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『グランドセントピードのまぜそば』1

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 湯気が立ち込める騒がしい店内。
厨房で一ノ瀬龍拓りょうまは声を張り上げて指示をしながら麺の湯切りをひたすらしている。
その様子をテレビクルーが三脚に乗せたカメラで撮影していた。
「おい! スープの準備は出来ているのか!」
「はい!」
忙しなく動く従業員たちを睨みつけるように確認し、スープの入ったどんぶりが台に次々と置かれる。
「お願いします!」
龍拓は手早く麺を入れてほぐし、トッピングを目にも留まらぬ速さで盛り付けていく。
そして、一瞬で十三杯のラーメンを作ると先程の怖い顔から一変し、笑顔で次々と客が待つカウンターへラーメンを置いていく。
「お待たせしました! チャーシュー麺大盛りです、ごゆっくりどうぞ!」
そして、配り終わると龍拓は美味そうに食べる客とラーメンをどこか悲しそうに見つめた。

 店は昼休みに入り、従業員たちはつかの間の休みに浸っていた。
龍拓は深いため息を吐くと、店の出口に向かう。
「取材受けてくる」
「「「「「「はい!」」」」」」
従業人たちの返事を聞くと猫背の状態で店を後にする。
そんな龍拓を心配そうに見つめる従業員たち。
「最近、なんだか店長元気無くないか?」
「きっと、働きすぎだろ。毎日ラーメン漬けの生活をしていたら、あんな風にもなるだろ」

 店の外には取材に来た女性アナウンサーとテレビカメラが待機していた。
アナウンサーは出てきた龍拓にすかさず近寄ると、横に立ちディレクターを確認する。
ディレクターはコクリと頷き、横に居た助監督が駆け足で龍拓が着ているTシャツの襟にピンマイクを素早く付ける。
カメラに慣れていない龍拓に対してアナウンサーは気さくに話しかける。
「龍拓さん、あまり緊張しないでくださいね! いつも通り、自然な感じで質問に答えて頂ければ大丈夫です!」
「は、はい……」
すると、助監督がカメラの横で手を上げると指を五本立てる。
「では、本番いきます! カメラ回して下さい!」
「回しました!」
カメラマンの返事に合わせて助監督は指を折りながらカウントダウンを始めた。
「五秒前、四、三、二、一……」
カウントダウンが終わる瞬間にアナウンサーは満面の笑顔を作る。
「はい! 今回の『ラーメン道』では、龍拓さんが経営する最近話題の二つ星店『龍昇りゅうしょう』を取材させて頂きました!
私もイチオシのチャーシュー麺を先程頂きましたが絶品でした!
皆さんも是非、一度食べてみてください!
最後に、龍拓さんへの視聴者から寄せられた質問の中で厳選した三つの質問でインタビューを締めさせて頂きます」
アナウンサーが龍拓の方を見ると、まるで石のように緊張して固まる。
助監督が掲げたカンペをアナウンサーはチラ見すると質問を始める。
「第一問目。
数あるラーメンの中で龍拓さんは何故、醤油ラーメンを極めようと思ったんですか?」
龍拓はぎこちなくアナウンサーが向けるマイクに顔を寄せる。
「え、えっとですね……。今まで色んなラーメンを食べてきたんですが、一番記憶に残っているのが昔、夜中に親父が連れて行ってくれた屋台のラーメンでした。
それがラーメンを愛するきっかけになった味で、特に好きだったのが醤油ラーメンだったので」
アナウンサーは龍拓の話を頷きながら聞いている。
「では、思い出の味がきっかけで醤油ラーメンのお店を出されたんですね!」
「は、はい……」
「とても、素敵なお話ですね! 
ちなみになんですが、『龍昇』は特に拘り抜かれたチャーシュー麺が人気のお店ですよね!
このチャーシューを作るきっかけは何だったんですか?」
「それも、さっきの屋台の話になるんですけど、行くと店主のお爺さんがいつも俺のラーメンにサービスで多めにチャーシューを入れてくれたんですよね。
毎回、普通の中華そばを頼んでいたんですけど結局、チャーシュー麺になっちゃって……。
それが本当に嬉しくて、自分もいつか人を喜ばせるチャーシュー麺が作りたいと思ったのがきっかけですね」
「いや、また素晴らしいお話ですね!
そんな思い出が詰まったチャーシュー麺で、今や龍拓さんはこのラーメン業界では知らぬ人が居ない新星になられた訳ですね!」
「そんな大層な立場じゃ……」
謙遜けんそんしないでくださいよ! 
先日、あのウィシュラン・・・・・・で三ツ星中、二つ星を獲得されたじゃないですか!
一つ星以上の点数をラーメンが取るのは三年ぶりの快挙ですよ!
いつか三ツ星を取れると良いですね」
「は、はぁ……」
あまり嬉しそうでは無い龍拓をアナウンサーは不思議そうに見つめる。
龍拓の表情を感じたディレクターが咄嗟に助監督からカンペを取り、謝るように指示をする。
「失礼な発言をしてしまい本当にすみません!」
頭を下げるアナウンサーに対して申し訳なさそうに龍拓は頭をポリポリと搔《か》きながら答える。
「あのぉ、頭を上げてください。
別に失礼なことを言われたと思っていませんよ。
私、星の数とか別にあまり気にしていなくて……。
ただ、自分が納得出来る味のラーメンをこれからも探求したいだけなんですよ」
アナウンサーは頭を上げると、嬉しそうにインタビューを続ける。
「素敵な目標ですね! 
私もこれから龍拓さんが作るラーメンが楽しみです!」
ホッとしたようにディレクターは胸を撫でると、カンペをめくり二問目の質問を出す。
「では、二問目の質問です。
龍拓さんのスープに対するこだわりを教えてください!」
再びマイクを向けられると、緊張が少し解けたのか龍拓は肩の力を抜いて話し始める。
「ウチのラーメンは鶏、鴨に加え、煮干しを長時間かけてじっくりと煮立たせることで作る出汁をふんだんに使った濃厚スープを使っています。
それと、独自に調合した醤油ダレを合わせて作るので、かなり香り高いスープになります」
「確かに、先程食べた時に濃厚な合わせ出汁の心地良い匂いを感じましたね!
それと、あの味わい深いスープ!
深い味なのにあっさりしていて、分厚い濃厚チャーシューもあるのに全く胃もたれしませんよ!」
アナウンサーの言葉で龍拓は嬉しさから笑みを溢してしまう。
「ありがとうございます」
「いえいえ!
本当に思っていることを言っているだけですよ!」
アナウンサーは捲られたカンペの最後の質問を瞬時に確認する。
「では、いよいよ最後の最も寄せられた質問です!
龍拓さん! ズバリ、今後の目指す目標は何でしょうか!?」
龍拓は質問を聞くなり、少し俯くと表情が曇る。
「これは、いつか叶えたい目標なんですけど……」
重い雰囲気に撮影班は息を呑む。
「生涯の間に、全く新たなラーメンのベースを作る事ですね」
アナウンサーは龍拓の一言で目を丸くする。
「え、えっと……。それは一体どんなラーメンなんでしょうか?」
「私もまだ分かりません。
ですが、現在ラーメンは既に開拓され過ぎて新たなジャンルのスープを作るのが困難になっています。
例えば、ラーメンのスープベースは塩、醤油、味噌、豚骨に大きく分かれます。
逆に言うと、四種類でまとまってしまうんです。
今まで使われなかった食材を使って新たなスープを作っても、味に調和を持たせようとするとこの四つどれかのベースを使ってしまう……。
それだけ先人が残してくれたベースが優秀過ぎるからなんですけどね」
アナウンサーは龍拓の顔をポカンと見つめる。
「つまりは、塩、醤油、味噌、豚骨を使わないラーメンを作るんですか?」
龍拓は決意を秘めた表情を浮かべると、カメラを真っ直ぐ見た。
「はい! いつになるか分かりませんが、いつか作って見せます!」

 龍拓のインタビュー動画はネットで拡散され、賛否両論が巻き起こっていた。
全く新しいジャンルのラーメン、めちゃくちゃ楽しみだな!
料理の歴史を舐めてんのか? 
そんなラーメン食べてみたい!
馬鹿言うな! これは、ラーメン業界への宣戦布告だ!
俺は食べてみたいぞ!
う~ん……。龍拓さん、急にウィシュラン取ったから何か勘違いしているんじゃないかしら?
龍拓さんの発言は結構色んな所で叩かれているけど、あのラーメン食べたらいつか作ってくれそうだと思ってしまう。

そして、番組から三カ月の時が流れた……。

To Be Continued...
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