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第一章
第一話【リュミエール】
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…………おひめさま、おきた?
…………おひめさま、おきた。
…………あるじさまに、ほうこくする?
…………あるじさまに、ほうこくする。
…………りょーかい。
…………りょーかい。
柔らかいベッドの上に、私は寝かされていた。
包み込まれるように、まるで母親の胎内に戻ったみたいに、ふかふかとあたたかい毛布をかけられている。
目を開けると、純白のレースをあしらった天蓋が見える。
部屋の中をざっと確認すると、ロココ調で統一された甘い家具が多い。まだ十にも満たない、王族の姫の部屋みたいだ。見た事はないけど。
上体だけ起こすと、唐突に部屋の中に風が吹いた。
長いおさげが風に従って部屋の中央に吸い込まれる。
窓が開いているわけではない。まるで、ブラックホールに吸い込まれるように。びゅうびゅう肌を切りながら、部屋の中心に向かって風が流れる。
やがて、そこに、少女が現れた。
見覚えがあるというレベルではない。
瞳が紅色に変わっている事だけは異なっているが、それでも……どう見ても、彼女だ。
「___わたくし、ミアと申します。外は嵐ですので、嵐が止むまでもてなしましょう。何か所用が御座いましたら、遠慮無くお呼びくださいませ。机の上にはこの部屋の鍵がありますので、館の中を見て回る時は、鍵を閉めておくようにお願いしますわ」
私の顔は、きっとこれ以上ないぐらいに引きつっているだろう。
悪役令嬢、ミア・ロザボラ。
伯爵位を持つ父と、公爵位を持っていた母の間に生まれた、通称「人形姫」だ。
なんでも、先祖には他国の王族もいたという、由緒正しい伯爵家に生まれる。
しかし、そんな彼女がなぜこんな所で生きているのかと言うと……そこは、謎のままだ。
私自身、「光の女神」ルートは、途中までしかプレイしていない。
というか、風の噂によると、初見だと9割序盤で殺されるという、鬼畜難易度のゲームであり、逆ハーエンドじゃないと到達できず、悪役令嬢であるはずのミアが主体になった話で、攻略対象がどんどん殺されてくぶっ壊れキチシナリオ……だとしか聞いていない。
つまり、ここまでやってきた事のすべてが意味を為さない、と言ってもなんら間違いのないようなシナリオ、だという事だ。
「……あぁ、そこにあるベルを鳴らすと、使用人が来ますので。では、わたくしはこれで」
差された方を見ると、冷たく金色に光る、ハンドベルが置いてあった。
そこには、小さく「Clala」と彫られている。また、八方星の取っ手も付いていたが、それ以外は至ってシンプルなものだ。
……いや、それ以前に聞きたい事があるのだ。
「待って!」
そう声をかけると、ミアはゆっくりと、頭だけで振り向いた。
「……なんでしょうか?」
「貴女、ミア・ロザホラでしょ? 何で悪役令嬢がここにいるのよ!?」
そういうと、ミアは不愉快そうに眉間にしわを寄せる。
そして、
「………言動には気を付けた方がいいですよ? お姫様」
とだけ言い残し、そのままさっさと外に出てしまった。
……外に出ていく一瞬。一瞬だけだけど。
彼女の髪の毛先からゆっくりと色素が抜け落ち、白に近くなったように見えたのは、気のせいだろうか。
私は、このシナリオに関して、覚えているところを書き出してみた。
このシナリオでは、主に「ミア」について調べていく。
ネットで漁った情報によると、このシナリオはマルチエンディングらしい。
でもって、本編みたいな、選択肢からセリフを選ぶシーンもあるのだが、基本的にチャット形式で進んでいく。
「探索パート」と「会話パート」を昼に。
「分岐パート」を夜に。
そして、グラフィックやスチルなどが、本編よりずっと凝っており、さらに、シナリオもかなりこだっているため、むしろこっちのシナリオが本編とまで言われるぐらいだ。
しかも、よくある、いわゆる「鬼ごっこゲー」ではなく、探索パートで「ミア」について調べ、会話パートで誰に伝えるか選び、分岐パートでは集めた情報をもとに「ミア」について人形や本人に聞き込み、謎を解明する……という、ミステリー小説がごときゲームになる。
しかも、情報はそう簡単には見つからず、その情報の真偽もわからず、情報のつなぎ方も自分で考えなくてはならない、最早恋愛ゲームから推理ゲームに早変わりするというシナリオだ。
少しでもミアの機嫌を損ねれば、翌日に、その時点で一番好感度が低い攻略対象から殺されていく。
そんなシナリオだ。
一日目はチュートリアルで、ハッピーエンドに行くには、最低でも一週間はかかる。犠牲も一人は出る。
………うそでしょ? こんな所に一週間もいなければならないの?
冷や汗が垂れる。
私の選択次第では、死人も出るシナリオだ。
え、いや、待って。
これは、本当にシナリオなの?
思い出せ、私。最初に、ミアが直々に私の部屋に尋ねに来た?
どれだけ考えても、ちっちゃい脳みそじゃ、思い出す事なんてできない。
「………のどかわいた………」
ぐるぐると頭を情報が駆けずり回り、最終的に、たった一つの情報だけ思い出した。
逆ハーメンバーの中に、裏切者が、いる。
…………おひめさま、おきた。
…………あるじさまに、ほうこくする?
…………あるじさまに、ほうこくする。
…………りょーかい。
…………りょーかい。
柔らかいベッドの上に、私は寝かされていた。
包み込まれるように、まるで母親の胎内に戻ったみたいに、ふかふかとあたたかい毛布をかけられている。
目を開けると、純白のレースをあしらった天蓋が見える。
部屋の中をざっと確認すると、ロココ調で統一された甘い家具が多い。まだ十にも満たない、王族の姫の部屋みたいだ。見た事はないけど。
上体だけ起こすと、唐突に部屋の中に風が吹いた。
長いおさげが風に従って部屋の中央に吸い込まれる。
窓が開いているわけではない。まるで、ブラックホールに吸い込まれるように。びゅうびゅう肌を切りながら、部屋の中心に向かって風が流れる。
やがて、そこに、少女が現れた。
見覚えがあるというレベルではない。
瞳が紅色に変わっている事だけは異なっているが、それでも……どう見ても、彼女だ。
「___わたくし、ミアと申します。外は嵐ですので、嵐が止むまでもてなしましょう。何か所用が御座いましたら、遠慮無くお呼びくださいませ。机の上にはこの部屋の鍵がありますので、館の中を見て回る時は、鍵を閉めておくようにお願いしますわ」
私の顔は、きっとこれ以上ないぐらいに引きつっているだろう。
悪役令嬢、ミア・ロザボラ。
伯爵位を持つ父と、公爵位を持っていた母の間に生まれた、通称「人形姫」だ。
なんでも、先祖には他国の王族もいたという、由緒正しい伯爵家に生まれる。
しかし、そんな彼女がなぜこんな所で生きているのかと言うと……そこは、謎のままだ。
私自身、「光の女神」ルートは、途中までしかプレイしていない。
というか、風の噂によると、初見だと9割序盤で殺されるという、鬼畜難易度のゲームであり、逆ハーエンドじゃないと到達できず、悪役令嬢であるはずのミアが主体になった話で、攻略対象がどんどん殺されてくぶっ壊れキチシナリオ……だとしか聞いていない。
つまり、ここまでやってきた事のすべてが意味を為さない、と言ってもなんら間違いのないようなシナリオ、だという事だ。
「……あぁ、そこにあるベルを鳴らすと、使用人が来ますので。では、わたくしはこれで」
差された方を見ると、冷たく金色に光る、ハンドベルが置いてあった。
そこには、小さく「Clala」と彫られている。また、八方星の取っ手も付いていたが、それ以外は至ってシンプルなものだ。
……いや、それ以前に聞きたい事があるのだ。
「待って!」
そう声をかけると、ミアはゆっくりと、頭だけで振り向いた。
「……なんでしょうか?」
「貴女、ミア・ロザホラでしょ? 何で悪役令嬢がここにいるのよ!?」
そういうと、ミアは不愉快そうに眉間にしわを寄せる。
そして、
「………言動には気を付けた方がいいですよ? お姫様」
とだけ言い残し、そのままさっさと外に出てしまった。
……外に出ていく一瞬。一瞬だけだけど。
彼女の髪の毛先からゆっくりと色素が抜け落ち、白に近くなったように見えたのは、気のせいだろうか。
私は、このシナリオに関して、覚えているところを書き出してみた。
このシナリオでは、主に「ミア」について調べていく。
ネットで漁った情報によると、このシナリオはマルチエンディングらしい。
でもって、本編みたいな、選択肢からセリフを選ぶシーンもあるのだが、基本的にチャット形式で進んでいく。
「探索パート」と「会話パート」を昼に。
「分岐パート」を夜に。
そして、グラフィックやスチルなどが、本編よりずっと凝っており、さらに、シナリオもかなりこだっているため、むしろこっちのシナリオが本編とまで言われるぐらいだ。
しかも、よくある、いわゆる「鬼ごっこゲー」ではなく、探索パートで「ミア」について調べ、会話パートで誰に伝えるか選び、分岐パートでは集めた情報をもとに「ミア」について人形や本人に聞き込み、謎を解明する……という、ミステリー小説がごときゲームになる。
しかも、情報はそう簡単には見つからず、その情報の真偽もわからず、情報のつなぎ方も自分で考えなくてはならない、最早恋愛ゲームから推理ゲームに早変わりするというシナリオだ。
少しでもミアの機嫌を損ねれば、翌日に、その時点で一番好感度が低い攻略対象から殺されていく。
そんなシナリオだ。
一日目はチュートリアルで、ハッピーエンドに行くには、最低でも一週間はかかる。犠牲も一人は出る。
………うそでしょ? こんな所に一週間もいなければならないの?
冷や汗が垂れる。
私の選択次第では、死人も出るシナリオだ。
え、いや、待って。
これは、本当にシナリオなの?
思い出せ、私。最初に、ミアが直々に私の部屋に尋ねに来た?
どれだけ考えても、ちっちゃい脳みそじゃ、思い出す事なんてできない。
「………のどかわいた………」
ぐるぐると頭を情報が駆けずり回り、最終的に、たった一つの情報だけ思い出した。
逆ハーメンバーの中に、裏切者が、いる。
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