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2.スイート・キング1

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「それも、欲しいけど買えなかった?」
「うーん……。憧れのアイテムのひとつでは、ありました。でも、買うほどじゃなかったです。
 お化粧は、どちらかというと、『しなきゃいけないもの』で、お化粧することを、楽しいとは、思ってなかったです。
 西東さんと、デートするようになってからです。そういうの……お化粧とか、おしゃれとかが、ほんとに、楽しいと思えたのは」
「祐奈。名前」
「……あっ」
「どきっとするから。やめて」
「名字で呼んだ方が、どきっとするの?」
「まあ……うん。年の差を感じるから、だろうな」
「そうなの……」
 びっくりしていた。
 わたしは、礼慈さんの、この、ちょっとめずらしい漢字の名字が好きだった。歌穂の名字が「南」で、南と、西と東、というのが、なんだかいいなと思っていた。
 わたしの名字に「北」が入っていたら、もっと、すごい感じになったのにな……。
 くだらないことを考えながら、礼慈さんのそばにいた。
 上の方から、じっと見られてるような気がして、落ちつかなかった。礼慈さんの視線には、力がある……と思う。
 目力があるから? それとも、わたしが、勝手にどきどきしてるだけ?

 駅ビルから、商店街に向かう途中で、フライドチキンのセットを買った。テンションが上がった。
 最後に、商店街のケーキ屋さんに行って、ケーキを買った。
 買ったものは、礼慈さんが持ってくれた。

 二人で、礼慈さんの部屋に戻った。

 夕ごはんは、もちろん、買ってきたフライドチキンを食べることになった。
 まだ、あたたかいような気もしたけれど、レンジで、少しだけ温めることにした。
 昨日買ったバゲットが、まだ半分以上残っていたので、ぜんぶ切った。トースターで、四つだけ温めた。
「ワインとか、あった方がよかったですか?」
「えぇ? 飲まない。君も飲めないだろう」
「そうですけど……。クリスマスって、なにをすればいいのか、本当には、わかってません」
「俺もだよ。子供の頃から、ケーキが出てくる日だっていう認識しかない」
「そうですよね。施設でも、出てきました。おいしかったです」
「……うん」
「ビールは? 出しましょうか」
「いいよ。今日は、飲まない」

 フライドチキンは、味が濃かった。でも、おいしかった。
「おいしいです」
「来年は、自分で焼きたいな。食べさせてあげたい」
「えっ。あ、ありがとう……ございます」
 来年? 来年のクリスマスも、ここで、暮らしていて、いいってこと?
 頭が、ぼうっとしてしまった。あまりにも、うれしすぎて……。
「うん。まあ、話半分に聞いておいて。
 味、濃くない?」
「濃いけど。おいしいー」
 心が、ふにゃっとしていた。礼慈さんに向かって、笑いかけたつもりだったけれど、びみょうな顔をされた。少し、へこんだ。
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