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「ちょ、翠さん! 翠さんってば! あ~~も~~、何やってんだよ馬鹿~!」
思わず本音が出てしまった。嗚呼~、参ったなあ~……。せっかく貯めてるであろうお金を床にブチまけて床に大の字になって寝てしまったこの男。揺すっても揺すっても一向に起きる気配はない。まさか、また担いでやらなきゃいけないのか……!?
とりあえず、お金を拾ってあげなきゃ。よっこらせ……。なんで俺がこんな事しなきゃいけないんだよー!! ……はぁ……。やれやれ、金はこれで全部だろうか。拾いきり「ごちそうさま」と店に支払いを済ませる。
「さ、帰ろ……起きて~!? 起きてよー!?」
何度か頬を叩いてみる。
「たいたいたいたい! ……らに? ………………」
一応の反応は見せたが、駄目だなコリャ。また深く目を閉じて寝てしまった。仕方がない、おんぶしてやるか……。奢ってもらっちゃったし、『友達』だし。
翠さんを背負って店を出る。ぐったりと全体重が背中にのしかかって来る、かなり重い。何が悲しくて俺は大の男を背負って歩かなきゃいけないのか。
さて、どうしよう。翠さんの家の場所なんて知らないよー。
「翠さん、お家ドコにあんの~? 分かんないからウチに連れてくよ~?」
返事は無い。こりゃ決定だな。まったくもう、よく倒れる人だ。それだけお疲れってことなんだろうか……。
嗚呼、夜風がとっても気持ち良い。道で擦れ違う人が揃ってこちらをチラリと見てくる。けれど、気にしない! 負けない! 俺は倒れた人を背負って運んでるんだ、正義の行いをしているんだ!
「金の糸~~」
突然耳元で声がした。翠さんが少し目を覚ましたらしい。金の糸って、俺の頭の事を言ってるの?
「何がだよ~!? 高値つかないから間違っても引っこ抜かないでよ!?」
「テーンシ、テーンシ!」
今度は何だ!? なんか俺、頭をモジャモジャと撫でくり回されてる。何をしてくれるんだ、お兄さん!! いっそ大人しく寝ててくれた方が助かるよ……。
って、ちょっと待て。……テンシって、……『天使』……?
「まさか、天使って? 俺が? ……やめてよー。そんなガラじゃないしっ。ほら、もうすぐ着くからね?」
天使だなんて、そんな神聖なもんじゃないよ俺……。
ああ、しかし重いな! 重い!
遊郭の門を潜り、やっとの事で自宅に到着。玄関戸を開けると突然に翠さんがきつくしがみ付いてきた。
「テーンシほかーく!!」
な、なんて酒癖の悪い人なんだ!! 何が天使捕獲だっつーの!!
「やめてよ~!! ほら、着いたから!! 履き物を脱いで!! んで降りてよ、重いからあああ!! ほらあ~!! 御布団だよ御布団!!」
履き物を脱がせて敷きっ放しにしておいた布団の上に翠さんを背中から降ろしにかかる。が、この人、しがみついて全然離れようとしてくれない。
「うおああ!! おちう~!!」
おちうーって何!? 落ちるって!? それでいいんだよジタバタしないで素直に落ちてくれ、大丈夫、安心しろ、下は布団だ!!
「いたたたたっ!! 翠さん痛いよ痛い痛い!! ぎゃうっ!!」
しまった、体勢を崩して翠さんを下敷きに後ろ向きに倒れてしまった……。「グオッ!!」と背中から呻き声が聞こえた。えらいこっちゃ、歌舞伎役者を潰してしまったあああ……!!
「み、翠さん大丈夫!? 暴れるからだよ~!!」
慌てて起き上がり顔を覗き込む。……普通に寝てるやがる!!
「なんて世話の焼ける人だ……」
変な体制で寝ているお兄さんの身体を持ち上げ、しゃんと頭の下に枕を置いて寝かし直す。
「………………」
あ、いけねっ。翠さんの寝顔、無意識に魅入ってしまった……。なんて端整な顔立ちなのだろう。同性の俺でも魅入ってしまうなんて。こうして見ると年の頃は俺とあまり変わりなさそう。なのに比にならない程の相当な苦労を背負っているんだ……。そう思うと、責められない。帯とかもちょっと緩めて楽にしてあげよう。今日くらいゆっくり寝て欲しい。
前髪を少し掻き分けて額の具合も覗ってみる。……成る程、薄くはなったけどまだ傷は残っているな……。治りが良いように軟膏を塗っておいてあげましょう。せっかくの綺麗な顔だ。……と、色々終えて、さて困ったぞ。俺の家には布団が一つしかない。
「翠さん、隣に失礼するよ」
スヤスヤと穏やかな寝息を立てている彼から返事はない。まあ、いいだろう、……多分。そもそも此処は俺の家だし、これは俺の布団だし。
隣に寝転び、身体に布団を掛ける。こうして誰かと床を共にするのはいつ振りか……。人肌ってこんなに温かいんだなあ。
ふと、翠さんの腕が伸びてきた。……俺に腕を差し出してる? なに? 腕枕してくれるの? どうして? なんでこんな事をしてくれるの?
戸惑いつつも一応そっと頭を置いてみる。すると身体を抱き寄せられて、挙句もう一方の手で頭を優しく撫でられた。
……寝てるん、だよな?
「翠さん……?」
問いかけるが返事はない。完全に眠っているようだ。
これは、ひょっとするに、仕事の癖か何かだろうか。俺を客だと思っている……?
翠さんの手が俺の頭をゆっくりと撫で続ける。まるで寝かしつけるかのように。
「翠さん……。そんな、あんまり俺に優しくし過ぎるなよ……!」
俺は、優しさってものに慣れてないんだ……。
胸に熱いものが込み上げて、堪らず涙が流れる。
俺の頭を撫で続ける手。人って、こんなに優しいものだったのか。
この俺を、天使だなんて……。
奇特な身なりだなと声を掛けられ嫌な目に遭ったことなら数えきれぬほどある。けれど綺麗だとか天使だなんて言われたのは今日が初めてだ。
こんな俺を、天使だなんて……!
声を殺して泣いた。彼の腕の中に顔を埋めてひたすらに泣いた。男に引っ付かれても嬉しくはないだろうが、どうか、大目に見て欲しい……。
思わず本音が出てしまった。嗚呼~、参ったなあ~……。せっかく貯めてるであろうお金を床にブチまけて床に大の字になって寝てしまったこの男。揺すっても揺すっても一向に起きる気配はない。まさか、また担いでやらなきゃいけないのか……!?
とりあえず、お金を拾ってあげなきゃ。よっこらせ……。なんで俺がこんな事しなきゃいけないんだよー!! ……はぁ……。やれやれ、金はこれで全部だろうか。拾いきり「ごちそうさま」と店に支払いを済ませる。
「さ、帰ろ……起きて~!? 起きてよー!?」
何度か頬を叩いてみる。
「たいたいたいたい! ……らに? ………………」
一応の反応は見せたが、駄目だなコリャ。また深く目を閉じて寝てしまった。仕方がない、おんぶしてやるか……。奢ってもらっちゃったし、『友達』だし。
翠さんを背負って店を出る。ぐったりと全体重が背中にのしかかって来る、かなり重い。何が悲しくて俺は大の男を背負って歩かなきゃいけないのか。
さて、どうしよう。翠さんの家の場所なんて知らないよー。
「翠さん、お家ドコにあんの~? 分かんないからウチに連れてくよ~?」
返事は無い。こりゃ決定だな。まったくもう、よく倒れる人だ。それだけお疲れってことなんだろうか……。
嗚呼、夜風がとっても気持ち良い。道で擦れ違う人が揃ってこちらをチラリと見てくる。けれど、気にしない! 負けない! 俺は倒れた人を背負って運んでるんだ、正義の行いをしているんだ!
「金の糸~~」
突然耳元で声がした。翠さんが少し目を覚ましたらしい。金の糸って、俺の頭の事を言ってるの?
「何がだよ~!? 高値つかないから間違っても引っこ抜かないでよ!?」
「テーンシ、テーンシ!」
今度は何だ!? なんか俺、頭をモジャモジャと撫でくり回されてる。何をしてくれるんだ、お兄さん!! いっそ大人しく寝ててくれた方が助かるよ……。
って、ちょっと待て。……テンシって、……『天使』……?
「まさか、天使って? 俺が? ……やめてよー。そんなガラじゃないしっ。ほら、もうすぐ着くからね?」
天使だなんて、そんな神聖なもんじゃないよ俺……。
ああ、しかし重いな! 重い!
遊郭の門を潜り、やっとの事で自宅に到着。玄関戸を開けると突然に翠さんがきつくしがみ付いてきた。
「テーンシほかーく!!」
な、なんて酒癖の悪い人なんだ!! 何が天使捕獲だっつーの!!
「やめてよ~!! ほら、着いたから!! 履き物を脱いで!! んで降りてよ、重いからあああ!! ほらあ~!! 御布団だよ御布団!!」
履き物を脱がせて敷きっ放しにしておいた布団の上に翠さんを背中から降ろしにかかる。が、この人、しがみついて全然離れようとしてくれない。
「うおああ!! おちう~!!」
おちうーって何!? 落ちるって!? それでいいんだよジタバタしないで素直に落ちてくれ、大丈夫、安心しろ、下は布団だ!!
「いたたたたっ!! 翠さん痛いよ痛い痛い!! ぎゃうっ!!」
しまった、体勢を崩して翠さんを下敷きに後ろ向きに倒れてしまった……。「グオッ!!」と背中から呻き声が聞こえた。えらいこっちゃ、歌舞伎役者を潰してしまったあああ……!!
「み、翠さん大丈夫!? 暴れるからだよ~!!」
慌てて起き上がり顔を覗き込む。……普通に寝てるやがる!!
「なんて世話の焼ける人だ……」
変な体制で寝ているお兄さんの身体を持ち上げ、しゃんと頭の下に枕を置いて寝かし直す。
「………………」
あ、いけねっ。翠さんの寝顔、無意識に魅入ってしまった……。なんて端整な顔立ちなのだろう。同性の俺でも魅入ってしまうなんて。こうして見ると年の頃は俺とあまり変わりなさそう。なのに比にならない程の相当な苦労を背負っているんだ……。そう思うと、責められない。帯とかもちょっと緩めて楽にしてあげよう。今日くらいゆっくり寝て欲しい。
前髪を少し掻き分けて額の具合も覗ってみる。……成る程、薄くはなったけどまだ傷は残っているな……。治りが良いように軟膏を塗っておいてあげましょう。せっかくの綺麗な顔だ。……と、色々終えて、さて困ったぞ。俺の家には布団が一つしかない。
「翠さん、隣に失礼するよ」
スヤスヤと穏やかな寝息を立てている彼から返事はない。まあ、いいだろう、……多分。そもそも此処は俺の家だし、これは俺の布団だし。
隣に寝転び、身体に布団を掛ける。こうして誰かと床を共にするのはいつ振りか……。人肌ってこんなに温かいんだなあ。
ふと、翠さんの腕が伸びてきた。……俺に腕を差し出してる? なに? 腕枕してくれるの? どうして? なんでこんな事をしてくれるの?
戸惑いつつも一応そっと頭を置いてみる。すると身体を抱き寄せられて、挙句もう一方の手で頭を優しく撫でられた。
……寝てるん、だよな?
「翠さん……?」
問いかけるが返事はない。完全に眠っているようだ。
これは、ひょっとするに、仕事の癖か何かだろうか。俺を客だと思っている……?
翠さんの手が俺の頭をゆっくりと撫で続ける。まるで寝かしつけるかのように。
「翠さん……。そんな、あんまり俺に優しくし過ぎるなよ……!」
俺は、優しさってものに慣れてないんだ……。
胸に熱いものが込み上げて、堪らず涙が流れる。
俺の頭を撫で続ける手。人って、こんなに優しいものだったのか。
この俺を、天使だなんて……。
奇特な身なりだなと声を掛けられ嫌な目に遭ったことなら数えきれぬほどある。けれど綺麗だとか天使だなんて言われたのは今日が初めてだ。
こんな俺を、天使だなんて……!
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