虹色浪漫譚

オウマ

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 香ちゃんに謝ろうとか、あわよくば茶都ちゃんに会えるかなとか、会えたとしたてももうアカギさんの手で女にされた後だったらどうしようとか、そもそも香ちゃんに謝ろうと思ってるのに茶都ちゃんのことばかり気にしてる時点でまた怒らせちゃうだろとか、でも、やっぱり本音は茶都ちゃんに会いたくて……。それを、ちゃんと最初から口に出して伝えれば香ちゃんを泣かすことはなかったんだよな。
「こんちわ! 瑛葉銀次です! また来ちゃった!」
「ああ、いらっしゃい。ごゆっくりどうぞ」
 入り口に立ってる用心棒さんと軽く挨拶を交わす。今日は混血美人な用心棒さんじゃないんだな……って、それはさて置き、ここまではいい。問題はこの先だ。
 とりあえずジンが出てきたら何がなんでも逃げようと心構えをしっかり整えてから遊郭の門をくぐる。すると、あろうことかジンでも香ちゃんでもなく強面の支配人が真っ先にやって来た。
 あれれれ、ひょっとして香ちゃんを泣かせたからブン殴られるとか? あんなゴッツい拳に殴られたら俺の顔なんか間違いなく陥没しますよ!!
 これはいけない、これは生命の危機だと踵を返そう――と、思いきや、なんだか様子が違う……?
「お待ちしておりました瑛葉銀次様。椿谷アカギ様から話は伺っております。どうぞ、奥の座敷へ」
「え? え?」
 話は伺ってって、何が?
 俺の戸惑いをよそに、支配人はさっさと奥へ向かっていく。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いや、なんでもないです!」
 とりあえず、ついてってみようか。何かヤバそうだったら窓を突き破って逃げれば多分きっとなんとかなる、多分!
「普段はもっとお歳を召した方にお願いするのですが……。茶都がこの先やっていけるのか貴方様にかかっております」
「へ? あ、はい……」
 ま、さ、か。
 嗚呼、察してしまった。流石に察してしまった。アカギさんめ、なんて素直じゃないお方なんだあああ!! 俺なんの心の準備もなしに来ちゃったじゃないか!! どーりで今日あたり遊郭に顔を出しておいた方がいいぞってしつこく言ってきたわけだよ、こういうことだったんだな畜生ありがとう大好きだアカギさーん!!
 いやしかし本気で心の準備がなにも……! なんか支配人さん、さり気なく精神的重圧かけてきたし……! 茶都ちゃんのこの先は俺にかかってるって、おいおいおいおいおいっ!
「えーと、優しく優しく抱けばいいんですよね!? ならば任せて下さい。この瑛葉銀次、寝床で乙女を泣かせた事はただの一度も御座いません!!」
 とはいえ、キャア凄いもうやめて死んじゃうーって泣かせたことなら、あるけどネ! ……あれ、支配人さん、なんすか今ちょっと溜め息ついたでしょ、肩が下がったの見てたわよ!
「瑛葉様、これはいわゆる『儀式』なのです。儀式に情は要りません。商品としてどうぞ。では、よろしくお願い致します」
 随分と、冷たい言い方だな。商品、か……。いや、あの、そういうことじゃなくて本当にどう抱けばいいのか分からなくて聞いたんだけどもねっ! アンタそんな商品だなんて冷たいこと言って俺がとんでもない抱き方したら茶都ちゃんこの先やってけなくなるよ――――なんて、まさか声に出して言うわけにもいかず~……。案内を終えた支配人はさっさと俺を置いて去って行ってしまった。
 この襖の向こうで、茶都ちゃんが待ってるのか。きっと俺よりも緊張して、待ってる。
 ええい、こうなりゃ儘よ! しっかりしろ銀次、今まで沢山の女の子を抱いてきただろうが! そうさ俺は凄い! 俺がやることに間違いはない! そうだしっかりしろ銀次、男だろう! そうさ俺は男、とっても強い男、しっかりした男、みんなが見惚れる色男、凄いぞ銀ちゃん日本一、凄いぞ銀ちゃん日本一!!
「凄いぞ銀ちゃん日本一、凄いぞ銀ちゃん日本一……!」
 しっかり声にも出して言ってみる。よーしよしよしよし、漲ってきたああああ!!
「よし!!」
 そのままの勢いで襖を開けると、お酒と布団が用意された座敷が目の前に現れた。その中央、綺麗に化粧をして綺麗に着飾った茶都ちゃんが俺を見て一瞬「あっ」て顔をしてから三つ指ついてゆっくりと頭を下げた。
「大丈夫、何も怖いことはないよ!! なにせ俺は日本一なんだ!!」
 何がどう日本一なのか聞かれたら上手くは答えられないがとにかく日本一なんだ!!
 キョトンとしていた茶都ちゃんが数回の瞬きの後「さようで御座いますか」と朗らかに微笑んだ。よし、よしよし、そらみたことか、まずは茶都ちゃんの緊張を解すことに成功したぞ流石は銀ちゃん日本一!!
「ああ、だから大丈夫だよ茶都ちゃん! 安心してくれ、俺は日本一なんだからね!」
 襖を閉め、布団を背に行儀よく座っている茶都ちゃんの前に腰を下ろす。茶都ちゃんは、どんな思いで着飾ったのかな。色んな思いがあったんだよね、きっと。
「綺麗だね。本当に綺麗だ」
 つい、まじまじと顔を見つめてしまった。
 嗚呼、綺麗だ。とても綺麗な茶都ちゃんが日本一の俺を尊敬たっぷりの眼差しで真っ直ぐ見つめてくれている。
 そうして目と目を合わせているうち、茶都ちゃんの頬が赤らんできた。照れているのか! 可愛いな!
「俺が日本一だから、照れているのかい?」
「はい」
 ああああ、照れ臭そうに頷く茶都ちゃんがまた可愛らしいこと!!
「さあ、瑛葉様。まずは軽く一杯。どうぞ」
 おおおお、頬を赤らめながらお酌する様もまた愛おしい!!
「ありがとうありがとう。でも茶都ちゃん、瑛葉様って少し固いな! 今から銀ちゃんって呼んでくれたまえ! なんなら銀次様でもいい! どうにもこうにも日本一だからね!」
 こうなりゃもう止まらないぜ! グイッと酒を飲み干し、茶都ちゃんの小さな身体を抱き締める。茶都ちゃんが息を呑んだのが分かった。でもちゃんと胸に寄り添ってくれてる。
「貴女を一目見たときから、触れたくて触れたくて仕方がなかった。大丈夫、怖くないよ。なにせ俺は日本一だからね!」
 茶都ちゃんの細い手を握る。すると茶都ちゃんは潤んだ瞳でもって「銀次様……」と呟いた。そうだ、それでいい、俺の一切迷いない自信に満ち満ちたこの目を見てくれ。そして俺を信じてくれ。何も怖いことなどないと。
「茶都……!」
 ふっくらとした唇に唇を重ねながら華奢な身体を布団に押し倒す。茶都ちゃんは少し緊張の息を吐いたけれど、しっかりと俺に身を委ねてくれている。ならばと口づけしたまま茶都ちゃんの胸元を開いて可愛い可愛いおっぱいをまさぐった後、いよいよ裾に手を入れた。うおおおお、なんという温かさ!! そして柔らかい感触!!
 思わず理性がおさらばしそうになったが、すんでのところで耐えた。しっかりしろ俺は誇り高き日本男児、そう、日本一の日本男児だろうが!!
 好き勝手には出来ない。だって俺を信頼して身を任せてくれている茶都ちゃんの気持ちを裏切りたくはない。相手が俺で良かったって、絶対そう思ってもらいたい。嗚呼、こんなに相手のことを考えながら事に及ぶのって銀ちゃん日本一のクセに初めてかもしれない――って、駄目だ!! 弱気になっちゃ駄目、緊張しちゃ駄目!! もっと強気に行きやがれ!! 頑張れ銀ちゃん日本一ッ!!
「茶都ちゃんも、日本一だよ」
 そして今! 茶都ちゃんの中に潜り込んだ俺の人差し指は! 日本一幸せな人差し指です!
「さよう、ですか……?」
「ああ、そうだよ。日本一だ」
 ふおおおおお、たかだか指一本でこんなに苦しそうにする女の子初めてだよ俺ってば日本一なのに初めてだよー!!
「本当に、茶都ちゃんは日本一可愛いよ」
「銀次様……」
 なんかもうはち切れんばかりになってしまった日本一のムスコを取り出す。茶都ちゃんが一瞬息を飲んだのが分かった。無理もない。なにせ日本一のムスコだからね!
「大丈夫、怖くないよ。深呼吸して力を抜いて。俺に任せてくれればいいからね」
 さあ始めますよの合図として口づけをすると茶都ちゃんは「はい」と頷いて目を閉じてくれた。ほ、本当に、怖がらないでくれるのか。こんなに禍々しくてどデカい我がムスコを見ても貴女は怖がらないで俺に身を任せてくれるのか!!
「茶都!! 俺は貴女が日本一大好きだ!!」
 強く強く抱き締めて、あとは本能に従った。……って、従っちゃ駄目だろ銀ちゃん!! 紳士に振る舞うって決めてたじゃないの!! あああ、どうしようどうしよう……ええい、大丈夫、だってだって本当に俺は日本一だからっ!!
 俺の腕の中で茶都ちゃんが引き攣った息を吐く。そのうち血の臭いがしてきて少しビビったけど、でも茶都ちゃんの中は凄く狭くて温かくて湿ってて、本当に、日本一だと思った。
 ――――で、なんか気が付いたらすっかり着物がはだけちゃって何もかもさらけ出した茶都ちゃんがアソコをグッチャグチャにしたまま虫の息で布団に横たわってるわけだが、あれれ~、俺、ひょっとして、やらかした……?
 うおおおお何故どうして途中から記憶が途切れてる!? どういうこと!? どうしてまた記憶がないの!? そんなにお酒も飲んでないのにどうして!? 思い出せ銀ちゃん、アンタ何をした!? 嗚呼、茶都ちゃんのイキ顔可愛かったなあ~……って、そうじゃなくて!! 緊張しまくった挙句、夢中になり過ぎて途中で記憶ぶっ飛ぶって最低じゃん!! 初めての女の子こんなにしちゃうって最低じゃん!! つーか茶都ちゃんの初めてをしっかり覚えといてあげないって最低じゃーん!! あ、ああああああああどうしよう茶都ちゃんがこれを機に性行為キライになっちゃったらあぁあああでもでもでも大丈夫だって俺は日本一なはずであるからして~!!
「う……」
 小さく唸って、茶都ちゃんが薄っすら目を開けた。
「あ……。茶都ちゃん、大丈夫……? 身体、痛くない……?」
 心配して覗き込むと、茶都ちゃんはゆっくりと笑みを浮かべて俺の背中に手を回してしがみついて来た。
「銀次様、私……、日本一、幸せです。いいえ、世界一、幸せです」
「……っ!」
 泣きそうに、なった。今ちょっとでも気を緩めたらせきを切ったように涙が溢れること間違い無し。でも、耐えた。色々と駄目な俺だけど、これだけは耐えなきゃいけないと思った。
 俺なんかに抱かれて世界一幸せって、そんな、そんな言葉、反則だ。
「俺こそ世界一幸せだよ、茶都ちゃん」
 俺、今、生まれて初めて本気で一人の女の子を好きになった。
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