10 / 10
目が覚めるのはまたしてもベットの上
しおりを挟む 一方、その少し前のことだ。周兄弟の方でもオペラを観に行った曹らが帰って来ないことで騒ぎになっていた。ホテルのロビーに降りてフロントでチェックインの有無を確認したが、未だ誰も戻って来た形跡はない。
時刻は既に日付けをまたいでいる。劇場はとっくに閉まっているし、彼ら全員の電話が繋がらないということは、非常事態を意味する。精鋭の曹が付いていながら連絡が取れないというからにはそれなりの理由があるはずだ。
「ヤツらを見た者がいないかどうか確かめたくても術がない。全員が一気に消えて連絡も取れないとなれば、拉致以外に考えられないが……」
「問題は敵の正体だ。兄貴、心当たりがあるか?」
「取り立てて思い付かんな。正直なところヨーロッパに敵を作った覚えもない」
「ふむ……。誰かこっちで頼りになりそうな人物がいるか……」
警察に助力を依頼するのも手だが、例え異国といえども裏社会の人間と知って親身に協力してくれるかは怪しいところだ。周が考え込んでいると、
「周風? 周風じゃないの!」
突如女が声を掛けてきて、全員で声の主を振り返った。
「お……前! 楚優秦……」
風はもとより誰もが驚きの表情で互いを見やる。
「なんて偶然かしら! あなたとこんなところで会うなんて」
優秦の方は白々しいくらいに浮かれ気味だ。
「まさかウィーンにいらっしゃるなんて驚きだわ。観光か何かかしら? それともお仕事かしらね?」
「お前こそ何故ここへ……? 住まいはフランスじゃなかったか?」
「あら、アタシたちは今このウィーンに住んでいるのよ」
ご存知なかったのかしらと笑う。
「ウィーンに住んでいるだと? では父上の楚光順も一緒か?」
この娘については論外だが、父親の光順は信頼に値する人物だ。この土地に住んでいるというのなら、もしかしたら何か助力が得られるかも知れない。
「お父上にお会いしたい。連絡を取りたいんだが」
もとよりこの女に事情を打ち明ける気など更々ないので、頼るならば父親のみが賢明だ。だが、優秦はしれっと笑ってみせた。
「残念だけどパパは不在よ。今アメリカに旅行中なの」
大嘘である。光順は家にいたが、優秦の方が女友達と旅行に行くと偽って、ここ数日はホテル暮らしをしていたのだ。父の光順は宝飾市が開催される間、ウィーンにやって来る周風と娘の優秦を会わせまいと家族旅行に誘ったのだが、彼女の方からその期間は友人と旅に出掛けると嘘をついて、父親を騙したのだ。
当然、光順はホッと胸を撫で下ろし、これで何事もなく済むと思っているはずだ。まさか娘が嘘をついてとんでもない企てを犯しているなどとは思うはずもなかった。
時刻は既に日付けをまたいでいる。劇場はとっくに閉まっているし、彼ら全員の電話が繋がらないということは、非常事態を意味する。精鋭の曹が付いていながら連絡が取れないというからにはそれなりの理由があるはずだ。
「ヤツらを見た者がいないかどうか確かめたくても術がない。全員が一気に消えて連絡も取れないとなれば、拉致以外に考えられないが……」
「問題は敵の正体だ。兄貴、心当たりがあるか?」
「取り立てて思い付かんな。正直なところヨーロッパに敵を作った覚えもない」
「ふむ……。誰かこっちで頼りになりそうな人物がいるか……」
警察に助力を依頼するのも手だが、例え異国といえども裏社会の人間と知って親身に協力してくれるかは怪しいところだ。周が考え込んでいると、
「周風? 周風じゃないの!」
突如女が声を掛けてきて、全員で声の主を振り返った。
「お……前! 楚優秦……」
風はもとより誰もが驚きの表情で互いを見やる。
「なんて偶然かしら! あなたとこんなところで会うなんて」
優秦の方は白々しいくらいに浮かれ気味だ。
「まさかウィーンにいらっしゃるなんて驚きだわ。観光か何かかしら? それともお仕事かしらね?」
「お前こそ何故ここへ……? 住まいはフランスじゃなかったか?」
「あら、アタシたちは今このウィーンに住んでいるのよ」
ご存知なかったのかしらと笑う。
「ウィーンに住んでいるだと? では父上の楚光順も一緒か?」
この娘については論外だが、父親の光順は信頼に値する人物だ。この土地に住んでいるというのなら、もしかしたら何か助力が得られるかも知れない。
「お父上にお会いしたい。連絡を取りたいんだが」
もとよりこの女に事情を打ち明ける気など更々ないので、頼るならば父親のみが賢明だ。だが、優秦はしれっと笑ってみせた。
「残念だけどパパは不在よ。今アメリカに旅行中なの」
大嘘である。光順は家にいたが、優秦の方が女友達と旅行に行くと偽って、ここ数日はホテル暮らしをしていたのだ。父の光順は宝飾市が開催される間、ウィーンにやって来る周風と娘の優秦を会わせまいと家族旅行に誘ったのだが、彼女の方からその期間は友人と旅に出掛けると嘘をついて、父親を騙したのだ。
当然、光順はホッと胸を撫で下ろし、これで何事もなく済むと思っているはずだ。まさか娘が嘘をついてとんでもない企てを犯しているなどとは思うはずもなかった。
0
お気に入りに追加
14
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる