虹色浪漫譚

オウマ

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 爽やかな昼下がり。紅茶を飲みながら書斎に篭っていた最中「銀次さん、いらっしゃる?」と、玄関戸を叩く音と可愛らしい声が耳に入った。
「はーい、どちら様で…………あ、香ちゃん! と、凄いブス!! ブス!! 凄いブス!! と、ブスはともかくどうしたの香ちゃん、急に家に訪ねてくるなんて」
 意気揚々と顔を出すとそこには香ちゃんと、見るも悍ましいブスがいた。
「ちょっ、はっきり言い過ぎよ銀次さん! 一応ジンちゃんだって女の子なんだからね!」
 言う香ちゃん。それに便乗して隣のブスも「そーだそーだ」とかなんとか言ってるけど俺は可愛いものしか見ない可愛い声しか聞かない主義だ。無視しよう。
「あの店、閉まることになったのよ。理由は貴方も知ってるでしょ?」
「ああ、うん。聞いた。……なんて言ったらいいか、大変だったね」
 あの遊郭は政界のお得意様も多かったからすぐに話は耳に入った。一昔前ならともかく、この御時世だ。血が流れてしまった以上、営業を続けるのは難しいんだろう……。
「うん……。とにかく話が早くて助かるわ。それでね、まだジンちゃんの身請け先が決まってないものだから」
「銀サマ……! よろしくお願いします!」
 香ちゃんに言われ、ブスが小さな目をキラキラと輝かせ俺を見る……。
「ぜ、ぜぜぜぜぜぜぜ絶対に嫌!! 嫌ですぞ!! 絶対に嫌ですブスを身請けするなんて!! あ、じゃ、えっと、香ちゃん新しい場所でも頑張ってね! では……」
 なんかもう早く逃げないとこのままブスの世話を押し付けられそうで、そそくさ背中を向けた。ええ、向けましたとも!
「あら、残念ね~。じゃあ、この子はどう?」
「えっ?」
 振り向くと、ブスの分厚い背中からひょっこり遠慮がちに顔を出している茶都ちゃんが見えた。
「茶都ちゃん!!」
 邪魔なブスを押しのけ、茶都ちゃんの手を握る。嗚呼、茶都ちゃんだ本物の茶都ちゃんだ! なんかギャーとか言いながらブスがどっかに転がっていったけど気にしない、それどころじゃない!
「この銀次、あの店が閉まると聞いた時から貴女の身を何より案じておりました!! 俺の元で良ければ是非来て下さい!! 貴女を身請けしたい!!」
 思いの丈をぶつける。すると俺を見上げる茶都ちゃんの目がじわじわと涙に潤んだ。
 どうか安心して欲しい。見合いの話なら断った。って、ゆーか、いつの間にか断られてた。昨日、凄い覚悟を決めて断りの意思を両親に伝えたら「あら、灰さんアンタには何も言わなかったんだね。見合い話ならとっくに向こうから断り入れられたわよ」だって。そりゃないよー!!
「っ……一目見たその時から、お慕い申しておりました……、銀次様……!」
「茶都……! 俺も、貴女を一目見た瞬間から心を奪われていた。愛している、茶都……!」
 まさかそんなこんなあっさり告白大成功、ヒャッホー!! ウハウハしながら茶都ちゃんの小さな身体を腕に抱き締める。
「ほら、行くわよジン。私が責任をもって身請け先を探してあげる」
 一部始終を見守っていた香ちゃんが嘆くブスを引っ張り立たせ、去っていく。どうでもいいが気を取り直して香ちゃんを羨望の眼差しで見つめるブスがとにかくブスだ……。いや、ブスを見てる場合じゃない。そんな場合じゃない。
「香ちゃん! ……ありがとう、茶都を連れてきてくれて」
「いいえ、どう致しまして。でも今更私がどんだけいい女か気付いても遅いわよ! 授業料は高くついたわね!」
 得意げな顔をして頭の髪飾りを指差す香ちゃん……。次の男が見つかるまで付けてくれるつもりなんだろな。
「それくらいなら、安いもんだ。……元気でね。また何処かで」
「ええ。さよなら銀次さん」
 去っていく香ちゃんと、丸太のような身体をしたブスの背中を見送る。
「……さて、と。茶都、早速だが貴女を両親に紹介したい。どうぞ上がって」
「はいっ!」
 茶都が笑顔で元気よく頷く。この太陽のような笑顔を見れば、うちの親も簡単に俺たちの結婚を許してくれることだろう。
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