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ガイル編

9.自分たちの船の近くに死体があればそりゃ驚く

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9.自分たちの船の近くに死体があればそりゃ驚く

港に行くと珍しく人集りだった。ここは漁船はほとんどないし海からの客もあまり来ない。最初来た時はほとんどいなかったのに何故だろうとセシルとリリーは思った。
「何かあったのかな」
リリーはしっかりとセシルの手を握る。しかもは自分たちの船に集まっていた。
リリーは不安に思いながら人集りを掻き分けて前に出る。
「…うそ」
そこには今日リリーたちの受付を担当した女性が横たわっていた。額にはピストルで撃たれたのか穴が空いており身体中は海に落ちたのかびしょびしょだ。
「ど、どうして…」
周りにいる男たちが女性の体を検査したり話したりしている。兵士か何かだろうか。
「海に落ちてたんだってな」
「ああ、海が浅かったからすぐ見つかったが犯人はわからないらしい」
「物騒だな」
人集りからそんな会話が聞こえてきた。リリーは放心したまま女性の様子を見ていた。しかし、隣にいるセシルが静かなことに気づいた。
「セシル、ここから離れ……」
リリーはこうしてはいられないとセシルの方に視線を向けるが様子がおかしい。
「…ぁ、………っ」
セシルの目が紅く燃え上がるように変化していく。リリーはこの様子のセシルを見たことがある。ばあやが昔これを見て珍しく慌ててセシルを抱きしめていた。知識が豊富なばあやがこれが危険だと思ったのだろう。よく覚えている。セシルが8歳の時だった。リリーは慌てた。
「セシル!ここから離れよう!セシル、私の声が聞こえる!?」
「え、…あ」
リリーはセシルの目から女性の死体を逸らし自分に向かせる。すると、セシルの目は元に戻りキョトンとした顔でリリーを見つめる。リリーはセシルを連れてすぐにその場から離れた。
「セシル?大丈夫?」
「……うん」
セシル自身も自分に何があったのかわかってないらしい。リリーはとりあえずほっとした。
「とりあえず温泉から先に行こっか」
「うん!他に温泉あるの?」
「当然よ。色んなのがあるから楽しみだね」
リリーは優しく微笑む。いつものセシルに戻ったことでリリーはこのことは後で話すことにした。





「で、その『エクス』ってなんだ?」
「そうだねぇ」
老人は元のカウンターに戻り短剣を置く。
「この世界には3つの性があるのを知っているかい?」
「?」
「男性、女性とは別に無性という性別があるんじゃよ。これは伝説ではなく実際に存在する」
ライアンはそれを聞きセシルを思い出した。ばあやはセシルは特別だと言っていたが無性の人間は少ないらしい。知っているものも少ないから自分たちが守らなければと思っていたが実際にセシルがなんなのか知らなかった。ライアンはじっと老人の話を聞いた。
「無性の特徴はとても子供っぽく、ヤンチャだ。成長してもこれは余り変わらずそのまま一生を終える者もいる」
セシルだ、とライアンは思った。
「しかし、『覚醒』すればそれは変わる」
「『覚醒』?どういうことだ?」
ライアンが疑問を口にすれば老人はニヤッと笑った。
「無性の人間は子供じゃ。そんな状態で大人に離れない。しかし、極度のストレスを与えれば『覚醒』する」
ライアンはよくわからなかった。大人になれない?覚醒?この老人は何を言っているのだろうか。
「無性は『覚醒』すると何らかの能力を得る」
「あー、悪いけどよくわかんないよ」
「お前さんがこれから旅を続けるなら無性の人間のことは知っておいた方がいい」
「まぁ、聞いとくだけ聞くけど」
セシルも無性だ。知っておきたい。
「『覚醒』した無性はまず精神が壊れその時に自分を守るために自分だけの能力を得る」
「精神が壊れるって…」
「そうじゃ、そのあとの無性は残虐じゃよ。慈悲を何も無い殺人鬼になる。無性の1人に街を1つ潰されたって言う噂さえあるんじゃ」
「…殺人鬼」
ライアンはセシルのことを考えた。あいつは大丈夫だろうか。何かストレスになることはないか。今セシルのことだけが心配だった。
「わりぃ、ちょっと用事思い出したから後でくるよ」
すぐにセシルの元へ向かわなければあいつが殺人鬼になればあいつの大切なものまで壊すかもしれない。
「まだ、話は終わってないぞ」
「それどころじゃないんだ」
「いいから聞きなさい」
老人はライアンを見つめる。もしからしたらまだ大切なことがあるのかもしれない。
「…わかった」
「それでいい。無性は殺人鬼になるというがとても賢い考え方をする。常に冷静でどんな風にすれば自分が助かるかだけを考える。これは『覚醒』前とは全く違い、まぁ大人になったということじゃ」
「殺人鬼になるのは正当防衛なのか?」
「『覚醒』した時はな」
ライアンは顔をしかめる。
「そのあとは他人の恐怖、動揺、恨み、妬み、怨嗟、憎悪等を好むようになる。相手の負の感情を自分に欲するんじゃ。そのためには何でもする。狂っているんじゃよ、無性は」
「…『覚醒』させないためにはどうすればいいんだ?」
「簡単じゃ。無性のわがままを聞き続ければ良い。挫折を体験させない事じゃ」
それは本当にセシルのためになるのか。だからばあやはセシルを島から出したくなかったのだろう。世界は何があるかわからないから。
「……いつまで?」
「そうじゃな、無性が15歳になるまで。そこからは挫折を味わっても普通の人間と同じだ」
「……それと、この短剣とどう関係があるんだ?」
「そうじゃった。その無性の人間は自分たちをエクスと読んでいる。由来は『X』らしいが。そのエクスの1人が自分の能力でこの短剣を作ったんじゃよ。誰でも能力をを使えるように」
「……誰でも?能力ってどんなものなんだ?非現実的なものか?」
「そうじゃ。エクス自身な欲しいと思う能力なら何でも使える。しかも1つではない」
「複数!?」
「力の強いものはな。あぁ、あと『覚醒』すると目の色が変わる。普通の人間とは思えない色に変化するじゃ。その色によって力がわかるらしいがさすがにわからないな」
それにしてもこの老人はどこでそんなことを知ったのだろうか。ばあやも知っていたのだろうか。ライアンは考えたがとりあえず短剣のことを聞く。
「それで…この短剣の能力は?」
「これはな、持ち主の負の感情の大きさで力が変わる。そう聞いた」
「それだけ?って誰に貰ったんだ?」
「エクス本人じゃ」
ライアンは言葉を失う。どうして自分が不利になるようなことしたのか。これではこの短剣を持ったものがいつか自分たちの害になるかもしれないのに。何か考えがあるのか?
「エクスのこともそいつに聞いたのか?」
「いいや、それは昔から知っている」
「いつから?」
「そんなことよりも急いでるのではないか?この短剣を買うのか?買わないのか?どっちじゃ」
「………買うよ、いくら?」
ライアンは一瞬迷ったがこれではセシルを守れるかもしれない。そう思って短剣を買った。








・人物紹介コーナー
【名前】リリー・フローレス
(Lily=Flores)
【性別】女性
【年齢】16
【備考】2歳の頃に島に母親と一緒にやってきたが母親はすぐに亡くなった。そのあと村1番の医者・サラに弟子入りし薬草や医学にとても詳しい。島を出たいということでサラの息子のサニーに棒術を教えてもらった。少し、天然なところがあり、いつも穏やかで優しい。リリーにとってセシルは天使。
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