異世界行っても喘息は治らなかった。

万雪 マリア

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勇者になるための準備

二十四分の五話・水の精霊王の記憶

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 その時、エルノアの脳裏を走った映像は、精霊王ミシュの記憶は、慈愛に満ち溢れていながらも、あまりにも残酷で__
 とても美しいものであった。




 ミシュは精霊王なんです。
 とってもえらいのです。強いのです。でも、強い精霊は他の精霊を守る「義務」があるのです。人間さんの世界では、高貴なる血統のものが、のぶれすおぶりーじゅ……でしたっけ? を全うする「義務」があるそうです。ミシュ達とおんなじ、ですね……。嬉しい、です。
 それに、人間さんの世界ではちっちゃい女の子の格好をしてますが……本当のミシュはもっと大きいのです。大きいのです。大事な事だから二回言いました。
 本当の私は、人間さんたちでいう16~17歳ほどの女の人姿なのです。でも、髪の毛は青くて無重力状態みたいにふわふわですし、瞳はエメラルドグリーンです。この二つが人間さんに揃う事は、まずないし、髪型はぜったいにマネできないとか……? みんなとちがうのはいやですが、どんなにあがいてもさらさらストレートにはなりませんでした。悲しいです。ついでにいうと、下半身はおさかなさんとおんなじなんです。にんぎょさんみたい、と一度言われた事があります。
 いちおう、おさかなさんじゃなくて、人間さんの足にする事もできますが、こうしていたほうが楽なんです。
 あとは、おさかなさんの足の時は、なぜか、れいによく「服を着ろ服を!」と暑苦しくまくし立てられます。かいがらの水着は着てて痛いですし、何より、ミシュは精霊王とはいえ、下半身はおさかなさんです。おさかなさんが、服を着る必要はないですから。
 あと、よくみーあからは「巨乳は死ね! なんだ『I』って! おかしいだろ! レナも私もCなのに! スーに至ってはAAなのに!」と言われて叩かれます。痛いのはいやですね……? それに、言ってることも、よくわかりません……。でも、嫌われるのは、悲しいですね……?



 みしゅは精霊王なのです。
 その日も、おとうさまとおかあさまに呼ばれていました。
 おとうさまは、光のかみさまです。おかあさまも、光のかみさまです。みしゅみたいな精霊は、光のかみさまのからだから生まれるんです。
 精霊王は、とくに大きな破片です。みしゅは、光のかみさまのうでのひふのかけらです。先代さんは、まつげの一本だと聞いています。
 みしゅは、精霊王の中でもよわいほうです。最年少です。でも、がんばります。みしゅは、精霊王ですから。みしゅがよわいと、水の精霊みんながあなどられてしまいます。それはかなしいです。おなじ水の精霊である以上、他の水の精霊たちは、みしゅの子どもたちとおんなじです。
 でも、みしゅが弱いからこそ、呼ばれない時もあったのに……。今回は、「すべての精霊王が集まること!」と言われました。れいから、「今回は一緒に行けるな!」と暑苦しい笑顔で言われました。抱き枕風情が、生意気です。
 ……最近、りかから「天然ドS」だと言われました。意味は分かりませんが、なんだかすごく馬鹿にされている気がします。りかのくせに。りかのくせに。
 それにしても、なんの話なんでしょうか?

 その時告げられた真実は。

 あまりにも残酷なものでした。


 ___「この世界は、『アルカディア理想郷』として作り変えるために存在していた」


 ___「そして、作り変える上で邪魔になったから、『精霊』という存在は抹消して__」


 ___「あらたに別の存在を作るから、君達の自我を消す。精霊遣いの能力は、適当な娘に与える」


 そこまで言うと、おとうさまとおかあさまは、みしゅたちに手を伸ばした。

 逆らうことはできない。

 だって、みしゅたちはおとうさまとおかあさまの子どもであると同時に、おとうさまとおかあさまの一部なんだから。

 逆らってはいけない。

 全ては、頭の中の無意識に刻み付けなければいけない。

 それが、この世界全体の「るーる」だから。

 仕方のない事。

 今ここで、みしゅたちが消されるのも、仕方のない事。

 しかたのないこと。


 ……でも。



『せめて、いとしき人間さんたちに、伝言を』

「なんと?」

『………世界の破滅の予言を』

「なるほど……それも面白そうだな。許可する」

 世界の破滅の予言を。

 せめて、人間さんたちが、予言を信じて、世界を救ってくれると信じて。

 ゆっくりと、他の精霊王たちが倒れていく。

 おさかなさんの足から、人間の足へ。

 姿も、ゆっくりと縮んでいく。

 壊れていく世界へ宛てた、みしゅからの手紙。




 瞬時、エルノアの頭をよぎったのは、壊れていく世界の映像。

 いつか見た事があるような人も、全然知らない人も、皆等しく残酷な死が与えられる。

 人々はみな、ある一点を見つめている。

 そこにいたのは、灰色の髪に灰色の目をした、星型の瞳孔をした少女だった。




 ____『記憶、抹消』
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