異世界行っても喘息は治らなかった。

万雪 マリア

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勝手に勇者にされました。まる。

十五話・狂信者爆誕

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 ……び、びっくりした。
 なんだったんだ、さっきのは……?
 光が収まると、何事もなかったかのようにジン兄さんが立っていた。
 いや、何事もなかったかのように、というのはおかしい。きりっと……いやキチっと? していたジン兄さんの顔が、呆けたような、ぽやあ、と効果音が出そうな間の抜けた顔に衝撃の大変身を遂げていた。
 ところで、さっきのはなんだったんだろうか。
 あの色、どっかで見たことあるような……?
 んー……蜜柑色、ミカン色、みかん色……?
 あ、あれだ。あのオレンジタルトと同じ色だ! 正確には、上に乗ってたオレンジの!
 あーなるほど。……ん? ちょっと待って? あれ毒とか入ってたわけ?
 ちょっと……いやかなり気になるので、ステータスを開くことにする。
 メニュー画面を開くと同時に気付いたのは、色が変わったことだった。
 青い半透明を縁取る、白い枠。もともとはそうだったはずなのに、なぜか枠が橙色になっていたのだ。
 ……んー?
 とりあえず置いといて、ステータス画面を開く。
 やけに重いローディングを抜けて、ステータスが表示された。
 そこには、こうあった。



エルノア=ユグド=サテライト(旧姓 エルノア・スターライト) 五歳 女 レベル12 カウント【1】
HP:100/100
MP:10000000000000000/10000000000000000
筋力:4
魔法攻撃力:15000000000
敏捷性:20
耐久力:6
魔法対抗力:∞
運:-73
状態異常:喘息 魔法飽和 MPオートリジェネ 神【1】
使用可能魔法

【魔法全皆伝しました! おめでとう! すべての基礎魔法を使えるよ!】

使用可能特技
新・妄想狂の世界「パラノイア・ワールド【第二】」 ポーション醸造 魔法飽和 MP消費削減【基礎魔法】 神の祝福【血の盟約】
称号 異世界からの来訪者 神の力【1】解放者
説明
異世界から転生してきた者。喘息のせいでいつも死にそう。
黒い髪と目をしており、父母には似ていない。
備考:神様の加護を賜っている。
   現在の神果 第一段階【オンジコンフィ】




 うおおおおい!?
 まずMPと魔法攻撃力のケタが一つ増えてるなー……とそこはいいんだ。
 まずなんだカウント【1】って!
 反応はない。ただの板のようだ。
 余命か何かなのか!? もうわけがわからないよ!
 次に、神【1】は……やっぱり反応がない。
 じゃ、じゃあ、新・妄想狂の世界「パラノイア・ワールド【第二】」をタップしてみようっと……。


 新・妄想狂の世界「パラノイア・ワールド【第二】」
 消費MP:場合に応じて
 効果:元の能力に加えて、能力の複製、譲渡などができる。
 ※この能力は複製できない。



 お、おう。
 なんかすごい進化があると思ったら、そんなことはなかった。
 じゃあ、神の祝福【血の盟約】は?



 神の祝福【血の盟約】
 消費MP:無し
 効果:術者の血に触れたものは、問答無用で術者の狂信者になる。術者親衛隊ができるよ! やったねエルちゃん! 仲間が増えるよ!
 備考:この効果は永続する。


 おいやめろ。
 何がやったねエルちゃんだよ! 誰がエルちゃんだよ! 何が術者親衛隊だよ! めんどくさい予感しかしないよ! なんなの馬鹿なの死ぬの!?
 にしても、この能力……?
 術者……ようするに私の血に触れると、私の狂信者になる……?
 いやな予感がして、ジン兄さんを見る。
「……あ」
 焦点の合わない単色の瞳をしている。
 しかし、私を視界に入れると、徐々に複雑なグラデーションになる。
 上半分が黒で、下半分が元のアイスブルーだ。
 ……んー?
 最後に、ダメ押しのように瞳がオレンジ色に光ると、
「ぼ、僕はなんてことを……」
 と震えだして、
「エルノア様! お赦しください! エルノア様を害そうとし、挙句にそのお美しい肌に傷を付けようなど……わたくしは万死に値します! どうか、僕に慈悲の地の祝福を……!」
 ここまで、早口で申し立てられた。
 え、いや、控えめに言ってキモイ。
 しかも、この効果は永続するんでしょ?
 …………私の血が売られなくってよかった。
 ん、にしても地の祝福かあ。
 ちょっとパラノイアワールドでやってみようかな?
 ………慕われるのは、ちょっと嬉しいしね。
「わかりました……その罪、赦しましょう。其方に大いなる恵みの大地の祝福を……地魔法【カンパシオンソイル】」
 ノリノリである。
 やわらかな黄色の光が降り注いで、ジン兄さんの体が黄金色に輝く。
 薄く威光が見えるぞ、威光が。
「あぁ……エルノア様の慈悲の光が、心に……この罪は、赦されたのだな……」
 ジン兄さんってこんな性格だっけ?
 確か、ただのシスコンだったような気がするけど……。
「神であり同時に聖地でもあるエルノア様には、できる限り巡礼させていただきます……どうか、この僕が貴女様の姿を見ることをお赦しください」
 私聖地かよ!
 あとできる限りってことは毎日のように来るってこと?
 襲撃イベがやばいよ!
「あ……はい……」
 もはや半ば引き気味にもなって、あとにしてもらう。
 ……そういえば、ここまで騒いでるのに人っ子一人こないのはおかしくない?
 ちょっとした疑問を抱えながら、私は門前を後にした。

 ……ところで、なんで私は外に出たんだっけ?
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