5 / 5
第一章
第四話【リュミエール】
しおりを挟む
白昼夢だろうか。
恐怖心か何かが、深層心理か何かに働きかけたのか、見えるはずのない景色が見えた。
上等な炭を塗りつけたかのような、一面の闇の中に、きらきらと咲き誇る花があった。
気高く美しい、真っ赤なカンナの花だ。光なんてないはずなのにそこだけにポツンと悲しそうに咲いている。
その花は、やがて、そんなはずもないのに、私の背丈と同じぐらいに成長する。
そして、ふわり、と根ごと浮いた。
闇の中に、根の付いたカンナだけが、ぼやりと光を帯びて輝いている。
甘い香りがする。
その香りに惹かれてか、ひらひらと青い蝶が飛んできた。
その蝶が花にとまった瞬間、ふわり、と植物は形を変える。
妙に長いな、と思った葉は、すべて、金色の髪の毛に。
赤い花は、生まれるように顔に変化する。落ちた花びらが、輝きを失って霧散した。
閉じた瞳は、ふさふさのまつ毛が覆っている。
間違えるわけがない。
だって、あの姿は__。
「私___?」
気が付いたら、ふかふかのベッドの上に寝かされていた。
柔らかく体を包む毛布は、精神的な安寧をもたらす。
「気が付きましたか?」
「ましたかー?」
もともと私が座っていたイスには、人形姫ことミアと、さっきここに来た人形が座っていた。正確には、ミアの膝の上に人形が座っている。その様はまさに人形である。
いつの間に日が暮れていたのか、窓の外は暗く染まっている。しかし、嵐の気配は感じない。
「お食事の準備が出来ましたので……一階北廊下にある、赤い扉の部屋が食堂ですので、きてくださいまし」
そういうと、わずかな残り香さえも残さず消えた。人形は残ったが、力を失って倒れこんだ。無機質な瞳が私を見つめている。
その時、ぱっと頭が冴えた。
まるで、頭の中の電球が光ったように。
そして、目の前に、記憶が蘇ったのだ。
……これは、攻略サイトの……?
確か、ミア__人形姫の館の、間取り図だ。
ここから、どこに行くかを選ぶのだが……。
今は、二階西廊下、二番目の客室にいる。
向かいの部屋にアレン、右隣の部屋には、イルミナティと言う名前の宰相候補、左隣の部屋には、プルスと言う名前の護衛騎士、はす向かいにはコーサという名前の、表向き侯爵裏向き盗賊ギルドの元締めの息子がいる……みたいかな?
三階の中央にある大部屋がミアの部屋で、一階の給湯室や厨房では、人形メイドの噂話が聞けたりもする。ほかには、一階には風呂場やトイレ、メイド部屋なんかもあり、二階には人形用連絡通路や、図書室なんかがある。
そして、クローズド系……閉じ込められる系ではなく、初日から(嵐の中だけど)帰る事が出来る。また、ミアの話にあった「嵐がうんぬん」は、館から出た時に本物となる。
また、移動には、廊下を移動するのに、短いと30秒、長いと5分かかる。部屋を捜索するには、客室で二分、特殊部屋で3分、大部屋で10分となる。本は、基本一時間、長いと半日で読み切る事が出来る。さらに、朝8時、昼12時、夜20時に食堂で食事をとるため、三十分時間がかかる。お風呂に入らなくても、水属性の「浄化」の魔法を使えばいいっぽい。お風呂に入ると1時間ロスするから、基本的に「浄化」の魔法で済ませようと思う。
食事の時間、という事は、今は20時だ。貴重な探索時間を無駄にした。
出鼻をくじかれた、と思いながらも、夕飯を食べに食堂に行った。
食堂には、私一人しかいなかった。
確か、攻略対象が集まって食べるはずなのだけど……。
時間を確認すると、現在は20時30分。ちょうど皆がごはんを食べ終えた時間だ。
まだ湯気が立っているハンバーグや、ちょっとしんなりしたサラダ、柔らかいパン、コンソメスープを順に口に入れる。
「ごちそうさまでした」の代わりに「浄化」と唱えると、体がさっぱりした。汗などはかいていないだろうが、それこそ「お風呂に入ったあと」みたいだ。
「浄化」の魔法、すごい。
なんて思いながら、食堂をあとにした。
…………がちゃん。
…………がちゃん。
…………がちゃん。
…………がちゃん。
…………がちゃん。
…………がちゃん。
静かになった館の中に、金属質な音が響く。
ミアは、館のマスターキーを持って、館の戸締りをしていた。
「ふふ……全く、皆さま揃いに揃って危機管理能力が薄い……それとも、襲われる事を期待していたのでしょうか………?」
言葉の内容とは裏腹に、彼女の顔には柔らかい微笑が浮かんでいる。
「……あぁ、それとも、こんど人形でもけしかけてやりましょうか……しませんけど」
リュミエールの部屋の鍵を閉める前に、一瞬無表情になり、また微笑みを浮かべる。
…………がちゃん。
軽く伸びをすると、三階に向かって歩いていく。ミアは、その途中で、ゆっくりとつぶやいた。
「独り言が多くなりましたねぇ………直さなくては。ところで」
ミアは自身の部屋に入り内側から鍵をかけると、ベッドに横になった。
目を閉じる事もなく、何となしに部屋をぐるりと見まわす。
シミ一つない天蓋は、真夜中であれ白いことがわかる。それに向かって手を伸ばそうとして、半ばまで来て、糸の切れたマリオネットのように力なく落とす。
ネクリジェに身を包んだ彼女は、まるで絵画に出てくる夢魔のように美しい。もしくは天使のようだ。
気のせいか、ぼんやりと淡く発光しているようにも見える。
静かになった部屋の中で、彼女の甲高い、しかし無機質で単調な声が、いやによく響いた。
__あの方々とわたくしって、会った事がありましたっけ?
恐怖心か何かが、深層心理か何かに働きかけたのか、見えるはずのない景色が見えた。
上等な炭を塗りつけたかのような、一面の闇の中に、きらきらと咲き誇る花があった。
気高く美しい、真っ赤なカンナの花だ。光なんてないはずなのにそこだけにポツンと悲しそうに咲いている。
その花は、やがて、そんなはずもないのに、私の背丈と同じぐらいに成長する。
そして、ふわり、と根ごと浮いた。
闇の中に、根の付いたカンナだけが、ぼやりと光を帯びて輝いている。
甘い香りがする。
その香りに惹かれてか、ひらひらと青い蝶が飛んできた。
その蝶が花にとまった瞬間、ふわり、と植物は形を変える。
妙に長いな、と思った葉は、すべて、金色の髪の毛に。
赤い花は、生まれるように顔に変化する。落ちた花びらが、輝きを失って霧散した。
閉じた瞳は、ふさふさのまつ毛が覆っている。
間違えるわけがない。
だって、あの姿は__。
「私___?」
気が付いたら、ふかふかのベッドの上に寝かされていた。
柔らかく体を包む毛布は、精神的な安寧をもたらす。
「気が付きましたか?」
「ましたかー?」
もともと私が座っていたイスには、人形姫ことミアと、さっきここに来た人形が座っていた。正確には、ミアの膝の上に人形が座っている。その様はまさに人形である。
いつの間に日が暮れていたのか、窓の外は暗く染まっている。しかし、嵐の気配は感じない。
「お食事の準備が出来ましたので……一階北廊下にある、赤い扉の部屋が食堂ですので、きてくださいまし」
そういうと、わずかな残り香さえも残さず消えた。人形は残ったが、力を失って倒れこんだ。無機質な瞳が私を見つめている。
その時、ぱっと頭が冴えた。
まるで、頭の中の電球が光ったように。
そして、目の前に、記憶が蘇ったのだ。
……これは、攻略サイトの……?
確か、ミア__人形姫の館の、間取り図だ。
ここから、どこに行くかを選ぶのだが……。
今は、二階西廊下、二番目の客室にいる。
向かいの部屋にアレン、右隣の部屋には、イルミナティと言う名前の宰相候補、左隣の部屋には、プルスと言う名前の護衛騎士、はす向かいにはコーサという名前の、表向き侯爵裏向き盗賊ギルドの元締めの息子がいる……みたいかな?
三階の中央にある大部屋がミアの部屋で、一階の給湯室や厨房では、人形メイドの噂話が聞けたりもする。ほかには、一階には風呂場やトイレ、メイド部屋なんかもあり、二階には人形用連絡通路や、図書室なんかがある。
そして、クローズド系……閉じ込められる系ではなく、初日から(嵐の中だけど)帰る事が出来る。また、ミアの話にあった「嵐がうんぬん」は、館から出た時に本物となる。
また、移動には、廊下を移動するのに、短いと30秒、長いと5分かかる。部屋を捜索するには、客室で二分、特殊部屋で3分、大部屋で10分となる。本は、基本一時間、長いと半日で読み切る事が出来る。さらに、朝8時、昼12時、夜20時に食堂で食事をとるため、三十分時間がかかる。お風呂に入らなくても、水属性の「浄化」の魔法を使えばいいっぽい。お風呂に入ると1時間ロスするから、基本的に「浄化」の魔法で済ませようと思う。
食事の時間、という事は、今は20時だ。貴重な探索時間を無駄にした。
出鼻をくじかれた、と思いながらも、夕飯を食べに食堂に行った。
食堂には、私一人しかいなかった。
確か、攻略対象が集まって食べるはずなのだけど……。
時間を確認すると、現在は20時30分。ちょうど皆がごはんを食べ終えた時間だ。
まだ湯気が立っているハンバーグや、ちょっとしんなりしたサラダ、柔らかいパン、コンソメスープを順に口に入れる。
「ごちそうさまでした」の代わりに「浄化」と唱えると、体がさっぱりした。汗などはかいていないだろうが、それこそ「お風呂に入ったあと」みたいだ。
「浄化」の魔法、すごい。
なんて思いながら、食堂をあとにした。
…………がちゃん。
…………がちゃん。
…………がちゃん。
…………がちゃん。
…………がちゃん。
…………がちゃん。
静かになった館の中に、金属質な音が響く。
ミアは、館のマスターキーを持って、館の戸締りをしていた。
「ふふ……全く、皆さま揃いに揃って危機管理能力が薄い……それとも、襲われる事を期待していたのでしょうか………?」
言葉の内容とは裏腹に、彼女の顔には柔らかい微笑が浮かんでいる。
「……あぁ、それとも、こんど人形でもけしかけてやりましょうか……しませんけど」
リュミエールの部屋の鍵を閉める前に、一瞬無表情になり、また微笑みを浮かべる。
…………がちゃん。
軽く伸びをすると、三階に向かって歩いていく。ミアは、その途中で、ゆっくりとつぶやいた。
「独り言が多くなりましたねぇ………直さなくては。ところで」
ミアは自身の部屋に入り内側から鍵をかけると、ベッドに横になった。
目を閉じる事もなく、何となしに部屋をぐるりと見まわす。
シミ一つない天蓋は、真夜中であれ白いことがわかる。それに向かって手を伸ばそうとして、半ばまで来て、糸の切れたマリオネットのように力なく落とす。
ネクリジェに身を包んだ彼女は、まるで絵画に出てくる夢魔のように美しい。もしくは天使のようだ。
気のせいか、ぼんやりと淡く発光しているようにも見える。
静かになった部屋の中で、彼女の甲高い、しかし無機質で単調な声が、いやによく響いた。
__あの方々とわたくしって、会った事がありましたっけ?
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる