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第一章【幼少期編】
【11】50階層のダンジョンボスが桁違いに強すぎた
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あいつら元気でやってんのかなぁ?
死んでないよね?
なんて思いながら39階層に到着して俺は眼の前の光景に唖然とした。
「なにこれ?」
目の前には鋼のような強度を持つ蜘蛛の糸で作った防衛線や平屋の一軒家が建っていた。
「あ、ザハル!見てよこれ!皆で作ったんだよ。
そしてねー新しい仲間も増えたよ。
ザハルと一緒に旅がしたいんだって。
仲間にしてもいいよね?」
「あーう、うん……いや、でもこれ何者なの?
生物としての定義がわからない。
お前は何者なんだ?」
「俺は……魔物だ」
「わかっとるわ!種族名を言うだろう普通!」
「ゴブリン……だ」
「おまえさぁ殺していい?真面目に答えろよ。
次の回答次第ではその首は飛ぶと思っとけよ」
「恐ろしいやつだ……元は蜘蛛の魔物だ。
だが……襲ってくる魔物と……戦い食い続けた結果……自分でもわからない生物になってしまった。
俺は一体何者なんだ……わかるなら教えて欲しい。お前には……それが出来ると聞いた」
「ちょいと待て。鑑定してやるよ」
「鑑定結果により蜘蛛の上位魔物と牛の下位魔者のハーフになってますね」
「じゃーあれだな。お前蜘蛛タウロスな」
「蜘蛛タウロスか……それ……いいな」
「主……こいつアホですよ。間違いなく」
「う、うん。そうだね。
今回はお前の毒舌に賛成だな」
「こいつ要ります?」
「要らんけど、支援専門として考えれば有能かもしれん」
「アホですし、主の質問に対してふざけた発言は許しがたいです」
「そこは今後教育的指導をしていけばいいさ。
死なない程度にね……」
「主が良ければ私はこれ以上何も言いません」
「すまんな、キア。
いつも俺を最優先で考えてくれて感謝しているよ」
「主はまだまだしょんべんくせーガキですからね。私が支えませんと」
「感謝したこと忘れてくれ。クソシステムが」
蜘蛛タウロスが何か物欲しげな顔でこちらを見てくる。
目がいっぱいあるので、あんまり見らんで欲しい。
素直に気持ち悪い。
「名前……欲しい……付けて……欲しい」
何でコイツは片言なんだ。
そんなところも気持ち悪い。
面倒くさい、正直真面目に考える気になれない。
適当に決めちゃえ。って決めた後、これからの彼の活躍ぶりを見て後に凄い申し訳なくなったのである。
でもさぁ仕方ないじゃん!
見ようによってはさぁ、そう見えなくもなかったんだから!
「名前ね……んーーー」
フォルム的にもこれでいいや。
「お前の名前はナスビだ」
「ナスビ……感謝します」
「良かったねナスビ!名前貰えたね」
「うむ。ナスビよ、これからよろしく頼む」
「ナスビ宜しく」
こらこらあまり名前を連呼するんじゃない!
笑ってしまいそうになるじゃないか。
「“ナスビ!” “ナスビ!”」
やめい!
「主、これヤバい面白いですね」
「き、キア、タバコ。タバコを吸って冷静を装わなくては……」
「はいどうぞ」
「”なっちゃん” ”なっちゃん”」
これはいかん!
あだ名はパンチ効いとる!
「皆ありがとう!あたい頑張る!」
「ちょい待てー!”あたい”て!お前メスかよ!
しかも話し方が流暢になっとるやないか!」
「そうだわよ。あたいは女さ!惚れてはダメよんザハルン」
「うん。大丈夫。
この世のものとは思えない見た目のお前に惚れることは死んでもない。
それともう一度調子乗ったらマジで殺すから宜しく」
「すみません」
だってほら、うちのキア姉さんがブチギレたらマジでアイツ消し炭にされるからさ!
抑制しとかないとね!
ね!キアさん。
くっそ機嫌悪そうなこと……
「それはそうと君たちもずいぶん強くなったね」
「あ、ザハルわかる?」
「まぁそりゃ分かるよね……」
「でもねーまだもう少し足りなくて、あと少しのところなんだよねー」
「進化?」
「そう。次の進化は大きく変化しそうな予感がするんだよ。早く進化したいなぁ」
「焦って命を落とすこともあるから、一段ずつ登っていこうじゃないの」
「そうだね。もうボス部屋行くの?」
「そのつもりだよ。50階層のボスまでは一気に行きたくてさ」
「よし行こう!」
この時までは俺は余裕で倒せると思っていた。
油断してたつもりもない。
十分すぎるほどに注意もしていたつもりだ。
40階ボス部屋。相手はよく分からん植物系のボスだった。
ここは問題なく突破することに成功する。
しかし、50階層のボスは半端なかった。
今までの相手とは明らかに次元が違う。
俺はここで初めて自分の限界を超える相手と戦うことになるのだった。
終わってみて思うことは、”死ぬかと思った”
この一言に尽きる……
今回ははっきり言って仲間のナスビとマイムに救われた。
あいつらが居なかったら俺は片腕を失うとか何か大きなキズを負っていたに違いない。
マイムは39階層の生活と50階層のボス部屋に行くまでの間にレベルが48に到達し、意味の分からんスキルでもある糖分貯蓄を覚えていた。
だが結果としてこのスキルで俺は命拾いをしたと言ってもいい。
それとナスビ……コイツは単純に鬼有能だった。
支援・防御・デバフ。
この3つを駆使して俺をフルサポートしてくれた。
しかし、俺達にも犠牲がなかったわけではない。
仲間の1体が犠牲になったのである。
――50階ボス部屋――
扉を開ける前から今までにない雰囲気が漂っていた。漏れ出すメスト。
この漏れ出したメストでもレベル50は遥かに超えていた。
今までもボス部屋の前で、漏れ出すメストはあった。
しかしながら、たかが知れており気に掛ける必要もなかった。
だがコイツは違う。
化け物だ……流石の俺とキアもそう確信した。
「キア、腹くくるぞ」
「主、最初から全力で行ってください。油断したら確実に体に大きな損害が出ますよ」
「だな。それに俺が最初から全力を出さねば仲間が全滅もあり得る。と、言っても何かしら損害は出そうだがな……」
「ええ」
「キア、可能な限りアイツらを助けてやってくれ」
「それでは主が!」
「……頼む」
「承知しました」
マイム達は驚異的なメストに萎縮している。
仕方ないよね。
アイツらも強くなったとはいえ、まだレベル50未満。
絶対に勝てない相手を目の前にしてるんだもん。
基本上位の魔物ほど、絶対に勝てない相手を目の前にすると逃げ出す傾向がある。
皆も本当は逃げ出したいだろう。
それでも逃げない。
分かってるよ。皆ありがとう。
「中に入ったら全員手を出さず下がってキアの指示に従うように」
「で、でも流石に危険だよ!」
「分かってる。それでも下がっててくれ。
誰も失いたくない」
俺はゆっくりと扉を開いた。
入口が広がっていくにつれ、凄まじいメストが溢れ出てくる。
イカれてやがる。身震いが止まらない。
「こんな所まで来る奴が居るとはな。
あの方の話は本当だったということか。
わざわざこんな下位な層に来た会があったということか」
「そうだよな……あり得ないよな。
そんな気はしてたよ。
あの方ってのが非常に気になるが、ぶっちゃけ話す余裕もないし……こちらから行っていいか?」
「ふっ……ああ。来るがいい。人の子よ」
コイツの見た目が気になるだろうけど、見た目も何もデーモンそのもの。
グレーターデーモン以上?
いや、分からん。
そう分からないのだ。今の俺のレベルでは鑑定出来ない。とだけ言っておこう。
俺は自ら仕掛けた。
というより相手から仕掛けられた場合の脅威が拭えなかったから、仕掛けるしかなかったというのが真実である。
「ザハルが見えない……本当はあんなに凄いんだね!これなら勝てるよ!」
この希望は直後に絶望へ変わる。
キアには全てが見えていた。
無数の攻撃を仕掛けるザハル。
何事も無く攻撃を退けるデーモン。
たったの一撃。たったの一撃でザハルは地面に伏せていた。
「ぐはっ……」
俺はたったの一撃で内臓が何箇所か潰された。
超回復により即座に修復されたが、修復された直後に二発目。
次は脳の損傷。
修復・右腕切断・修復・内臓損傷・修復。
流石に全損を繰り返し完全修復を繰り返すだけでも恐ろしく魔力を損傷してしまう。
足に力が入らなくなってきやがった。
キアがマイムが仲間たちが助太刀に入ろうとしている。
「来るな!ゴホッ。クソっ……魔力の使いすぎか。
目が霞んで奴が……どこ行った?」
鼻から口から血が吹き出る。
ここまでか。まだ死ねないというのに……
クソっ!!
俺が本当に事切れる寸前の時、無情にもデーモンから最期の一撃が放たれた。
「ダンジョンを爆進する化け物が居ると聞いてたが、所詮は人の子。大いに期待外れであったぞ。
塵となれ」
“ドーン!!”ぐしゃ。ビチャビチャ……
何かがぶつかり骨が砕かれ肉片が飛び散る音が響き渡る。
俺は目の前の光景に己の無力さ、己の過信、命の尊さを見せつけられる。
その場に蹲り虫の息になっているグリースが居た。
「ぐ、グリース!はぁはぁ……な、なぜ?なぜ出てきた!」
「ザ、ハル……し、死ぬ……な
俺の……肉を……喰え。たの……し……かった」
「グリース!グリース!!」
「鋼糸防壁!
マイム!キアさん早く!」
「主!マイム!蓄えた糖分を直接流し込んで下さい!
ナスビ!1分耐えれますか!?」
「大丈夫!1分であれば鋼糸防壁は保ちます!
その間に幾重にも罠を張り巡らせておきます!
でも倒せはしません!
あくまでも時間稼ぎですよ!
クラーヌ早くグリースの肉をザハルの口に入れなさい!」
俺の意識はほとんど保ててない。
それでも感じるものがあった、極限まで洗礼された甘い蜜の味。
うめー……
更に高レベル且つ魂が詰まった極上の肉。
これもうめー……
「これは?あー……いつもの100倍美味いタバコだ……」
薄れゆく意識から何かが覚醒していく感じがしていた。
「主!システムアップデートを最短で行います。
そのまま動かないで!」
「動くって動けんよ……」
キアはとんでもないスピードでキア自身を3度のアップデートを成功させた。
キアのアップデートが完了したと同時に俺はその場で立ち上がっていた。
「ナスビありがとう。もう十分だ。
マイム、クラーヌ、君たちもありがとう」
俺はその場を後にし、消える寸前であるグリースの遺体へ向かった。
「よくこんな体になってまで……すまないグリース。
俺の責任だ」
「主……」
「キア、俺は自惚れていたようだ。
俺にはマイム、クラーヌ、ナスビ。そして何よりお前の力が必要のようだ。
何でも1人で出来る気になっていた。
グリースの死は俺が招いてしまった事だと思う。
俺はグリースの肉を喰らった。グリースは俺の中で共に生きていく。
色々話したいこともあるが、先ずはアレを倒さないとな。
手伝え、キア」
「勿論です。我が主。
あ、それはそうとですね、先程共に生きると申されましたが、食べた物はうんこになると思いますよ」
「……毒舌通り越してぶっ飛んでエグい発言をありがとうございます。
行くぞ」
「ん?何だ人の子よ。なるほどなるほど、それがお前の力というものか。
あのお方の言った以上に十分化け物じゃねーか!これは楽しめそうだ!」
「いや、残念ながらもう楽しめることはない」
「なんだと?」
「もう終わっている」
直後、デーモンの身体は真っ二つに割れた。
「何をした!?」
「さっきお前が話してた時に斬った。
以上」
デーモンは塵となり消えていった。
恐らく死んだのであろう。
「でも感謝もしている。お前のお陰でまだまだ強くならなければならない理由が見つかった」
なんとか勝てた。大きな犠牲を払ったが、大いなる成長も出来た。
それは俺もキアも仲間たちも。
その後、俺達はグリースの遺品を回収し俺達なりのやり方でグリースを弔った。
いつもならボス部屋直前の階層まで潜っているが今日は51階層で進むのを止めた。
そして俺とキアはそのまま帰路に着くのであった。
俺はこの日初めてダンジョンの過酷さと無慈悲さを痛感した。
死んでないよね?
なんて思いながら39階層に到着して俺は眼の前の光景に唖然とした。
「なにこれ?」
目の前には鋼のような強度を持つ蜘蛛の糸で作った防衛線や平屋の一軒家が建っていた。
「あ、ザハル!見てよこれ!皆で作ったんだよ。
そしてねー新しい仲間も増えたよ。
ザハルと一緒に旅がしたいんだって。
仲間にしてもいいよね?」
「あーう、うん……いや、でもこれ何者なの?
生物としての定義がわからない。
お前は何者なんだ?」
「俺は……魔物だ」
「わかっとるわ!種族名を言うだろう普通!」
「ゴブリン……だ」
「おまえさぁ殺していい?真面目に答えろよ。
次の回答次第ではその首は飛ぶと思っとけよ」
「恐ろしいやつだ……元は蜘蛛の魔物だ。
だが……襲ってくる魔物と……戦い食い続けた結果……自分でもわからない生物になってしまった。
俺は一体何者なんだ……わかるなら教えて欲しい。お前には……それが出来ると聞いた」
「ちょいと待て。鑑定してやるよ」
「鑑定結果により蜘蛛の上位魔物と牛の下位魔者のハーフになってますね」
「じゃーあれだな。お前蜘蛛タウロスな」
「蜘蛛タウロスか……それ……いいな」
「主……こいつアホですよ。間違いなく」
「う、うん。そうだね。
今回はお前の毒舌に賛成だな」
「こいつ要ります?」
「要らんけど、支援専門として考えれば有能かもしれん」
「アホですし、主の質問に対してふざけた発言は許しがたいです」
「そこは今後教育的指導をしていけばいいさ。
死なない程度にね……」
「主が良ければ私はこれ以上何も言いません」
「すまんな、キア。
いつも俺を最優先で考えてくれて感謝しているよ」
「主はまだまだしょんべんくせーガキですからね。私が支えませんと」
「感謝したこと忘れてくれ。クソシステムが」
蜘蛛タウロスが何か物欲しげな顔でこちらを見てくる。
目がいっぱいあるので、あんまり見らんで欲しい。
素直に気持ち悪い。
「名前……欲しい……付けて……欲しい」
何でコイツは片言なんだ。
そんなところも気持ち悪い。
面倒くさい、正直真面目に考える気になれない。
適当に決めちゃえ。って決めた後、これからの彼の活躍ぶりを見て後に凄い申し訳なくなったのである。
でもさぁ仕方ないじゃん!
見ようによってはさぁ、そう見えなくもなかったんだから!
「名前ね……んーーー」
フォルム的にもこれでいいや。
「お前の名前はナスビだ」
「ナスビ……感謝します」
「良かったねナスビ!名前貰えたね」
「うむ。ナスビよ、これからよろしく頼む」
「ナスビ宜しく」
こらこらあまり名前を連呼するんじゃない!
笑ってしまいそうになるじゃないか。
「“ナスビ!” “ナスビ!”」
やめい!
「主、これヤバい面白いですね」
「き、キア、タバコ。タバコを吸って冷静を装わなくては……」
「はいどうぞ」
「”なっちゃん” ”なっちゃん”」
これはいかん!
あだ名はパンチ効いとる!
「皆ありがとう!あたい頑張る!」
「ちょい待てー!”あたい”て!お前メスかよ!
しかも話し方が流暢になっとるやないか!」
「そうだわよ。あたいは女さ!惚れてはダメよんザハルン」
「うん。大丈夫。
この世のものとは思えない見た目のお前に惚れることは死んでもない。
それともう一度調子乗ったらマジで殺すから宜しく」
「すみません」
だってほら、うちのキア姉さんがブチギレたらマジでアイツ消し炭にされるからさ!
抑制しとかないとね!
ね!キアさん。
くっそ機嫌悪そうなこと……
「それはそうと君たちもずいぶん強くなったね」
「あ、ザハルわかる?」
「まぁそりゃ分かるよね……」
「でもねーまだもう少し足りなくて、あと少しのところなんだよねー」
「進化?」
「そう。次の進化は大きく変化しそうな予感がするんだよ。早く進化したいなぁ」
「焦って命を落とすこともあるから、一段ずつ登っていこうじゃないの」
「そうだね。もうボス部屋行くの?」
「そのつもりだよ。50階層のボスまでは一気に行きたくてさ」
「よし行こう!」
この時までは俺は余裕で倒せると思っていた。
油断してたつもりもない。
十分すぎるほどに注意もしていたつもりだ。
40階ボス部屋。相手はよく分からん植物系のボスだった。
ここは問題なく突破することに成功する。
しかし、50階層のボスは半端なかった。
今までの相手とは明らかに次元が違う。
俺はここで初めて自分の限界を超える相手と戦うことになるのだった。
終わってみて思うことは、”死ぬかと思った”
この一言に尽きる……
今回ははっきり言って仲間のナスビとマイムに救われた。
あいつらが居なかったら俺は片腕を失うとか何か大きなキズを負っていたに違いない。
マイムは39階層の生活と50階層のボス部屋に行くまでの間にレベルが48に到達し、意味の分からんスキルでもある糖分貯蓄を覚えていた。
だが結果としてこのスキルで俺は命拾いをしたと言ってもいい。
それとナスビ……コイツは単純に鬼有能だった。
支援・防御・デバフ。
この3つを駆使して俺をフルサポートしてくれた。
しかし、俺達にも犠牲がなかったわけではない。
仲間の1体が犠牲になったのである。
――50階ボス部屋――
扉を開ける前から今までにない雰囲気が漂っていた。漏れ出すメスト。
この漏れ出したメストでもレベル50は遥かに超えていた。
今までもボス部屋の前で、漏れ出すメストはあった。
しかしながら、たかが知れており気に掛ける必要もなかった。
だがコイツは違う。
化け物だ……流石の俺とキアもそう確信した。
「キア、腹くくるぞ」
「主、最初から全力で行ってください。油断したら確実に体に大きな損害が出ますよ」
「だな。それに俺が最初から全力を出さねば仲間が全滅もあり得る。と、言っても何かしら損害は出そうだがな……」
「ええ」
「キア、可能な限りアイツらを助けてやってくれ」
「それでは主が!」
「……頼む」
「承知しました」
マイム達は驚異的なメストに萎縮している。
仕方ないよね。
アイツらも強くなったとはいえ、まだレベル50未満。
絶対に勝てない相手を目の前にしてるんだもん。
基本上位の魔物ほど、絶対に勝てない相手を目の前にすると逃げ出す傾向がある。
皆も本当は逃げ出したいだろう。
それでも逃げない。
分かってるよ。皆ありがとう。
「中に入ったら全員手を出さず下がってキアの指示に従うように」
「で、でも流石に危険だよ!」
「分かってる。それでも下がっててくれ。
誰も失いたくない」
俺はゆっくりと扉を開いた。
入口が広がっていくにつれ、凄まじいメストが溢れ出てくる。
イカれてやがる。身震いが止まらない。
「こんな所まで来る奴が居るとはな。
あの方の話は本当だったということか。
わざわざこんな下位な層に来た会があったということか」
「そうだよな……あり得ないよな。
そんな気はしてたよ。
あの方ってのが非常に気になるが、ぶっちゃけ話す余裕もないし……こちらから行っていいか?」
「ふっ……ああ。来るがいい。人の子よ」
コイツの見た目が気になるだろうけど、見た目も何もデーモンそのもの。
グレーターデーモン以上?
いや、分からん。
そう分からないのだ。今の俺のレベルでは鑑定出来ない。とだけ言っておこう。
俺は自ら仕掛けた。
というより相手から仕掛けられた場合の脅威が拭えなかったから、仕掛けるしかなかったというのが真実である。
「ザハルが見えない……本当はあんなに凄いんだね!これなら勝てるよ!」
この希望は直後に絶望へ変わる。
キアには全てが見えていた。
無数の攻撃を仕掛けるザハル。
何事も無く攻撃を退けるデーモン。
たったの一撃。たったの一撃でザハルは地面に伏せていた。
「ぐはっ……」
俺はたったの一撃で内臓が何箇所か潰された。
超回復により即座に修復されたが、修復された直後に二発目。
次は脳の損傷。
修復・右腕切断・修復・内臓損傷・修復。
流石に全損を繰り返し完全修復を繰り返すだけでも恐ろしく魔力を損傷してしまう。
足に力が入らなくなってきやがった。
キアがマイムが仲間たちが助太刀に入ろうとしている。
「来るな!ゴホッ。クソっ……魔力の使いすぎか。
目が霞んで奴が……どこ行った?」
鼻から口から血が吹き出る。
ここまでか。まだ死ねないというのに……
クソっ!!
俺が本当に事切れる寸前の時、無情にもデーモンから最期の一撃が放たれた。
「ダンジョンを爆進する化け物が居ると聞いてたが、所詮は人の子。大いに期待外れであったぞ。
塵となれ」
“ドーン!!”ぐしゃ。ビチャビチャ……
何かがぶつかり骨が砕かれ肉片が飛び散る音が響き渡る。
俺は目の前の光景に己の無力さ、己の過信、命の尊さを見せつけられる。
その場に蹲り虫の息になっているグリースが居た。
「ぐ、グリース!はぁはぁ……な、なぜ?なぜ出てきた!」
「ザ、ハル……し、死ぬ……な
俺の……肉を……喰え。たの……し……かった」
「グリース!グリース!!」
「鋼糸防壁!
マイム!キアさん早く!」
「主!マイム!蓄えた糖分を直接流し込んで下さい!
ナスビ!1分耐えれますか!?」
「大丈夫!1分であれば鋼糸防壁は保ちます!
その間に幾重にも罠を張り巡らせておきます!
でも倒せはしません!
あくまでも時間稼ぎですよ!
クラーヌ早くグリースの肉をザハルの口に入れなさい!」
俺の意識はほとんど保ててない。
それでも感じるものがあった、極限まで洗礼された甘い蜜の味。
うめー……
更に高レベル且つ魂が詰まった極上の肉。
これもうめー……
「これは?あー……いつもの100倍美味いタバコだ……」
薄れゆく意識から何かが覚醒していく感じがしていた。
「主!システムアップデートを最短で行います。
そのまま動かないで!」
「動くって動けんよ……」
キアはとんでもないスピードでキア自身を3度のアップデートを成功させた。
キアのアップデートが完了したと同時に俺はその場で立ち上がっていた。
「ナスビありがとう。もう十分だ。
マイム、クラーヌ、君たちもありがとう」
俺はその場を後にし、消える寸前であるグリースの遺体へ向かった。
「よくこんな体になってまで……すまないグリース。
俺の責任だ」
「主……」
「キア、俺は自惚れていたようだ。
俺にはマイム、クラーヌ、ナスビ。そして何よりお前の力が必要のようだ。
何でも1人で出来る気になっていた。
グリースの死は俺が招いてしまった事だと思う。
俺はグリースの肉を喰らった。グリースは俺の中で共に生きていく。
色々話したいこともあるが、先ずはアレを倒さないとな。
手伝え、キア」
「勿論です。我が主。
あ、それはそうとですね、先程共に生きると申されましたが、食べた物はうんこになると思いますよ」
「……毒舌通り越してぶっ飛んでエグい発言をありがとうございます。
行くぞ」
「ん?何だ人の子よ。なるほどなるほど、それがお前の力というものか。
あのお方の言った以上に十分化け物じゃねーか!これは楽しめそうだ!」
「いや、残念ながらもう楽しめることはない」
「なんだと?」
「もう終わっている」
直後、デーモンの身体は真っ二つに割れた。
「何をした!?」
「さっきお前が話してた時に斬った。
以上」
デーモンは塵となり消えていった。
恐らく死んだのであろう。
「でも感謝もしている。お前のお陰でまだまだ強くならなければならない理由が見つかった」
なんとか勝てた。大きな犠牲を払ったが、大いなる成長も出来た。
それは俺もキアも仲間たちも。
その後、俺達はグリースの遺品を回収し俺達なりのやり方でグリースを弔った。
いつもならボス部屋直前の階層まで潜っているが今日は51階層で進むのを止めた。
そして俺とキアはそのまま帰路に着くのであった。
俺はこの日初めてダンジョンの過酷さと無慈悲さを痛感した。
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