異世界行っても喘息は治らなかった。

万雪 マリア

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なんか貴族になるらしいよ、私

九話・【儀式】

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「さぁ、儀式を始めよう」
 最初からクライマックスとはこの事だろう。
 まだ異世界生活数日目なのに、誰かに捕まった。
 寮へ帰る所で、テンプレ通り首に手刀を喰らい、気が付いたら……手術台? のような、拘束具のついた台に寝かされていた。
 この拘束具、変な封印でもかけられているのか、魔法を使う事ができないのだ。
 ……まあ、魔法とは別のくくりにされているのか、パラノイア・ワールドは使えるみたいだけど。
 儀式をなんちゃらと意味深な事を言っているのは、全身が真っ白な衣装で覆われた人だ。声質からして、男性ではないかと思われる。
 この後、色々役に立つかもしれないから、しばらくは情報を聞いておく事にしよう。
 目は、うっすら開いているだけだから、お決まりの展開だと、気絶したままと思われて、ペラペラしゃべってくれるはずだし。危なくなっても、パラノイア・ワールドで、ロザリーあたりを人の後ろに召喚すればいいだけだし。
「……本当に、適合しているのですか?」
 次に聞こえたのは、少女の声だ。ボーイソプラノ、というのだろうか、幼さが残るが、甲高い。多分まだ年端もいかない少女だろう。
「大丈夫だ。恨むなら馬鹿正直に神殿で出された水を飲んだ自分を恨めばいいだけの話なのだから」
 むかっとする。確かに警戒感が無かったのは事実だ。しかし、神殿の水だ。聖水だ。それに何か盛られていたのだろうか?
「じゃあ、始めるか。【ラ」
 その音が聞こえると同時に、拘束具に向けて無数の針を放ち、破く。
 若干血が垂れて、手がよごれる。
「なっ!」
 拘束具が切れたら、そのまま立ち上がり、自分の足に向けてウインドの小玉を放つ。
 その勢いを利用して後ろに吹っ飛ぶ。なかなかに広い部屋だったみたい。
「く、取り押さえなさい!」
 同じく白尽くめの少女が、男に指示を出す。
 同時に、私はパラノイア・ワールドで障壁を張る。
 ほんとこれ便利。
 なんか赤いのが飛んできたが、障壁で簡単に崩れ去る。
「色々喋ってくれてありがとー。感謝してるよ」
 なんとなく、言ってみたかったことを言ってみた。
 同時に、ニヤッとした笑みを唇に張る事も忘れずに。
 私は、手を前に出す。
 すると、二人が弾かれたように後ろに飛ぶ。
「【サンクチュアリ】!」
 すると、全体が薄い金色の膜で覆われる。
 しかし、特に何か変わったように見えない。
 私は、頭の中に少女を思い浮かべる。
 長い金髪は、奇麗な三つ編みにされて、前に垂らされている。
 瞳の色は、艶やかな京紫だ。しかし、長い前髪により、半分は影が落とされている。
 肌理きめ細やかな肌は、日に焼けず真っ白。その肌を覆い隠すように、赤い頭巾がくっつけられる。
 竹で編んだ籠には、猟銃と斧が入っている。原典赤ずきんでは、赤ずきんは助けられないまま終わる。じゃあ自分で狼さんを殺せばいいじゃない! というわけだ。
 服は、ひざ下丈の赤いワンピースに、白いエプロン。見た目は……10代前半ぐらい? 前の世界の私と同じくらいの背丈だ。
 あとは、思い浮かべたものを、形にするだけ。

「当代赤ずきん【メイシー・ブランシェット】」

 この二つの名前は、「メイシー」は、1900年代の赤ずきんに、「女の子の本当の名前はメイシーでしかが……」とあったので引用させていただいたもので、ブランシェットは、ネットの雑学サイトで見たものだ。多分、ずっとメイシーが当代のままだと思う。
 ちなみに、メイシーという響きが、なんとなく「名刺ー」に聞こえて仕方ないので、私は「メイ」って呼んでる。もしくは「ブランシェ」。
「……なッ!?」
 驚いたような声を上げた少女。
 しかし驚きも束の間で、何か詠唱を始める。
「させないよっ……!?」
 その時、頭をガンと殴られたような衝撃が襲った。
 物理的に、じゃない。どちにかと言うと、内側から外側に、何かが出そうな?
 おかげで、メイが戻ったじゃないか。
 一瞬で終わったので、すぐに復元したが、いったい何だったのだろうか。
「……………どうするの?」
 無表情に聞いてくるメイ。
 当然、倒してほしい、という命は受けているはずだが、なんども聞いてくる所が神経質ってね。
「決まってるでしょ……倒して!」
 瞬間、メイが炎に包まれた。
 少女が放った魔法じゃない。
 炎から現れたのは、全身からパチパチと火の粉を放ち、自分の金色の髪の毛を赤く照らす、メイ__の、戦闘モードである、「ルナティクス・ブランシェット」だ。
 瞳は、キラキラと紅に輝いている。伏せられた瞳から感じるのは、わずかな狂気だ。
 唇は、ゼリーのように、光を反射して輝いている。
「あぁ……了解」
 ルナティクスは、籠から斧を取り出した。普通の女の子には、とても振り回せないような重量のはずだが、ルナティクスは簡単に持ち出す。わざわざ猟銃じゃなくて斧にする所に狂気を感じるのは私だけだろうか。
 そのまま、近くにいた男(推定)を、紅い炎を纏わせた斧で斬り裂く。いや、叩ききる、の方が正しいかもしれない。否、正しい。
 聞くに堪えない絶叫が響く。灰すら残さず燃やし尽くされた。私は、「【サンクチュアリ】破りー」と言って、薄金色の結界的なものであろう何かを破る。
「ひっ……、リ、【リザレ」
 何事かを唱えようとしていた少女(推定)の前に、ルナティクス……もうルナでいいや、が立ちふさがる。
 そのまま、唇を耳があるであろう場所に近づけて……。
「【チェンジ】ィイイィイ!」
 次の瞬間、少女は消えていた。
 ルナは、「すまん逃がした」と笑う。
 まあいい。しばらくは大丈夫だろう。
 ところで、さっきの情報は何だったんだろうか。
 とりあえず、ステータス画面を開く。



エルノア=ユグド=サテライト(旧姓 エルノア・スターライト) 五歳 女 レベル11
HP:100/100
MP:1000000000000000/1000000000000000
筋力:4
魔法攻撃力:1500000000
敏捷性:18
耐久力:5
魔法対抗力:∞
運:-52
状態異常:喘息 魔法飽和 MPオートリジェネ
使用可能魔法

【魔法全皆伝しました! おめでとう! すべての基礎魔法を使えるよ!】

使用可能特技
妄想狂の世界「パラノイア・ワールド」 ポーション醸造 魔法飽和 MP消費削減【基礎魔法】
称号 異世界からの来訪者
説明
異世界から転生してきた者。喘息のせいでいつも死にそう。
黒い髪と目をしており、父母には似ていない。
備考:神様の加護を賜っている。



 伸び率が凄まじい。その一言に尽きる。
 MPと魔法攻撃力に、ゼロが三つも増えてる。それ以外は比較的普通だ。
 とりあえず、いくつか気になるモノがあるんだけど、使用可能魔法にある、【魔法全皆伝しました! おめでとう! すべての基礎魔法を使えるよ!】って何?
 確か、魔法の定義は、「空中に漂う魔子を操り、流れを作る事によって行使する」だったはずだ。
 つまり、ファイアやメテオ、アクアなんかの、普通の人が使える魔法は、全て使えるって事?
 うわチート。
 とりあえず、一番気になるのが「MP消費削減【基礎魔法】」なんだけど……。



MP消費削減【基礎魔法】
説明:基礎魔法のMP消費を0にする。また、魔法飽和で使われるMPも、同様に0にする。



 うわチート。二回目だけど、うわチート。
 で、その魔法飽和って何?




魔法飽和
説明:毎秒一ずつMPを消費し、魔子で自分の周りを覆う。
これにより、魔法を使って魔子の流れを変えるまでは、攻撃以外の外的要因から、病弱な体を守る。



 あ、これが、喘息であった、「全身を魔力でなんたら」ってやつね。
 ん?
 って事は、喘息に対しては、ほぼ完ぺきに対応できた?
「よっしゃ!」
 ガッツポーズ。
 とりあえず、気になるのはこんなもんかな。
 あと、ちょっと試し打ちしたいんだけど、それは明日の実技でいいかな。
 期待に胸を膨らませて、私も「【チェンジ】」と言ってみる。
 すると、寮の部屋に戻っていた。
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