちに、男の子や、男の人とは、あまり関わらないようにするようになった。
そうしたら、すごく楽になった。だから、ずっと、そのまま、生きてきてしまった。
社会人になった時に、これまでのことをふり返って、男の人との関わり方を考えるべきだったんだと思う。
礼慈さんみたいな人が、そばにいてくれていたら……。ちゃんと自分を見つめ直すことが、できたのかもしれない。
「祐奈」
すぐ近くから、声をかけられた。顔を上げる。
「歌穂ー」
目の前に、歌穂がいた。
ほっとした。歌穂は、とてもきれいな顔をしている。きりっとした美人の歌穂が、わたしのそばにいてくれると、他の人からの視線を気にせずに、いつもどおりに振るまえるような気がしていた。
まだ施設にいた時から、ずっと、歌穂は、わたしの心の支えだった。
「このカフェ?」
「うん。ここで、いい?」
「いいよ」
中に入ると、歌穂は、店員さんの案内を待たずに、昨日と同じ、一番奥の席まで、先に歩いていってくれた。
「席、ここでいい?」
「うん」
わたしが座った椅子は、昨日と同じだった。歌穂は、沢野さんが座っていた椅子に座った。
「元気そうで、よかった。あれから、どうなったの?」
「うん……」
どう説明したらいいのか、よくわからなかった。
歌穂は、わたしを急かしたりしないで、待ってくれている。
「あのね、あの……」
「なに?」
「わたし、西東さんと、つき合うことになったの」
「え。ほんとに?」
「うん……」
「おめでとう。よかったね」
「歌穂は? この前、言ってたこと。あの……」
「うん。あの仕事は、もうしてないよ」
「ほんと。よかった……。よかったって、言ったら、よくなかった?」
「ううん。今はただ、通帳の残高を見ては、にやにやしてる」
「にやにやしてるんだ」
「うん」
「よかったね。おめでとうー!」
「そっちこそ。今日は祝杯だね」
「そう、だね。
あのね……。歌穂がいやじゃなかったら、今日、うちに……ちがう、西東さんの部屋に、行かない?」
「えぇっ?」
「西東さんね、歌穂に会いたいんだって」
「ほんとに?! わっかんないなー。あの人、変わってるよね」
「うん……」
「祐奈もだけどね。いいよ。行っても」
「ほんと。ちょっと、待ってね……」
LINEの画面を開いた。『歌穂が行きます』と書いて、礼慈さんに送った。
ケーキセットを、二人で、時間をかけて食べた。
歌穂は、元気そうだった。前に会った時よりも、明るくなったように見えた。
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