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第2話『狂気の流血殺曲芸』2
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オルガナは席に戻ると、他の客を気にせず食事に戻る。
「うめぇ! ここの肉は最高だな」
能天気なオルガナをウェイトレスは心配そうに見つめる。
ウェイトレスの視線に気付いたオルガナは口に目一杯頬張りながら尋ねる。
「どおちたぁんだぁ。 ほがにぃもぉなんがあるんがぁ?」
ウェイトレスは重苦しい表情で俯く。
そして、ウェイトレスはオルガナの前まで行くと、他の客に聞こえない程の声で話し出す。
「貴方、タダじゃ済まない。早くこの町から逃げてください!」
オルガナは口に入っていたものを一気に飲み込むと、首を傾げる。
「アイツらがそんなに怖いのか?」
「貴方が追い払った方々はアクバ様の抱える兵士です」
「アクバ?」
「この街を仕切る長です! 彼の妖術の前では……」
オルガナはウェイトレスをハッとした表情で見つめる。
妖術? もしかしたら、ソイツが!
オルガナは食べるのを止めると、ウェイトレスに笑みを溢す。
「心配してくれてありがとな! 俺なら大丈夫。そういえば、怪我とか無かったか?」
店に居る連中は、あっけらかんとするオルガナの顔をじっと見つめる。
ウェイトレスはオルガナの自身を心配して掛けた言葉に感動で目に涙を溜めて深く俯く。
「ええ。大丈夫です……」
「そりゃ良かった!」
そして、再び食べ始めるオルガナは店の壁に貼られた大きなポスターを凝視する。
『強者求む! 戦いに勝った者には賞金100万ヒニヤ!』
オルガナは徐に自身の鞄の財布を取り出し、所持金を確認する。
あと、7000ヒニヤしかない……。次の旅先まで持たないな。
× × ×
空になった大皿を前にオルガナは満足そうに膨れた腹を撫で回している。
「いやー、美味かったな!」
すると、オルガナは手を合わせて目を瞑る。
「ご馳走様でした」
辺りを見ると他の客はすっかり居なくなり店内はオルガナとウェイトレス、厨房から出てこない店主のみだった。
オルガナは席を立つとレジに立つウェイトレス向かって歩き出す。
「料理旨かったぜ! また来るよ」
オルガナがウェイトレスの顔を見ると、暗い表情を浮かべている。
「どうかしたか?」
ウェイトレスは急いで笑顔を作る。
「あ、ありがとうございました! お代は1500ヒニヤです!」
「これで頼む」
オルガナは財布から2000ヒニヤを出すと、レジ横のトレーに置く。
ウェイトレスはトレーから二枚のお札を受け取るとレジを開けて硬貨を取り出す。
「2000ヒニヤですね! お釣りの500ヒニヤです!」
オルガナは釣り銭を受け取ると、ウェイトレスに尋ねる。
「質問なんだが、この辺になるべく安い宿は無いか?」
「えっと、でしたら町の北にある民宿のパリュアという所が良いと思います。一泊あたり2500ヒニヤ程でした」
「北にあるパリュアだな! そこに行ってみるよ! ありがとう」
すると、オルガナはウェイトレスにそっと耳打ちする。
「もし困ったことがあったら宿を訪ねて来い。匿うぞ」
「えっ……」
ウェイトレスは動揺し、体が硬直する。
オルガナは店主が居るキッチンの方を向く。
「あそこからはドス黒い嫌な気が流れている」
そう囁くと、オルガナは店を出て行く。
ウェイトレスは去っていくオルガナの後ろ姿を名残惜しそうに見つめる。
「ありがとう……」
店主は立ち去るオルガナを冷めた目で睨みつける。
「チッ……。余計なことしやがって!」
オルガナが見えなくなると厨房から店主の中太りの背が大きな男、店主オウアルが出てくる。
すると、店の暖簾を手早く撤去し、窓に付けられた全てのブラインドを降ろして外からの視界を遮断する。
最後にドアを施錠し、不適な笑みを浮かべるとゆっくりウェイトレスの方へ向かっていく。
「チッ! あの女のせいで面倒事が増えちまった」
オウアルはカチャカチャと音を立てながらズボンのベルトを外し始める。
「服、脱げ」
ウェイトレスは暗く俯くと、か細い声で返事を返す。
「はい……」
オウアルは不服そうにウェイトレスの顔を眺める。
「何だ?その顔は」
汗だくで走るポルマーたちの目の前には、まるでコロッセオのような街の中央に聳え立つ闘技場がある。
そして、三人は闘技場の受付に入ると壁に備え付けられた大きなモニター型のデバイスを起動する。
『ウォゥン!』
デバイスが起動し、濃い紫色の頭巾で顔を覆った男が映し出される。
『何があった?』
ポルマーたちは頭巾の男に跪くと、深く頭を下げる。
「実は、先程エナスの酒場で白髪の若い女が現れ、我らに反抗しました!
見てください! このカジュルの腕を!」
カジュルは啜り泣きながら手形状に窪んだ両腕を頭巾の男に見せる。
「私も剣をやられました……」
バルチはへし折れた剣を目の前に置く。
ポルマーは歯を食いしばり、悔しそうに頭巾の男に訴える。
「アプリス様、我らアクバ親衛隊に逆らった時点でこの街では重罪!
ヤツを指名手配して下さいませ!」
血走った眼で訴えかける三人を呆れた表情でアプリスは見下ろす。
『ほう……。貴様らは三人も居て、女一人にも勝てなかったのか』
アプリスの一言に三人は息を呑む。
「アイツ、凄く強くて……」
カジュルの発言にアプリスは形相を変える。
『口答えをするなァッ!』
三人に向かってアプリスが右の手のひらを向けると、手が赤黒く発光し始める。
すると、三人は窒息し顔を真っ赤にして倒れ込む。
「お……お許しをぉぉ」
今にも消えそうな声でポルマーが懇願すると、アプリスが手を下ろす。
「「「「「「パァァァァッ!」」」」」」
脂汗をかいた三人は一斉に無我夢中で呼吸する。
『その女はどんな姿をしていた?』
大きく息をしながら呼吸を整え、パルマーはオルガナの容姿について話した。
× × ×
『腰に変わった形の剣を付けていたか……』
「はい。まるで蒼い蝶の羽のような形でした」
パルマーの説明で思い出したようにアプリスは左腕につけた腕時計型の液晶画面が付いたデバイスを操作する。
『カタスト将軍を倒した娘がこの街にいるのか……』
「あの娘が……」
三人は口を開けて唖然と立ち尽くす。
『我々は覚醒者に対しての商いでこの地位を築いてきた。
その女の存在は街の存亡に関わる』
アプリスはデバイスを操作して、どこかにメッセージを送る。
『アクバ様には情報を伝えた。
何としてでもこの街で仕留める』
『ピィンッ!』
デバイスを操作して、アプリスは届いたメッセージを黙読すると不適な笑みを浮かべた。
『ほう?光の力を吸引するとは……。これで私たちも近いうちに高等覚醒者になれるかもしれない。
流石、アクバ様!』
デバイスを閉じると三人の手についたデバイスに生中継の監視カメラが捉えているオルガナのデータを送る。
三人はデバイスを凝視すると、憎らしそうに睨みつける。
『ヤツは旅館を探しているようだ。一体の旅館の値段を跳ね上げよ!
この一体は、昼は灼熱。夜は極寒という地域で泊まる場所がなければ流石に
そして、ヤツを武道大会に誘導するのだ』
「わかりました」
パルマーたちは深々とお辞儀をすると画面が消え、三人は案内所を後にする。
夕日で橙色に照らされた繁華街をオルガナは進み、ウェイトレスに聞いた旅館へ向かっていた。
「すみません。この辺に旅館があると聞いたんですが……」
オルガナが薄汚れた服装で褐色の爺さんに話しかけると、不機嫌そうに通りの傍にある古びた旅館を指差す。
「教えてくださりありがとうございます」
オルガナが頭を下げて旅館に向かおうとすると、爺さんはオルガナを呼び止める。
「ちょっとアンタ、見るからにこの辺の者じゃ無さそうだが旅人か?」
「ああ」
「こんな治安が悪い辺境の地に一体、何の用がある?」
「ちと用があってね」
オルガナがそう言った瞬間に爺さんの瞳が黒から黄色に変化し、直ぐに元へ戻る。
「訳ありか……。その用とやらが済んだら、さっさと去ることだ。
きっと、難しいとは思うがな……」
「爺さん今、何したんだ?」
「アンタの属性を見たんじゃよ。光の使いで、その腰の剣……」
オルガナは咄嗟に剣を庇うように身構える。
「安心しろ。俺はアンタを止める気はさらさら無い。
むしろ、やろうとしていることには大賛成だ」
敵意の無い爺さんの清いオーラを感じたオルガナは警戒を解く。
そして、爺さんをよく見ると、さっき会ったウェイトレスのような紋章が首に付けられている。
「その紋章……。一体何なんだ?
さっき話したウェイトレスにも似たようなのがあった」
爺さんは俯き、目に涙を貯める。
「そうか。アンタはあの娘と会っていたのか……」
オルガナは爺さんの悲痛な顔からこの国の闇を察した。
「この国では生まれながらに人種で価値が決められている……
我らマタフォティアに自由は許されない」
オルガナは聞き覚えのある人種に過去の微かな記憶を思い出していた。
マルコフと幼きオルガナは火の海になった街を眺めていた。
「なぁ……。いつになったら平和ってやつが来るんだ?
怪物たちだけじゃなくて人間同士が殺し合っている。
この世界は一体何なんだよ!」
オルガナの悲しみに暮れる視線の先にはまだ幼い、首に鎖が付けられた褐色の子供たちが逃げることができずに死んでした。
マルコフは震えながら涙を流すオルガナの肩に優しく手を添える。
「これじゃ……救ってもキリがないよ」
「彼らはマタフォティアという民族だ。
かつて、この世界に栄えた七つの文明の火を司る者たち。
そして、強さゆえに恐れられ、迫害された者たちだ」
マルコフは目を瞑ると、手を合わせて幼き彼らの追悼をする。
「どうか、安らかに眠ってくれ……」
そう言うと、マルコフは槍を子供達に向ける。
槍は激しく発光すると、矢尻から光の矢が発射される。
『バシュゥゥゥンッ!』
矢は子供たちの鎖を光の矢で次々に破壊していく。
そして、大きな矢を地面に向けて放つ。
『ドゴォォォォォォォン!』
轟音が鳴り、土煙が巻き起こる。
すると、地面に大きな穴が空いていた。
「埋葬するぞ……」
マルコフは子供たちを魔法で浮かせると、穴にそっと入れていく。
その光景をオルガナは弔うために手を合わせながら見つめた。
マルコフは魔法で穴を塞ぐとオルガナを抱きしめる。
「お前がこの子たちを思う気持ちは決して無駄じゃない。
その気持ちを忘れるんじゃないぞ」
悲しそうに俯く爺さんを見つめると、オルガナは優しく微笑んだ。
「爺さん、そんな顔すんな! 俺がもう直ぐにこの国を変えてみせる。
だから、それまで希望を捨てんじゃねぇよ」
オルガナは爺さんの肩を優しく叩くと宿の方へ去って行く。
爺さんは気付くと涙を流していた。
「アンタも生まれながらにして業を背負っているのに……
この先、更なる試練が待っておるのか」
オルガナは大きな木造の宿前に着くと、そこには人々が溢れかえり張り紙の前で文句を言っていた。
オルガナは人を掻き分けて張り紙を見ると、価格改定の内容とオルガナに似た容姿の似顔絵があった。
『アプリス様の命令で宿の値段を急遽上げさせてもらいます。
休憩 3000ヒニヤ
一泊 20000ヒニヤ
尚、この旅の者が今夜行われる流血殺曲芸に参加しない場合は日常品に更なる価格改訂を行うものとする』
オルガナは視線を感じて辺りを見回すと鬼の様な形相を浮かべた人々に睨みつけられていた。
「貴様ァ!」
「お前のせいで俺たちは!」
隣に居た男にオルガナは胸ぐらを掴まれると、ある異変に気が付く。
「なんだ、この黒いのは……」
人々の体から黒い煙の様なオーラがジワジワと溢れるように出始める。
オルガナは空を見ると、街のあちこちから黒いオーラが出ていた。
「やっちまえ!」
男の号令と共に人々が襲いかかると、オルガナは咄嗟に義手のトリガーを引いて地面に閃光弾を発射する。
『パァァァァン!』
一同が激しい光で目を覆うとオルガナは体に黄色い光を纏う。
≪閃光≫
オルガナは地面を蹴って人々を一気に飛び越えると目を見開く。
『前より明らかに飛距離が伸びている……』
襲って来た村人たちから三十メートル程離れた場所に着地したオルガナはその場を後にする。
オルガナは隠れるように高架下へ逃げ込むと、黒い煙状のオーラが街の中心にある大きな城のような建物へ吸い込まれるように集まって行くのに気が付く。
「あそこに居るのか……」
周囲に立ち込める黒いオーラがどんどん増している。
行くしか無いみたいだな……。
オルガナは大きく息を呑んだ。
To Be Continued...
「うめぇ! ここの肉は最高だな」
能天気なオルガナをウェイトレスは心配そうに見つめる。
ウェイトレスの視線に気付いたオルガナは口に目一杯頬張りながら尋ねる。
「どおちたぁんだぁ。 ほがにぃもぉなんがあるんがぁ?」
ウェイトレスは重苦しい表情で俯く。
そして、ウェイトレスはオルガナの前まで行くと、他の客に聞こえない程の声で話し出す。
「貴方、タダじゃ済まない。早くこの町から逃げてください!」
オルガナは口に入っていたものを一気に飲み込むと、首を傾げる。
「アイツらがそんなに怖いのか?」
「貴方が追い払った方々はアクバ様の抱える兵士です」
「アクバ?」
「この街を仕切る長です! 彼の妖術の前では……」
オルガナはウェイトレスをハッとした表情で見つめる。
妖術? もしかしたら、ソイツが!
オルガナは食べるのを止めると、ウェイトレスに笑みを溢す。
「心配してくれてありがとな! 俺なら大丈夫。そういえば、怪我とか無かったか?」
店に居る連中は、あっけらかんとするオルガナの顔をじっと見つめる。
ウェイトレスはオルガナの自身を心配して掛けた言葉に感動で目に涙を溜めて深く俯く。
「ええ。大丈夫です……」
「そりゃ良かった!」
そして、再び食べ始めるオルガナは店の壁に貼られた大きなポスターを凝視する。
『強者求む! 戦いに勝った者には賞金100万ヒニヤ!』
オルガナは徐に自身の鞄の財布を取り出し、所持金を確認する。
あと、7000ヒニヤしかない……。次の旅先まで持たないな。
× × ×
空になった大皿を前にオルガナは満足そうに膨れた腹を撫で回している。
「いやー、美味かったな!」
すると、オルガナは手を合わせて目を瞑る。
「ご馳走様でした」
辺りを見ると他の客はすっかり居なくなり店内はオルガナとウェイトレス、厨房から出てこない店主のみだった。
オルガナは席を立つとレジに立つウェイトレス向かって歩き出す。
「料理旨かったぜ! また来るよ」
オルガナがウェイトレスの顔を見ると、暗い表情を浮かべている。
「どうかしたか?」
ウェイトレスは急いで笑顔を作る。
「あ、ありがとうございました! お代は1500ヒニヤです!」
「これで頼む」
オルガナは財布から2000ヒニヤを出すと、レジ横のトレーに置く。
ウェイトレスはトレーから二枚のお札を受け取るとレジを開けて硬貨を取り出す。
「2000ヒニヤですね! お釣りの500ヒニヤです!」
オルガナは釣り銭を受け取ると、ウェイトレスに尋ねる。
「質問なんだが、この辺になるべく安い宿は無いか?」
「えっと、でしたら町の北にある民宿のパリュアという所が良いと思います。一泊あたり2500ヒニヤ程でした」
「北にあるパリュアだな! そこに行ってみるよ! ありがとう」
すると、オルガナはウェイトレスにそっと耳打ちする。
「もし困ったことがあったら宿を訪ねて来い。匿うぞ」
「えっ……」
ウェイトレスは動揺し、体が硬直する。
オルガナは店主が居るキッチンの方を向く。
「あそこからはドス黒い嫌な気が流れている」
そう囁くと、オルガナは店を出て行く。
ウェイトレスは去っていくオルガナの後ろ姿を名残惜しそうに見つめる。
「ありがとう……」
店主は立ち去るオルガナを冷めた目で睨みつける。
「チッ……。余計なことしやがって!」
オルガナが見えなくなると厨房から店主の中太りの背が大きな男、店主オウアルが出てくる。
すると、店の暖簾を手早く撤去し、窓に付けられた全てのブラインドを降ろして外からの視界を遮断する。
最後にドアを施錠し、不適な笑みを浮かべるとゆっくりウェイトレスの方へ向かっていく。
「チッ! あの女のせいで面倒事が増えちまった」
オウアルはカチャカチャと音を立てながらズボンのベルトを外し始める。
「服、脱げ」
ウェイトレスは暗く俯くと、か細い声で返事を返す。
「はい……」
オウアルは不服そうにウェイトレスの顔を眺める。
「何だ?その顔は」
汗だくで走るポルマーたちの目の前には、まるでコロッセオのような街の中央に聳え立つ闘技場がある。
そして、三人は闘技場の受付に入ると壁に備え付けられた大きなモニター型のデバイスを起動する。
『ウォゥン!』
デバイスが起動し、濃い紫色の頭巾で顔を覆った男が映し出される。
『何があった?』
ポルマーたちは頭巾の男に跪くと、深く頭を下げる。
「実は、先程エナスの酒場で白髪の若い女が現れ、我らに反抗しました!
見てください! このカジュルの腕を!」
カジュルは啜り泣きながら手形状に窪んだ両腕を頭巾の男に見せる。
「私も剣をやられました……」
バルチはへし折れた剣を目の前に置く。
ポルマーは歯を食いしばり、悔しそうに頭巾の男に訴える。
「アプリス様、我らアクバ親衛隊に逆らった時点でこの街では重罪!
ヤツを指名手配して下さいませ!」
血走った眼で訴えかける三人を呆れた表情でアプリスは見下ろす。
『ほう……。貴様らは三人も居て、女一人にも勝てなかったのか』
アプリスの一言に三人は息を呑む。
「アイツ、凄く強くて……」
カジュルの発言にアプリスは形相を変える。
『口答えをするなァッ!』
三人に向かってアプリスが右の手のひらを向けると、手が赤黒く発光し始める。
すると、三人は窒息し顔を真っ赤にして倒れ込む。
「お……お許しをぉぉ」
今にも消えそうな声でポルマーが懇願すると、アプリスが手を下ろす。
「「「「「「パァァァァッ!」」」」」」
脂汗をかいた三人は一斉に無我夢中で呼吸する。
『その女はどんな姿をしていた?』
大きく息をしながら呼吸を整え、パルマーはオルガナの容姿について話した。
× × ×
『腰に変わった形の剣を付けていたか……』
「はい。まるで蒼い蝶の羽のような形でした」
パルマーの説明で思い出したようにアプリスは左腕につけた腕時計型の液晶画面が付いたデバイスを操作する。
『カタスト将軍を倒した娘がこの街にいるのか……』
「あの娘が……」
三人は口を開けて唖然と立ち尽くす。
『我々は覚醒者に対しての商いでこの地位を築いてきた。
その女の存在は街の存亡に関わる』
アプリスはデバイスを操作して、どこかにメッセージを送る。
『アクバ様には情報を伝えた。
何としてでもこの街で仕留める』
『ピィンッ!』
デバイスを操作して、アプリスは届いたメッセージを黙読すると不適な笑みを浮かべた。
『ほう?光の力を吸引するとは……。これで私たちも近いうちに高等覚醒者になれるかもしれない。
流石、アクバ様!』
デバイスを閉じると三人の手についたデバイスに生中継の監視カメラが捉えているオルガナのデータを送る。
三人はデバイスを凝視すると、憎らしそうに睨みつける。
『ヤツは旅館を探しているようだ。一体の旅館の値段を跳ね上げよ!
この一体は、昼は灼熱。夜は極寒という地域で泊まる場所がなければ流石に
そして、ヤツを武道大会に誘導するのだ』
「わかりました」
パルマーたちは深々とお辞儀をすると画面が消え、三人は案内所を後にする。
夕日で橙色に照らされた繁華街をオルガナは進み、ウェイトレスに聞いた旅館へ向かっていた。
「すみません。この辺に旅館があると聞いたんですが……」
オルガナが薄汚れた服装で褐色の爺さんに話しかけると、不機嫌そうに通りの傍にある古びた旅館を指差す。
「教えてくださりありがとうございます」
オルガナが頭を下げて旅館に向かおうとすると、爺さんはオルガナを呼び止める。
「ちょっとアンタ、見るからにこの辺の者じゃ無さそうだが旅人か?」
「ああ」
「こんな治安が悪い辺境の地に一体、何の用がある?」
「ちと用があってね」
オルガナがそう言った瞬間に爺さんの瞳が黒から黄色に変化し、直ぐに元へ戻る。
「訳ありか……。その用とやらが済んだら、さっさと去ることだ。
きっと、難しいとは思うがな……」
「爺さん今、何したんだ?」
「アンタの属性を見たんじゃよ。光の使いで、その腰の剣……」
オルガナは咄嗟に剣を庇うように身構える。
「安心しろ。俺はアンタを止める気はさらさら無い。
むしろ、やろうとしていることには大賛成だ」
敵意の無い爺さんの清いオーラを感じたオルガナは警戒を解く。
そして、爺さんをよく見ると、さっき会ったウェイトレスのような紋章が首に付けられている。
「その紋章……。一体何なんだ?
さっき話したウェイトレスにも似たようなのがあった」
爺さんは俯き、目に涙を貯める。
「そうか。アンタはあの娘と会っていたのか……」
オルガナは爺さんの悲痛な顔からこの国の闇を察した。
「この国では生まれながらに人種で価値が決められている……
我らマタフォティアに自由は許されない」
オルガナは聞き覚えのある人種に過去の微かな記憶を思い出していた。
マルコフと幼きオルガナは火の海になった街を眺めていた。
「なぁ……。いつになったら平和ってやつが来るんだ?
怪物たちだけじゃなくて人間同士が殺し合っている。
この世界は一体何なんだよ!」
オルガナの悲しみに暮れる視線の先にはまだ幼い、首に鎖が付けられた褐色の子供たちが逃げることができずに死んでした。
マルコフは震えながら涙を流すオルガナの肩に優しく手を添える。
「これじゃ……救ってもキリがないよ」
「彼らはマタフォティアという民族だ。
かつて、この世界に栄えた七つの文明の火を司る者たち。
そして、強さゆえに恐れられ、迫害された者たちだ」
マルコフは目を瞑ると、手を合わせて幼き彼らの追悼をする。
「どうか、安らかに眠ってくれ……」
そう言うと、マルコフは槍を子供達に向ける。
槍は激しく発光すると、矢尻から光の矢が発射される。
『バシュゥゥゥンッ!』
矢は子供たちの鎖を光の矢で次々に破壊していく。
そして、大きな矢を地面に向けて放つ。
『ドゴォォォォォォォン!』
轟音が鳴り、土煙が巻き起こる。
すると、地面に大きな穴が空いていた。
「埋葬するぞ……」
マルコフは子供たちを魔法で浮かせると、穴にそっと入れていく。
その光景をオルガナは弔うために手を合わせながら見つめた。
マルコフは魔法で穴を塞ぐとオルガナを抱きしめる。
「お前がこの子たちを思う気持ちは決して無駄じゃない。
その気持ちを忘れるんじゃないぞ」
悲しそうに俯く爺さんを見つめると、オルガナは優しく微笑んだ。
「爺さん、そんな顔すんな! 俺がもう直ぐにこの国を変えてみせる。
だから、それまで希望を捨てんじゃねぇよ」
オルガナは爺さんの肩を優しく叩くと宿の方へ去って行く。
爺さんは気付くと涙を流していた。
「アンタも生まれながらにして業を背負っているのに……
この先、更なる試練が待っておるのか」
オルガナは大きな木造の宿前に着くと、そこには人々が溢れかえり張り紙の前で文句を言っていた。
オルガナは人を掻き分けて張り紙を見ると、価格改定の内容とオルガナに似た容姿の似顔絵があった。
『アプリス様の命令で宿の値段を急遽上げさせてもらいます。
休憩 3000ヒニヤ
一泊 20000ヒニヤ
尚、この旅の者が今夜行われる流血殺曲芸に参加しない場合は日常品に更なる価格改訂を行うものとする』
オルガナは視線を感じて辺りを見回すと鬼の様な形相を浮かべた人々に睨みつけられていた。
「貴様ァ!」
「お前のせいで俺たちは!」
隣に居た男にオルガナは胸ぐらを掴まれると、ある異変に気が付く。
「なんだ、この黒いのは……」
人々の体から黒い煙の様なオーラがジワジワと溢れるように出始める。
オルガナは空を見ると、街のあちこちから黒いオーラが出ていた。
「やっちまえ!」
男の号令と共に人々が襲いかかると、オルガナは咄嗟に義手のトリガーを引いて地面に閃光弾を発射する。
『パァァァァン!』
一同が激しい光で目を覆うとオルガナは体に黄色い光を纏う。
≪閃光≫
オルガナは地面を蹴って人々を一気に飛び越えると目を見開く。
『前より明らかに飛距離が伸びている……』
襲って来た村人たちから三十メートル程離れた場所に着地したオルガナはその場を後にする。
オルガナは隠れるように高架下へ逃げ込むと、黒い煙状のオーラが街の中心にある大きな城のような建物へ吸い込まれるように集まって行くのに気が付く。
「あそこに居るのか……」
周囲に立ち込める黒いオーラがどんどん増している。
行くしか無いみたいだな……。
オルガナは大きく息を呑んだ。
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クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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