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第1話『蝶の誕生』6
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ファラガティ村では捜索隊と民衆が村の中央広場で集結していた。そして中央にある朝礼台にクルス村長の姿がある。
「皆の者! これからパンドラ様と交信が行われる。この土地の栄光のためにも早くあのガキどもを連れてくるのだ!」
「「「「「「オォォォォオ!」」」」」」
探索隊が一斉に掛け声と共に拳を突き上げる。
朝礼台に紫色の円柱光が浮き出る。すると、皆が一斉に円柱へ注目する。
「パンドラ様、ご機嫌麗しゅうございますか?」
クルスは円柱に向かって跪き、深く頭を下げる。
『ええ。とても機嫌がいいですよ』
円柱の光はどんどんと変形し、ホログラムの様に一人の顔を布で覆い隠した女が映し出される。
『漸く私の計画成就が見えてきましたからね。この村にいる闇文明の生き残りは特別な力があります。何としても生け取りにして下さい』
「かしこまりました。光の力を使う娘はどうしますか?」
『もう必要なくなったので、そちらはさっさと処分して良いです』
「分かりました。では、お約束通り、私に更なる権力をお授け下さい」
パンドラはクルスの一言で布越しからニヤリと笑みをこぼす。
『ええ、勿論です。貴方たちも覚醒化させて更なる力をお与えしましょう』
パンドラの一言でクルスは額から汗をかき、民衆が一斉に騒つく。
「それはどういう意味ですか?」
パンドラはクルスをじっと見下ろす。
『私の目標はこの世から争いを無くすことです。そして、その目標には人間の自我は邪魔なのですよ』
クルスは立ち上がり、鬼のような形相でパンドラを睨みつけた。
「おい、パンドラ! 話が違うじゃないか! 協力すれば平和と更なる権力を提供すると」
『ええ。人類を皆、私の意のままに従う者に変えれば争いはなくなり平和が訪れるでしょう。権力については安心して下さい。覚醒者の中でも貴方を重役にさせますから』
「畜生!」
クルスは悔しそうに力一杯拳を握りしめる。
『私が今からそちらに伺うまでに選びなさい。私と共にこの世を収めるか、それとも惨殺されるか』
民衆は息を呑み、クルスをじっと見つめる。
それは、クルスの一言で自分たちの運命を決められてしまうからだった。
「分かりました。従います……」
クルスは恐怖に屈して再び跪くと深く頭を下げた。
そのあまりにも情けない姿には村長としての威厳は何処にも無かった。大衆たちは自分たちの身を案じて恐怖から小刻みに震える。
『よろしい。では、一時間後にそちらへ伺います。それまでに子供を用意しておいて下さい』
そう言うとパンドラのホログラムはプツリと朝礼台から消える。
畜生! 畜生! 畜生!
クルスはじっと俯いたまま自分の力の無さを悔しがった。民衆の方を見ると自分のことを蔑む視線を感じた。
何だ、その目は!
クルスは眉を寄せて目を見開くと声を張り上げる。
「皆の者! 何としても一時間以内にあのガキを捕らえよ!」
四人は暗くて狭い通路をブーワンが手から炎を出し、照らしながらひたすら進む。
「もう少しで教会に着くわ。二人とも頑張って」
アマティスはオルガナとゼノに向かって言葉を投げかける。すると、再び古びて錆びた鉄製の梯子が見える。
ブーワンは梯子を登ると天井の木の板を外し始める。そして、上半身を乗り出すと、静寂とした教会をキョロキョロと見回す。
「誰も居ないみたいだな」
ブーワンは登り上がると梯子の下に居る三人に手招きをして合図する。
「さあ、二人とも登って」
アマティスが二人の方をポンポンと叩くとゼノが梯子を登り始める。それに続いてオルガナも登る。
そして、アマティスは梯子を登ると再びエビスキートを唱え、出口を塞いだ。
「ここからどうする?」
ゼノはアマティスに不安気な表情を向ける。すると、アマティスはゼノに微笑みかける。
「貴方たちはブーワンと一緒にポータルツリーへ向かって。私は此処でやる事がある」
ゼノとオルガナはアマティスの一言に目を見開く。
「おい、もしかして此処で別れるって事かよ?」
ブーワンは気まずい空気の中、静かに俯いた。
「アマティスと離れたくないよ! 一緒に行こう!」
オルガナはアマティスの顔を見ながらボロボロと泣き出してしまった。アマティスはオルガナをギュッと抱きしめる。
「大丈夫! 用が済んだら皆んなと合流するから」
ゼノはアマティスを睨む。
「そのやる事ってのは俺らより重要な事なのかよ……」
ゼノは悔しそうに歯を食いしばる。
「俺らのことを捨てるのか?」
アマティスはゼノの目をしっかり見た。
「貴方たちは私の家族です! 捨てる筈ないでしょ!」
ゼノはアマティスの顔を見ながら何とか感情を探ろうとした。しかし、その表情に嘘は感じられなかった。
「私にとって貴方たち二人は本当に大切よ。だから、ブーワンを護衛に呼んだの。私じゃとても追っ手から貴方たちを守りきれないわ」
アマティスは悲しそうに俯く。
「私も貴方たちと行きたいわ。でも、それと同時に私は神の道に沿うと心に決めた聖女なのです。一人でも多くの人を救うためにこの教会で行わなければいけない事があります」
アマティスは二人の顔を優しく見つめる。
それに対してゼノとオルガナは自分の感情を押し殺し、ゆっくりと頷いた。
そんな二人にアマティスは近寄り、頭を撫でた。
「絶対に後で合流してくれよ」
ゼノの言葉に返すように二人を抱きしめる。
「ええ」
アマティスは決意に満ちた表情をブーワンに向けると頷く。それに答えるようにブーワンも頷き返す。
「二人ともポータルツリーまで護衛する。俺について来い」
ブーワンは教会の礼拝堂裏にある裏口を指差す。
「さぁ行って!」
アマティスは二人の肩を押すと二人はブーワンの方へ走っていく。
そして、二人は振り向くとアマティスに向かって笑顔で手を振った。
「絶対に後で会おうな!」
「先に行って待ってるよ!」
二人に応えるようにアマティスは笑顔で手を振り返して送り出した。そしてブーワンたちは先を急いで教会を後にする。アマティスは悲壮感漂う顔で二人の無事を祈った。
「どうか二人をお導きください」
ブーワン、ゼノとオルガナは目の前で広大に広がる暗い森に向かって走っていた。
風が吹き、木々がゆらゆらと不気味に揺れている。三人は森に入ると、ブーワンが腕を上げて合図し止まる。
「ここから道が険しくなるが、見つからないためにも明かりは着けられない。足場に注意しろよ」
そう言うと、ブーワンは体勢を低くして慎重に森を進み始める。それに続くようにゼノとオルガナも慎重に森を進む。
「おい、何で俺らを助ける気になったんだ?」
ブーワンは黙々と進みながら色々な思いで重い口を開く。
「お前ら以外であのバケモノに対抗できる奴が居ないからだ」
「バケモノだと!? まさか……」
ゼノはブーワンに向かって目を見開いた。オルガナはそんな兄の姿を不思議そうに見ている。
「すまない。だが、あのバケモノにいずれ立ち向かえるのは、お前たちだけなんだ」
ブーワンは自分より二十以上も年が離れた子供にしか頼めない自分の無力さと情けなさを恥じながら俯いた。
「チッ……ふざけんな。俺らには選択肢が無ぇってことかよ」
この瞬間ゼノは心の底から人類を恨んだ。
大人が勝手に始めた戦争の皺寄(しわよ)せを受けている状況と、それを理解していない大人たちに今身柄を狙われている不条理で頭の中は憎悪で満ちていた。
「ゼノ兄ちゃん……」
「!?」
ゼノはオルガナを咄嗟に見た。そして、不安で小刻みに震える姿を見たら憎悪は一瞬で消えて、何とか励まさねばと体が動いていた。オルガナの頭を撫でながらゼノは無理やり笑みを作る。
「大丈夫! バケモノは俺が倒すから」
ブーワンはそんな悲痛な光景を只々見ているしかなかった。
To Be Continued...
「皆の者! これからパンドラ様と交信が行われる。この土地の栄光のためにも早くあのガキどもを連れてくるのだ!」
「「「「「「オォォォォオ!」」」」」」
探索隊が一斉に掛け声と共に拳を突き上げる。
朝礼台に紫色の円柱光が浮き出る。すると、皆が一斉に円柱へ注目する。
「パンドラ様、ご機嫌麗しゅうございますか?」
クルスは円柱に向かって跪き、深く頭を下げる。
『ええ。とても機嫌がいいですよ』
円柱の光はどんどんと変形し、ホログラムの様に一人の顔を布で覆い隠した女が映し出される。
『漸く私の計画成就が見えてきましたからね。この村にいる闇文明の生き残りは特別な力があります。何としても生け取りにして下さい』
「かしこまりました。光の力を使う娘はどうしますか?」
『もう必要なくなったので、そちらはさっさと処分して良いです』
「分かりました。では、お約束通り、私に更なる権力をお授け下さい」
パンドラはクルスの一言で布越しからニヤリと笑みをこぼす。
『ええ、勿論です。貴方たちも覚醒化させて更なる力をお与えしましょう』
パンドラの一言でクルスは額から汗をかき、民衆が一斉に騒つく。
「それはどういう意味ですか?」
パンドラはクルスをじっと見下ろす。
『私の目標はこの世から争いを無くすことです。そして、その目標には人間の自我は邪魔なのですよ』
クルスは立ち上がり、鬼のような形相でパンドラを睨みつけた。
「おい、パンドラ! 話が違うじゃないか! 協力すれば平和と更なる権力を提供すると」
『ええ。人類を皆、私の意のままに従う者に変えれば争いはなくなり平和が訪れるでしょう。権力については安心して下さい。覚醒者の中でも貴方を重役にさせますから』
「畜生!」
クルスは悔しそうに力一杯拳を握りしめる。
『私が今からそちらに伺うまでに選びなさい。私と共にこの世を収めるか、それとも惨殺されるか』
民衆は息を呑み、クルスをじっと見つめる。
それは、クルスの一言で自分たちの運命を決められてしまうからだった。
「分かりました。従います……」
クルスは恐怖に屈して再び跪くと深く頭を下げた。
そのあまりにも情けない姿には村長としての威厳は何処にも無かった。大衆たちは自分たちの身を案じて恐怖から小刻みに震える。
『よろしい。では、一時間後にそちらへ伺います。それまでに子供を用意しておいて下さい』
そう言うとパンドラのホログラムはプツリと朝礼台から消える。
畜生! 畜生! 畜生!
クルスはじっと俯いたまま自分の力の無さを悔しがった。民衆の方を見ると自分のことを蔑む視線を感じた。
何だ、その目は!
クルスは眉を寄せて目を見開くと声を張り上げる。
「皆の者! 何としても一時間以内にあのガキを捕らえよ!」
四人は暗くて狭い通路をブーワンが手から炎を出し、照らしながらひたすら進む。
「もう少しで教会に着くわ。二人とも頑張って」
アマティスはオルガナとゼノに向かって言葉を投げかける。すると、再び古びて錆びた鉄製の梯子が見える。
ブーワンは梯子を登ると天井の木の板を外し始める。そして、上半身を乗り出すと、静寂とした教会をキョロキョロと見回す。
「誰も居ないみたいだな」
ブーワンは登り上がると梯子の下に居る三人に手招きをして合図する。
「さあ、二人とも登って」
アマティスが二人の方をポンポンと叩くとゼノが梯子を登り始める。それに続いてオルガナも登る。
そして、アマティスは梯子を登ると再びエビスキートを唱え、出口を塞いだ。
「ここからどうする?」
ゼノはアマティスに不安気な表情を向ける。すると、アマティスはゼノに微笑みかける。
「貴方たちはブーワンと一緒にポータルツリーへ向かって。私は此処でやる事がある」
ゼノとオルガナはアマティスの一言に目を見開く。
「おい、もしかして此処で別れるって事かよ?」
ブーワンは気まずい空気の中、静かに俯いた。
「アマティスと離れたくないよ! 一緒に行こう!」
オルガナはアマティスの顔を見ながらボロボロと泣き出してしまった。アマティスはオルガナをギュッと抱きしめる。
「大丈夫! 用が済んだら皆んなと合流するから」
ゼノはアマティスを睨む。
「そのやる事ってのは俺らより重要な事なのかよ……」
ゼノは悔しそうに歯を食いしばる。
「俺らのことを捨てるのか?」
アマティスはゼノの目をしっかり見た。
「貴方たちは私の家族です! 捨てる筈ないでしょ!」
ゼノはアマティスの顔を見ながら何とか感情を探ろうとした。しかし、その表情に嘘は感じられなかった。
「私にとって貴方たち二人は本当に大切よ。だから、ブーワンを護衛に呼んだの。私じゃとても追っ手から貴方たちを守りきれないわ」
アマティスは悲しそうに俯く。
「私も貴方たちと行きたいわ。でも、それと同時に私は神の道に沿うと心に決めた聖女なのです。一人でも多くの人を救うためにこの教会で行わなければいけない事があります」
アマティスは二人の顔を優しく見つめる。
それに対してゼノとオルガナは自分の感情を押し殺し、ゆっくりと頷いた。
そんな二人にアマティスは近寄り、頭を撫でた。
「絶対に後で合流してくれよ」
ゼノの言葉に返すように二人を抱きしめる。
「ええ」
アマティスは決意に満ちた表情をブーワンに向けると頷く。それに答えるようにブーワンも頷き返す。
「二人ともポータルツリーまで護衛する。俺について来い」
ブーワンは教会の礼拝堂裏にある裏口を指差す。
「さぁ行って!」
アマティスは二人の肩を押すと二人はブーワンの方へ走っていく。
そして、二人は振り向くとアマティスに向かって笑顔で手を振った。
「絶対に後で会おうな!」
「先に行って待ってるよ!」
二人に応えるようにアマティスは笑顔で手を振り返して送り出した。そしてブーワンたちは先を急いで教会を後にする。アマティスは悲壮感漂う顔で二人の無事を祈った。
「どうか二人をお導きください」
ブーワン、ゼノとオルガナは目の前で広大に広がる暗い森に向かって走っていた。
風が吹き、木々がゆらゆらと不気味に揺れている。三人は森に入ると、ブーワンが腕を上げて合図し止まる。
「ここから道が険しくなるが、見つからないためにも明かりは着けられない。足場に注意しろよ」
そう言うと、ブーワンは体勢を低くして慎重に森を進み始める。それに続くようにゼノとオルガナも慎重に森を進む。
「おい、何で俺らを助ける気になったんだ?」
ブーワンは黙々と進みながら色々な思いで重い口を開く。
「お前ら以外であのバケモノに対抗できる奴が居ないからだ」
「バケモノだと!? まさか……」
ゼノはブーワンに向かって目を見開いた。オルガナはそんな兄の姿を不思議そうに見ている。
「すまない。だが、あのバケモノにいずれ立ち向かえるのは、お前たちだけなんだ」
ブーワンは自分より二十以上も年が離れた子供にしか頼めない自分の無力さと情けなさを恥じながら俯いた。
「チッ……ふざけんな。俺らには選択肢が無ぇってことかよ」
この瞬間ゼノは心の底から人類を恨んだ。
大人が勝手に始めた戦争の皺寄(しわよ)せを受けている状況と、それを理解していない大人たちに今身柄を狙われている不条理で頭の中は憎悪で満ちていた。
「ゼノ兄ちゃん……」
「!?」
ゼノはオルガナを咄嗟に見た。そして、不安で小刻みに震える姿を見たら憎悪は一瞬で消えて、何とか励まさねばと体が動いていた。オルガナの頭を撫でながらゼノは無理やり笑みを作る。
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