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勇者になるための準備
二十三話・マジックとライと初恋と
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「大丈夫っすかー?」
つんつん、と頬をつつかれる。
「生きてるかー?」
ふにゅ、と軽く頬をつねられる。
「おーきろー」
さらに強く引っ張られる。
その、微妙な痛みに、目を開けると。
目の前にあったのはかわいらしい女の子、もといライドール・シグルドリーヴァ。
「あ、やっと起きた!」
青紫の、長い髪の毛を高く結び、灰色の大粒の瞳を輝かせてこちらを見ている。
改めてみると、顔のパーツは養父様に結構似てる。しかし、ふっくらとした頬や大きな瞳のおかげで、少女的に見える。
「どーも、おはよー、ライだ……っす。えっと、今日はかくし芸を見せにきたぜ……っすよ」
服は、前見た時と同じだ。ただし、ポニーテールの結び目に白いリボンをつけている。
「えっと、また何でこのタイミングで?」
そこだけが気になった、というよりなんで私は部屋に帰ってきているのだろうか? 寝転んでるみたいだし、ライが運んでくれたのかな?
「うーむ、なんというか……ま、秘密だぜ……っす」
即座に思考読み結界発動。同時ににやけないように表情筋を真顔のまま固定。
__『……言えないッ! 仮にも貴族のお嬢様に、好きな人にアピールしたいからとかいうふざけた理由で突撃しただなんて言えるはずがないッ!』
過去にさかのぼる。全力で。ライがなんか言ってるけどシラネ。ついでに私を適当にベッドの上にのせて、自分だけは部屋の真ん中に立ったけど関係ない。そのライの「好きな人」が誰か知りたい。冷やかしたりしないから知りたい。というより、この子、「初恋の相手は近所に住んでる猫っす!」とか素面で言いそうだから怖い。
………あれ?
「ま、見ててくださいっすよ! んじゃ最初は」
どこからともなくシルクハットもどきを取り出したライを横目に、違和感を感じた。
思考が、読めない。ロックされてるみたいで。というか、ぐっちゃぐちゃになってる。絵具でもぶちまけられたみたいに、染まっている。
その中でも、ひときわ目立つ単語があった。
「とぉっ!」
「せら……?」
瞬間、空気が凍てついたようだった。
鳩に似た鳥だけが「くるっぽー」と鳴き声を上げてシルクハットから飛び出すが、ライはこちらを見据えたまま、鳩を帽子の中に押し戻した。その時、「くぇ」と音がしたのは気にしない事でおこう。
「なななにゃななにゃんで今しぇらがでてくるんだぜか!?」
「口調おかしいし噛みすぎ」
冷静に突っ込みを入れると、ボン、と音を立てて顔がトマトのごとく深紅に染まる。
灰色の瞳は、心なしか泳いでいるように見えた。
「せ、せらは………関係ないぜ………」
思いっきり目をそらしてそうつぶやくが、説得力はない。皆無だ。
「ふうん?」
「ふうん?」
エルちゃんは、それ以上追及する事はしなかった。
ただ、全くの無表情であったため、それが逆に怖かった。
……あー、よかった。
ライドール・シグルドリーヴァ。こう見えても十七歳だ。ただし、お酒や煙草に関しては全力で首を横に振るような年。レイが、最近実験の失敗でできたとかいう薬酒をふるまってくるけど、ライちゃん知らない。
あ、ちなみに普段はトトカマぶってる。え意味? 知ってるもん。知ってる。ただ今ちょっと頭に出てこないだけで。こう、もう少しで出そうなんだけどなー! アハハ!
で、なぜエルちゃんのところに来たかと言うと……旅のお供の一発芸で、どうにかセラの心を惹きつけられないのかと思ったからだ。うん。あたしの足りない脳みそで考えたにしてはだいぶまともな策だ。
だからこそ、エルちゃんの口から「せら」と出た時はビックリした。ほかの「せら」であると思いたかった。しかし、あたしの足りない脳みその検索結果、「せら」に引っかかる事柄は、「セラフィム・アルヴァイト」しかなかったのだ。
エルちゃんは、そこまで追求しなかったけど……もしかして、あたしって顔に出る? いや違うか。じゃあもしかして、エルちゃんって心を読める? 読心術の使い手? ……それはもっとないか。
そこまで考えて、どうせ私の脳みそでは答えにたどり着けないだろうと諦め、次の芸に入る事にした。
どうしよう。シルク鳩のやり直しでもしようか、それとも、とっておきのアレにしようか……?
エルちゃんの驚く顔を想像して、一人にやりと微笑んだ。
つんつん、と頬をつつかれる。
「生きてるかー?」
ふにゅ、と軽く頬をつねられる。
「おーきろー」
さらに強く引っ張られる。
その、微妙な痛みに、目を開けると。
目の前にあったのはかわいらしい女の子、もといライドール・シグルドリーヴァ。
「あ、やっと起きた!」
青紫の、長い髪の毛を高く結び、灰色の大粒の瞳を輝かせてこちらを見ている。
改めてみると、顔のパーツは養父様に結構似てる。しかし、ふっくらとした頬や大きな瞳のおかげで、少女的に見える。
「どーも、おはよー、ライだ……っす。えっと、今日はかくし芸を見せにきたぜ……っすよ」
服は、前見た時と同じだ。ただし、ポニーテールの結び目に白いリボンをつけている。
「えっと、また何でこのタイミングで?」
そこだけが気になった、というよりなんで私は部屋に帰ってきているのだろうか? 寝転んでるみたいだし、ライが運んでくれたのかな?
「うーむ、なんというか……ま、秘密だぜ……っす」
即座に思考読み結界発動。同時ににやけないように表情筋を真顔のまま固定。
__『……言えないッ! 仮にも貴族のお嬢様に、好きな人にアピールしたいからとかいうふざけた理由で突撃しただなんて言えるはずがないッ!』
過去にさかのぼる。全力で。ライがなんか言ってるけどシラネ。ついでに私を適当にベッドの上にのせて、自分だけは部屋の真ん中に立ったけど関係ない。そのライの「好きな人」が誰か知りたい。冷やかしたりしないから知りたい。というより、この子、「初恋の相手は近所に住んでる猫っす!」とか素面で言いそうだから怖い。
………あれ?
「ま、見ててくださいっすよ! んじゃ最初は」
どこからともなくシルクハットもどきを取り出したライを横目に、違和感を感じた。
思考が、読めない。ロックされてるみたいで。というか、ぐっちゃぐちゃになってる。絵具でもぶちまけられたみたいに、染まっている。
その中でも、ひときわ目立つ単語があった。
「とぉっ!」
「せら……?」
瞬間、空気が凍てついたようだった。
鳩に似た鳥だけが「くるっぽー」と鳴き声を上げてシルクハットから飛び出すが、ライはこちらを見据えたまま、鳩を帽子の中に押し戻した。その時、「くぇ」と音がしたのは気にしない事でおこう。
「なななにゃななにゃんで今しぇらがでてくるんだぜか!?」
「口調おかしいし噛みすぎ」
冷静に突っ込みを入れると、ボン、と音を立てて顔がトマトのごとく深紅に染まる。
灰色の瞳は、心なしか泳いでいるように見えた。
「せ、せらは………関係ないぜ………」
思いっきり目をそらしてそうつぶやくが、説得力はない。皆無だ。
「ふうん?」
「ふうん?」
エルちゃんは、それ以上追及する事はしなかった。
ただ、全くの無表情であったため、それが逆に怖かった。
……あー、よかった。
ライドール・シグルドリーヴァ。こう見えても十七歳だ。ただし、お酒や煙草に関しては全力で首を横に振るような年。レイが、最近実験の失敗でできたとかいう薬酒をふるまってくるけど、ライちゃん知らない。
あ、ちなみに普段はトトカマぶってる。え意味? 知ってるもん。知ってる。ただ今ちょっと頭に出てこないだけで。こう、もう少しで出そうなんだけどなー! アハハ!
で、なぜエルちゃんのところに来たかと言うと……旅のお供の一発芸で、どうにかセラの心を惹きつけられないのかと思ったからだ。うん。あたしの足りない脳みそで考えたにしてはだいぶまともな策だ。
だからこそ、エルちゃんの口から「せら」と出た時はビックリした。ほかの「せら」であると思いたかった。しかし、あたしの足りない脳みその検索結果、「せら」に引っかかる事柄は、「セラフィム・アルヴァイト」しかなかったのだ。
エルちゃんは、そこまで追求しなかったけど……もしかして、あたしって顔に出る? いや違うか。じゃあもしかして、エルちゃんって心を読める? 読心術の使い手? ……それはもっとないか。
そこまで考えて、どうせ私の脳みそでは答えにたどり着けないだろうと諦め、次の芸に入る事にした。
どうしよう。シルク鳩のやり直しでもしようか、それとも、とっておきのアレにしようか……?
エルちゃんの驚く顔を想像して、一人にやりと微笑んだ。
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