異世界行っても喘息は治らなかった。

万雪 マリア

文字の大きさ
上 下
35 / 60
勇者になるための準備

二十三話・マジックとライと初恋と

しおりを挟む
「大丈夫っすかー?」
 つんつん、と頬をつつかれる。
「生きてるかー?」
 ふにゅ、と軽く頬をつねられる。
「おーきろー」
 さらに強く引っ張られる。
 その、微妙な痛みに、目を開けると。

 目の前にあったのはかわいらしい女の子、もといライドール・シグルドリーヴァ。

「あ、やっと起きた!」
 青紫の、長い髪の毛を高く結び、灰色の大粒の瞳を輝かせてこちらを見ている。
 改めてみると、顔のパーツは養父様に結構似てる。しかし、ふっくらとした頬や大きな瞳のおかげで、少女的にロリっぽく見える。
「どーも、おはよー、ライだ……っす。えっと、今日はかくし芸を見せにきたぜ……っすよ」
 服は、前見た時と同じだ。ただし、ポニーテールの結び目に白いリボンをつけている。
「えっと、また何でこのタイミングで?」
 そこだけが気になった、というよりなんで私は部屋に帰ってきているのだろうか? 寝転んでるみたいだし、ライが運んでくれたのかな?
「うーむ、なんというか……ま、秘密だぜ……っす」
 即座に思考読み結界発動。同時ににやけないように表情筋を真顔のまま固定。



 __『……言えないッ! 仮にも貴族のお嬢様に、好きな人にアピールしたいからとかいうふざけた理由で突撃しただなんて言えるはずがないッ!』



 過去にさかのぼる。全力で。ライがなんか言ってるけどシラネ。ついでに私を適当にベッドの上にのせて、自分だけは部屋の真ん中に立ったけど関係ない。そのライの「好きな人」が誰か知りたい。冷やかしたりしないから知りたい。というより、この子、「初恋の相手は近所に住んでる猫っす!」とか素面で言いそうだから怖い。
 ………あれ?
「ま、見ててくださいっすよ! んじゃ最初は」
 どこからともなくシルクハットもどきを取り出したライを横目に、違和感を感じた。
 思考が、読めない。ロックされてるみたいで。というか、ぐっちゃぐちゃになってる。絵具でもぶちまけられたみたいに、染まっている。
 その中でも、ひときわ目立つ単語があった。
「とぉっ!」
「せら……?」
 瞬間、空気が凍てついたようだった。
 鳩に似た鳥だけが「くるっぽー」と鳴き声を上げてシルクハットから飛び出すが、ライはこちらを見据えたまま、鳩を帽子の中に押し戻した。その時、「くぇ」と音がしたのは気にしない事でおこう。
「なななにゃななにゃんで今しぇらがでてくるんだぜか!?」
「口調おかしいし噛みすぎ」
 冷静に突っ込みを入れると、ボン、と音を立てて顔がトマトのごとく深紅に染まる。
 灰色の瞳は、心なしか泳いでいるように見えた。
「せ、せらは………関係ないぜ………」
 思いっきり目をそらしてそうつぶやくが、説得力はない。皆無だ。
「ふうん?」






「ふうん?」
 エルちゃんは、それ以上追及する事はしなかった。
 ただ、全くの無表情であったため、それが逆に怖かった。
 ……あー、よかった。


 ライドール・シグルドリーヴァ。こう見えても十七歳だ。ただし、お酒や煙草に関しては全力で首を横に振るような年。レイが、最近実験の失敗でできたとかいう薬酒をふるまってくるけど、ライちゃん知らない。
 あ、ちなみに普段はトトカマぶってる。え意味? 知ってるもん。知ってる。ただ今ちょっと頭に出てこないだけで。こう、もう少しで出そうなんだけどなー! アハハ!
 で、なぜエルちゃんのところに来たかと言うと……旅のお供の一発芸で、どうにかセラの心を惹きつけられないのかと思ったからだ。うん。あたしの足りない脳みそで考えたにしてはだいぶまともな策だ。
 だからこそ、エルちゃんの口から「せら」と出た時はビックリした。ほかの「せら」であると思いたかった。しかし、あたしの足りない脳みその検索結果、「せら」に引っかかる事柄は、「セラフィム・アルヴァイト」しかなかったのだ。
 エルちゃんは、そこまで追求しなかったけど……もしかして、あたしって顔に出る? いや違うか。じゃあもしかして、エルちゃんって心を読める? 読心術の使い手? ……それはもっとないか。
 そこまで考えて、どうせ私の脳みそでは答えにたどり着けないだろうと諦め、次の芸に入る事にした。
 どうしよう。のやり直しでもしようか、それとも、とっておきのにしようか……?
 エルちゃんの驚く顔を想像して、一人にやりと微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。

Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。 それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。 そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。 しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。 命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...